「毎日現場に出て、売上も上げているはずなのに、なぜか手元にお金が残らない…」
「正直、財務諸表や会計のことは難しくて、税理士に任せきりだ…」
「コロナ融資の返済も始まるし、原材料も高い。このままで本当に大丈夫なのだろうか…」
コロナ禍の影響による業績不振、止まらない原材料費の上昇、そして深刻化する人手不足に対応するための人件費増加……。中小企業を取り巻く経営環境は、依然として厳しく、赤字に陥りやすい状況が続いています。
私自身、経営コンサルタントとして独立開業して以来、数多くの赤字企業の再建をお手伝いしてまいりました。その中で痛感するのは、多くの社長が自社の赤字の根本原因を正しく把握できていないという事実です。特に、現場叩き上げで営業力には自信があるものの、財務には少し弱い社長にその傾向が顕著に見られます。
本記事では、財務に弱い社長がどのようなリスクを抱え、それがどのように経営判断のミスに繋がるのか、そして、その状況からいかに脱却し、会社を成長軌道に乗せるかについて、具体的な事例や解決策を交えながら網羅的に解説します。経営者の方々はもちろん、企業の従業員、金融機関の関係者まで、幅広い層の皆様にとって、自社の財務状況を見つめ直し、改善へ向けた一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
【目次】
財務に対する理解が浅い社長は、知らず知らずのうちに経営上の重要な問題を見過ごしがちです。ここでは、特に陥りやすい代表的な課題を見ていきましょう。
なぜ赤字になったのか?本当の原因が見えない社長たち
多くの社長は、日々の経営努力を重ねています。材料費や仕入れコストの抑制、価格交渉による利益率の改善など、現場レベルでの努力は怠りません。
・小売業や卸売業であれば、取引先ごとの採算
・建設業であれば、工事別・プロジェクト別の採算
・運輸業であれば、車両別の採算
・飲食業であれば、店舗別の採算
これらのリストを常に確認し、「採算割れはしていないはずだ」と考えています。しかし、決算書は赤字。なぜでしょうか?
その最大の理由は、間接経費の存在が意識から抜け落ちているからです。現場重視の社長ほど、この傾向が強く見受けられます。日々の業務で直接目に触れない間接経費の管理がおろそかになり、気づかぬうちに利益を圧迫しているのです。これが経営判断のミスを招く大きな要因となります。
「直接経費」と「間接経費」– 財務の基本を見落とすリスク
経費は大きく「直接経費」と「間接経費」に分けられます。この区別を正しく理解することが、財務改善の第一歩です。
・直接経費: 製品やサービスの提供に直接関わる費用
‣ 現場人件費(製造スタッフ、建設作業員など)
‣ 原材料費、仕入原価
‣ 外注費(製造委託、専門工事など)
‣ 工場や店舗にかかる燃料費、水道光熱費
‣ 機械設備や車両の修繕費
・間接経費: 現場に直接関係しないが、会社全体の運営に必要な費用
‣ 本社や事務所の家賃、水道光熱費、通信費
‣ 広告宣伝費、販売促進費
‣ 交際費、旅費交通費
‣ 営業車両のガソリン代、維持費
‣ 税理士やコンサルタントへの支払手数料
‣ リース料(コピー機、社用車など)
‣ 諸会費
‣ 事務所設備や営業車両の減価償却費
‣ 社会保険料の会社負担分
‣ 事務員や管理部門の人件費
‣ 社長自身の役員報酬
‣ 金融機関からの借入金に対する支払利息
ここで注意が必要なのは、金融機関からの借入金の「返済元金」です。これは決算書上、経費としては扱われません。この点については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
【参考記事】【銀行借入金】返済額は損益計算書のどこ?見つけ方と勘定科目の誤解(2025年版)
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
知らぬ間に経営を圧迫する「固定費」としての間接経費
現場業務に日々邁進している社長にとって、間接経費は縁遠いものに感じられるかもしれません。しかし、厄介なことに、これらの間接経費の多くは固定費であるという特徴があります。
固定費とは、売上の増減にかかわらず、一定額が発生し続ける費用です。
・事務所の家賃
・各種手数料
・支払利息
・減価償却費
・事務員の給与
・社長の役員報酬
たとえ売上が落ち込んだとしても、これらの費用は容赦なく発生し、資金繰りを圧迫します(減価償却費は現金の支出を伴いませんが、損益計算書上は経費として計上されます)。
減価償却費の基本的な考え方については、こちらの記事が参考になります。
【参考記事】【減価償却とは】経営者が知るべき基本と融資返済財源への影響・不足額の罠(2025年版)
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
財務に弱い社長の中には、意識的・無意識的に財務と向き合うことを避け、「現場に逃げる社長」と評されるケースも見受けられます。なぜこのような状況が生まれるのでしょうか。
多くの場合、社長自身が現場業務で高い実績を上げてきた経験を持っています。営業や製造の最前線で辣腕を振るい、会社を牽引してきた自負があるため、得意な現場業務に注力しがちです。一方、数字や会計といった財務管理は苦手意識があり、後回しにされがちです。
しかし、社長が現場にかかりきりになり、朝から晩まで会社に不在という状況は、一見すると社長が率先して動いているように見えますが、管理面での大きなリスクを生みます。経営者は現場の指揮官であると同時に、会社全体の舵取りを行う船長でもあります。財務という羅針盤を見ずに航海を続けることは、座礁のリスクを高めることに他なりません。財務に関心が薄いと、業績悪化の局面で対応が後手に回り、致命的な経営判断のミスを犯す可能性が高まります。
コロナ禍は多くの企業にとって試練の連続でした。しかし一方で、政府による迅速な対応により、実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」や各種助成金が大規模に供給されました。これにより、本来であれば資金調達が困難だった企業も資金繰りを一時的に改善させ、事業を継続することができました。
この期間に、経営環境の変化を真摯に受け止め、危機意識を持って経営改善に取り組んだ企業と、一時的な資金供給に安堵し、具体的な改善策を講じないままの企業とで、明確な差が生じました。
そして今、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類に移行し、社会経済活動が平時へと移行する中で、金融機関の融資姿勢は厳格化しています。ゼロゼロ融資の返済が本格化し、安易な追加融資も期待しにくくなった現在、経営体質の改善を怠ってきた企業は、いよいよ厳しい局面に立たされています。 (2025年5月現在)
加えて、長期化するインフレや円安によるコストプッシュ圧力、深刻な人手不足とそれに伴う人件費の高騰は、今後も続くと予想されます。さらに、将来的な金利上昇リスクも無視できません。このような最新情勢を踏まえると、これまで以上に精緻な財務戦略と迅速な経営判断が、企業の生き残りを左右すると言えるでしょう。
このあたりの金融機関の変化については、以下の記事で詳しく解説しています。
【参考記事】コンサル現場で感じる銀行の融資態度変化 ~ポストコロナの銀行融資をどう対策するか~
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
業績が悪化した際、現場重視の社長は、得意とする「売上増加」に活路を見出そうとしがちです。もちろん売上増加は重要ですが、利益改善という観点では、間接経費の削減がより直接的かつ迅速な効果をもたらすケースが多くあります。
粗利(売上高から売上原価を差し引いた利益)を重視する社長は、粗利の源泉である売上を増やすことで利益が確保できると考えます。しかし、以下の例を見てみましょう。
【前提】売上1,000万円、粗利率30%、間接経費250万円 の場合
現状の利益:1,000万円×30%−250万円=50万円
ケース1:売上を10%(100万円)増加させる
・売上:1,100万円
・粗利:1,100万円×30%=330万円
・間接経費:250万円 (変わらず)
・利益:330万円−250万円=80万円 (利益は50万円から80万円へ、30万円増加)
ケース2:間接経費を30万円削減する
・売上:1,000万円 (変わらず)
・粗利:1,000万円×30%=300万円
・間接経費:250万円−30万円=220万円
・利益:300万円−220万円=80万円 (利益は50万円から80万円へ、30万円増加)
売上を10%増加させることと、間接経費を30万円削減すること。どちらがより現実的で、迅速に取り組めるでしょうか?多くの場合、既存のコスト構造を見直し、間接経費を削減する方が、より確実かつ早期に利益改善効果を実感できるはずです。
間接経費削減の第一歩は、まず**「間接経費に関心を持つこと」**です。そして、現状を正確に把握し、具体的な削減目標を設定・実行していくプロセスが不可欠です。
ステップ1:現状把握 – 「コスト確認シート」で経費を徹底解剖
私が赤字会社のコンサルティングに入る際、最初に行うのは、過去数年分の決算報告書(特に「販売費及び一般管理費の内訳書」)を準備いただき、その数値をExcelなどのシートに転記して「見える化」することです。
以下は、私が実際に使用している「コスト確認シート(実績確認用)」のイメージです。
【コスト確認シート(実績確認用)のポイント】
このシートでは、勘定科目ごとに過去5年間の実績値を入力し、推移を比較できるようにします。特に変動が大きい項目や、金額の大きい間接経費については、総勘定元帳(特定の勘定科目の1年間の取引明細が記録された帳簿)でその内訳を詳細に確認します。
例えば、
・リース料(賃借料): どのような物件や機器のリースなのか?契約期間や金額は妥当か?
・支払手数料: 誰に何の対価として支払っているのか?見直せるものはないか?
・雑費: 具体的にどのような支出が含まれているのか?本当に必要な経費か? このように、一つ一つの経費の中身を精査し、必要なものと不要なもの、削減可能なものを見極めていきます。
ステップ2:目標設定と実行 – 「コスト確認シート(目標入力用)」で削減計画を策定
現状の実績を把握したら、次に今後数年間の目標値を設定します。これも同様のExcelシート(目標入力用)を用います。
【コスト確認シート(目標入力用)のポイント】
このシートでは、実績値を踏まえ、どのコスト項目を、いつまでに、どれくらい削減するのか、具体的な目標数値を社長とディスカッションしながら設定していきます。重要なのは、単に数字を削減するだけでなく、「なぜその経費が必要なのか」「本当にその金額が妥当なのか」を徹底的に議論し、納得感のある目標を設定することです。
もちろん、削減一辺倒ではなく、事業成長のために戦略的に増やすべき経費(例:マーケティング費用、人材開発費用など)も出てくるかもしれません。この点については、以下の記事も参考になるでしょう。
【参考記事】販売管理費の使い方を考える~削る経費、削らない経費~
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
ステップ3:注意点 – 数字合わせではない「具体的な削減策」の重要性
コスト削減目標は、単なる数字合わせや精神論では意味がありません。目標達成のためには、具体的な行動計画と実行が不可欠です。例えば、「通信費を10%削減する」という目標であれば、「より安価なプランに変更する」「不要なオプション契約を解約する」といった具体的なアクションプランが必要です。
具体的なコスト削減手法については、以下の記事で詳細な確認シートとともに解説しています。
【参考記事】【会社のコスト削減】営業赤字脱却へ!具体的な方法と手順を徹底解説(2025年版)
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
財務に弱い社長が、一夜にして財務の専門家になる必要はありません。しかし、自社の財務状況を正しく理解し、適切な経営判断を下せるようになることは、社長の必須スキルです。
そのためには、以下のような取り組みが有効です。
・財務諸表(決算書)を読む習慣をつける: 少なくとも損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)の基本的な構造と主要な経営指標の意味を理解する。
・月次試算表を活用する: 年に一度の決算だけでなく、毎月の試算表で業績の進捗を確認し、早期に問題点を発見する。
・予算実績管理を導入する: 年初に事業計画と予算を策定し、実績との差異分析を通じて経営課題を明らかにする。
・積極的に外部の研修やセミナーに参加する: 財務会計に関する知識をアップデートする。
・信頼できる税理士や経営コンサルタントに相談する: 専門家の視点を取り入れ、客観的なアドバイスを受ける。
社長が財務に関心を持ち、数字に基づいた経営判断を心掛けることで、会社は必ず良い方向へ進みます。現場での活動と会社全体の管理業務のバランスこそが、持続的な成長の鍵となるのです。
【まとめ】財務の弱さを克服し、危機を乗り越え成長する企業へ
本日は、「財務に弱い社長」が陥りやすい経営の罠と、その対策についてお話ししました。
・多くの社長が赤字の真の原因、特に間接経費の重みを正しく認識できていない。
・間接経費の多くは固定費であり、売上減少時にも経営を圧迫する。
・「現場に逃げる社長」は、得意な現場業務に注力するあまり、財務管理を軽視しがちで、これが経営判断のミスを招く。
・ポストコロナの厳しい経営環境下では、これまで以上に財務戦略の重要性が増している。
・利益改善には、売上増加努力と並行して、間接経費の削減が即効性があり効果的である。
・コスト確認シートなどを活用し、経費の見える化と具体的な削減目標の設定・実行が不可欠。
財務に対する苦手意識を克服し、数字に基づいた的確な経営判断を下せる「財務に強い社長」へと変革することが、今日の厳しい経営環境を乗り越え、会社を持続的に成長させるための最重要課題の一つです。
この記事が、貴社の財務安定と今後の発展の一助となれば幸いです。
「自社の財務状況を客観的に把握したい」「具体的なコスト削減策について相談したい」「経営改善のアドバイスが欲しい」
そうお考えの社長様は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。豊富な経験を持つ経営コンサルタントが、貴社の状況に合わせた最適な解決策をご提案し、黒字化、そして持続的な成長を全力でサポートいたします。
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