(2024年12月3日に、2024年12月時点の状況を追加しました)
日銀は、2024年3月19日の金融政策決定会合で、マイナス金利解除を決定しました。
これで、17年ぶりの利上げとなります。
銀行融資金利は、今後どうなるのでしょう?
そして会社はどう動けばいいのでしょう?
【目次】
マイナス金利政策とは、民間銀行が日銀にお金を預ける当座預金の一部にマイナスの金利を付ける政策です。
お金を預ける側が金利(ペナルティー)を払う、2016年2月に始まった異例の政策です。
8年間続いたことになります。
銀行は日銀にお金を預けると金利を取られるので、資金を企業融資に回します。
その結果、企業に資金が行き渡り、経済が活性化することを目的とします。
しかしながらこの状態は、正常な状態ではありません。
最近では、世界との金利差から過度な円安が進み輸入物価が上昇したり、銀行の収益が圧迫されたり、副作用が目立ってきていました。
また、金利の起点をマイナスに置くことで、金利全体に低下圧力がかかり、運用にも逆風が吹いていました。
今年に入り、物価上昇が2%を超えたこと、春闘で賃上げが順調に進んだことを受け、日銀は金融政策の正常化に舵を切ったのです。
マイナス金利解除を受け、市場金利は上昇しています。
融資金利の目安となる2つの指標の動きを見てみます。
① 無担保コール翌日物金利
※日本の金融機関が、1年以下の短期資金のやり取り(貸借)を行うコール市場において、無担保で借り約定した翌日に返済を行う無担保コール翌日物の金利のことであり、特にその加重平均値を指す。短期金融市場の金利の一つ(出典:Wikipedia)。
3月18日 -0.003% → 3月22日 +0.077% → 12月3日 +0.227% ⇒3月から0.23%上昇
② 新発10年国債利回り
3月18日 +0.755% → 3月22日 +0.740% → 12月3日 +1.075% ⇒3月から0.32%上昇
①の短期金利の指標は、上昇が大きくなっています。
②の長期金利の指標は、現時点でむしろ下落していますが、日銀が2024/3/19に、イールドカーブコントロール(長期金利を抑え込むための長短金利操作)を撤廃したので、今後は上昇するでしょう(3月22日時点)。その後2024年12月3日時点では0.32%上昇しています。
今後銀行は、金利引き上げに動いてきます。
マイナス金利解除後、大手銀行や地方銀行から預金金利のアップが発表されています。
まずは預金金利を上げるのです。
そして次は、融資金利の引き上げ(以下利上げと略します)が開始されるでしょう(その後2024年12月時点では多くの銀行が短期プライムレートを0.15%引き上げています)。
理論はこうです。
①日銀がマイナス金利を解除しました
☟
②市場金利が上昇しています
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③預金金利も引き上げました
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④銀行融資の原資は預金です
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⑤仕入(市場間金利、顧客預金金利)が上昇したので、販売価格(融資金利)が上がります
このロジックで利上げ交渉が始まります。
金利が上がる融資は、まず変動金利型の融資です。
マイナス金利解除を受け、※短期プライムレート(以下短プラと略します)は、今後上昇していくことが予想されます。
※銀行が業績や財務状況が良好な最優良企業に1年以内の短期貸出を行う際の最優遇貸出金利
ちなみに短プラは、2009年から16年間1.425%で据え置かれてきました。
短プラが上がれば、短プラ連動契約の融資は、約定を結んでいる金利見直しの時期に自動的に上がります。
実は長期融資の中には、短プラ連動となっている融資が多いのです。
今までは短プラ自体が変わらなかったので、金利が上がりませんでした。
一方で、固定金利契約を結んでいる長期融資は、返済が終了するまで金利は現状で固定されます。
固定金利型の制度融資や政府系金融機関(日本政策金融公庫)の制度融資が該当します。
悩ましいのが、短期融資の利上げ動向です。
短期融資は1年以内の契約です。
長年の融資慣習の中で、コロガシ融資(同額書換を繰り返し返済が進まない)となっていることも多いでしょう。
今までは短プラが実質固定化していたので、利上げの動きは発生しませんでした。
今後短プラが上がると、当然ながら銀行は短期融資の利上げ交渉に動きます。
1年間の融資返済期限を待たずに、期間途中で利上げ交渉が始まるかもしれません。
とはいえ、銀行は短プラ(現時点ではまだ上がっていません)が上がったから、一律に利上げに動くことはありません。
そこは会社ごとに温度差があります。
利上げされやすい会社は、
✔ 財務内容が悪い(連続赤字、債務超過、借入金依存度が高い、など)
✔ 融資が固定化して残高が減らない、今後も返済の見通しが立たない
✔ メインバンク一行との取引である(競争相手がいない)
✔ 社長が財務に疎く金利動向に関心が低い
利上げされにくい会社は、
✔ 財務内容が良い(連続黒字、資産超過、借入金度が低い、など)
✔ 融資の返済状況が順調
✔ 会社預金が多い(利上げすると繰り上げ返済される)
【参考記事】銀行が繰り上げ返済を嫌がるのはなぜか?
✔ 複数銀行取引をしている
✔ 社長が財務に関心が高く金利動向に詳しい(多方面から金融情報を収集している)
このように、利上げされやすい会社、されにくい会社があるのです。
融資金利が上がると会社に以下の影響があります。
✔ 現金流出が増えて、資金繰りが今より厳しくなる
✔ 賃上げや設備など、成長・事業継続のために必要な投資資金への配分が減る
そして決算書は、
✔ 損益計算書の営業外損失「支払利息」が増えて、経常利益が減少する
✔ 貸借対照表「預金残高」が減る
✔ 貸借対照表「純資産」が減る
✔ 財務内容が悪化するので財務格付けが下がり、更に利上げ交渉に不利になる
というような影響が考えられます。
✔ 賃上げが社会の流れとなっている中、人件費への配分が必要
✔ 設備の更新投資が必要
✔ 原材料費や燃料コストの上昇
中小企業を取り巻く経営環境は、厳しくなっています。
その中で「利上げ対策」としてできることは、以下の様な事です。
① 財務内容を良くして、銀行との交渉力を高める
※以下の様な手法により
✔ 販売先との値上げ交渉を粘り強く行い、利益を確保する
【参考記事】値上げに成功する方法|説得力を高める値上げの時期・理由・根拠【値上げ根拠計算シート付】
✔ 無駄なコストを削減し、筋肉質な財務体質にする
【参考記事】営業赤字からの脱却|コスト削減シートで会社を再建する方法
✔ 今後の事業計画を策定して経営を立て直す
【参考記事】405事業で赤字経営を立て直す!注意点とチェックリスト
以下は財務テクニック的な話ですが、
② 余剰預金で融資を繰り上げ返済する
③ 資産売却で融資を繰り上げ返済する
④ 取引金融機関を増やす
⑤ 政府系金融機関の固定金利融資のシェアを増やす
などが考えられます。
いずれの方法を取るとしても、一朝一夕では難しく、時間がかかります。
社長は、粘り強く戦略的に「利上げ対策」に取り組むことが大切です。
以上、「融資金利 今後の動向と対策」について、お話しました。
今後の貴社の財務改善にお役立ていただけますと幸いです。
【参考記事】
マイナス金利解除で金利ある世界が始まる~銀行との金利交渉に備え、社長がしておくこと~
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