「会社の資金に余裕ができたので、銀行融資の一部を繰り上げ返済したい」
「銀行に繰り上げ返済を申し出たら、なんだか渋い顔をされた…なぜ?」
「繰り上げ返済は、銀行にとって悪い話ではないはずなのに…」
会社の経営者や財務担当者の方で、このように感じた経験はありませんか? 会社の借入金を期限前に返済する「繰り上げ返済」。企業側にはメリットがある一方、実は多くの銀行はこれを嫌がる傾向にあります。これが「銀行 繰り上げ返済 嫌がる」と言われる所以です。
なぜ銀行は、貸したお金が早く安全に返ってくるはずの繰り上げ返済に難色を示すのでしょうか? その背景には、銀行特有の事情や懸念が存在します。
この記事では、中小企業支援の専門家として、法人融資における繰り上げ返済の基本、企業側のメリット、そして銀行が繰り上げ返済を嫌がる本当の理由、注意すべき点、さらには銀行に渋られた場合の対処法について、詳しく解説します。(※本記事は法人・事業性融資に関するものであり、個人の住宅ローン等の繰り上げ返済とは事情が異なります。)
【目次】
まず、繰り上げ返済の基本的な意味と、企業にとってのメリットを確認しましょう。
繰り上げ返済の定義
繰り上げ返済とは、銀行から借りている融資の残高の一部または全部を、当初の返済期限が来る前にまとめて返済することです。例えば、返済期間10年の長期融資を、5年経過した時点で残っている元金全額を支払ってしまうようなケースがこれにあたります。
企業にとってのメリット(自己資金で返済する場合)
手元資金(自己資金)に余裕ができて繰り上げ返済を行う場合、企業には主に以下のメリットがあります。
・将来の支払利息の軽減: 早期に元金を減らすことで、その後の利息負担がなくなります。
・毎月の資金繰りの改善: 繰り上げ返済した部分に対応する毎月の元金返済がなくなるため、月々の資金繰りに余裕が生まれます。
・財務体質の強化: 有利子負債が減少し、貸借対照表(バランスシート)が改善され、自己資本比率などが向上します。
ただし、これらのメリットは、他の銀行からの新たな融資(肩代わり)で繰り上げ返済する場合は当てはまりません。
では、本題の「銀行 繰り上げ返済 嫌がる」理由です。大きく分けて2つの理由があります。
理由①:他行による「肩代わり」への強い警戒
銀行が繰り上げ返済の申し出を受けた際、**まず真っ先に疑うのが「他行による肩代わりではないか?」**ということです。
肩代わりとは、あなたの会社が、別の銀行から新たに融資を受け、その資金を使って、現在の銀行への借入金を繰り上げ返済してしまうことを指します。「銀行融資 肩代わり」は、された側の銀行にとっては、単に融資残高が減るだけでなく、以下のような深刻なダメージとなります。
・取引先(優良な融資先)を奪われたという事実: 競合銀行に顧客を奪われたことになり、営業戦略上の敗北を意味します。
・担当者や支店の評価低下: 融資先の管理不足、他行動向の把握不足と見なされ、担当者や支店長の評価に直結します。場合によっては社内処分に繋がることも。
・担当者の精神的ダメージ: 信頼していた取引先に裏切られたような気持ちになり、大きな屈辱感や無力感を覚えます。(私自身も銀行員時代に経験があり、非常に辛い思いをしました。)
そのため、銀行は繰り上げ返済の申し出があると、返済資金の出所(自己資金なのか、他行融資なのか)を非常に詳しく確認しようとします。
[関連記事:融資肩代わりに関する銀行の考え方 – なぜ他行の融資を奪いたいのか?]
理由②:優良な融資先・収益源の喪失(自己資金返済の場合)
たとえ肩代わりではなく、会社の自己資金による繰り上げ返済であったとしても、銀行が良い顔をしないケースは多いです。特に、財務内容が良好な企業からの繰り上げ返済の場合です。
・優良顧客の維持: 自己資金で繰り上げ返済ができる会社は、一般的に業績が良く、財務内容も健全です。銀行から見れば「信用格付けが高い優良な融資先」であり、貸し倒れリスクが低く、安定した利息収入が見込める、できるだけ長く取引を続けたい相手なのです。
・収益機会の損失: そのような優良顧客から繰り上げ返済されると、銀行は将来得られるはずだった利息収入を失います。これは銀行にとって直接的な収益減となります。
・融資シェアの低下: 銀行は、取引先企業全体の借入金の中で、自行の融資が占める割合(融資シェア)を常に意識しています。特にメインバンクであれば、シェア低下は避けたい事態です。繰り上げ返済は、このシェアを直接的に低下させます。
逆に、業績が悪く信用格付けが低い企業に対しては、銀行は追加融資に慎重になり、場合によっては早期の返済を望むこともあります。つまり、「返してほしい相手」と「返してほしくない相手」がいるのが銀行の本音なのです。
[関連記事:なぜ銀行員は他行の融資条件を聞いてくるのか?]
全ての繰り上げ返済に銀行が強く抵抗するわけではありません。以下のようなケースでは、比較的受け入れられやすい、あるいは拒否しにくい状況と言えます。
・同行内での融資組み換え(銀行主導の場合): 銀行側から、複数の借入を一本化し、場合によっては増額するような「組み換え提案」があった場合、既存の借入は形式上繰り上げ返済となりますが、これは銀行にとって取引維持・拡大に繋がるため歓迎されます。
・資産売却代金による返済: 事業で使用していた不動産や設備などを売却し、その代金で借入金を返済する場合。特にその資産が融資の担保になっていた場合は、返済は当然の流れとなります。「財務改善のため」という前向きな理由であれば、銀行も強くは反対しにくいでしょう。
[関連記事:銀行融資と担保の関係 – 担保物件を売却するときの注意点]
・政府系金融機関(日本政策金融公庫など)の場合: 日本政策金融公庫などの政府系金融機関は、民間銀行とは異なり、自己資金による繰り上げ返済を比較的スムーズに受け入れる傾向があります。「返済実績になる」とポジティブに捉えることさえあります。ただし、政府系金融機関の融資で民間銀行の融資を肩代わりすることは、「民業圧迫」にあたるとして、原則として認められていません。
繰り上げ返済を決断し、銀行に申し出る際には、以下の点に注意が必要です。
融資契約書の確認:違約金・禁止条項の有無
これが最も重要です。 銀行から融資を受ける際に交わした**「金銭消費貸借契約証書」などの契約書類を必ず確認**してください。契約内容によっては、以下のような条項が定められている場合があります。
・繰り上げ返済手数料(違約金・解約損害金): 期限前に返済する場合、手数料や違約金の支払いが必要となるケース。特に、市場金利と連動する特殊な融資(例:円金利スワップなど、現在は稀ですが)の場合、多額の違約金が発生する可能性があります。
・期限前返済の禁止: 特定の条件(長期固定金利など)の融資では、繰り上げ返済自体が禁止されている場合もあります。
これらの条項を見落としていると、想定外の費用が発生したり、そもそも繰り上げ返済ができなかったりします。銀行に申し出る前に、必ず契約書を確認しましょう。
資金源の説明準備
銀行からは、繰り上げ返済の原資について必ず質問されます。自己資金(利益剰余金、役員からの資金など)なのか、資産売却代金なのか、明確に説明できるように準備しておきましょう。(肩代わりの場合は、正直に伝えるかどうかの判断が必要です。)
もし銀行が繰り上げ返済の申し出に渋い顔をしたり、難色を示したりした場合、どのように対応すればよいでしょうか。
まずは理由を確認する
感情的にならず、まずは「なぜ応じられない(あるいは、すぐには難しい)のか」という銀行側の理由を冷静に確認しましょう。契約上の問題なのか、手続き上の問題なのか、あるいは単なる引き止めなのか、理由によって対応が変わってきます。
契約書を確認し、正当性を主張する
改めて融資契約書を確認し、繰り上げ返済を禁止する条項や、不当に高額な違約金条項がないかを確認します。契約上、禁止されていないのであれば、原則として銀行は繰り上げ返済を拒否できません。 特に自己資金による返済であれば、「財務内容の改善と将来的なリスク軽減のため」という正当な理由を伝え、毅然とした態度で交渉しましょう。
「肩代わり」の場合の覚悟
もし他行からの融資による肩代わりで繰り上げ返済を行う場合は、銀行側の強い抵抗が予想されます。その場合は、肩代わりに至った経緯(現銀行への不満点や、他行からのより有利な提案内容など)を丁寧に説明し、理解を求める努力は必要ですが、最終的に肩代わりを実行した場合、その銀行との今後の良好な融資取引は困難になる、という覚悟が必要です。
法人融資の繰り上げ返済は、企業にとってメリットがある一方で、銀行にとっては必ずしも歓迎されるものではありません。「銀行 繰り上げ返済 嫌がる」背景には、「肩代わり」への警戒心や、優良な収益源を失いたくないという銀行側の本音があります。
繰り上げ返済を検討・実行する際には、
1. 融資契約書を必ず確認し、違約金や禁止条項の有無を把握する。
2. 銀行が嫌がる理由(肩代わり懸念、優良取引喪失)を理解しておく。
3. 自己資金か肩代わりかによって、銀行への伝え方やその後の関係性を考慮する。
4. 契約上問題がなければ、正当な権利として冷静に交渉する。
という点が重要になります。
以前、私が銀行対応に同席した際、ある社長が「返せるようになったら、いつでも全部返すからね!」と銀行担当者に悪気なく言ったところ、担当者の顔色が変わり、厳しい口調で反論された場面がありました。社長にとっては軽い一言でも、銀行にとっては非常に重く受け止められる「禁句」もあるのです。
繰り上げ返済は、企業の財務戦略の一環ですが、実行にあたっては銀行との関係性も考慮に入れた、慎重な判断とコミュニケーションが求められます。
この記事が、貴社の繰り上げ返済に関する意思決定と、銀行とのより良い関係構築の一助となれば幸いです。
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