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キャッシュフロー計画作成のポイント:アクションプランと数値計画|経営危機を乗り越える!経営再建計画の作り方⑲

経営再建計画書における「アクションプランと数値計画」の策定プロセス、その最終段階に位置づけられるのが**「キャッシュフロー(CF)計画」です。PL計画で利益の見通しを立て、BS計画で財務状態の変化を描いた後、このCF計画で「結局のところ、会社の現金(キャッシュ)は計画期間中にどのように増減するのか?」**を具体的に示します。

CF計画は、経営再建を進める中で資金ショートを起こすリスクがないかを最終的に検証する、いわば計画全体の**「血液検査」のような役割を果たします。この記事では、CF計画の重要性、作成手順、そして金融機関**の視点も踏まえた計画策定のポイントを、経営者、従業員、金融関係者など幅広い読者に向けて解説します。

キャッシュフロー計画

キャッシュフロー(CF)計画とは?:資金ショートリスクを検証する血液検査

キャッシュフロー計画(Cash Flow Statement Plan)とは、経営再建計画期間中の各年度における、現金の収入と支出(キャッシュ・インフローとキャッシュ・アウトフロー)を項目別に集計し、結果として手元現預金がどのように増減するかを示す計画表です。

PL計画上の利益(黒字)と、実際の現金の増減は必ずしも一致しません(黒字倒産のリスク)。CF計画を作成することで、以下のような点が明確になります。

・本業での現金創出力: 営業活動を通じてどれだけのキャッシュを生み出せているか?

・投資活動の実態: 設備投資にどれだけ資金を使い、資産売却でどれだけ資金を得ているか?

・財務活動の実態: 借入金の返済や新規調達、増資などによる資金の動きはどうか?

・資金繰りの安全性: 計画通りに進んだ場合、手元の現預金は十分に維持されるか? 資金ショートの懸念はないか?

CF計画は、PL計画、BS計画など、これまでに作成した全ての数値計画の結果を統合する形で、数値計画の最後に作成されます。

CF計画作成の実際:PL・BS計画からの数値転記と構造理解

CF計画の作成は、すでに完成しているPL計画とBS計画(前期末・当期末の比較)があれば、それらの数値を基に計算・転記していく作業が中心となります。

必要な情報:完成したPL計画、BS計画(前期末・当期末)、その他関連計画

・PL計画: 税引前当期純利益、減価償却費、法人税等支払額など

・BS計画: 各勘定科目の期首(前期末)残高と期末残高の差額(増減額)

・その他: 設備投資計画額、固定資産売却収入額、借入金の実行額・返済額(金融支援計画より)、リース料支払額(リース支払計画より)など

フォーマット例で見るCF計画の3区分

キャッシュフロー計算書は、現金の増減を以下の3つの活動区分で表示するのが一般的です。

(クリックで拡大します)

キャッシュフロー計画

1. ① 営業活動によるキャッシュフロー(営業CF):

・本業の営業活動から生み出されたキャッシュの増減を示します。
・主な計算要素(間接法の場合):
‣税引前当期純利益(PLより)
‣+ 減価償却費(PLまたは減価償却計画より)※非資金費用のため加算
‣± 運転資本(売掛金、棚卸資産、買掛金など)の増減額(BS増減より)※売掛金増はマイナス、買掛金増はプラスなど
‣- 法人税等の支払額(税額計算表より)
‣その他(受取利息、支払利息など)

2. ② 投資活動によるキャッシュフロー(投資CF):

・設備投資や資産売却など、将来のための投資活動に関するキャッシュの増減を示します。
・主な計算要素:
‣- 設備等の固定資産取得による支出(設備投資計画より)
‣+ 固定資産売却による収入(アクションプラン等より)

3. ④ 財務活動によるキャッシュフロー(財務CF):

・借入金の調達・返済や増資など、資金調達・返済活動に関するキャッシュの増減を示します。
・主な計算要素:
‣+ 短期・長期借入金の増加額(新規借入)(金融支援計画より)
‣- 短期・長期借入金の返済額(金融支援計画より)
‣+ 増資による収入(アクションプラン等より)

 

各項目の算出方法(PL/BSの変動額からの転記・計算)

上記の各項目について、事前に作成したPL計画、BS計画(期首・期末残高の差額)、その他の個別計画から数値を転記または計算して入力していきます。

注意点:法人税支払額(繰越欠損金の影響)、投資CFの符号

・法人税等支払額: PL上の法人税等計上額と、実際に支払う額(キャッシュアウト)はタイミングがずれることがあります。また、繰越欠損金の影響で実際の納税額が少なくなる(またはゼロになる)場合があるため、税額計算表に基づいた支払額を反映させます。

・投資CF: 設備投資などキャッシュが出ていくものはマイナス(支出)、固定資産売却などキャッシュが入ってくるものはプラス(収入)で記載します。

最重要チェックポイント:フリーキャッシュフロー(FCF)と整合性確認

CF計画を作成する上で、特に重要な概念とチェックポイントがあります。

 ■フリーキャッシュフロー(FCF)とは?(③ FCF = ①営業CF + ②投資CF)

FCF(Free Cash Flow)は、企業が本業(営業CF)で稼ぎ出し、事業維持・成長に必要な投資(投資CF)を行った後に、自由に使える現金がどれだけ残ったかを示す指標です。このFCFが、借入金の返済や株主への配当などの原資となります。FCFが安定的にプラスであることが、企業の健全性を示す重要なサインです。

 ■計画全体の検算機能:③FCF + ④財務CF = ⑤現預金増減額

CF計画の最も重要な機能の一つが、**計画全体の数値的な整合性を検証する「検算機能」**です。

【整合性チェック式】
(①営業CF + ②投資CF) + ④財務CF = ⑤当期の現預金増減額

この計算が必ず一致する必要があります。もし一致しない場合は、PL計画、BS計画、またはCF計画のどこかに計算ミスや転記ミス、あるいは計画間の矛盾が存在することを意味します。このチェックを行うことで、数値計画全体の正確性を担保することができます。

経営再建計画における数値計画作成の推奨ステップ(再確認)

CF計画は数値計画の最終段階ですが、そこに至るまでの各計画を正しい順序で、かつ精度高く作成することが不可欠です。これまでの連載で解説してきた推奨ステップを再確認します。

1. 減価償却・投資計画: 設備関連の費用とキャッシュアウト予測の基礎。

2. リース・人件費計画: 主要な固定費とキャッシュアウトの計画。

3. 0年目着地見込み: 全ての計画の現実的なスタート地点。

4. 販管費計画: 間接コストの管理・削減計画。

5. 製造原価計画: (対象業種)直接コストの管理・削減、粗利率改善計画。

6. PL計画: (売上計画含む)将来の収益性予測。事業デューデリでの顧客別・商品別等の要素分解分析が計画精度の鍵。

7. 金融支援計画: 借入金返済プランと支払利息の確定。

8. 税額計算表: 納税額の確定(繰越欠損金考慮)。

9. BS計画: 財務状態の将来像予測。実態バランスシートからの改善目標。

10. 不良資産回収計画: 過去の問題資産の処理計画。

11. キャッシュフロー計画: 計画全体の整合性チェックと資金繰り安全性の最終確認。

※これらの計画は完全に一方通行ではなく、策定途中で相互にフィードバックし、行き来しながら精度を高めていくのが実務的な進め方です。

金融機関はCF計画のココを見ている!(経営再建計画書 金融機関)

金融機関は、CF計画を通じて、企業が持続的に現金を創出し、借入金を返済していけるかを最終的に判断します。

・安定的な営業CF創出力: 本業でしっかりとキャッシュを生み出せているか? その源泉は一時的なものでなく、継続性があるか?

・投資CFの内容は妥当か: 将来のための投資が適切に行われているか? 過剰投資や逆に投資不足になっていないか? 資産売却は計画通り進む見込みか?

・FCFで借入金返済(財務CF)を賄えているか: 生み出したフリーキャッシュフローで、計画通りに借入金返済が進むか? 新規借入に過度に依存していないか?

安定的にプラスの営業CFとFCFを生み出し、それによって着実に借入金を返済していく計画を示すことが、金融機関の信頼を得る上で不可欠です。

計画策定の支援と情報収集(経営再建計画書 書き方)

CF計画の作成や、その前提となるPL/BS計画の精度検証には、専門的な知識が役立ちます。

中小企業活性化協議会や経営改善計画策定支援事業(405事業)の活用

中小企業活性化協議会では、経営再建計画書全体のブラッシュアップ支援の一環として、数値計画(PL/BS/CF)の整合性チェックや、資金繰り改善策に関するアドバイスを受けることができます。**経営改善計画策定支援事業(405事業)**を活用すれば、**専門家(税理士、会計士、中小企業診断士など)**に依頼して、客観的な視点から計画全体の妥当性を検証してもらうことも可能です。

[関連情報:中小企業活性化協議会による計画策定の伴走支援]
[関連情報:経営改善計画策定支援事業(405事業)での専門家活用事例]

サンプル・テンプレート利用の限界

「経営再建計画書 書き方」のサンプルやテンプレートは、CF計算書の基本的な構造を理解するには役立ちます。しかし、その数値の根拠となるPL計画やBS計画が自社の状況に合わせて正確に作成されていなければ、CF計画だけをテンプレートで作っても意味がありません。CF計画は、あくまでも他の計画が正確であることが大前提となります。

まとめ:CF計画で資金繰りの安全性を証明し、計画の完成度を高める

キャッシュフロー(CF)計画は、経営再建計画書における数値計画の最終チェックポイントであり、計画全体の資金繰りの安全性を証明するものです。

・PL計画・BS計画の結果を基に、営業CF・投資CF・財務CFを計算・集計する。

・FCF(フリーキャッシュフロー)の創出力と、借入金返済能力を示す。

・「FCF+財務CF=現預金増減額」の整合性を必ず確認し、計画全体の検算を行う。

・安定的なキャッシュフロー創出力を示すことで、金融機関の信頼を得る。

 

このCF計画を正確に作成し、計画期間中の資金繰りに問題がないことを示すことで、経営再建計画書全体の完成度と説得力が格段に高まります。

次回は、数値計画と並行して作成する「アクションプラン」の詳細について解説していきます。

 

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