「地方銀行を取り巻く経営環境は、今後どうなっていくのだろうか?」
「地域経済の衰退やデジタル化の波の中で、地方銀行が生き残る道は?」
「地方銀行の強み、そして弱みとは何か?」
地方銀行が直面する課題をSWOT分析やPEST分析の視点から整理し、今後の持続的な発展に向けた変革への提言を試みたいと思います。
成熟産業とも言われ、厳しい環境変化に晒される地方銀行ですが、その根幹にある問題は**「顧客(地域の中小企業や住民)の求めるものと、銀行組織の目指す方向性が必ずしも一致していない」点にあると、私は長年の経験から感じています。ここを克服しない限り、真の地域密着**金融機関としての役割を果たすことは難しくなるでしょう。
(若手銀行員が地方銀行の将来についてディスカッションしている光景)
【目次】
まず、地方銀行に影響を与える外部環境を、PEST分析(政治・経済・社会・技術)の視点から概観します。
・政治(Political): 金融緩和政策の転換(金利上昇リスク)、地域創生政策、金融規制の変更など。
・経済(Economic): 地域経済の低迷・成長鈍化、低金利環境の長期化(とその後の変化)、物価・人件費の上昇など。
・社会(Social): **最重要課題である「人口減少・少子高齢化」**に伴う地域市場の縮小、顧客ニーズの多様化、事業承継問題の深刻化など。
・技術(Technological): FinTech企業の台頭による競争激化、避けて通れない「デジタル化」への対応(オンラインバンキング、キャッシュレス決済、AI活用など)、サイバーセキュリティリスクの増大。(「地方銀行 デジタル化」)
これらの外部環境の変化は、地方銀行にとって大きな「脅威」となる一方で、新たな「機会」を生み出す可能性も秘めています。
外部環境の変化に対応するためには、地方銀行自身の内部課題(「地方銀行 弱み」)を克服する必要があります。SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威を分析するフレームワーク)における「弱み」として、特に以下の点が挙げられます。
顧客視点の欠如と内向き志向
・本来、顧客である地域企業や住民の方を向いて業務を行うべきところが、**銀行内部の評価(短期的な収益目標、上司の意向など)や監督官庁の意向を過度に気にする「内向き志向」**に陥りがちです。結果として、「顧客本位の業務運営」が掛け声倒れになっているケースが見られます。これが最大の「地方銀行 弱み」と言えるかもしれません。
人材育成と組織文化の問題
・中小企業の経営実態や現場感覚を十分に理解しないまま、融資判断や提案を行ってしまう銀行員が少なくありません。
・短期的な人事異動サイクルが、顧客との長期的な信頼関係構築や、担当者の専門性向上を阻害している側面があります。
・人事評価制度が、必ずしも顧客や地域への貢献度を正しく反映しておらず、内向きな人材が評価されやすい組織文化が残っている場合があります。
これらの内部的な「弱み」が、外部環境の「脅威」への対応を難しくし、「機会」を活かしきれない要因となっています。
(※記事後半に、顧客・人材視点に絞った「地方銀行 SWOT分析」の図表を掲載します)
厳しい環境を乗り越え、地方銀行が地域密着の金融機関として真価を発揮し続けるために、以下の5つの変革を提言します。
① 金融「サービス業」としての意識改革
・銀行業も顧客に価値を提供する「サービス業」である、という意識を徹底する必要があります。他業種の優れた顧客満足への取り組みを学び、真の顧客ニーズに応えるサービスを追求すべきです。
② 「地域密着」を活かした差別化戦略と「やり抜く力」
・メガバンクやネット銀行にはない、地域に深く根差した情報網や顧客との関係性(地域密着)こそが地方銀行最大の強みです。この強みを活かし、**「この分野なら、あの地方銀行」**と言われるような、明確な得意分野(例:特定の産業支援、創業支援、事業承継支援、DX支援など)を確立し、ブランド化することが重要です。
・デジタル化(地方銀行 デジタル化)も、この差別化戦略を支える重要なツールです。地域顧客向けの便利なアプリ開発、オンライン相談体制の強化、地域情報プラットフォームの構築など、デジタル化によって地域密着サービスの質を高めることができます。
・注意点: 新しい戦略は、最低でも5年、10年単位で粘り強く継続しなければ成果は出ません。「成果が出ないからすぐやめる」という銀行にありがちな短期志向を改め、**「やり抜く力」**を持つことが不可欠です。
③ 中小企業を真に理解する銀行員の育成
・若手銀行員を、一定期間中小企業の現場(経理財務だけでなく、営業や製造現場など)に出向させるなど、座学だけでは得られないリアルな経営感覚を養う機会を設けるべきです。これにより、顧客の課題をより深く理解し、的確な提案ができる銀行員が育ちます。
[関連記事:銀行出向は使えない?中小企業の受入前に知るべき注意点]
④ 顧客・地域貢献を評価する人事制度へ
・短期的な融資実績や収益目標だけでなく、顧客の成長や地域経済への貢献度を長期的な視点で評価する人事制度へ転換すべきです。顧客に寄り添い、地道な努力を続ける銀行員が正当に評価される文化を醸成することが、「顧客本位」への本気度を示すメッセージとなります。
⑤ 長期視点を育む人事サイクル
・頻繁すぎる(例:1~2年での)人事異動、特に支店長の異動は、地域密着の深化を妨げます。不正防止の観点も重要ですが、より長いスパン(例:5年以上)で同一地域・部署を担当できるような人事サイクルを検討し、腰を据えた顧客支援と地域貢献を可能にすべきです。
結局のところ、企業も銀行も、その価値を左右するのは「人」です。
銀行員が誇りを持てる組織へ
・銀行員自身が、自らの仕事と所属する地方銀行に誇りを持ち、意欲的に働ける環境を作ることが、結果として質の高い顧客サービスに繋がります。
「顧客本位」は思いやりから
難しい金融理論や制度論以前に、顧客である中小企業や地域住民の立場に立ち、その状況や想いに寄り添う「思いやり」の心があれば、自ずと「顧客本位の業務運営」は実践できるはずです。
地方銀行の存在意義
「地方銀行が地域経済を支えなくて、一体誰が支えるのか」という強い使命感を持つこと。地域密着こそが地方銀行の存在意義であり、最大の強みです。この原点に立ち返ることが、未来を切り拓く鍵となります。
【参考】地方銀行へのSWOT分析(顧客・人材視点)
最後に、今回の議論を踏まえ、顧客接点と内部人材の視点に絞った地方銀行 SWOT分析の一例を以下に示します。(画像をクリックすると拡大します)
自社の状況に合わせて、行内でディスカッションを行う際のたたき台としてご活用いただけますと幸いです。
地方銀行を取り巻く環境は厳しさを増しており、人口減少、競争激化、そしてデジタル化への対応は待ったなしの課題です。内部に目を向ければ、顧客視点の不足や人材育成の問題(「地方銀行 弱み」)も抱えています。
しかし、地域密着という他にはない強みを活かし、意識改革、差別化戦略(デジタル化含む)、人材育成(銀行員)、人事制度改革といった変革に本気で取り組めば、地域にとってなくてはならない存在として輝き続ける道は必ずあります。SWOT分析やPEST分析などを活用し、自らの立ち位置と進むべき方向性を明確にすることが、今まさに求められています。
地方銀行の皆様、また地域の中小企業経営者の皆様、地域金融の未来や経営改善について、さらに詳しい分析や具体的な戦略立案にご関心があれば、お気軽にご相談ください。セミナー講師派遣も承っております。
この記事が、地方銀行の皆様、そして地域経済に関わる全ての方々にとって、未来を考える一助となれば幸いです。
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