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銀行が「融資繰り上げ返済」を嫌がるのはなぜか?

銀行に「法人融資繰り上げ返済」を申し出て、渋い顔をされた経験はありませんか?

銀行は、「融資繰り上げ返済」をとても嫌がります。

一方経営者は、「貸したお金が無事返ってくるのだから、銀行にとって悪い話ではないだろう」と考えます。

私も銀行員時代、繰り上げ返済を申し出た経営者に、そのように言われたことがあります。

なぜそんなに嫌なのか?

一緒に見ていきましょう。

銀行が繰り上げ返済を嫌がる理由

 

繰り上げ返済とは何か

繰り上げ返済とは、融資を期間途中で一括返済することです。

例えば、10年返済の長期融資を5年目で残額一括返済するような場合が該当します。

【例】

当初融資額 3,000万円

融資期間  10年

融資金利  2.0%

年間返済額 300万円(@25万円×12か月)

5年時点現在残高 1,500万円

1,500万円を一括で返済する場合、「繰り上げ返済する」と言います。

 

繰り上げ返済のメリット

なぜ会社が繰り上げ返済をするのか?

繰り上げ返済するほうが、以下のメリットがあるからです(自己資金で返済の場合)。

✔ 繰り上げ返済以降の金利負担がなくなる

✔ 繰り上げ返済以降の毎月の元金返済がなくなり、資金繰りが安定する

✔ 有利子負債が減少し、財務内容が良くなる

ただし、他銀行融資による組み替え(肩代わり)の場合は、上記メリットは該当しません。

 

銀行はまず「肩代わり」を疑う

会社から繰り上げ返済の要請があった時、銀行はまず他行融資での肩代わりを疑います。

肩代わりとは、他銀行の融資により、自銀行の融資を繰り上げ返済されることです。

そのため、繰り上げ返済の財源(資金の出所)を詳しくヒアリングされます。

融資に不動産担保が絡んでいたら、根抵当権や抵当権を抹消してもらわないといけないのでバレますが、無担保融資の場合は、銀行は資金の出所を把握できないからです。

繰り上げ返済の場合、融資担当者は、繰り上げ返済にいたった経緯や資金の出所を上司や本部に報告する必要があります。

肩代わりによる繰り上げ返済だった場合、融資担当者は屈辱的な気持ちになります。

融資担当者は、なんとか肩代わりを取りやめるよう説得しますが、心を決めた経営者には通じず、「悪いんだけどもう決めたから」と言われ、がっくり肩を落とすのです。

実は私も、銀行員時代に肩代わりをされた経験があり、そのときは上司から白い目で見られ、肩身が狭い思いをしました。

 

【参考記事】融資肩代わりに関する銀行の考え方 ~なぜ銀行員は、他銀行の融資を奪いたいのか~
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)

 

融資を残したい会社

では、繰り上げ返済の財源が、預金など「自己資金」だった場合はどうでしょう?

この場合でも、あまり良い顔をしません。

そもそも、自己資金で繰り上げ返済ができる会社は、財務が良好な会社です。

銀行用語で言えば「信用格付けが高い」と言います。

銀行からすれば「信用格付けが高い」会社は、「融資したい会社」であり、「できるだけ長い間借りておいてほしい会社」なのです。

信用格付けが高い会社は、貸し倒れが発生しづらいので、貸倒引当金をほとんど計上する必要がありません。

融資量が多ければ多いほど、融資利息により安定的に収益を得ることができます。

それなのに、繰り上げ返済されると収益源を失い困ってしまいます。

逆に財務内容が悪く「信用格付けが低い」会社には、追加融資ごとに貸倒引当金を積む必要があります。そのため銀行は追加融資に対して、慎重姿勢になるのです。

 

融資シェアが落ちることを嫌がる

繰り上げ返済により融資残高が減ると、自銀行の融資シェアが落ちます。

銀行は、融資先の他銀行も含めた全体の融資シェアを気にしています。時系列で集計しています。

特にメインバンクであるなら、自銀行の融資シェアが他銀行より低くなることは、避けたいことなのです。

銀行はなぜ他銀行の融資シェアを気にするのか、他にも理由があります。

以下の記事に詳しいので、参考にしてください。

 

【参考記事】なぜ銀行員は、他銀行の融資条件を聞いてくるのか
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)

 

抵抗されない繰り上げ返済

ここで抵抗されない繰り上げ返済について、触れておきます。

一つは、自銀行融資の組み換えによる繰り上げ返済です。

ただそれも、銀行側から提案してきた場合です。

銀行からの提案があるということは、あなたの会社が「融資したい会社」ということです。

組み換え融資は、増額提案の場合は融資量も増えますし、利息も増えるので銀行は積極的です。

一方、会社側からの組み換え融資要請は、嫌がることも多いです。

もう一つは、不動産売却による繰り上げ返済です。

これは抵抗されないというより、「それは仕方がないね」という感じです。

「不動産売却により有利子負債を圧縮して財務内容を良くしたい」、この前向きな会社の気持ちを拒否できる銀行はないと思います。

融資が紐づいている不動産担保を売却する場合には、以下の点に注意してくださいね。

 

【参考記事】銀行融資と担保の関係【後編】~担保物件を売却するときの注意点~
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)

 

政府系は嫌がらない?

政府系銀行はどうでしょう?

代表的な政府系銀行は、日本政策金融公庫です。

私の経験では、日本政策金融公庫は繰り上げ返済を嫌がりませんでした。

支援先企業と同行した際ですが、融資担当者は「一度返済していただくと実績になる」と言っていました。

民間銀行とは、考え方が異なるようです。

政府系が嫌がるのは、自銀行の融資資金を使って民間銀行の融資を繰り上げ返済されることです。

民間銀行から「民業圧迫だ!」と言われることを極端に嫌がります。

制度上の建て付けとして、「政府系は民間銀行の補完的な役割」と位置付けられているからです。

 

繰り上げ返済時の注意点

もしあなたが、繰り上げ返済を決断したのなら。

会社から繰り上げ返済の申し出があった場合、融資契約で「途中返済禁止」が明文化されるなど、特殊な場合を除いて、銀行は拒絶することができません。

特に肩代わり場合は、何とか思いとどまるよう、 情に訴えたり、役員の登場があったり、手を打ってくるかもしれませんが、強制力はありません。

ただし、注意したいのは、繰り上げ返済に伴う解約金が発生する融資形態があることです。

例えば、例外的ですが、市場から融資金を引っ張ってきて融資金に充当する「円金利スワップ」のような融資形態です。

銀行は繰り上げ返済をされると、市場取引との間で損失が発生するため、損失分を違約金として会社に請求します。

円金利スワップなどの融資形態は、低金利で固定などメリットがあるのですが、繰り上げ返済の際、違約金(解約損害金)が発生するというデメリットもあります。

繰り上げ返済時の違約金の有無など、融資形態は、よく確認しておく必要があります。

 

以上、今日は「銀行が繰り上げ返済を嫌がる理由」について、お話ししました。

今後の貴社の財務安定のために、お役に立てていただけますと幸いです。

 

あとがき

数年前の出来事です。

コンサルタントとして、支援先に同行して銀行対応をしていました。

雑談の中で社長が、「返せるようになったら一度に全部返済する」と気軽に一言。

社長としては、「銀行も早く貸したお金が返ってくると助かるだろう」との考えで発したのでしょう。

融資担当者の顔色がサッと変わる瞬間を目にしました。

普段はおとなしい融資担当者が厳しい口調で、「それをされたらこちらは立つ瀬がないです!」。

あまりの剣幕に慌てた社長は「そういう意味ではなくて、もぞもぞ、、、」と、前言を撤回しました。

銀行にとってそれは禁句でした。

 

 

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