【この記事で分かること】
・ 会社が元銀行員や銀行出向者を使えないと感じる原因
・ マッチングが成功する要件
・ 元銀行員の採用ミスマッチの防ぎ方
【この記事のポイント】
・ 元銀行員や銀行からの出向者。会社が使えないと感じるのはなぜか?会社が求めていることと、元銀行員ができることの間にギャップがあるからである。
・ メインバンクからの紹介は一定の安心感があり、成功する場合もある。ただしメインバンク以外から採用する場合は、注意が必要である。
・ 採用のミスマッチを防ぐには、採用する前にしっかり面談をして、①何を期待して採用したいのか② 雇用条件(報酬、役職、雇用期間)③ 評価基準④与えられる権限⑤期待される役割などを、お互い確認しておくことが大切である。
銀行は今、店舗統廃合や地域銀行間合併などにより、過剰人員の側面があります。
また、転職や副業の機運が高まり、人材流動化も進んでいます。
定年退職後の再就職も増えています。
あなたの会社にも、元銀行員や銀行からの出向者を財務担当で受け入れるシチュエーションがでてくるかもしれません。
その時どんな注意点があるのでしょう?
私も元銀行員ですが、ひとまず自分のことは棚上げします。
一緒に見ていきましょう。
【目次】
元銀行員や銀行からの出向者が、財務担当で会社に入社しているケースをよく見聞きします。
支援先会社に行くと、その会社の財務担当者が元銀行員だった、いうことも過去何度かありました。
その元銀行員が、私との交渉窓口になることもあります。
銀行勤務経験を活かして会社に貢献し、素晴らしい仕事ぶりの人もいました。
一方で、あれ?と首をひねりたくなる人もいました。
結局そのとき違和感を感じた人は、その後折り合いつかず退社した、ということもありました。
会社からすると、ミスマッチにより、コスト・労力を無駄に費やしたことになります。
ミスマッチの原因は、元銀行員だということで社長が期待しすぎてしまった、能力の把握が正しくできていなかった、などが考えられます。
傾向について、以下でケース別にみていきましょう。
まずは銀行からの出向者について考えてみます。
せっかく銀行からの出向者を受け入れたのに、会社側から見ると使えないケースがあります。
受入側が中小企業の場合は、よくありがちです。
例えば出向者が50歳を過ぎていた場合は、銀行で支店長や部長など、役職を経験しています。
部下に対しての指導やマネジメントの知識は豊富でしょう。
銀行では部下がいると、実務は部下がすべてやってくれます。上司は主に指示、命令、指導、評価が主な役割です。
また組織がしっかりしているので、分からないことや不得意分野があれば、本部がフォローしてくれます。
そうしてプロジェクトが上手く回るので、自分の力を過大評価してしまいます。
一方中小企業は、銀行と比較して、社内人材が恵まれているわけではありません。
一人当たりの業務量も多くなります。出向者にも手伝ってもらわないと仕事が回りません。
ただ、出向者には細かい業務した経験が、最近はありません。
頼んでも嫌そうな顔をします。
自分の役割は、銀行の経験を活かした資金繰りや財務だと思っています。
銀行員は財務には詳しいのですが、会社の事業に精通しているわけではありません。
それでも柔軟性がある人材は、会社に慣れようと創意工夫して戦力となりますが、頑固な人材は困ったことになります。
実は私も銀行員時代に、出向を経験しました。
平成21年、もう15年以上前、私が37歳の時です。当時勤務していた銀行から県関係の中小企業支援機関に2年間出向しました。
今は状況が変わっていると思いますが、当時37歳で出向に出された私は、都落ちしたような暗い気分で、出向先に赴いたものです。
ただ、いざ行ってみると、中小企業支援の勉強ができる素晴らしい環境でした。
その後気持ちを切り替えて、勤務中に中小企業支援実務を、終業後に座学(中小企業診断士の資格勉強)に励みました。
一方でその間、人事部からは一度の面談も出向先への訪問もなく、銀行からは取り残されたような、寂しい気持ちになったものでした。
結果的に2年間出向し、充実した時間を過ごしました。
出向期間終了後に脱サラして独立しましたので、自分自身のその後の人生が大きく変わった、出向体験でした。
出向先でお役に立てたどうかは、周りの評価になりますが、高いモチベーションで出向期間の2年間を過ごしたのです。
その経験から、銀行員が出向先で力を発揮できるかどうかは、出向先で目標や役割を見つけて「モチベーションを高く保てるかどうか」にかかっていると私は考えます。
気持ちが腐ってしまうと、出向先のお荷物になります。
定年まで銀行を勤めあげ無事退職した人を、会社で財務担当として採用するケース。
財務部長など、責任ある役職を用意することもあるでしょう。
人材会社の紹介、銀行からの紹介、会社がスカウトした、自分からの売り込み、など様々なケースが考えられます。
メインバンクなど親密な銀行からの紹介であれば、一定の安心感はあります。
会社が期待するのは、メインバンクとのつなぎ役、上手な資金調達、資金繰りなど財務改善、などです。
色々と期待に応えてくれることがあるでしょう。
銀行の紹介とはいえ、銀行を退職し、社員として給料は会社が払うわけです。
会社側に立った仕事ぶりを社長は期待します。
【参考記事】~メインバンクが企業にされて嫌なこと~
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
この話は、メインバンクとあなたの会社の力関係によります。
メインバンクに気を遣わなくとも、自分の採用したい人間を採用する、、、。
そうした方針なら、関係ない話です。
しかし、メインバンクと、ぎこちない形になりたくないなら、メインバンク出身以外からの財務担当者採用には、注意が必要かもしれません。
現役銀行員の出向受け入れなら、特に注意が必要です。
元銀行員の退職者採用でも、財務役員・部長など要職の場合は、メインバンクには事前相談をしておきたいものです。
メインバンクは、他銀行の動向に常に目を光らせています。
【参考記事】なぜ銀行員は、他銀行の融資条件を聞いてくるのか
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
自分からの売り込みや社長自身のスカウトの場合は、よく検討してから採用しないと、アンマッチが発生する可能性があります。
銀行で必要なスキルと、中小企業で必要なスキルは違うので、もし仮にプライドばかり高い元銀行員を採用してしまうと、困ったことになります。
売り込みやスカウトの場合には、「銀行で支店長や部長などまで出世した人は、優秀なはずだ」との思い込みは捨て、周りに聞き取り調査したり、試用(トライアル)期間を設定するなど、採用にあたっては慎重さが求められます。
例えば、銀行担当者として接しているうちに、飲み会やゴルフを通じ親密になり意気投合し、「うちにこない?」とあなたからスカウトするケース。
銀行員から、それとなく離職を相談されることもあるでしょう。
または、転職サイトなどに登録している元銀行員を人材会社経由で紹介される。
まだ若いし、魅力的に感じるかもしれません。
退職後のベテラン銀行員と違って、頭も柔らかそうだし、採用してみるか。
このような時の注意点は何でしょう。
一つは、退職理由を確認することです。
トラブルや不祥事は起こしてはいないか。人格に問題はないか。
もう一つは、すべての元銀行員に該当することはないでしょうが、「元銀行員は理想が高い」、ということです。
給与、充実した福利厚生、安定した組織、優秀な部下、そうした好待遇のもとで、長年仕事をしてきています。
そのため、新しい職場に物足りなさを感じて、短期間で離職してしまうこともあります。
元銀行員は退職して初めて、銀行時代の好待遇に気づくケースもあるようです。
元銀行員の中には、財務に弱い人材もいます。
銀行員として付き合っているときは、財務に強そうに見えます。
融資提案をしてきたり、財務に関する助言をしてきたり。支店長経験者など、出世していた場合は猶更です。
それは自分の力(財務知識)なのか、または銀行組織の分析力によるものなのか、、、。
財務担当には、決算分析や融資交渉力以外に、投資効果の予測・分析、将来事業計画策定、部門別管理会計知識など、様々な能力が必要になります。
営業力や人的ネットワークを期待しての採用なら問題ないでしょうが、財務を期待する場合は、ミスマッチです。
「財務に関する資格を保有していますか?」などの質問で、保有している資格などを確認すると良いでしょう。
また銀行退職後、財務に関するリスキリング(学び直し)など自己啓発に努めているなら、有望かもしれません。
銀行員時代の過去の肩書や実績に惑わされず、今何ができるのかの見極めが大切です。
【参考記事】銀行融資担当者 アタリ、ハズレの見分け方 ~話が通じる担当者、通じない担当者の違い~
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
元銀行員の採用方法として、メインバンクからの紹介とともに、リスクが低い方法は、出向からの転籍です。
銀行員は55歳も過ぎてくると、役員ルートに乗れなければ、取引先に財務担当として出向することが多くなります。
片道切符で送り出されることもあるようです。
何年か財務を担当してもらうと、仕事ぶりや人格がよく分かりますよね。
そこであなたの評価が高ければ、転籍により正式に社員として迎えるという方法です。
本人の意向次第のところもありますが、銀行からの承諾は得やすいでしょう。
ミスマッチを防ぐために大切なのは、採用する前にしっかり面談をして、以下の様な点で、合意形成をしておくことです。
(会社側)
✔ 何を期待して採用したいのか
✔ 雇用条件(報酬、役割、雇用期間)
✔ 評価基準
(元銀行員側)
✔ 雇用条件
✔ 与えられる権限
✔ 期待される役割
✔ 評価基準
上記のようなことをしっかり話し合い、合意形成できれば採用します。
以前から知っているからと言って、上記を曖昧にして採用してしまうと、ミスマッチが起こります。
むしろ、事前交渉の段階で意識の相違が発覚し、破談になることは双方にとり好ましいことと言えます。
最後に元銀行員、財務担当として使える使えないの見抜き方を整理します。
(使える)
✔ 銀行員時代や退職後に、自己啓発や資格取得など、自分を高める取り組みをしてきた
✔ 気配りができる
✔ 新しい環境で学んで成長しよう、という謙虚な姿勢がある
✔ 新しい職場で貢献しようという意識が高い
(使えない)
✔ 銀行員時代の実績を誇張気味にアピールする(話がおおげさ)
✔ 銀行時代の人脈をアピール(退職したら立場が変わることを理解していない)
✔ 銀行退職後、職を何度も変わっている(こらえ性がなく、青い鳥を探し続けている)
✔ 新しい職場を銀行と比較して見下している(上から目線となり社長と衝突する)
いずれにしろ、一発採用にはリスクがあり、試用期間などが必要かもしれません。
以上、今日は「元銀行員の財務担当採用」について、お話ししました。
今後の貴社の財務安定のために、お役に立てていただけますと幸いです。
実は私も、銀行を退職した12年前、複数の会社の社長から、直接スカウトのアプローチがありました。
ありがたい心遣いではありましたが、すでに中小企業診断士の資格を取得して、経営コンサルタントとして起業することを決めていたので、それ以上の進展はありませんでした。
特に退職して旬なうち、元銀行員には、財務担当候補として一定の魅力があるのかもしれません。
実際なかには、銀行を退職してから会社に採用され、財務に貢献している人物もいます。
私は何名か知っています。
派手な言動をとらず、黙々と自分のやるべきことに集中し、その姿勢を長年継続する。
継続して会社に貢献していく姿勢が、信用を積み上げていくのだと思うのです。
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