【この記事で分かること】
・銀行は、どのような経理処理をする税理士を嫌がるか(具体的な経理処理事例を挙げています)
・銀行員と税理士。決算書に関する認識がズレているのはなぜか
・経営者は、どのような心構えで自社財務に向かい合うべきか
※この記事は、融資現場で働く銀行員に加えて、現役税理士からも高い評価を受けた記事です。
現役銀行員B氏:「あるあるですね!記事内容に共感しました!」
現役税理士C氏:「記事をコピーして、事務所の職員に配り、「こんな処理したら銀行に嫌われるよ」と注意を促しました」
(実話です)
中小企業経営者は、税理士を頼ります。
行政アンケートの設問、「経営について相談する相手は誰?」は、いつも税理士がトップです。
【目次】
経営者は、常日頃から決算書など帳簿を作成してもらっており、会社のお金に関すること、弱みについて、税理士にすべてをさらけ出しています。
そのため税金のことを中心に、会社のお金に関することに、色々相談に乗ってもらっているのでしょう。
孤独な経営者にとって、愚痴をこぼす相手となっているのかもしれません。
経営者は銀行に対して、弱みを見せられません。弱みを見せることで、追加融資が厳しくなることを恐れるからです。
私が銀行員時代、経営者に融資提案すると、多くのケースで、「税理士に相談してみる」と言われました。
「何を税理士に相談することがあるのか?」と不快な気持ち(顔には出さず)になっていましたが、経営者は税理士を頼りにしていたのでしょう。
一方、もう20年以上前になりますが、支店の中では、融資課長が「ぼやいている」のをよく耳にしました。
「またあの税理士が作った決算書か、信用ならないな」
「ずさんな経理処理をして、恥ずかしくないんだろうか」
「○○税理士が作る決算書は注意しておけ」
などです。
その時の言葉が耳に残り、私も銀行員時代、資格を保有しているからというだけで、税理士を無条件に信用することはなかったように思います。
ではどんな決算書を銀行員は杜撰(ずさん)だと感じるのでしょう。
私が銀行員時代とその後のコンサル時に経験した、杜撰な経理処理をいくつか紹介しましょう。
もちろん税理士倫理に基づき、正確で誠実な仕事をしている税理士が大多数だと思います。しかし、一部には以下の様な杜撰な決算書を作る税理士も存在します。
銀行員から不信感を持って見られているでしょう。
✔ 減価償却費を利益の状況に応じて、したりしなかったり。減価償却費をすぐ未計上にする(税法上は任意であるが、銀行は資産や利益の実態が不透明になるため、これを嫌がる。以下参考記事で詳しく説明しています)。
【参考記事】減価償却不足額を、銀行はどう見ているか ~銀行と経営者 考え方の違い~
✔ 決算仕訳が雑。製造部門があるのに、製造原価報告書が無かったり、または製造原価と販売管理費の仕訳が正しくできていない(製造コストを販売管理費に入れている)。
✔ 使途不明金を、すぐ現金勘定か、役員貸付金勘定に放り込んで処理して辻褄(つじつま)を合わせる。不明の原因を調査しようとしない。実物現金はないのに帳簿上の現金勘定が多額。
✔ 売上の計上時期と原価の計上時期がズレている。売上は当期計上、原価は来期計上であるため、結果として利益が水増しとなっている。
✔ 銀行借入金が複数ある場合、すべてを把握できておらず、借入の記載が何本か抜けている(決算書提出後、銀行から指摘されて慌てる)。
✔ 資産計上すべき資産を間違って(または故意か?)経費一括処理する。
✔ 不良在庫を長年に渡り資産勘定に残しており、在庫にほとんど価値がない(その金額が実は赤字)。
✔ 口座に入金があった時点で取引実態を把握せず、売上として処理。実は前受金で売上計上のタイミングではなかった。
✔ 資産実態がないものを営業権やのれん代として資産計上。
これ全て、銀行員+コンサル活動期間中に私が誤りを指摘した、杜撰な経理処理です。まだまだたくさんありますが、今日はこれぐらいで。
こういう杜撰な経理処理をする税理士に限って、相場以上の多額の税理士報酬をとっていたりします。口が上手いのでしょうね。見抜けない経営者の責任も大きいです。
なぜ、このような経理処理が発生するのでしょう。
ほとんどのケースが、利益を多めに見せる粉飾(ふんしょく)決算です。
業績が厳しい会社の経営者は、銀行から追加融資を受けやすくするため、利益を多く見せたがります(逆に、銀行融資に困らない業績が良い会社は、利益を少なくして税金を減らしたがります)。
一方、税理士は税務署ににらまれることが、一番嫌です。利益を多く見せて、結果支払う税金が多くなることに抵抗がないのかもしれません(税金を払うのは企業なので)。
(業績不振の経営者)利益を多く見せ融資を受けたい=
(税理士)利益を多く見せ税金を多く払うことについては、税務署から目を付けられない(粉飾には目をつぶっておこう)
というような形で利害が一致し、粉飾が起こりやすくなるのです(あくまでも一部の税理士です。多くの税理士は業務に誠実だと思います)。
実際は赤字なのに法人税を払うので、資金繰りは厳しくなります。
銀行は、利益を多く見せる「粉飾決算」を最も嫌がります。
利益(融資の返済財源)があるから融資したのに、その決算書が粉飾(うそ)だとしたら、カンカンになります。
悪質なものと判断されれば、追加融資ストップはもちろん、すでに借り入れてる融資の一括返済を要請されることもあります。
このような銀行の考え方・融資姿勢に無頓着な税理士が、一部に存在するのです。
税理士からしても、厳しいことを言えば顧問契約を切られることもあり、経営者の意向に沿い粉飾決算をする場合があります。そのような場合は、経営者の責任が大きいと言えます。
銀行員時代から、なぜ国家資格を保有している税理士が、前述の様な杜撰な経理処理をするのか、不思議に感じてきました。
不正確な経理処理を指摘し、修正を促しても「何か問題がありますか?税務署は通っていますよ」と、納得のいかない表情です。
そこで、税理士の立場から、言い分を推測してみたいと思います。
「決算書は融資審査のために作成しているのではない!税務署への税務申告のために作成しているのだ!」
そうです。税務申告用に作成した決算書を、銀行側が融資審査のために、拝借しているのです。
本来なら企業側が自分で融資審査のために決算書を作成し、銀行に提出するのが筋ではないか。
しかし、実務上はそうなっていません。理由は、
✔ 企業側が自分自身で作る決算書なら、何のチェックも入らず、数字を操作できるので信頼性が薄い。
✔ 一般的に中小企業には、大企業と違い専門知識のある財務人材は存在せず、融資審査用の正しい数値の決算書を作ることができない。
✔ 一方、税務署提出用の決算書なら、国家資格者である税理士が作成し、税務署に提出されているものであり、信頼性が高い(だろう)、と銀行側が期待している
からです。
このように、「税理士が作る決算書だから正確だろう」と考える銀行側と、「融資用でなく税務申告用に作成しているのだよ」と考える税理士側。
決算書に関する意識ギャップが、問題を引き起こしている可能性があります。
しかしながら、税務申告用の決算書が、実務上、中小企業の融資審査に流用されていることは、日本全国で既成事実となっています。
顧問先のことを考えるなら、税理士は銀行への意識を持っておく必要があります。
顧問先が不正確な決算書により銀行から睨まれ、追加融資が出なくなれば、資金繰りが逼迫して、税務顧問料の支払いもできなくなります。
企業が倒産した、業績不振により経営支援に入った、多くのケースで粉飾決算が発覚します。
業績が悪いから追加融資のため、粉飾したのか。
それとも、粉飾していたから業績がさらに悪化したのか。
どちらも該当します。
後者の「粉飾して業績が悪化したケース」を考えてみます。
もともとあまり業績が良くないから、最初に粉飾するのですが。
粉飾決算すると、表面上は黒字になります。
実際は赤字なのに、表面上黒字化させると何が起こるのか。
経営者も銀行も、あたかも黒字企業のように振舞ってしまうのです。
経営者は、相変わらず高い役員報酬を取り、接待交際費を多額に使い、高級車に乗る。
銀行は、表面上黒字なので、追加融資を出す。
実際は赤字なので、融資金は役員報酬や接待交際費、高級車のリース代でなくなってきます。
赤字企業の経営者は、「自分の役員報酬は銀行融資から出ている」という認識を持たねばなりません。役員報酬とは本来、銀行借入金でなく、事業活動の利益からもらうべきものです。
赤字なら、コストカットや業績改善行動をとります。役員報酬はカット、接待交際費は減らし、高級車は売却となるはずです。
【参考記事】銀行から見て首をひねりたくなる決算書⑤~赤字なのに役員報酬、接待交際費が多額~
しかし、粉飾決算による黒字により、こうした本来とるべき行動にはつながりません。
正しい姿が見えてこないので、改善行動が遅れ、業績が悪化するのです。
これが、粉飾により業績がさらに悪化するケースです。
いずれ粉飾決算は発覚します。
現金が足りなくなり、追加の資金が必要となるため、辻褄が合わなくなるからです。
追加融資を申し込むと、銀行から「黒字なのに、なぜ次から次に融資が必要になるのですか?」と聞かれますが、経営者は答えることができません。
そして、どんどん厳しく突っ込まれて、その結果粉飾決算が発覚します。
一気に銀行は、融資態度を硬化させます。
経営者は、「銀行が手のひらを返した!」と感じます。
粉飾決算を追及された経営者は、のらりくらりと言い訳します。
「経理担当者にすべて任せていた」とか、「税理士に聞かないと分からない」とか。
でも資金を使っているのは、経営者自身だったりします。
杜撰な経理処理をする税理士を引き寄せるのは、経営者が求めているからです。
一番の原因は、経営者自身と言えるでしょう。
粉飾決算が発覚した場合、銀行は顧問税理士の変更を求めてきます。
その税理士が作る決算書は、信用できないからです。
銀行が、知り合いの税理士を紹介してきたりします。
新しい税理士は、銀行とつながっています。
今までのような馴れ合いの関係とはならないでしょう。
また、変更された税理士は、粉飾決算に加担した税理士として、地域での信用を失うことになりかねません。
上記の様に税理士を変更する事態は、出来れば避けたいものです。
ではどうすれば良いか。
1つは、経営者が正しい経理処理を心がけることです。
細かいことは分からなくても、まずは「正しい経理処理をしよう!」と意識を持つことです。
そこからスタートです。気持ちを持って始めれば、失敗しながらでも、やるべきことは見えてきます。
2つは、会社財務をよくするために苦言を呈してくれる税理士を、遠ざけないことです。
会社のためになる正しい助言をしてくれる税理士は、たとえ耳が痛くても大切にしたいものです。
逆に、節税方法のことばかり助言したり、必要のない追加融資や補助金の勧めを熱心にしてくる税理士は、要注意です(巧言令色すくなし仁、です)。
これらの意識づけだけでも、粉飾決算の誘惑を遠ざけることができます。
以上、銀行が嫌がる税理士と経営者の心構えについて、お話しました。
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