【この記事で分かること】
・ 銀行員が融資肩代わりを推進する理由
・ 肩代わりされた銀行が会社に対して抱く感情
・ 日本政策金融公庫で肩代わり融資を受けることの是非
【はじめに】
この記事を読んでいただいているということは、「銀行融資を他の銀行で組み替えると、今後影響はないのだろうか?」とか、「なぜあの銀行員は、熱心に他の銀行の融資を奪いたがるのか?」という疑問があるのかもしれません。
「融資肩代わり」は、やる側の銀行員にとっては満足度が高い仕事であり、された側の銀行員にとっては、屈辱的なことなのです。もちろん、会社にとって今後の銀行取引に大きな影響を及ぼしますので、重要な経営判断と言えます。
以下の記事を参考に「他行融資で肩代わり」を実行するかどうか、判断下さい。
【ここから本文】
この記事のポイントは以下3点です。
☑ 銀行は「融資肩代わり」を嫌がる。理由は、融資先と今まで築いてきた信頼関係を壊された、と感じるから。
☑ 逆に「融資肩代わり」した側の銀行員は、営業成績が上がり、銀行内で高い評価を受ける。
☑ 会社主導の日本政策金融公庫を使った「融資肩代わり」は、資金の動きや決算書を確認され、ばれる。
銀行員がされて嫌なことの上位に、「融資肩代わり」があります。
「融資肩代わり」とは、A銀行の融資残高をB銀行で借り換えることです。
例えば、こんなケースがあります。
A銀行に5年前に融資を受けた5,000万円(金利3%)が、返済が進んで1,500万円まで減っているとします。
そこにB銀行から、低金利(例えば1.5%)で「A銀行の融資を借り換えませんか?」と提案があります。
保証人も社長だけで可能だという。(A銀行は社長と奥さんが保証人)。残高に500万円加えて2,000万円融資してくれるとも言う。資金繰りも助かる。
経営者は、「ぐらっ」ときます。良いこと尽くめの提案により、B銀行から2,000万円融資を受け、A銀行融資を1,500万円返済します。
上記一連の流れを、A銀行からすると、「融資を肩代わりされた」と言います。
A銀行担当者にとって、「融資肩代わり」は、屈辱的なことです。融資先の管理不足として、上司から叱責を受け、評価も下がります。
担当者は、長年先輩たちが守ってきた融資先を他の銀行に奪われたことで、申し訳ない気持ちになります。
経営者からすると、銀行の内部事情を知らないので、
「条件が良いほうを選ぶのは当たり前。うちの商売でもそうしているし、顧客からもそうされる」
「融資を返済するのだから、銀行さんは貸したお金が返ってきて、嬉しいはず」
と、ビジネス感覚で対応します。
ここに、銀行員と経営者の「融資返済に関するギャップ」が発生します。
逆に言えば、「融資肩代わり」した側の銀行担当者は、営業成績を大きく上げることになり、銀行内で高い評価を受けます。銀行営業担当者にとって、「他銀行からの融資肩代わり」は、一番満足度が高い仕事なのです。
銀行員は口には出しませんが、融資肩代わりをした企業を「不義理な企業だ!」と思う習性があります。
以後、業績が悪化して駆け込んでも、A銀行は「B銀行さんに支援していただいたらどうですか」と、相手にしてくれない可能性もあります。(このあたりは、人間関係と同じです)。
ちなみにメインバンクを変更する時には、色々な注意点があります。以下の記事に詳しいのでチェックしてみてください。
【参考記事】メインバンクを変更する方法と注意点|中小企業の経営判断に役立つポイント
今までは、他の民間銀行からの提案による「融資肩代わり」について、お話ししてきました。
一方、会社主導の「融資肩代わり」手法として、日本政策金融公庫を活用したものがあります。
日本政策金融公庫の低金利制度融資を受けて、民間銀行の融資(金利が高い融資)を返済する手法です。
会社側のメリットは、金利負担が軽減されることです。
しかしこの方法を、日本政策金融公庫は認めていません。
政府系銀行の融資を使い、民間銀行の融資を返済することは、「民業圧迫」につながるからです。
そのため会社は、「融資肩代わり資金」であることを隠して、「運転資金」として日本政策金融公庫に融資申込をします。
融資が実行され、即座に民間銀行に返済すると、口座の動きを確認されれば、ばれます。
口座に入金され、しばらく売上代金入金や支払いのあとほとぼりが冷めて、お金の出所が分からなくなったとき、返済するとどうでしょう?
この方法でも返済する銀行にばれます。
多額の融資を一括返済する場合、銀行の担当者からしつこく理由や資金の出所を聞かれるからです。
会社側はしどろもどろになり、隠し通すことは難しいでしょう。
またそこをクリアしても、決算書を提出すれば、返済された銀行の融資残高減少分、日本政策金融公庫の融資残高が増加しています。動かぬ証拠となり、ばれてしまいます。
返済される銀行との関係が悪化するでしょう。
また場合によっては、返済される銀行から、日本政策金融公庫に確認の連絡が入るかもしれません。
民間銀行からクレームを受けた日本政策金融公庫は会社に対して良い印象を持たないでしょう。資金使途違反に問われるかもしれません。
民間銀行、日本政策金融公庫、双方から信頼を失う可能性があるため、日本政策金融公庫からの融資で民間銀行の「融資肩代わり」は、避けたほうが良いでしょう。
以上、本日は「融資肩代わり」について、なぜ銀行員は熱心に勧めてくるのか、された銀行はどう感じるのか、について説明しました。今後の貴社の財務活動に役立てていただけますと幸いです。
【関連記事】
なぜ銀行はそんなに怒っているのか?~社長と銀行の融資取引に関する温度差~
長期借入金の途中返済と巻き替え。何が起こるか。~融資一本化のメリット、デメリット~
銀行対応に関してのご相談・お問い合わせ・ご質問は、こちらからどうぞ。(24時間コメント受付、返答は翌営業日以降になることがあります。暗号化対応をしているため、メッセージやメールアドレスが外部に漏れることはありません)。☟