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銀行融資における担保の全知識:保全額から銀行の評価方法、経営への影響まで

企業が銀行から融資を受ける際、「融資担保」は避けて通れない重要な要素です。担保の提供は、多くの経営者にとって悩ましい問題かもしれませんが、その仕組みや銀行側の考え方を正しく理解することは、円滑な資金調達と良好な銀行関係の構築に不可欠です。

この記事では、企業の経営者、財務担当者、そして銀行関係者など、「銀行融資担保」について理解を深めたいと考えている皆様に向けて、以下の点を網羅的に解説します。

・銀行が使う「保全」「保全額」とは何か?

・融資担保の種類とそれぞれの特徴

・銀行 担保評価の仕方(特に不動産担保について)

・なぜ「担保があるのに融資できない」ケースが発生するのか

・自社の担保状況を分析し、経営に活かす具体的な方法

信頼感のある客観的な情報を提供し、皆様の財務改善と企業成長の一助となることを目指します。

銀行融資担保

1. 銀行融資における「保全」とは? 基本概念を理解する

銀行との会話で「保全」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。「保全が効いている」「保全が不足している」といった使われ方をします。

1.1. 「保全」と「保全額」の定義

銀行用語における**「保全」とは、融資した資金が将来回収できなくなるリスクに備えるための手段、すなわち担保や保証のこと**を指します。

そして**「保全額」とは、融資先が万が一倒産した場合などに、担保処分や保証実行によって銀行が回収可能と見込んでいる金額のこと**です。

例えば、融資額が100万円で、その融資に対する保全額が80万円だとします。この場合、「保全率(=保全額 ÷ 融資額)」は80%です。これは、最悪の場合、融資した100万円のうち80万円は回収できる見込みがあるが、残りの20万円は貸倒損失となるリスクがある、と銀行が評価していることを意味します。

 

2. 融資担保の種類と特徴

融資担保には様々な種類がありますが、中小企業の融資実務で主に利用されるのは以下のものです。

2.1. 主な物的担保:不動産を中心に

物的担保とは、特定の「物」を融資の引き当てとするものです。

・不動産(土地・建物): 中小企業融資で最も一般的な担保です。

・その他: 車両、機械装置、有価証券(株式など)、預金、生命保険の解約返戻金請求権なども担保となり得ますが、不動産に比べると限定的です。

2.2. 不動産担保の権利:抵当権と根抵当権の違い

不動産を担保にする際には、主に「抵当権」か「根抵当権」が設定されます。

・抵当権: 特定の融資(例:個人の住宅ローン)に対して設定されます。融資残高の減少に伴い、担保権の効力が及ぶ範囲(被担保債権額)も減少していくのが特徴です。日本政策金融公庫など政府系銀行で利用されることが多いです。

・根抵当権: 一定の範囲の不特定の融資(例:企業の継続的な運転資金融資)を担保するために設定されます。最初に設定した「極度額」の範囲内であれば、融資残高が変動しても担保権の効力は維持されます。返済が進んでも極度額は減少しません。民間銀行で広く利用されています。

この違いが、時に[銀行と経営者で担保に対する見解が異なる理由の一つ(こちらの記事参照)]とも言えます。経営者としては返済が進めば担保価値も減っていると考えがちですが、根抵当権の場合はそうではないためです。

2.3. 保証協会保証:「保全」として機能

厳密には物的担保ではありませんが、信用保証協会の保証付き融資(保証付融資)は、銀行にとって担保と同様の「保全」手段として重視されています。

これは、融資先企業が返済不能に陥った場合、信用保証協会が企業に代わって銀行に融資残高を一括返済する**「代位弁済」制度**があるためです。銀行にとっては貸倒リスクを大幅に軽減できるため、プロパー融資(銀行が100%リスクを負う融資)よりも保証付融資を勧めるケースが多く見られます。

ただし、保証付融資には、信用保証協会が100%を保証するものと、80%を保証するもの(銀行が20%のリスクを負担)があります。80%保証の場合は、銀行も一定のリスクを負うため、審査はより慎重になる傾向があります。

3. 銀行の担保評価の仕方:評価額はどう決まる?

担保を提供する側として最も気になるのが、「銀行 担保評価の仕方」、つまり担保価値がいくらと見られるか、でしょう。

3.1. 不動産担保評価の一般的な考え方

銀行が不動産担保を評価する際、単一の方法で評価額が決まるわけではありません。

・固定資産税評価額: 市町村が決定する評価額。後述する分析フォーマットでは便宜上この数値を使うことがありますが、銀行の実際の評価額とは異なる点に注意が必要です。

・路線価・公示地価: 国税庁や国土交通省が公表する土地の価格。市場価格の目安となります。

・市場価格(時価): 実際の不動産市場での取引価格。周辺の売買事例などが参考にされます。

・鑑定評価額: 不動産鑑定士による専門的な評価額。

・掛け目(担保掛目): 銀行はこれらの評価額に対し、将来の価格変動リスクや換金性(売却のしやすさ)を考慮して、**一定の割引率(掛け目)**を適用します。例えば、評価額1,000万円の土地でも、掛け目が70%なら担保価値は700万円と評価されます。流動性の低い物件ほど掛け目は低くなります。

このように、銀行 担保評価の仕方は複合的であり、単純な計算式で決まるものではありません。

3.2. 信用保証の評価:「保全」としての価値

信用保証協会付融資の場合、その保全額はシンプルです。代位弁済によって回収が見込める金額、すなわち**「融資残高 × 保証割合(100%または80%)」が、銀行にとっての保全額**となります。

4. なぜ「担保があるのに融資できない」ケースがあるのか?

「十分な価値のある不動産を担保に入れているのに、なぜ追加融資が受けられないのか?」こうした疑問を持つ経営者は少なくありません。担保があるのに融資できない、あるいは融資を渋られるケースには、いくつかの理由が考えられます。

4.1. 担保評価額 < 融資希望額

最も単純な理由です。提供している担保の評価額(銀行による掛け目適用後)が、融資希望額に対して不足している(保全率が低い)場合です。

4.2. 担保の質や流動性の問題

評価額自体は高くても、その不動産が「売却しにくい」と判断される場合です。例えば、特定の用途にしか使えない工場、交通の便が極端に悪い土地、権利関係が複雑な物件などは、流動性が低いと見なされ、高い掛け目を適用されたり、そもそも担保として不適格と判断されたりすることがあります。例え評価額が高くても、[担保があっても融資が実行されないケース(こちらの記事参照)]は存在します。

4.3. 根抵当権の「極度額」の問題

根抵当権の場合、設定された「極度額(担保権がカバーする上限額)」が重要です。たとえ不動産の現在の市場価値が極度額を大きく上回っていても、既にその根抵当権の極度額の範囲内で他の融資が存在する場合、新たな融資枠はその極度額から既存融資分を差し引いた残りの範囲でしか設定できません。

4.4. 会社の返済能力や事業性評価が低い場合

これが最も根本的な理由です。 銀行融資の審査で最も重視されるのは、担保の有無ではなく、**「企業が事業を通じて生み出すキャッシュフローから、借りたお金をきちんと返済できるか(返済能力・事業性)」**です。財務状況が悪化していたり、事業の将来性に懸念があったりする場合、たとえ十分な担保があったとしても、追加融資は困難になります。担保はあくまでも「万が一のための保険」であり、返済能力そのものを代替するものではないのです。

5. 自社の融資担保バランスを把握・分析する方法

自社がどの銀行から、どのような担保・保証条件で融資を受けているのかを正確に把握することは、経営戦略上非常に重要です。

5.1. なぜ担保バランスの把握が重要なのか?

各銀行が自社に対してどれだけのリスクを取って融資しているか(=保全されていない部分がどれだけあるか)を知ることで、以下の点が見えてきます。

・銀行ごとの支援姿勢: 保全超過(融資額以上に担保・保証がある)の銀行と、無担保部分が多い銀行では、自社への関与度や支援への熱意が異なる可能性があります(銀行はこれを「経済合理性」と表現することがあります)。

・交渉力の把握: 自社の状況を理解することで、金利交渉や追加融資の相談を有利に進められる可能性があります。

・リスク管理: どの銀行の保全が不足しているかを知ることで、業績悪化時の影響を予測しやすくなります。

5.2. 分析フォーマットの活用【テンプレート例】

以下のフォーマットを使って、銀行ごとの融資と担保・保証のバランスを可視化します。

5.3. 【図解】分析フォーマットの見方と計算手順

【銀行別 融資・保全状況 分析シート(例)】(クリックで拡大します)

(※注意:ここでは計算の便宜上、(C)に固定資産税評価額を使用していますが、実際の銀行評価額とは異なります。あくまで目安としてください。)
【作成の手順】
1. 融資額(A)の集計: 銀行ごとに、融資返済予定表などから現在の融資残高(長期・短期含む)を正確に把握し、(A)に記載します。

2. 保証協会保証額(D)の計算: 融資内容を確認し、保証付融資があれば、その残高に保証割合(100%なら×1.0、80%なら×0.8)を乗じて(D)に記載します(保証割合は銀行や保証協会に確認)。

3. 不動産担保評価額(C)の把握:
・法務局で不動産登記簿謄本を取得し、どの不動産にどの銀行が(根)抵当権を設定しているか確認します。
・市町村発行の固定資産税納税通知書を用意します。
・担保提供している不動産の固定資産税評価額を(C)に記載します(あくまで目安値)。

4. 保全額(B)の計算: (C)と(D)を合計して(B)を算出します。

5. 保全状況(E)の計算: (B)から(A)を引いて(E)を算出します。プラスなら保全超過、マイナスなら銀行がリスクを取っている(無担保)部分を示します。

Excelなどで作成すると管理・更新が容易です。

5.4. 分析結果から見えること:銀行との関係性

この分析により、「どの銀行が、どれだけリスクを取って自社を支援してくれているか」が一目瞭然になります。保全状況(E)がマイナスの銀行は、相対的に自社の事業性を評価してリスクを取ってくれていると言えます。逆にプラスの銀行は、保全を重視している可能性があります。

6. 融資担保分析を経営に活かす

この分析結果は、単に現状を把握するだけでなく、今後の経営戦略に活かすことが重要です。

6.1. 銀行交渉における活用

自社の担保状況と各銀行のリスク状況を理解した上で交渉に臨むことで、より建設的な対話が可能になります。追加融資の相談、金利条件の交渉、あるいは担保解除の依頼など、根拠に基づいた交渉が展開できます。

6.2. 資金調達戦略への反映

どの銀行に融資余力がありそうか(担保余力があるか、あるいはリスクテイク意欲があるか)を推測し、今後の資金調達計画に反映させることができます。

6.3. 担保物件の管理と見直し

担保として提供している不動産の価値は変動します。定期的に評価額を確認し、管理状況を把握しておくことが重要です。また、事業計画によっては、[担保物件を売却する際の注意点(こちらの記事参照)]なども考慮に入れ、銀行と事前に相談する必要があります。

7. まとめ:融資担保との上手な付き合い方

融資担保は、銀行との取引において重要な要素ですが、過度に恐れる必要はありません。重要なのは、その仕組み、銀行側の評価方法(銀行 担保評価の仕方)、そして自社の現状(保全額と融資バランス)を正しく理解し、情報を整理しておくことです。

「担保があるから大丈夫」「担保がないから借りられない」と短絡的に考えるのではなく、自社の事業性や返済能力を向上させることが本質であり、担保はその補完的な役割と捉えるべきでしょう。

日頃から自社の担保状況に関心を持ち、分析フォーマットなどを活用して状況を把握しておくことが、銀行と良好なパートナーシップを築き、長期的に安定した資金調達を実現するための第一歩です。

この記事でお話しした内容について、さらに詳しく知りたい、自社の状況を具体的に分析したいとお考えの経営者様、ご担当者様は、どうぞお気軽にご相談ください。専門家の視点から、貴社の財務改善と成長をサポートいたします。

 

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