全国的に、405事業(正式名;経営改善計画策定支援事業)の活用が伸び悩んでいるようです。
【参考記事】405事業とは
個人的には、経営改善に取り組みたい中小企業にとって、非常に有効な施策だと感じています。
当事務所が認定経営革新等支援機関(以下 認定支援機関)として、力を入れている補助事業(事業開始から、当事業を活用し、現時点で7社の経営改善計画を策定)であり、動向が気になるところです。
なぜ、活用が伸び悩んでいるのでしょうか?
中小企業庁が平成31年2月に発表した「認定経営革新等支援機関に関する任意調査報告書;以下 任意調査報告書」および、私の活動実績から推測してみたいと思います。
(以下の記載は、私の個人的な意見です)。
【目次】
2013年3月に事業開始から、事業への申請は順調に推移しました。
2013年3月は、「金融円滑化法」の終了時期と重なります。
事業開始当初は、金融円滑化法の出口戦略として、認定支援機関の約75%を占める税理士(税理士法人含む)を中心に、申請が集中しました。
TKCなどは、契約税理士に文書を送り、405事業を積極推進するよう呼びかけたようです。
事業の目新しさに加え、金融円滑化法終了というタイミングも追い風になりました。
当事業は、事業者と認定支援機関と取引金融機関の3者が、タッグを組んで進める事業です。
金融機関は、国の事業を活用して策定された経営改善改善計画があれば、融資先企業の財務格付け判定にプラスの影響を与えることができます。その結果、貸倒引当金の計上を抑えることができたり、今後の追加融資対応においてスムーズな対応が出来たりなど、メリットがありました。
そのため金融機関も、この流れに乗りました。
405事業は、金融支援がセットになっています。
そのため、あくまでも予測ですが、リスケとセットになった案件が多かったのではないでしょうか。
【参考記事】リスケとは
事業者は、金融円滑化法が終了して、不安になったところに、経営改善計画書を作ることで、リスケを受けられる(または再リスケ)ことに、補助事業を使うメリットを見出しました。
事業開始当初は、税理士を中心とした認定支援機関からの提案で、事業者が405事業を使う気になり、金融機関が認めたというケースが多かったことが、想像できます。
405事業の利用が伸び悩んでいる理由として、6年半が経過した現在では、a.リスケ案件を中心に一巡した、b.認定支援機関の大部分を占める税理士が取り組みやすい顧問先をやり終えた、のではないかと思います(任意調査報告書からも、過去1年間で405事業に取り組んだ認定支援機関は、約20%とのアンケート結果が出ています。平成29年度調査の約34%から1年間で14%低下しています)。
中小企業白書の調査データによると、中小企業のうち35.3%が営業赤字(営業利益がマイナス)です(2016年度)。約1/3の中小企業が、業績不振に悩まされていることになります。「平成26年経済センサス-基礎調査」によると、中小企業数は380万9,000社ですので、134万社以上が該当します。
上記データより、(赤字企業=経営改善が必要な企業)と考えてみると、まだまだ405事業を有効活用できる案件がありそうです。
では、この停滞の原因は何でしょう?もう少し掘り下げて見ていきます。
当事務所が支援したケースでも、計画策定後に、事業者から「こんな事業があることを知らなかった」「知っていたらもっと早く使った」という感想がありました。
上手く使えば、事業者の未来を照らし出す有効な武器になるはずです。
しかし、ほとんどの中小企業事業者は、405事業の存在を知りません。
同じく中小企業庁の補助事業「ものづくり補助金」の認知度と比較すると歴然です。積極的な経営者であれば多くが、「ものづくり補助金」の存在を知っています。
経営者間での情報共有や口コミ、取引金融機関からの情報提供や積極アプローチなどの影響です。
また、「ものづくり補助金」=新事業や成長ステージの設備投資のため明るいイメージ=成長資金を補助金としてもらえる=口コミが発生しやすい
「405事業」=経営が厳しくなった時に使う良くないイメージ=あまり他人に知られたくない=口コミが発生しづらい
という、イメージや口コミ発生率の違いが、認知度の差を生んでいるのかもしれません。
中小企業庁の発表によると、令和1年8月末時点で、全国に34,140機関の認定支援機関があります。
事業者や金融機関からすると、選択肢が多すぎて、どこの認定支援機関に依頼すれば良いのか、分からないのです。
数は多いのですが、どの認定支援機関が、「金融機関に認められるレベル感の経営改善計画書を作成できる能力」を有しているかは不明です。
今後は、認定支援機関自身が情報発信に努めたり、当局が認定支援機関のランク付けを情報発信したり、することで、事業者や金融機関が迷わない仕掛けが必要です。
あと、ここはダークな部分ですが、
「使ってみたけど、あまり効果が感じられず、コストと時間が無駄になった」、というケースが考えられます。
☑ 期待していたレベルの将来を見通せる計画が出来上がってこなかった
☑ 机上の計画で、計画実行しても改善の効果が出なかった
などです。
そのため、405事業を活用した金融機関や事業者から、良くない印象が広がったのです。
理由としては、利用事業者の選定の失敗、認定支援機関の力量不足が考えられます。詳しい原因は、以下の記事を参考ください。
【参考記事】
405事業(経営改善計画策定支援事業)、失敗する3つのケース!
405事業は、支援する認定支援機関に、熱意と能力が必要です。支援中は全身全霊を傾ける必要があり、本業の片手間では無理なのです。
利用する事業者にも覚悟が必要ですし、生き残っていけるだけの事業の強みがないと、残念ながら計画策定自体にも取り組めません(その場合は、廃業に向けての支援になります)。
本来はこのように、事業者にも支援者である認定支援機関にも、覚悟が必要な事業なのですが、補助事業が活用できるということで、あまり考えず取り組んでしまいました。
その結果、事業者や金融機関から低い評価を受けた認定支援機関が、405事業に取り組むことに、尻込みしてしまった可能性があります。
この傾向は、上記の任意調査報告書からも確認できます(認定支援機関が取り組んだ業務として、405事業は低い割合となっています)。
私の今まで405事業に取り組んできた経験から、今後405事業を有効活用していくために必要なことを、関係者別に考えてみます。
①取引金融機関
私はこの事業の影のキープレーヤーは、金融機関の職員だと思っています。
しかしながら、「ものづくり補助金」と比較して成果が見えにくく、効果が現れるまでに時間を要する405事業に対して、目が向いていない気がしています。
融資先の事業全体をカバーする405事業は、地域金融機関が掲げている「リレーションシップバンキング」「コンサルティング機能」「事業性評価」にマッチしています。
事業者の405事業に対する認知度が低い現状では、金融機関職員が果たせる役割は大きいと思います。
意欲があり強みは保有するものの、現在業績不振に陥っている企業を選定し、経営者を説得したうえで、適切な認定支援機関にマッチングする役割を果たしていけば、地域での評価が高まります。金融機関自身にもメリットがあります。
特に事業者の選定の部分は、重要です。再生が難しい事業者を選定してしまった場合は、利害関係者全員が嫌な思いをします。金融機関職員の目利き力が試されます。
【参考記事】
【銀行員向け】銀行が405事業(経営改善計画策定支援事業)を使うメリット
②事業者
事業者は、
取引金融機関に事業の活用を進められる、自身で取引金融機関に事業の活用を相談する、2つのケースがあると思います。
それ以外に、認定支援機関から活用を熱心に進められた場合には、その認定支援機関が本当に有効な支援をしてくれるのか、事前によく確認しておきたいものです。自身でよく分からないなら、取引金融機関に相談してみると良いでしょう。
405事業に取り組むなら、覚悟が必要です。
経営改善していくうえで、自身も身を削る場合が出てくるかもしれません。
改善計画も認定支援機関任せにするのではなく、特に具体的改善策(どんなことをしてくか)は、自分が主体になってアイデアを出していきます。
そして決まった案については、真摯に実行していく姿勢が求められます。
③認定支援機関
一点は、取り組む意識とスキルの問題です。
認定支援機関は、計画策定期間中及びモリタリング中において、案件に全身全霊を傾けねばなりません。特に計画策定期間中は、大げさに言えば四六時中その事業者のことを考えているぐらいの労力がいります。
片手間でパッケージに数字を入れれば良いのではありません。それができないなら最初からプロジェクトに携わるべきではありません。405事業の価値が低下するだけです。
もちろん最初からレベルの高い計画策定ができることはないでしょう。常日頃から自分に投資し、スキルアップに努めます。プロ意識をもって、計画策定に関わるべきです。
認定支援機関が、事業者に費用を払って(事業費の1/3は自己負担;経営が厳しい企業にとっては、虎の子のお金です)策定をお手伝いしてもらいたい、と思われなければなりません。
こうした意識で405事業に関わっていると、評価が高まり依頼が増えてきます。他の認定支援機関との差別化が図れるでしょう。
(上記「任意調査報告書」の通り、405事業に取り組んでいる認定支援機関は、1/5程度です。アンケートの回収率が36.4%なので、実態はもっと少ないと思います→アンケートに回答するのは、比較的積極的な認定支援機関と考えられるため)。
もう一点は、金融機関との連携です。
取引金融機関と信頼関係を結び、パートナーとして事業者支援にタッグを組むべきです。金融機関と敵対していては、事業者のプラスになりません。
この事業はそもそも、金融機関との連携が出来なければ、スムーズに進みません。
取引金融機関と信頼関係を結ぶためには、時間がかかります。
自身のスキルを上げるために日々精進すること、誠実な仕事を積み上げていくことです。
【参考記事】
会社を再建する!経営改善計画書の作り方③~現状分析の重要性~
会社を再建する!経営改善計画書の作り方④~数値計画と具体的行動策~
会社を再建する!経営改善計画書の作り方⑤~計画完成後のモニタリング~
以上、405事業の現在地と事業が有効活用されるための条件について、考えてみました。
まだまだ潜在需要があると思いますので、今後も各分野で工夫して、有効活用につなげていきたいものです。
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