前編に引き続き、後編は、負債の部、純資産の部についてお話します。
作成するために会社に提出してもらうのは以下です。
・決算報告書内訳明細表
・金融機関借入金明細表(長期借入金、短期借入金)
・リース返済表
・預金通帳
・総勘定元帳
・資金繰り表
流動負債とは、原則1年以内に返済期日が到来する負債のことです。
①買掛金
決算書の内訳明細表と実際の買掛先を突き合せます。漏れているものはないか、支払いが長期化し、相手先に迷惑が掛かっているものはないか、確認します。簿外の買掛金はないか、総勘定元帳や買掛帳で確認します。
②支払手形
決算書の内訳明細表と実際の手形帳の控えを突き合せます。支払いが長期化し、相手先に迷惑が掛かっているものはないか、期日にきちんと支払えている(期日ジャンプしていないか)か、確認します。
支払手形を取引先との資金の貸し借りに使いだすと、資金繰りは末期症状と言えます。自社が苦しいときに依頼すれば、相手からも依頼されることになり、一蓮托生(いちれんたくしょう)になってしまいます。
簿外がないか、手形帳や総勘定元帳を確認します。
③未払金、未払費用
決算書の内訳明細表で内容を確認します。通常は、1か月分の役員報酬、従業員給与、社会保険料などが記載されています。1か月分以上の金額が記載されている場合、支払いが遅れている状況と言えます。また税金や社会保険料の未納分が記載されています。税金や社会保険料の未納が多額になっていると、金融機関から厳しい評価になり、融資が難しくなります。
④役員借入金
役員借入金の金額、内訳を確認します。大切なのは、その資金がどこから来たかです。役員報酬の未払(一旦役員報酬をとったことにして、会社に貸付)や個人の預金を原資として、早急な返済を求めないのであれば、資本金的な意味合いが強いと言えます。資本金的な意味合いが強い金額は、プラス評価できます(例えば300万円あれば、300万円のプラス)。
一方、経営者個人がカードローンやフリーローンなど、高い金利で調達して会社に貸し付けていれば問題があります。この場合はプラス評価せず簿価のままの評価とします。毎月の元金と利息の返済は会社が負担するため、資金繰りを圧迫します。
以下の記事に詳しく説明しています。参考にしてください。
【参考記事】銀行員は、決算書の「代表者勘定」をこう見ている ~役員借入金、役員貸付金 本当の評価~
⑤短期借入金
必要運転資金に対して、適正金額か確認します。必要運転資金額の簡便計算式は、(売掛金+受取手形)+棚卸資産-(買掛金+支払手形)です。この金額と短期借入金金額を比較します。
(ケース1) 必要運転資金 > 短期借入金 →→→ 短期借入金の枠が残っている
(ケース2) 必要運転資金 < 短期借入金 →→→ 短期借入金で借りすぎ
実態バランスシートを作った後は、経営改善計画書を作る。銀行に通用する経営改善計画書の作り方。こちらの記事で併せてチェック!
【関連記事】会社を再建する!経営改善計画書の作り方④~数値計画と具体的行動策~
固定負債とは、原則1年以上かけて返済していく負債のことです。
①長期借入金
借入の口数が多くなっていないか、確認します。どの借り入れがどのような資金使途で借入されたものか、突き合せます。例えば、A銀行の借入が機械設備Bを購入するために使われたなど。
また返済能力と返済金額のバランスが取れているか確認します。判定方法は、この記事(長期借入金返済額判定の簡便な方法)を参考にしてください。
②長期未払金
リース債務はここに入ります。リース返済表を確認し、月々の返済額を確認しておきます。返済した金額が長期未払金から減少していくことになります。
実態バランスシート作成途中で簿外借入金が見つかった場合、その時点で銀行など金融機関の支援が中止になる可能性が高いです。簿外借入金とは決算書に載せていない借入金のことです。
この状態は望ましくないですが、簿外借入金は悪質な粉飾決算と判断され、金融機関の態度を硬化させます。
もし見つけてしまったら、専門家としてはメイン金融機関に報告するしかありません。残念ですが簿外借入金のある会社の再建可能性は低いです。
【銀行が許さない悪質な粉飾についてはこちらの記事で確認】
また実態バランスシート作成過程において見逃せば、支援専門家の力量を疑われ、信用問題にもつながります。
見つけ方を3つ説明します。
①支払利息から見つける方法
PLの支払利息割引料とBSの借入金残高を比較する方法です。例えば、金融機関借入金明細では金利が1~2%程度なのに、PLとBSを見ると、支払利息割引料÷{(期首借入金残高+期末借入金残高)÷2}=3.5%となれば、矛盾が生じています。❊ただし支払利息割引料の中に信用保証協会保証料が含まれていることがありますので、信用保証協会保証料が、どう経費処理されているか確認しておくこと❊
②口座落としから確認する方法
金融機関口座と提出された金融機関借入金明細表を突き合せします。もし金融機関口座から金融機関借入金明細や決算書内訳明細表に記載のない借入金の引き落としがあれば内容を確認します。それでも会社が金融機関口座の存在自体を隠していれ見つけることは困難です。
③資金繰り表で確認する方法
会社作成の資金繰り表と突き合せします。資金繰り表の借入金返済と決算書の借入金が合致するか確認します。
以上3つの方法を紹介しましたが、本気で会社が隠すつもりなら見つけることは困難です。
しかし専門家としては後から不作為を指摘されないよう、簿外債務について最低限上記3つの方法で確認をしておきましょう。
また支援途中で隠しきれなくなった会社から、簿外借入金の存在を相談されることもあるかもしれません。
その時専門家は自分で抱え込んではダメです。必ず融資先会社のメイン金融機関、または発注元である405事業事務局か中小企業活性化協議会事務局に相談しましょう。
残念ながら簿外借入金が発覚すると、遅かれ早かれ対象会社は傾きます。実態バランスシートは第三者視点が求められるので、会社に入れ込みすぎることには注意が必要です。
純資産とは、株主からの出資金(資本金)と事業活動から得た利益の蓄積(利益剰余金)の合計です。
純資産がプラスの場合は資産超過、純資産がマイナスの場合は債務超過と言います。
表面上は、資産超過の場合でも、実態は債務超過の場合があり、注意が必要です。
決算書では資産超過でも、実態バランスシートを作成した際に債務超過となることを「実質債務超過」と言います。
実質債務超過は良くない財務状態です。
前編で、資産の部の補正方法についてお話ししました。ここでマイナス補正した数値は、最終的には下記のA社のように純資産の部のマイナスとして現れます(この例題では、1,600万円の減少)。
実態バランスシートの作成作業は、「前編」でお話ししたように、その多くが資産の部の不良部分の補正です。負債の部確認の注意点は、簿外債務(決算書に載せていない債務)の存在です。簿外債務が存在すると、悪質な粉飾行為と判断されます(画面クリックで表は拡大します)。
どうして自社は、自己資本もあるし、利益も出ているのに資金繰りが厳しいのだろう?定期的に運転資金が不足し、金融機関借入が必要になるのだろう?
それは、表面は良い決算書でありますが、実は補正してみると、実態が傷んでいるからかもしれません。
前編(資産の部)、後編(負債の部)2回に渡り、実態バランスシートの作り方を説明してきました。
この記事は、私がコンサル開業後14年間(2025年1月時点)数十社に渡る実態バランスシート作成経験をもとに説明したものです。
その過程で私自身、色々失敗をしてきました。試行錯誤し、今現在も実態バランスシートの精度を高めているところです。
この記事を読んでいる皆さんは、おそらく経営者ではなく、士業や経営コンサルタントなど中小企業支援者でしょう。
私の経験から申し上げると、大切なのは「第三者的視点」と「修正の根拠」です。
細かな資料の提出を求めることで、会社側や顧問税理士事務所の抵抗もあるかもしれません。記事内では厳しいことを書きましたが、すべての材料が揃わないこともあるでしょう。その時は融資先のメイン金融機関や事務局と相談しながら、進めていく調整力も必要です。
突き詰めれば、実態バランスシート作成は、奥が深く難しい仕事です。一方で、「財務実態を正しく把握して会社立て直しのスタートとする」という、大切な役割があります。
手を抜き楽をすれば、いずれ自分の信用にマイナスとなります。過去に私も痛い目にあったことがあります。
この記事が、皆さんの実態バランスシートの精度を高める一助になれば、嬉しいことです。
【関連記事】
資金繰りが厳しい原因は、銀行借入金のバランス崩れ。判定法と対処法
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