「銀行融資の担保に入っている不動産を売却したいけど、何に気をつければいい?」
「売却代金で、借入をいくら返済すれば担保を外してもらえるの?」
「担保抹消の手続きって、どう進めればいい?」
会社の遊休資産整理や、事業資金の捻出などの理由で、銀行融資の担保として提供している不動産(土地・建物など)を売却したい、と考える経営者の方は少なくありません。しかし、この担保不動産の売却には、特有の手順と注意点があり、それを知らずに進めると、銀行との間で思わぬトラブルに発展したり、最悪の場合、売買契約自体が破談になったりするリスクがあります。
この記事では、前回の記事(銀行融資の不動産担保)に続き、ここ愛媛県をはじめ多くの中小企業をご支援してきたコンサルタントとして、融資 担保となっている不動産を売却する際の注意点(「融資担保 売却注意点」)、特に返済額の考え方や銀行との交渉、担保抹消 手続きの流れについて、分かりやすく解説します。
【目次】
担保不動産を売却する際に、経営者と銀行の間で**最も認識のズレが生じやすいのが、「売却代金のうち、いくらを借入金の返済に充てる必要があるか」**という点です。
経営者の想定と銀行の要求がズレる理由
多くの場合、経営者は「その不動産を担保に借りた特定の融資の残高分だけを返済すれば、担保は外してもらえるだろう」と考えがちです。
「根抵当権」の罠:他の借入も担保されている可能性【重要】
しかし、特に民間銀行との取引で設定されていることが多い「根抵当権(ねていとうけん)」の場合、注意が必要です。根抵当権は、特定の融資だけでなく、あらかじめ設定された「極度額」の範囲内で、その不動産を担保とする「全ての」借入(将来の借入も含む)をカバーします。
そのため、たとえ売却する不動産に直接関連する融資(例:その土地の購入資金)の残高が5,000万円だったとしても、同じ根抵当権で他の運転資金などの借入が1億円あれば、銀行は合計1億5,000万円の債権をその根抵当権で保全していることになります。
この場合、仮に土地が1億円で売れたとしても、銀行は**「売却代金全額(1億円)を、他の借入も含めた全体の返済に充ててください」と要求してくる可能性が高い**のです。経営者が期待していた「売却代金のうち5,000万円は自由に使える」という状況にはなりません。
・例:
‣ 土地売却代金: 1億円
‣ 当該土地関連の融資残高: 5,000万円
‣ 他の運転資金融資残高: 1億円(同じ根抵当権で担保)
‣ 根抵当権の極度額: 2億円
‣ → 銀行は売却代金1億円全額の返済を要求する可能性が高い。
この仕組みを理解していないと、「銀行に不当に多く返済を要求されているのでは?」という不信感に繋がってしまいます。
抵当権の場合
一方、特定の融資のみを対象とする「抵当権」の場合は、通常、その特定の融資残高を返済すれば担保は抹消されます。(ただし、契約内容によるため確認は必要です。)
[関連記事:抵当権と根抵当権の違いとは?銀行融資担保の基本]
根抵当権などで、売却代金全額の返済を求められる可能性がある場合でも、会社の状況によっては交渉の余地があります。
選択肢①:全額を融資返済に充てる
メリット: 借入金が大幅に減少し、財務内容が改善します。将来の利息負担や元本返済負担が軽減され、資金繰りが楽になります。
注意点: 売却に伴う諸経費(不動産仲介手数料、登記費用、譲渡所得税など)の支払いを別途考慮しておく必要があります。また、手元資金が潤沢でないと、この選択は難しい場合があります。
選択肢②:必要運転資金等を確保し、残りを返済
メリット: 当面の運転資金や、他の必要な支払いに充てる資金を手元に残すことができます。
注意点: これを実行するには、必ず事前に銀行との交渉が必要です。「なぜ全額返済しないのか」「手元に残す資金の具体的な使途は何か」「その資金を使って事業をどう改善していくのか」などを、事業計画や資金繰り表といった具体的な資料を用いて説明し、銀行の理解と**同意(担保の一部解除または全部解除の承諾)**を得る必要があります。正当な理由があれば、銀行も相談に応じてくれる可能性はあります。
担保不動産の売却をスムーズに進め、トラブルを避けるためには、正しい手順を踏むことが不可欠です。特に銀行への「事前相談」は絶対に欠かせません。
ステップ①:銀行への「事前相談」【最重要】
これが最も重要です。不動産の売却活動を本格的に開始する前、あるいは買い手が見つかりそうな段階で、必ず取引銀行(担保を設定している銀行)に相談してください。
伝えるべき内容は以下の通りです。
・売却を検討している不動産とその理由
・想定される売却価格
・売却代金の使途に関する希望(全額返済か、一部手元に残したいか)
・担保解除(抹消)への協力依頼
ここで、銀行から「いくら返済すれば担保を外すか」という条件を確認し、内諾を得ておくことが、その後のプロセスを円滑に進める鍵となります。
ステップ②:売買契約の締結
銀行の内諾を得た上で、買い手と売買契約を締結します。契約書には、「銀行の抵当権(根抵当権)抹消」を決済(引渡し)の条件とすることを明記しておくのが安全です。
ステップ③:決済と返済、担保抹消手続き (担保抹消 手続き)
不動産の決済日(買主から売買代金が支払われ、所有権が移転する日)には、通常、以下の手続きが同時に行われます。
1. 買主が売買代金を支払う。
2. 売主(会社)はその代金の中から、事前に銀行と合意した金額を借入金の返済として銀行に支払う。
3. 銀行は返済を確認し、担保権の抹消に必要な書類(解除証書、登記済証または登記識別情報、委任状など)を売主または指定された司法書士に交付する。
4. 司法書士が、所有権移転登記と同時に抵当権(根抵当権)抹消登記を法務局に申請する。(「担保抹消 手続き」の完了)
これらの手続きは、関係者(売主、買主、銀行、仲介業者、司法書士など)が連携して行うため、事前の段取りと銀行との合意形成が極めて重要です。
事後報告のリスク:取引破談・信頼失墜
絶対にやってはいけないのが、銀行に相談せずに売買契約を進め、決済直前や決済後に事後報告することです。銀行が担保解除に応じなければ、売買取引は成立せず、買主に対して違約金が発生するなどの大きなトラブルに発展します。また、銀行との信頼関係も完全に崩壊し、今後の取引に深刻な悪影響を及ぼします。
(前編記事の補足となります)
銀行評価額はなぜ低い? (銀行 担保評価)
銀行の担保評価額が、市場価格や取得価額より低くなるのは、保守的な時価評価に加え、担保掛目による割引を行っているためです。万が一の場合の「早期・確実な回収可能額」を基準としています。
なぜ評価額以上の根抵当権設定額?
根抵当権の「極度額」が、現在の担保評価額よりも高く設定されていることがあります。これは、設定当初は評価額が高かった、あるいは他の不動産と合わせて(共同担保として)設定されているなどの理由が考えられます。極度額が高いからといって、現在の担保価値が高いとは限りません。
[関連記事:銀行融資と担保の関係 評価方法と抵当権・根抵当権の違い]
[関連記事:銀行融資と担保の関係を理解する~バランスの見方と計算方法~]
銀行融資の担保となっている不動産の売却は、通常の不動産売買とは異なり、銀行との連携が不可欠です。特に以下の「融資担保 売却注意点」を必ず守ってください。
1. 根抵当権の場合、売却代金全額の返済を求められる可能性があることを理解する。
2. 売却活動の前に、必ず銀行に「事前相談」し、返済条件と担保解除の内諾を得る。
3. 売買契約書には、担保抹消を条件として盛り込む。
4. 決済時には、銀行、司法書士等と連携し、返済と「担保抹消 手続き」を同時に行う。
「事後報告」は絶対に避け、常に銀行とコミュニケーションを取りながら進めることが、トラブルを防ぎ、円滑な取引を実現するための鍵となります。
この記事が、担保不動産の売却を検討されている経営者の皆様にとって、その注意点と手続きを理解する一助となれば幸いです。
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