春闘の時期になり、今年は「賃上げ」に関する動きが活発です。
あなたの会社も「賃上げ」の動きに対して、完全に無関係でいることは難しいでしょう。
とはいえ、売上が回復しない中、賃金だけを引き上げると利益が落ちます。
一方、賃金を低い水準にしていると、離職を誘発したり、採用に支障がでたり、その結果、人手不足に陥ってしまいます。
本当に悩ましいことです。
経営者は人件費について考えることが多くなっていると思います。
そんなわけで今日は、「会社経営における人件費」について、一緒に考えてみたいと思います。
人件費とは、役員報酬、正社員給与、パート・アルバイト給与、賞与、退職金などのことです。
これは感覚的に分かります。
つい忘れがちなのは、社会保険料の会社負担金。法定福利費として、決算報告書の販売管理費明細に記載されます。
【社会保険料の会社負担金】
給与支給額の
・健康保険料率:4.95%
・介護保険料率:0.865%
・厚生年金保険料率:9.15%
・労災保険料率(その他の各種事業):0.3%
・雇用保険料率(一般の事業):0.6%
・子ども・子育て拠出金率:0.34%
などが社会保険料としてかかります。
事業の種類によって雇用保険料率と労災保険料率は変わってきますが、社会保険料の会社負担割合は、ざっくり給与の約15%です。労使折半なので、従業員も給与から天引きで、約15%負担しています。会社が預かり金としてプールして、従業員に代行して定期的に支払います。
法定福利費の労使合計は、約30%(会社15、従業員15)となります。会社経費は、会社負担分となる給与支給額の約15%です。
役員報酬の場合は、労災と雇用保険がないのですが、それでも役員報酬の約15%は会社負担となります。
これらのトータルが、人件費と言います。
人件費は、何を原資として支払われるのでしょうか。
粗利です。
粗利とは、売上から仕入原価を引いたものです。
粗利=売上高-売上原価。
例えば年間で、売上が1億円あり、仕入原価が7,000万円だとすると、粗利は3,000万円です。
この3,000万円から人件費は支払われます。
ただ、粗利から支払われるのは、人件費だけではありません。
家賃、水道光熱費、リース代、燃料費、事務所経費、支払手数料、広告宣伝費、修繕費、外注費、交際費、交通費、支払利息、、、。
上記以外にも、その他もろもろの経費が粗利から支払われるのです。
そのため、いかに粗利を確保していくか、経営者の頭をいつも悩ませます。
【参考記事】赤字とは何か~決算書損益計算書 4種類の赤字の見方~
人件費について、経営者が悩むのは、「給与水準は適正なんだろうか」「人件費にどれぐらい配分すればいいのだろうか」「人員が多すぎるのか、それとも少ないのか」などです。
そこで人件費に関する経営判断を助ける材料として、今日は3つの指標をご案内します。
①労働分配率
意味;粗利の中から人件費にどれだけ分配しているか
算式;
労働分配率(%)=人件費合計÷粗利×100
②1人当たり売上高
意味;従業員1人当たりどれだけ売り上げているか
算式;
1人当たり売上高=売上高÷従業員数(ただしパート・アルバイトは、人数×0.5人でカウント)
③売上高人件費比率
意味;売り上げに占める人件費の割合はどれぐらいか
算式;
売上高人件費比率=人件費合計÷売上高×100
以上、この3つの指標を使って、自社の人件費を確認します。
3つの指標で比較するのは、「過去の自社」と「同業他社平均」です。
「過去の自社」では、5年間の推移を確認します。
✔ 業績が好調だった時、労働分配率はどれくらいだったのか、その時と比較して今はどれぐらい高いのか、
✔ 業績が好調だった時、一人当たり売上高はどれくらいだったのか、その時と比較して今はどれぐらいなのか、
✔ 業績が好調だった時、売上高人件費比率はどれくらいだったのか、その時と比較して今はどれぐらい高いのか、
同じく「同業他社との比較」についても、
✔ 労働分配率は、同業他社と比較してどうなのか、
✔ 一人当たり売上高は、同業他社と比較してどうなのか、
✔ 売上高人件費比率は、同業他社と比較してどうなのか、
以下の「人件費計算シート」に自社の数字を入力して確認します(表のうえでクリックいただくと拡大します。可能なら印刷して手元に置いて読み進めていただくと、分かりやすいと思います)。
でもどうやって、業界平均値を調べればいいの?
そんな時頼りになるのが、日本政策金融公庫のWebサイト。
ホーム >刊行物・調査結果 >国民生活事業 >調査結果 >小企業の経営指標調査
を順にクリックし、「業種別経営指標」の自社の業種をクリックすると、業界平均値が記載されています。
その数値を見て、上記表の同業態社平均①労働分配率②一人当たり売上高③売上高人件費比率の欄に転記します。
人件費を考えるとき、「役員報酬」への意識が抜け落ちることがあります。
役員報酬は、自分の権利、慣例に基づき当たり前にもらえるもの。
社長なんだから、役員報酬は自分で決める。
非上場である中小企業の場合、誰のチェックも入らないので、適正なのかどうかもよく分かりません。
自分の役員報酬は、どこから支払われているのか?
社長が現場に入らず、経営に集中しているときは、特に確認が必要です。
自分の日々の活動が、きちんと売上に結びついているのか。
赤字の要因が、売上に結びついていない社長の行動にもしあるとすれば、誰のチェックも入らないので、やっかいです。
以下に「役員報酬の考え方」「役員報酬の決め方、変更法」に関する記事を貼っておきますので、ご参考ください。
【参考記事】
ちょっと考えたい中小企業のその財務対応①~役員報酬の決め方~
上記の表を作ってみて、指標を確認できた。
指標に、労働分配率が高い、一人当たり売上高が低い、売上高人件費比率が高い、などの問題点が見つかりました。
大切なのは、そのあとどう動くかです。
具体的な方法は、経営環境により千差万別ですが、方向性は以下の様なものでしょう。
①人件費の見直し
✔ 適正人員配置を実施する、
✔ 人員を削減する、
✔ 個別に人件費を見直す、
✔ 賞与支給をストップする、
✔ 役員報酬を下げる、
などによる人件費の見直しが必要です。
②粗利増加
✔ 値上げ交渉、
✔ 仕入コストの削減、
✔ 粗利の高い商品・サービスの拡充、
✔ 粗利の低い商品・サービスからの撤退、
など、粗利額を上げる取り組みが必要になります。
③売上の増強
✔ 間接部門の人員も売上獲得に関わるなど全員営業(マルチタスク化)、
✔ 販売が見込まれる新商品・新サービスの開発と市場投入、
✔ ネット通販などの新しい販売手法の開始、
✔ 県外や国外など新たな顧客層の開拓、
など、売上増強の取り組みを行います。
以上のような取り組みにより、3つの指標①「労働分配率」②「一人当たり売上高」③「売上高人件費比率」を改善して、売上、粗利、人件費のバランスを整えます。
改善のため、まずは上記表を使って自社の現状を把握することが第一歩です。
お話しした件をもう少し詳しく知りたい方、お気軽にご相談ください。
今日は、「人件費を判定する3つの指標」について、お話ししました。
大企業を中心に、賃上げの機運が高まっています。
とはいえ、顧客はコロナ前になかなか戻らず、仕入コストも上がっている中、賃上げ原資の確保は大変です。
中小企業は、人材戦略について、「選択と集中」が必要なのかもしれません。
そのために、本日お話しした内容が少しお役に立てば、嬉しいです。
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