【はじめに:実態バランスシートを作る際の考え方】
実態バランスシートを作るシチュエーションは、「銀行が融資先の財務実態を把握するために、貸借対照表を作り直す」です。実態バランスシート作成対象は、多くが業績の厳しくなった中小企業です。
【この記事で分かること】
・ 実態バランスシートは何を目的に作成するのか
・ 実態バランスシート【資産の部】作成の注意点、勘定科目の補正方法
・ どの勘定科目が不良資産になりやすいか
【この記事のポイント】
✔ 資産勘定の不透明な科目(貸付金、未収金、営業権、仮払金、など)は、不良資産の可能性が高い
✔ 在庫や売掛金の中には、不良化して資産価値のないものが紛れ込んでいることが多く、現物を見たり社内帳簿を確認したりして、内容をしっかり確認すること
✔ 社長からは正しい情報が出てこないこと(故意の場合、認識不足の場合)があり、経理担当者など事情に詳しい人物を味方につけることで、突破口が開けることがある(その人物は粉飾処理を不安がっていたりする)
そしてこれが一番のポイントですが、
金融機関借入金の発生理由を借入金ごとに精査していくと、貸借対照表の問題点が浮かび上がってくる
ということです。
例えば、最近設備投資もしていないのに、借入金残高が増えてきているのは、赤字だからです。
にもかかわらず、損益計算書は形の上で黒字となっているのなら、貸借対照表の資産勘定に赤字が隠れているということです。
それが不良在庫や回収不能な売掛金、貸付金、社外への投資活動だったりします。
だから、実態バランスシートを作る際、「なぜ金融機関借入金が存在しているのか」を突き詰めていくことはとても重要です。
以下に、実態バランスシート「資産勘定」「負債勘定」2つの記事に分けて説明しています。
作成のご参考にいただけますと幸いです。
【目次】
自社財務の実態を確認したい時。
実態を正しく把握することが、改善のスタートとなります。
決算書の貸借対照表を実態に合わせて補正する方法があります。
補正した貸借対照表を「実態バランスシート」と言います。
貸借対照表には、会社が設立してから現在までの資産、負債、純資産の内容が記載されています。
ただ年月を経るに従い、実態とかい離してくることがあります。メンテナンスが必要です(税務署用ではなく、自社の管理用に補正します)。
補正作業を行うことで、資産の部と負債の部に隠れているプラス面やマイナス面をあぶりだします。
実態バランスシートを作ると、自社の真の財務内容が見えてきます。
補正の仕方を詳しく見ていきましょう。
流動資産とは、原則1年以内に資金化できる資産のことです。
①現金
決算期に実際その金額の現金があったのか、現金出納帳と金額を突き合せます。例えば、決算書には500万円と記載されているのに、300万円しかなかったなら、補正額は▲200万円、実質価格は300万円に補正します。特にこの現金という勘定科目は、実態とかい離していることが多いため、よく確認します。
【関連記事】現預金とは。~決算書にあるのに、手元にお金がないわけ~
②売掛金
決算書の内訳明細表と実際の売掛先を突き合せます。倒産企業分や回収困難分、存在しない部分は、マイナス補正します。
③受取手形
決算書の内訳明細表と実際の受取手形を突き合せます。倒産企業分や回収困難分は、マイナス補正します。
④商品在庫
決算書の金額と実際の期末在庫金額を突き合せます。倉庫に行って目視し、陳腐化、老朽化、破損分の金額はマイナス補正します。中小企業の場合、商品在庫金額が不正確な場合が多いので、厳しく判定することが必要です。
⑤有価証券
上場分なら現在の株式価格で評価し直してみます。プラスなら含み益、マイナスなら含み損があります。今の状態に合わせて補正します。
⑥未収入金
内訳明細表で内容を確認します。回収が難しい部分、不良債権化している部分は、マイナス補正します。経営者への貸付金の利息なども返済が進まず金額が増加していれば、マイナス補正します。
⑦短期貸付金(役員貸付金)
内訳明細表で内容を確認します。回収が難しい部分、不良債権化している部分は、マイナス補正します。経営者への貸付金なども返済が進まず金額が増加していれば、マイナス補正します。経営者への貸付は、生活費に流用したもの、一時的に会社から借りたもの、使途不明なものが混在していますが、実質は赤字ということが多いので、よく確認します。
以下の記事に詳しく説明しています。参考にしてください。
【参考記事】決算書の役員借入金、役員貸付金。この勘定科目に要注目。
有形固定資産とは、営業活動のために長期にわたり使用する目的で保有される財産のことです。
有形固定資産全般(土地以外)において、減価償却不足額をマイナス補正します。本来は費用として処理するものを、出来ていないということは、資産が実態より過大に計上されているということだからです。
減価償却不足額は、決算書別表16の減価償却不足額を確認します(ただし1期の決算書では1期分しか不足額が確認できないので、さかのぼって確認する必要があります)。または担当税理士に「当社の固定資産の累計減価償却不足額を調べてください」と依頼すれば良いでしょう。
【関連記事】減価償却不足額を、銀行はどう見ているか ~銀行と経営者 考え方の違い~
土地については、路線価図を確認します。または税務署から届く「固定資産税の納付書」に土地の評価額が記載されています。プラスかマイナスか補正します。
投資その他の資産とは、株式配当や預金利息など、利殖を目的として投資をした長期資金のことです。
①投資有価証券
内訳明細表で内容を確認します。子会社株式や関連会社への貸付金が含まれていることがあります。これらが業績不振が続いている場合、回収が難しいと考えられ、その金額をマイナス補正します。銀行や証券会社経由で購入した投資信託などは、時価に引き直してみます。
②出資金
業界団体や協力会社、知人の会社などへの出資金が含まれています。それらの団体、会社の業績はどうなのか、回収可能性を判断して難しければマイナス補正します。
③敷金
内訳明細表で敷金の内容を確認します。契約内容を確認し、返戻されるものなのか、回収可能性はどうか、などを確認します。回収が難しければマイナス補正します。
④保険積立金
内訳明細表で保険の内容を確認します。保険会社に問合わせし、現段階で解約したと仮定して、いくらの解約返戻金があるのか把握します。解約返戻金が決算書記載金額より多ければ、プラス補正、少なければマイナス補正します。
繰延資産とは、支出する費用のうち、その支出効果が1年以上に及ぶ資産のことです。
①営業権
営業権は、記載されてから原則5年程度で償却する、とされています。例えば500万円計上したなら、1年で100万円づつ5年後には0になるイメージです。長年に渡り同じ金額残っているのなら、マイナス補正します。
②建設仮勘定
建築物を建てる際、期末に完成していなければ、この勘定科目で処理します。完成後は固定資産に振り替わりますから、長期間残っている部分は不自然であり、その金額はマイナス補正します。
以上、資産勘定の実態把握のやり方を見てきました。多くの中小企業が、この補正を実行すると、決算書記載額より資産勘定がマイナスになります。
マイナスになった金額は、実態を伴わない資産です。言い換えれば赤字部分とも言えます。赤字部分は何かしらで補填する必要があります。
ほとんどのケースで金融機関借入金で調達されています。資金使途が(表面的には運転資金や設備資金という名目でも)赤字に対する見合いの資金ですから、返済が厳しくなり、なかなか借入金残高が減少しないのです。
実態バランスシートの精度が低いのは、「総勘定元帳」、「現金出納帳」、「棚卸表」と決算書数値を突き合せしないからです。
決算書の各勘定科目は「総勘定元帳」と、現金残高は「現金出納帳」と、在庫有高は「棚卸表」で確認します。
会社からは「面倒だな」と嫌な顔をされるかもしれませんが、プロの仕事をするには、徹底することが大切です。
顧問税理士には、実態バランスシートが作れません。
自分が作成した貸借対照表を補正することは自己否定につながり、難しいからです。
実態バランスシートの作成には「第三者的視点」が求められるのです。
次回は、実態バランスシート「負債の部、純資産の部」の確認ポイントについてお話しします。
【関連記事】
実態バランスシートの作り方【後編】~負債の部、純資産の部はこう作る~
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