「先代から引き継いだ土地を担保に入れているから、銀行はいつでも融資してくれるはずだ」
「借入金はかなり減ったのに、銀行が抵当権を外してくれない」
「担保にできる不動産がもうない。今後は融資を受けられないのだろうか」
銀行融資と担保をめぐって、このような疑問を持つ中小企業経営者は少なくありません。問題は、経営者が考える不動産の価値と、銀行が保全として認める金額が一致しないことです。
和田経営相談事務所の見解は、担保の有無だけで融資の可否を判断してはいけないというものです。銀行は、返済能力を第一に確認したうえで、万一の場合の回収手段として担保や保証を評価します。
したがって、「購入時に1億円だった土地がある」「固定資産税評価額が高い」という理由だけで、同額の追加融資を受けられるとは限りません。反対に、担保余力が少なくても、本業の稼ぐ力や財務内容が評価されれば、無担保のプロパー融資を受けられる可能性はあります。
この記事では、融資担保評価額の評価方法、保全額と保全率、根抵当権の考え方、担保があるのに融資を断られる理由、銀行別の保全状況を交渉に生かす方法まで、経営者が押さえるべき実務を整理します。
銀行員との会話では、「保全」という言葉がよく使われます。保全とは、融資先の返済が難しくなった場合に、担保の処分や信用保証協会の保証などによって回収を見込める金額です。
経営が順調であれば、銀行は毎月の返済を受けます。しかし、事業が立ち行かなくなった場面では、貸出金をどこまで回収できるかが問題になります。その損失を抑えるための備えが保全です。
1億円の融資に対して、不動産担保による処分見込額が6,000万円、信用保証協会の保証による回収見込額が2,000万円なら、保全額は8,000万円、保全率は80%です。
● 融資額:1億円
● 保全額:8,000万円
● 保全率:80%
● 保全されていない部分:2,000万円
この2,000万円は、担保や保証で覆われていない融資部分です。銀行が企業の返済能力や将来性を評価し、自ら信用リスクを取っている部分と考えられます。
経営者は、「この土地は購入時に1億円だった」「固定資産税評価額が8,000万円ある」と考えがちです。しかし、銀行は取得価格をそのまま融資担保評価額にはしません。
不動産の所在地、形状、用途、権利関係、売却のしやすさなどを確認し、銀行が採用する評価の基礎へ掛け目を適用して、回収可能性を保守的に見ます。
元原稿の目安では、掛け目は通常70%~80%で、物件によっては50%以下になる場合もあります。評価の基礎となる価格が1億円でも、70%の掛け目なら、銀行が保全として見る金額は7,000万円です。
ただし、掛け目や評価方法は金融機関や物件によって異なります。自社で固定資産税評価額に一定率を掛けた数字は、あくまで試算です。銀行内部の正式な評価額と同じとは限りません。
「買ったときの価格」「帳簿価額」「固定資産税評価額」「銀行の担保評価額」は、それぞれ意味が異なります。
銀行交渉では、自社に都合のよい数字だけを担保価値として主張しないことが重要です。
担保は重要ですが、融資の主役ではありません。銀行が「融資しても返済される」と判断できなければ、担保があっても追加融資を断られることがあります。
銀行融資の基本的な返済原資は、本業から生まれる利益とキャッシュフローです。担保は、返済ができなくなった場合に備える第二の回収手段にすぎません。
赤字が続き、資金繰りも改善せず、今後の返済見通しを説明できない会社は、担保があっても融資審査で厳しく見られます。「返済できなければ土地を売ればよい」という説明では、継続事業への融資として説得力がありません。
山間部の土地や、用途が限られる専用工場などは、面積や帳簿上の価格が大きくても、売却時に買い手が見つかりにくい場合があります。換金性が低ければ、銀行は保全としての評価を抑えるか、担保価値を認めないことがあります。
不動産にすでに抵当権や根抵当権が設定され、既存融資の保全に使われていれば、新たな融資へ充てられる余力は限られます。同じ不動産でも、権利の順位や既存債務との関係によって、新たな銀行が見込める回収額は変わります。
銀行が教えない不動産担保の真実でも、担保があっても融資に結びつかない理由を詳しく解説しています。
根抵当権では、継続的な銀行取引から発生する債権を、あらかじめ定めた「極度額」の範囲で担保します。借入残高が減っても、登記された極度額が自動的に減るわけではありません。
一方で、極度額そのものが、現在の借入残高や銀行内部の担保評価額を示すわけでもありません。次の3つは分けて確認する必要があります。
「借入残高が減ったから、同額をすぐ追加で借りられる」「極度額が大きいから、その金額まで融資を受けられる」とは限りません。反対に、返済が進んでも銀行が抵当権を外さないのは、今後の取引や残る債権を含めて保全を維持したいと考えている可能性があります。
担保解除や極度額の減額を求める場合は、返済状況、今後の資金需要、他の保全、事業からの返済能力を資料にまとめ、銀行と協議します。詳しくは銀行融資と担保の関係:見解相違の理由もご覧ください。
銀行交渉で主導権を持つには、担保不動産の一覧を見るだけでは足りません。各銀行について、融資残高、担保評価額、信用保証協会の保証額、保全されていない融資部分を同じ基準で並べる必要があります。
以下の図表は、各銀行がどの程度の保全を確保し、どの程度の信用リスクを取っているかを可視化するためのものです。画像をクリックすると拡大できます。
融資残高に比べて担保や保証が厚い銀行は、回収面の安全性を重視していると読めます。ただし、それだけで「事業性を全く評価していない」と断定するのは早計です。融資の経緯、担保の順位、保証付き融資の比率、取引全体を確認したうえで、担保解除や条件見直しを協議します。
担保や保証で覆われていない融資部分が大きい銀行は、それだけ自社の信用力や返済能力を見てリスクを取っている可能性があります。今後の資金調達や事業計画を早めに共有し、関係を深める候補となります。
分析の目的は、銀行を単純に順位付けすることではありません。
各行の保全状況と支援姿勢を把握し、担保解除、金利、追加融資、今後の取引方針を事実に基づいて協議することです。
担保交渉では、「土地の価値はもっと高いはずだ」と感情的に主張するより、銀行が判断できる情報をそろえる方が有効です。
銀行内部の担保評価額は、経営者が一方的に決められるものではありません。まずは「評価の基準は何か」「どの不動産を、いくらの保全として見ているか」「追加融資後の保全率をどう考えるか」を確認します。
そのうえで、返済実績や財務改善、資金使途、今後の収益見込みを示し、担保だけに依存しない交渉へ移行します。
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一つの銀行へ不動産担保を集中させると、別の銀行から資金を調達したいときに、提供できる担保が残っていない状態になりかねません。また、返済が進んでも担保設定を見直さなければ、現在の融資残高に対して保全が過大になっている場合があります。
ただし、担保解除だけを急ぐのも適切ではありません。担保を外すことで取引条件が変わる可能性や、近い将来に必要となる資金調達も考える必要があります。
担保は、目先の融資を受けるためだけの資産ではありません。今後の資金調達余力を左右する経営資源として、銀行別・不動産別に管理することが重要です。
融資担保評価額は、購入価格や経営者の希望額では決まりません。銀行は掛け目や換金性、既存の権利関係などを踏まえ、万一のときに回収を見込める金額を保全として評価します。
だからこそ、担保があるのに融資を断られることもあります。銀行が最初に見るのは、本業から返済できるかどうかです。担保はその判断を補うものであり、返済能力の代わりにはなりません。
経営者が目指すべきなのは、「担保があるから貸してほしい」という交渉ではありません。自社の保全状況を正確に把握し、本業のキャッシュフローを磨き、銀行に「担保がなくても融資したい」と評価される財務体質をつくることです。
自社の財務基盤を盤石にし、本気の事業成長を目指す方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。