「コロナ禍ではあんなに親身に相談に乗ってくれた金融機関の担当者が、最近なんだかそっけないんだよな…。」
「ゼロゼロ融資の返済も始まるし、追加で運転資金を頼みたいけど、今の業績で本当に貸してくれるんだろうか…。」
「『伴走型支援』って言うけど、結局はこっちがしっかりした計画を出さないと、金融機関も動いてくれないんだろうな…。」
長年、金融機関の現場とコンサルティングの現場を見てきた中で、特にポストコロナにおける金融機関 融資姿勢の変化を肌で感じています。資金調達の場面にご一緒したり、中小企業の皆様と経営再建計画を作成し金融機関にご説明したりする中で、以前とは異なる空気を感じることが増えました。
本日は、コンサルティングの現場で私が実際に感じている、ポストコロナの金融機関 融資姿勢の変化と、その中で企業がどのように対応していくべきかについてお話しします。
【この記事の音声データ】対話方式で分かりやすく説明しています こちら
【目次】
2020年に新型コロナウイルス感染症が発生して以来、政府系・民間を問わず多くの金融機関は、中小企業に対して「ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)」を中心に、積極的な資金繰り支援を実施してきました。これは、金融機関にとっても、政府による強力な保証制度など、融資を実行するインセンティブが働いたためです。
しかし、あれから数年が経過し、状況は大きく変化しました。
以前であれば、多少業績が悪化しても追加融資に応じてもらえたケースでも、最近では「これまで十分に支援させていただきました。これ以上の追加融資は難しいのが実情です。今後は自助努力でお願いします」といった厳しい言葉が聞かれるようになりました。
特に、連続赤字など、業績不振が続いている会社に対して、金融機関の追加融資のハードルは格段に上がったと言えます。これが、現在の金融機関 融資姿勢の大きな特徴です。
関連情報:銀行融資を断られた!その6大理由と、融資謝絶を回避・打開する対策を徹底解説
金融機関は、融資先企業の返済能力を常に審査しています。ポストコロナにおいては、コロナ禍という特殊な状況下で一時的に延命できていた企業と、自力で収益構造を改善し成長できる企業とを、より厳しく選別する動きが鮮明になっています。
なぜコロナ禍では融資を受けられたのか?ゼロゼロ融資の特殊性
では、なぜコロナ禍の時期には、普段であれば融資を受けるのが難しいような赤字企業でも、比較的容易にゼロゼロ融資などを受けられたのでしょうか。
その背景には、
・政府による強力な信用保証制度: 万が一、融資先が倒産しても、金融機関側の損失リスクが極めて小さく抑えられる仕組みがありました。
・社会的な要請と金融機関の役割: 「100年に一度」とも言われる未曽有の危機において、中小企業の資金繰りを支えることは金融機関の社会的な使命であり、また、積極的に取り組む姿勢は社会貢献度のアピールにも繋がりました。
・金融機関間の競争: 各金融機関が融資実績を競うような側面もありました。
これらの特殊な要因により、本来であれば融資審査のハードルが高い企業に対しても、比較的スムーズに融資が実行されたのです。これが、コロナ禍において倒産件数が一時的に抑制された大きな理由の一つと考えられます。
かつての「コロナ借換保証制度」は、既存のコロナ関連融資の返済負担軽減を目的としていましたが、2024年6月末で主要な申込受付は終了し、2025年1月からは新たな枠組み(例えば、中小企業庁の「再生支援の総合的対策」に基づく「経営改善サポート保証(経営改善・再生支援強化型)」など)へと移行・強化されています。
事業計画(経営改善計画)の重要性と金融機関の関与
これらのポストコロナを見据えた支援策の多くに共通しているのは、単なる資金供給に留まらず、企業が自ら経営改善や事業再生に取り組むことを前提としている点です。具体的には、改善のための具体的なアクションプランや数値目標を盛り込んだ「事業計画書」や「経営改善計画書」の策定が、融資や保証の重要な要件となっているケースが多く見られます。
そして、この計画書には、融資を実行する金融機関が内容を確認し、その計画の妥当性や実現可能性を評価した上で、実質的な「お墨付き」を与える(場合によっては確認印を押す)ことが求められます。これは、金融機関が融資期間中、計画の進捗状況をモニタリングし、必要に応じて助言を行うといった、いわゆる「伴走型支援」の責任を負うことを意味します。
関連情報:「【経営改善計画書】銀行も納得!数値計画とアクションプランの作り方(2025年版)」
伴走型支援への金融機関の取り組み姿勢
しかし、この伴走型支援に対する金融機関の取り組み姿勢には、依然として温度差が見られるのが実情です。
経営改善計画の策定支援やモニタリングは、金融機関にとって専門的なノウハウと手間を要する業務です。融資先の事業内容や経営課題を深く理解し、実現可能性の高い計画であると判断するには、相応の時間と労力が必要となります。
計画書に実質的な「お墨付き」を与えることは、金融機関自身にとっても一定のリスクを伴います。 融資先の業績が計画通りに改善しなかった場合、その責任の一端を問われる可能性も否定できないからです。そのため、一部の金融機関では、こうした手間やリスクを敬遠し、伴走型支援に消極的な姿勢が見られることもあります。
金融機関にとっての伴走型支援の意義と課題
責任やリスク、手間が発生すると融資を避けるような姿勢では、金融機関の担当者、特に若手行員の育成もおぼつかないでしょう。困難な課題に顧客企業と共に立ち向かい、伴走型支援に真摯に取り組む経験こそが、担当者を成長させ、金融業務に対する誇りややりがいを育むはずです。目先の直接的なリスクは避けられても、地域の中小企業からの長期的な信頼を失うことになりかねません。
一方で、この伴走型支援に積極的に取り組む金融機関は、この機会を捉え、融資先企業の単なる資金繰り支援に留まらず、本格的な経営再建支援にも深くコミットしていくことになります。融資後も企業の業績が計画通りに改善せず、計画と実績の間に大きな乖離が生じた場合、融資した金融機関にもその責任の一端が問われる可能性があります。そのため、金融機関側も必死にならざるを得ません。
結果として、金融機関からは、経営改善計画書にコスト削減や人員整理、不採算部門の見直しといった、企業自身も痛みを伴う抜本的な取り組みを求められることが多くなります。
最近のコンサルティング現場では、業績不振の会社に対する金融機関の融資態度が明らかに厳しくなったと感じます。支援先企業に同行して金融機関と面談したり、債権者会議に出席したりする際、金融機関の担当者から「返済財源がない企業にこれ以上の融資はできません」とはっきりと言われることが増えました。
事業再建にどうしても追加資金が必要な場合でも、「当行としては、これまで十分に支援させていただきました。これ以上の追加融資は困難です。あとは御社で何とかしてください」といった突き放すような態度が感じられることもあります。つまり、赤字が続いている企業に対しては、原則として追加融資が極めて難しくなっているのが現状の金融機関 融資姿勢なのです。
(例外的に、赤字の内容や将来性によっては追加融資が検討されるケースもあります。)
こうした金融機関の態度の変化に、多くの経営者は「金融機関に手のひら返しをされた!」と強い不満や失望を感じます。
なぜ経営者は「手のひら返し」と感じてしまうのでしょうか。それは、金融機関が「現在」の業績数値や返済能力をシビアに見ているのに対し、経営者は「過去から現在に至るまでの」金融機関との長年の取引の歴史や人間関係を重視しているからです。
「業績が良い時には、金融機関の担当者からの様々な依頼(預金、保険、投資信託など)にも協力してきたのに!」
「前の支店長とは、何度も懇親会で親しく話をした仲なのに!」
金融機関の担当者は2~3年で異動してしまうことが多いですが、会社は何十年にもわたって同じ金融機関と取引を続けているケースも少なくありません。業績が良い時も悪い時も、苦楽を共にしてきたパートナーとして、金融機関にも寄り添ってほしいという気持ちがあるのは当然です。
しかし、残念ながら、多くの金融機関(特に担当者レベル)が見ているのは、「今、この会社は融資を返せる状態なのかどうか」というドライな現実です。この時間軸の認識の違い、そして期待値のギャップが、経営者に「手のひら返しされた」と感じさせる大きな要因なのです。
金融機関担当者の頭の中(赤字決算時の本音)
年に一度、決算書が出来上がると、社長はそれを持って金融機関を訪問します。決算書を手渡された社長は、赤字になった理由や外部環境の厳しさ、そして今後の見通しについて、熱心に口頭で説明します。
「今後はこうして売上を増やします」「新しい事業に挑戦して必ず黒字化します」「売上は回復するはずです」「黒字になる見込みです」と。
しかし、残念ながら、その説明を聞いている金融機関の担当者は、内心では次のようなことを考えているかもしれません。
「あちゃー、また赤字か…。これではしばらく追加融資は難しいな…。」
「前回貸したお金も、本当にちゃんと返ってくるんだろうか…。」
では、このような厳しいポストコロナの融資環境の中で、特に赤字に陥ってしまった企業は、どのように対応すれば良いのでしょうか。
口頭説明ではなく「文書による具体的な改善計画」の提出
いくら社長が熱意を込めて口頭で説明しても、数値的な裏付けや具体的な行動計画が伴わない話は、金融機関には響きません。金融機関の担当者は、融資の可否を判断するために、上司や本部(審査部門)に説明し、承認を得る必要があります。口頭での熱弁だけでは、稟議資料の作成に窮してしまいます。
したがって、赤字決算が出た場合、経営者がまずやるべきことは、赤字の要因を客観的に分析し、今後の黒字化に向けた具体的な改善策と行動計画、そしてそれに基づいた数値目標を「文書(経営改善計画書や事業計画書など)」として作成し、金融機関に提出することです。
関連情報:「【銀行への決算報告】経営者が自ら行うメリット・流れ・注意点を解説(2025年版)」
経営再建計画に必要な要素
その文書には、少なくとも以下の内容を盛り込むことが求められます。
・現状分析: なぜ赤字になったのか、外部環境と内部環境の両面から客観的に分析。
・改善のための具体的なアクションプラン: 売上増加策、コスト削減策、不採算事業からの撤退、業務効率化策など、誰がいつまでに何をするのかを明確に。
・アクションプラン実行後の数値目標: 具体的な行動が、将来の損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書にどのように反映されるのかを、具体的な数値でシミュレーションする。
このような具体的な計画書を提出することで、会社自身も今後の進むべき方向性が明確になりますし、金融機関の担当者も上司や本部に説明するための客観的な資料が得られ、融資検討の土俵に乗りやすくなります。金融機関には「稟議審査システム」という厳格な意思決定プロセスが存在することを理解しておく必要があります。
関連情報:【銀行融資審査の仕組み】稟議とは?本店決裁?支店長の融資権限と流れ(2025年版)
2025年5月現在、多くの中小企業がゼロゼロ融資の返済開始という現実に直面し、資金繰りの厳しさが増しています。これに加え、原材料価格の高騰の長期化、深刻な人手不足、そして緩やかな金利上昇の兆候も見られ、企業経営の舵取りは一層難しくなっています。
このような状況下で、金融機関 融資姿勢は、以下のような傾向がより顕著になっています。
・選別融資の本格化: 単に過去の実績や担保力だけでなく、事業の将来性、収益構造の健全性、経営者の資質などを総合的に判断し、融資先をより厳しく選別する動きが強まっています。
・事業の持続可能性(サステナビリティ)への注目: 環境問題への対応(GX)、社会課題への貢献、ガバナンス体制の整備といった、いわゆるESGの観点も、中長期的な企業価値やリスク評価の一環として見られるようになりつつあります。
・単なる延命措置ではない、抜本的な経営改善への期待: 金融機関は、一時的な資金繰り支援よりも、企業が自ら経営再建計画を策定し、収益構造を根本から改善していく強い意志と具体的な行動を求めています。
・情報開示の重要性: 経営状況や将来計画について、金融機関に対して透明性の高い情報開示を継続的に行うことが、信頼関係構築の基本となります。
ポストコロナにおける金融機関 融資姿勢の変化は、多くの経営者にとって厳しい現実かもしれません。かつてのような「お願いすれば何とかなる」という時代は終わりを告げ、企業自身の「稼ぐ力」と「将来性」がよりストレートに問われる時代になったと言えるでしょう。
経営者が「手のひら返し」と感じるような状況も、金融機関側の視点や置かれた立場を理解することで、対応策が見えてくるはずです。重要なのは、この変化を正しく認識し、金融機関の評価基準を理解した上で、主体的に経営改善に取り組み、そのプロセスと将来展望を具体的な計画(経営再建計画など)としてまとめ、金融機関と建設的な対話を継続していくことです。そして、場合によっては「伴走型支援」を金融機関に期待するだけでなく、自ら積極的に働きかけていく姿勢も求められます。
経営改善・金融機関対応に関するご相談はこちら
「最近、金融機関の担当者の態度が厳しいと感じる…」
「赤字決算で、今後の融資が不安だ…」
「金融機関に提出する経営改善計画の作り方が分からない」
「ポストコロナの融資環境で、どうすれば資金調達を乗り切れるのかアドバイスが欲しい」
このようなお悩みや課題をお持ちの経営者様は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。
元金融機関出身の中小企業診断士・経営コンサルタントとして、貴社の現状を詳細に分析し、実効性のある経営再建計画の策定支援、金融機関との交渉戦略立案、そして「伴走型支援」体制の構築まで、親身になってサポートさせていただきます。
厳しい時代だからこそ、専門家の知恵と経験が貴社の未来を切り開く一助となるかもしれません。初回のご相談は無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
本記事が、ポストコロナの厳しい経営環境の中で奮闘される経営者の皆様にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
お問い合わせはこちらから。☟