「決算書は毎年税理士さんから説明を受けるけど、正直、数字の羅列でピンとこないんだよな…本当に会社の状態を理解できているんだろうか?」
「利益は出ているはずなのに、なぜか手元にお金が残らない。決算書のどこを見れば、この謎が解けるんだ?」
「将来に向けて新しいことを始めたいけど、今の会社の体力で本当に大丈夫なのか、客観的な判断材料が欲しい。決算書だけじゃ不安だ…。」
これまで多くのコラムで「決算書の読み方」の重要性についてお伝えしてきました。確かに、自社の決算書をきちんと分析することで、会社の財政状態や経営成績など、多くの貴重な情報が見えてきます。これは経営判断を行う上で不可欠なことです。
しかし、今日は少し視点を変えて、**「決算書からだけでは見えてこないこと」**に焦点を当ててお話しします。決算書から読み取れる情報と、今日お話しする決算書には直接現れない情報を組み合わせることで、貴社の財務に対する理解は格段に深まり、より的確な経営判断が可能になります。
(本記事において「決算書」とは、主に①貸借対照表、②損益計算書、③製造原価報告書、④販売費および一般管理費内訳表、⑤株主資本等変動計算書、⑥勘定科目内訳表を指します。)
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【目次】
では早速、決算書を眺めているだけでは分からない、しかし経営にとって極めて重要な5つの情報を見ていきましょう。
情報1:日々の現金の動きを示す「資金繰り」の実態
決算書から見えにくい情報の筆頭は、日々の資金繰り、つまり「お金の実際の出入り」です。
多くの経営者は、お金の動きを確認する際にまず損益計算書を思い浮かべるかもしれません。「利益が出ていれば、お金も残っているはずだ」と。しかし、損益計算書上は黒字なのに、なぜか手元にお金が残っていないという、一見不思議な現象が起こることがあります。
その主な理由としては、
・売上として計上されているものの、まだ入金されていない売掛金が存在する(入金までのタイムラグ)。
・経費としては計上されていないものの、社長が会社の資金を個人的な用途(例:生活費)に使ってしまっている(役員貸付金)。
などが挙げられます。
これらの「利益と現金のズレ」を正確に把握し、将来の資金ショートを防ぐためには、資金繰り表の作成と活用が不可欠です。資金繰り表によって、いつ、どれくらいのお金が入り、いつ、どれくらいのお金が出ていくのか、そしてその結果、手元資金がどう変動するのかを予測・管理することができます。
関連情報:【黒字なのに現金がない!】なぜ?会社のお金が足りない3つの原因と対策(2025年版)
関連情報:「【資金繰り表 作成方法】初心者でも分かる手順と注意点|会社経営の必須ツール(2025年版)」
情報2:事業の稼ぐ力を明らかにする「採算管理」
次に重要なのが「採算管理」、つまり事業ごと、製品ごと、あるいは顧客ごとの詳細な収支状況です。
お手元の損益計算書をご覧になってみてください。例えば、「A事業は黒字だが、B事業は実は赤字だった」といった、事業単位での収支が明確に分かるでしょうか?おそらく、ほとんどの会社では分からないはずです。
同様に、取引先別の収支、店舗別の収支、商品カテゴリー別の収支といった詳細な採算管理情報も、通常の損益計算書には記載されていません。損益計算書に記載されているのは、あくまで会社全体の売上高、全体の原価、全体の経費です。
しかし、これらのセグメント別の採算情報は、どの事業に注力すべきか、どの取引を見直すべきか、どの商品から撤退すべきかといった重要な経営判断を下す上で不可欠な情報です。したがって、損益計算書の数値を基に、これらの情報を事業別、取引先別、店舗別、商品カテゴリー別などに**分解し、分析する作業(部門別会計や管理会計の導入)**が求められます。「事業別採算シート」などを作成し、定期的にチェックすることが重要です。
関連情報:「【不採算部門 撤退】判断基準と手順は?経営者が下すべき意思決定(2025年版)」
情報3:会社の未来を照らす「将来計画」(事業計画書)
決算書に記載されているのは、あくまで「過去」の経営成績や財政状態です。それは、言わば会社の1年前(あるいは数ヶ月前)の姿を示しているに過ぎません。そのため、「我が社は今後、どちらの方向へ進んでいくのか?」「3年後、5年後にはどのような姿になっているのか?」といった将来の予測は、残念ながら決算書を見ているだけでは分かりません。
会社の未来を予測し、その実現に向けた道筋を描くのが「事業計画書」です。事業計画書を作成するためには、決算書から読み取れる過去の実績データに加え、現在自社を取り巻く経営環境の変化(市場動向、競合の動き、技術革新など)や、経営者自身が目指す将来のビジョン、そしてそのビジョンを達成するための具体的なアクションプランを盛り込む必要があります。
そして、それらのアクションプランを実行することで、将来の売上や利益がどのように変化するのかを数値で予測(シミュレーション)することも事業計画書の重要な役割です。
関連情報:「【経営改善計画書】銀行も納得!数値計画とアクションプランの作り方(2025年版)」
情報4:借入金の適正規模と返済能力を示す「融資と返済財源のバランス」
「うちの会社は、銀行からお金を借りすぎているのだろうか?」
「現在の利益水準で、借入金をきちんと返済していけるのだろうか?」
「あとどれくらいなら、追加で融資を受けられる余地があるのだろうか?」
これらの疑問は、多くの経営者が抱えるものですが、その答えは決算書のどこにも直接的には書かれていません。借入金の残高は貸借対照表に記載されていますが、それが自社の返済能力と比較して適正な水準なのかどうかを判断するには、さらなる分析が必要です。
これを知るためには、実質的な借入金の評価や、年間の返済可能額(返済財源)、そしてそれらを比較することによる返済余力の分析が必要になります。専用の確認シートや分析ツール(場合によってはExcelなどで自作も可能)を用いて、自社の数値を当てはめてみることで、客観的な状況を把握できます。
関連情報:「自社の決算書から長期借入金の返済能力を簡単に判断する方法」
関連情報:「銀行借入金の適正額は?返済余力と追加融資枠の算出方法を徹底解説!計算シート活用法も」
情報5:将来の収益の源泉となる「目に見えない強み(知的財産など)」
決算書に計上される資産や利益は、いわば「目に見える経営資源」の結果です。しかし、これらの数値を生み出す源泉となる、**決算書には直接現れない「目に見えない強み」**も企業には数多く存在します。
例えば、
・長年にわたる顧客や地域社会との良好な関係性、信頼関係
・経営者や中核となる社員が持つ独自のスキル、ノウハウ、経験
・強固な仕入先との連携、協力体制
・他社が容易に模倣できない独自のビジネスモデルや参入障壁
・商品やサービスのブランド力、顧客からの高い評価、希少性
・特許権、商標権、著作権などの法的に保護された知的財産
・独自の技術や製造プロセス、社内に蓄積されたデータ
これらの「目に見えない強み」は、将来的に大きな収益を生み出す可能性がありますが、現在の決算書には数値として明確には表現されません。そのため、これらの無形資産を意識的に把握し、文章化・可視化しておくことが重要です。そのための手法として、「SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威を分析するフレームワーク)」、「ローカルベンチマーク(経済産業省が提供する企業の健康診断ツール)」、「経営デザインシート(内閣府が推奨する将来構想のためのフレームワーク)」などを活用することが有効です。
関連情報:「経営を『見える化』するツールとその効果:SWOT分析から経営デザインシートまで」
決算書が示すのは、あくまで過去から現在までの「結果」です。しかし、経営者が日々行わなければならないのは、未来に向けた「意思決定」です。
「決算書に出てこない情報」を把握することは、
・過去の成績を多角的に分析し、真の課題や成功要因を特定するため
・将来起こりうるリスクを予見し、事前に対策を講じるため
・新たな事業機会を発見し、成長戦略を描くため
・より精度の高い、根拠に基づいた意思決定を行うため
金融機関や投資家、取引先といったステークホルダーに対して、自社の実態と将来性をより深く理解してもらい、信頼関係を構築するため に不可欠なのです。
では、これらの「決算書に出てこない情報」を具体的にどのように可視化し、日々の経営に活かしていけば良いのでしょうか。
1. 資金繰り: 資金繰り表を毎月作成し、実績と予測の差異を分析し、将来の資金ショートリスクに備えます。
2. 採算管理: 事業別・商品別・顧客別などの採算管理シートを導入し、定期的に収益性を検証し、不採算部門の見直しや注力分野の明確化を行います。
3. 将来計画: 定期的に事業計画書を見直し、中期的な目標と具体的なアクションプランを策定・共有します。進捗状況をモニタリングし、必要に応じて計画を修正します。
4. 融資と返済財源のバランス: 借入金返済能力の確認シートなどを用いて、定期的に自社の借入金の適正水準と返済余力をチェックします。
5. 目に見えない強み: SWOT分析、ローカルベンチマーク、経営デザインシートなどを活用して自社の強みや課題を客観的に把握し、それを経営戦略に反映させます。知的財産については、その特定、保護、活用戦略も重要になります。
これらの情報を単に「把握する」だけでなく、定期的にモニタリングし、経営会議などで共有し、具体的な改善行動に繋げていくことが何よりも重要です。
2025年現在、企業価値を評価する上で、従来の財務情報だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組み、人的資本(社員のスキルやエンゲージメント)、サプライチェーンの持続可能性、イノベーション能力といった「非財務情報」の重要性が世界的に高まっています。
これらの非財務情報は、まさに「決算書に出てこない情報」の代表例であり、企業の長期的な成長性やリスク耐性を測る上で不可欠な要素と認識され始めています。また、これらの情報をデータとして収集・分析し、迅速かつ的確な経営判断に活かすデータドリブン経営への注目も高まっています。
中小企業においても、こうした非財務情報やデータ活用への意識を高め、自社の強みや取り組みを積極的に可視化していくことが、金融機関や取引先からの評価向上、さらには採用活動においても有利に働く可能性があります。
決算書から「見える情報」は、企業の現状を知る上で確かに重要です。しかし、それだけでは企業の全体像を捉えることはできません。
今回お話しした「資金繰り」「採算管理」「事業計画書(将来計画)」「融資と返済財源のバランス」「目に見えない強み(知的財産など)」といった「決算書に出てこない情報」を意識的に把握し、分析し、そして経営に活かしていくこと。これらを組み合わせることで初めて、自社の真の財務力、収益力、そして将来の成長可能性を立体的に理解し、より強固な経営基盤を築き、持続的な成長を実現することができるのです。
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