経営再建計画書は、現状分析を行う「事業デューデリジェンス(事業DD)」と、具体的な再生への道筋を示す「アクションプランと数値計画」の二部構成となっています。これまで数値計画の各論を解説してきましたが、今回はその数値目標を達成するための具体的な行動計画、すなわち**「アクションプラン」**の作成ポイントに焦点を当てます。
アクションプランは、経営再建計画書の中でも**「実行」**を担う心臓部であり、策定した数値計画(目標)が絵に描いた餅で終わらないために不可欠な要素です。どんなに精緻な数値計画も、それを実現するための具体的な行動計画がなければ意味がありません。この記事では、実効性のあるアクションプランを策定するための考え方、具体的な見つけ方、そして作成上の重要ポイントを、経営者、従業員、金融機関関係者など幅広い読者に向けて解説します。
【目次】
経営再建計画におけるアクションプランとは、事業デューデリで特定された経営課題を解決し、策定した数値計画(収益改善、コスト削減、財務改善など)を達成するために、「いつまでに」「誰が」「何を」「どのように」実行するのかを具体的に定めた行動計画のことです。最終的な目的である金融債務の削減(=会社の再生)に繋がる、全ての改善施策がこれに該当します。
一般的には、「何をするか(アクションプラン)」を決めてから、「その結果どうなるか(数値計画)」を考えるのが自然な流れに思えます。しかし、経営再建計画の実務においては、逆のアプローチ、すなわち「まず達成すべき数値目標(数値計画)を設定し、その目標から逆算して必要なアクションプランを導き出す」方が、よりスムーズかつ効果的に計画策定が進むケースが多くあります。
なぜ数値目標からアクションが具体化するのか?
数値計画を作り込んでいく過程で、「この利益目標を達成するには、あと〇〇円のコスト削減が必要だ」「この売上目標には、A社との取引条件改善が不可欠だ」といった、**目標達成のためにクリアすべき具体的な課題とそのために取るべき行動(=アクションプラン)**が、よりシャープに見えてくるからです。数値という明確な目標があることで、アクションプランの必要性や優先順位が判断しやすくなります。
では、具体的にどのようなアクションプランを盛り込むべきか? その見つけ方には、主に2つのアプローチがあります。
アプローチ①:数値計画からの逆算
策定した数値計画の各項目(売上、原価、販管費など)の目標値を達成するために必要な行動を具体化します。
・例(取引先別収支計画より): 目標利益達成にはA社取引での粗利率〇%改善が必要 → 【アクション】A社に対し△月までに□%の値上げ(またはコスト削減協力)交渉を実施する。
・例(製造原価計画より): 目標原価率達成には材料Bのコストを〇円削減する必要がある → 【アクション】仕入先C社との価格交渉、代替材料の検討、発注プロセスの見直しによる過剰在庫抑制策を△月までに導入する。
・例(部門別人件費計画より): C部門の成長とD部門の縮小方針に基づき、C部門の人件費予算を〇円増、D部門を△円減とする → 【アクション】D部門からC部門へ□名を異動。C部門で新規採用〇名実施、D部門は退職不補充とする。
・例(販管費計画より): 目標営業利益達成には販管費総額を〇円抑制する必要がある → 【アクション】役員報酬〇%カット、〇〇支店の家賃交渉、△△に関する支払手数料の見直し、□□に関する広告宣伝費の削減を具体的に実行する。
アプローチ②:事業デューデリ課題の裏返し
事業デューデリで特定された「経営課題」「問題点」「その原因」に対する直接的な解決策をアクションプランとします。
・例(課題:在庫過多による資金繰り圧迫): 原因が「発注ルール不在」「単品管理不十分」なら → 【アクション】在庫発注ルールの策定と運用徹底、在庫管理システムの導入または改善、不採算商品のSKU削減・入れ替えを△月までに実施する。
・例(課題:営業担当者の生産性低迷): 原因が「動機づけ不足」「行動管理不在」なら → 【アクション】成果連動型報酬制度の一部導入検討、SFA/CRMツール導入による営業活動の可視化、上司による営業同行とOJT強化、効果的な営業手法の研修実施。
・例(実態バランスシート上の課題:債務超過、不良資産): → 【アクション】遊休資産(不動産等)の売却計画策定と実行、増資(経営者個人・外部)による資本注入の検討、不良債権の回収・処理計画の実行(前回の記事参照)。
[関連情報:実態バランスシートの重要性と作成ポイント]
[関連情報:不良資産回収計画の作成ポイント]
洗い出したアクションプランは、項目別に整理し、一覧化することで、計画の全体像が把握しやすくなり、実行管理にも役立ちます。
項目別(組織・営業・生産・財務等)整理のメリット
「組織体制」「営業体制」「生産・業務プロセス」「仕入・購買戦略」「コスト削減策」「財務戦略(資金調達・資産売却など)」といった切り口でアクションプランを分類・整理すると、網羅性が高まり、各部門の担当者も自身の役割を認識しやすくなります。
フォーマット例解説
下図で示されているようなフォーマットは、アクションプランを具体化し、管理する上で有効です。
(クリックで拡大します)
・① 経営課題: 事業デューデリで特定された課題を転記します。アクションプランの「目的」を明確にします。
・② 具体的な改善内容: 最も重要な項目です。「何を」「どのように」実行するのかを、誰が読んでも理解できるよう具体的に記述します(5W1Hを意識)。曖昧な表現(例:「~の強化」「~の推進」)ではなく、具体的な行動レベルまで落とし込みます。
・③ 実施時期: 「いつまでに」実行するのか、具体的な期限(年月、四半期など)を明記します。この時期は、数値計画における改善効果の反映時期と整合している必要があります。
・④ 関連ページ: このアクションプランの詳細な内容や、関連する数値計画が記載されている経営再建計画書内のページ番号などを記載し、参照しやすくします。
どんなに優れたアクションプランも、実行されなければ意味がありません。そして、その実行の成否を最も左右するのが、経営者自身の「腹落ち」=本気度です。
なぜ経営者の主体性が不可欠か?(計画倒れのリスク)
専門家が主導して作成した「正しい」けれども経営者が納得していないアクションプランは、結局実行されずに**「計画倒れ」**に終わるリスクが非常に高いです。経営再建は、経営者自身が強いリーダーシップを発揮し、率先して困難な改革に取り組んで初めて成功するものです。
専門家との理想的な協働プロセス
経営再建を支援する専門家(中小企業活性化協議会や経営改善計画策定支援事業(405事業)で派遣される税理士、会計士、中小企業診断士などを含む)の役割は、答えを教えることではなく、経営者が自ら答えを見つけ、実行するのをサポートすることです。
1. ヒアリング: まずは経営者の考え、問題意識、やりたいこと(アイデア)を徹底的に聞き取ります。
2. 視点提供: 専門家としての客観的な分析や、他の成功・失敗事例に基づき、経営者が見落としている可能性のある視点や選択肢を提示します。
3. ディスカッション: 経営者の考えと専門家の意見をぶつけ合い、議論を深める中で、より実効性が高く、かつ経営者が納得できるアクションプランを共創していきます。
金融機関の視点も考慮(経営再建計画書 金融機関)
策定したアクションプランが、予算的な制約や金融機関からの要請(例:早期の収益改善、遊休資産の売却など)と整合性が取れているか、実現可能性があるかという視点でのチェックも必要です。専門家は、金融機関がどのような点を評価するかを踏まえた助言も行います。
目指すべきは「前向きになれる」アクションプラン
最終的に目指すべきは、経営者が「これならできるかもしれない」「これをやれば会社は変われるかもしれない」と、困難な状況の中でも前向きな気持ちで取り組めるアクションプランです。
実効性のあるアクションプランの策定には、客観的な分析と具体的なノウハウが必要です。
中小企業活性化協議会や経営改善計画策定支援事業(405事業)の活用
中小企業活性化協議会や**経営改善計画策定支援事業(405事業)は、まさにこのようなアクションプラン策定を支援するための制度です。経験豊富な専門家(税理士、会計士、中小企業診断士など)**が、事業デューデリからアクションプランの具体化、数値計画への落とし込み、そして実行段階のモニタリングまで、伴走型の支援を提供してくれます。
[関連情報:中小企業活性化協議会の伴走支援とは]
[関連情報:経営改善計画策定支援事業(405事業)の具体的な支援内容]
サンプル・テンプレート利用の限界
「経営再建計画書 書き方」のサンプルやテンプレートに記載されているアクションプラン例は、あくまで一般的なものです。アクションプランこそ、企業の業種、規模、経営課題、企業文化といった個別性が最も色濃く反映されるべき部分であり、テンプレートの安易な模倣は避けるべきです。
アクションプランは、経営再建計画書に魂を吹き込み、数値目標を現実のものとするための具体的な行動指針です。
・数値計画と表裏一体で策定し、目標達成への道筋を具体化する。
・事業デューデリで特定された課題への解決策を盛り込む。
・「いつまでに」「誰が」「何を」「どのように」を明確にする。
・何よりも、経営者自身が主体的に「実行する」とコミットできる内容にする。
・必要に応じて専門家の支援を活用し、客観性と実現可能性を高める。
経営者が腹落ちし、従業員が一丸となって取り組める具体的なアクションプランがあってこそ、経営再建という険しい道のりを乗り越え、確かな未来を切り開くことができるのです。
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