「銀行から、融資を受けていない子会社の決算書まで提出するよう言われた…なぜ?」
「子会社の決算書、銀行は一体どこを見ているのだろう?」
「関係ない子会社の決算書提出は、拒否してもいいの?」
複数の会社を経営されているオーナー社長やグループ企業の経理担当者の方から、このようなご相談を受けることがあります。融資を受けている親会社の決算書提出は当然として、直接的な融資取引がない子会社の決算書提出まで銀行が求めてくることに、疑問や抵抗を感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、銀行が子会社の決算書提出を求めるのには、明確な理由があります。その意図を理解せずに対応すると、銀行との関係に思わぬ影響が出る可能性もあります。
この記事では、ここ愛媛県をはじめ多くの中小企業をご支援してきたコンサルタントとして、銀行が融資のない子会社の決算書提出を求める理由、銀行が子会社の決算書のどこを見ているか(「子会社 決算書 銀行どこ見る?」)、そして提出を拒否すること(「子会社決算書 提出拒否」)は可能なのか、経営者が取るべき対応について解説します。
【目次】
銀行が直接融資をしていない子会社の決算書提出まで求める主な理由は、以下の3点に集約されます。
理由①:グループ全体を一体として評価するため【最重要】
これが最大の理由です。 銀行は、融資先である親会社のリスクを評価する際、親会社単体だけでなく、関連会社を含めた企業グループ全体を一つの事業体として捉え、その総合的な財務状況やリスクを評価しようとします。
たとえ親会社の業績が良くても、子会社が大きな赤字を抱えていたり、財務的に問題を抱えていたりすれば、それが親会社の経営や資金繰りに波及するリスクがあるからです。逆に、子会社の業績が好調であれば、グループ全体の信用力は高まります。
理由②:親子間の取引・資金移動の実態把握のため
中小企業のグループ経営では、親子会社間で以下のような取引や資金移動が行われていることがよくあります。
・親会社から子会社への商品の販売、または子会社からの仕入れ
・子会社への運転資金や設備資金の貸付(関係会社貸付金)
・子会社からの借入(関係会社借入金)
・親会社所有不動産を子会社に賃貸(地代家賃の授受)
・親会社が子会社の銀行融資を保証している
銀行は、これらの内部取引の実態や金額、条件の妥当性などを子会社の決算書からも確認し、グループ全体の資金の流れやリスクを把握しようとします。不透明な資金移動や、実態とかけ離れた取引条件がないかなどもチェックします。
理由③:連結ベースでの財務分析のため
上場企業のような正式な連結決算書を作成していない中小企業グループの場合でも、銀行は内部的に、提出された親会社と子会社の決算書を合算・相殺(親子間取引などを消去)し、グループ全体の連結ベースに近い財務諸表を作成して分析します。これにより、グループの「真の」売上規模、収益力、財政状態(資産、負債、純資産)を評価します。
[関連記事:銀行が嫌う決算書とは?追加融資が難しいケース]
では、提出された子会社の決算書について、「子会社 決算書 銀行どこ見る?」という疑問にお答えします。銀行は主に以下の点に注目しています。
1. 単体の業績・財務状況:
‣ 子会社単独での損益は黒字か赤字か? その推移は?
‣ 債務超過に陥っていないか? 自己資本は十分か?
‣ 子会社自身の借入金(他の銀行からの融資含む)は過大ではないか?
2. 親会社との取引内容・残高:
‣ 貸借対照表に「親会社(関係会社)貸付金」「親会社(関係会社)借入金」「親会社(関係会社)売掛金」「親会社(関係会社)買掛金」などが多額に計上されていないか? その内容は妥当か?
‣ 損益計算書で、親会社との売上や仕入、家賃などの取引条件は、第三者間取引と比較して不自然ではないか?(利益移転などが行われていないか?)
3. 親会社への依存度・影響度:
‣ 子会社の売上の中で、親会社向け取引の割合はどの程度か?
‣ 親会社からの資金援助(貸付など)への依存度は高いか?
‣ 親会社が子会社の債務保証をしているか?
‣ 万が一、子会社が経営破綻した場合、親会社への財務的な影響はどの程度か?
これらの点を総合的に見て、子会社の存在が親会社の信用力に対してプラスに働くのか、マイナス(リスク)となるのかを判断します。
グループ経営において、銀行が懸念を示すことの一つに、親会社と子会社の決算期が異なっているケースがあります(例:親会社3月決算、子会社9月決算)。
なぜ嫌がるのか?正確な連結評価が困難
決算期がズレていると、ある特定の時点でのグループ全体の正確な財政状態や、一定期間のグループ全体の損益を把握することが非常に困難になります。銀行が行う連結ベースでの財務分析の精度が落ちてしまうため、銀行は決算期の統一を望む傾向があります。
経営管理上のメリットからも統一を推奨
決算期のズレは、税理士の繁忙期対策などの理由で行われることもありますが、グループ全体の経営管理という観点からも、決算期を統一するメリットは大きいです。グループ全体の業績評価や予算管理、資金繰り管理などが格段に行いやすくなります。可能であれば、決算期の統一を検討することをお勧めします。
「融資も受けていないし、親会社との取引もほとんどない。それでも子会社の決算書提出に応じなければならないのか?」(子会社決算書 提出拒否)という疑問もあるでしょう。
提出拒否が可能なケース(限定的)
理論上は、親会社と子会社の間に、資本関係以外にほとんど関連性がない場合(例えば、事業内容が全く異なり、役員の兼任もなく、資金移動や取引、債務保証なども一切ないなど)であれば、銀行は子会社の債権者ではないため、提出を拒否する余地はあります。
実務上の難しさとリスク
しかし、中小企業のグループ経営において、完全に独立しているケースは稀です。何らかの形で資金や役員の関与があることが一般的です。
また、たとえ関連性が薄いとしても、銀行からの提出要請を明確に拒否することは、銀行に「何か隠しているのではないか?」という疑念を抱かせ、心証を悪くするリスクがあります。それが原因で、親会社への融資態度が硬化する可能性も否定できません。
まずは理由を確認し、誠実な対話を
銀行から子会社の決算書提出を求められたら、まずは「なぜ必要なのでしょうか?」とその理由を丁寧に確認しましょう。その上で、会社の状況を説明し、どこまでの情報開示が適切か、銀行と誠実に話し合うことが現実的な対応です。関連性が本当に希薄であれば、その旨を説明すれば銀行も理解を示すかもしれません。しかし、特別な理由がない限り、提出に協力する方が、銀行との良好な関係を維持する上では得策と言えるでしょう。
[関連記事:銀行との上手な付き合い方 – 決算書はどこまで渡すべきか]
銀行から子会社の決算書提出を求められた際の、経営者としての望ましい対応です。
グループ全体の状況把握に努める
経営者自身が、親会社だけでなく、子会社も含めたグループ全体の財務状況やリスクを日頃から把握しておくことが重要です。内部的に連結ベースの計数管理を行うことも有効です。
銀行には原則として情報開示を
透明性を確保し、銀行との信頼関係を維持するためにも、特別な事情がない限り、求められた子会社の決算書は提出する方向で検討しましょう。それが、結果的にグループ全体の信用力を高め、円滑な融資取引に繋がります。
決算期の統一を検討する
前述の通り、可能であればグループ会社の決算期を統一することを検討しましょう。
銀行が融資のない子会社の決算書提出を求めるのは、グループ全体を一体として評価し、隠れたリスクや実態を把握したいという明確な理由があります。銀行が「子会社 決算書 銀行どこ見る?」かと言えば、単体の業績だけでなく、親会社との関連取引や依存度を重視します。
原則として、「子会社決算書 提出拒否」は得策ではなく、透明性をもって情報開示に応じることが、銀行との良好な関係を築き、グループ全体の信用力を高め、結果的に安定した融資取引に繋がります。
グループ経営においては、個々の会社だけでなく、全体を俯瞰する視点を持つことが、これからの時代ますます重要になるでしょう。
この記事が、グループ経営における銀行対応の一助となれば幸いです。
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