「今のメインバンクとの関係を見直したい」
「法人のメインバンク変更、具体的なやり方や注意点は?」
「メインバンクを変えることで、どんなメリットやデメリットがあるのだろう?」
会社の経営戦略において、「メインバンク変更」は非常に大きな決断です。特に「法人」にとっては、取引の根幹に関わるため、その「理由」や「やり方」、そして潜在的なリスクを十分に理解した上で、慎重に進める必要があります。
この記事では、中小企業支援の現場に立つ経営コンサルタントとして、「メインバンク変更」を検討する際のポイント、具体的な手続き、注意すべきリスク、そして変更後の対応まで、体系的に解説します。
【目次】
「メインバンク変更」を考える前に、まず「メインバンク」の定義について、企業側と銀行側で認識が異なる場合があることを理解しておきましょう。
経営者が考えるメインバンク
経営者にとってのメインバンクは、以下のような機能を持つ銀行を指すことが多いでしょう。
・売上入金や各種支払いなど、日々の決済機能が集中している
・経営上の悩みや資金繰りの相談を最初に持ちかける
・取引期間が最も長い、信頼関係が深い
銀行が重視するメインバンクの定義
一方、銀行側は**「融資残高(貸出シェア)が最も大きい銀行」**をメインバンクと見なす傾向が強いです。銀行は融資判断において、自社がメインバンクであるか(=その企業に対する影響力や責任が大きいか)を非常に重視します。そのため、業績が悪化した際などにサブバンク(メインバンク以外の取引銀行)に相談しても、「まずはメインバンクにご相談ください」と対応が慎重になることがあります。
[関連記事:メインバンクとは?銀行が考える定義と企業がされて嫌なこと]
企業が「メインバンク変更」を決断する背景には、様々な「理由」があります。
・経営者の交代: 事業承継などに伴い、新しい経営者が心機一転、取引銀行も見直したい。
・現メインバンクへの不満:
‣ 融資対応が遅い、担当者の対応が悪い、提案力がない。
‣ 融資条件(金利など)が他行に比べて見劣りする。
‣ 銀行都合のお願い(預金、保険、投信など)が多い。
・銀行側の変化への懸念: 合併や店舗統廃合により、利便性が低下する可能性がある。
・企業の成長によるミスマッチ: 会社の規模が大きくなり、現メインバンクの規模や機能では物足りなくなってきた。
・他行からの好条件提案: 他の銀行から、既存融資の肩代わりを含めた魅力的な提案があった。
金利・融資条件への不満と市場動向
特に融資条件、中でも金利に対する不満は、「メインバンク変更」の大きな「理由」となり得ます。例えば、日銀の政策変更などにより市場金利(**短期プライムレート(短プラ)やTIBOR(タイボー)**など)が変動しているにも関わらず、メインバンクが既存の融資条件を見直してくれない、あるいは新規融資の金利が市場実勢に比べて高い、といった場合です。企業としては、より有利な条件を提示する銀行へ変更を検討するのは自然な流れと言えます。
[関連記事:【2025年最新】銀行融資の金利動向と交渉のポイント]
「メインバンク変更」の「やり方」には、大きく分けて「一括変更(融資肩代わり)」と「段階的な移行」の2つの方法があります。
方法1:一括変更(融資肩代わり)の流れと注意点
これは、新しい銀行からの融資で既存メインバンクの融資を全額返済し、取引の軸足を一気に移す方法です。
(1) 手続きの流れ(一般的な例)
1. 新しいメインバンク候補(引受銀行)に融資を申し込む。(既存メインバンクには秘密裏に進める)
2. 引受銀行から融資実行の確約(正式な稟議決裁)を得る。
3. 引受銀行から融資を受け、その資金で既存メインバンクの融資を一括返済する。(同時に、引受銀行が不動産担保などを設定する場合もある)
4. 既存メインバンクに設定されている担保権(抵当権など)を抹消してもらう。
5. 売上入金口座、支払口座、手形・小切手の振出、各種引き落としなどを、新しいメインバンクに移行する。
(2) 最重要注意点①:引受銀行の確約は絶対か?
この方法で最も警戒すべきは、引受銀行が土壇場で融資を実行しない(はしごを外す)リスクです。口約束や担当者レベルの話だけを鵜呑みにせず、必ず正式な稟議決裁が下りたことを、担当者だけでなくその上司(役職者)にも確認しましょう。万が一、肩代わりが失敗すれば、旧メインバンクとの関係も破綻し、進退窮まる可能性があります。
(3) 最重要注意点②:既存融資契約の確認は必須!
既存メインバンクの融資契約の中に、**「期限前返済(繰り上げ返済)に関する条項」**がないか、必ず確認が必要です。
・中途解約違約金: 期限前に返済する場合、違約金が発生する可能性があります。
・期限前返済の禁止: 特定の融資(固定金利の長期融資など)では、期限前返済自体が認められていないケースもあります。 この確認を怠ると、いざ返済しようとしても拒否されたり、違約金分の資金が不足したりする事態になりかねません。既存メインバンクに直接聞くと意図を察知されるため、引受銀行の担当者経由で確認してもらうなどの工夫が必要です。
(4) 金利動向と肩代わり提案
他行からの「肩代わり提案」は「メインバンク変更」のきっかけとなり得ますが、その条件は市場環境にも左右されます。例えば、**金利上昇局面(現在の短期プライムレートやTIBORの動向など)**においては、以前のような超低金利での肩代わり提案は受けにくくなる可能性があります。提示された条件が本当に有利なのか、将来の金利変動リスクも考慮して慎重に判断する必要があります。
方法2:時間をかけた段階的な移行
一括変更のリスクや摩擦を避けたい場合は、時間をかけて徐々に取引の比重を移していく方法があります。
・既存メインバンクの借入を計画的に返済し、安易な追加融資は受けない。
・政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工中金など)の活用: 民間銀行間の競争とは一線を画すため、比較的スムーズに取引シェアを高めやすい。
・新規の設備投資などの際に、新しいメインバンク候補と取引を開始・拡大する。
・徐々に預金取引や決済取引を新しいメインバンク候補に移していく。
この方法であれば、関係悪化のリスクを低減しつつ、自然な形でメインバンクの移行を進めることが可能です。
「メインバンク変更」、特に一括変更(融資肩代わり)には、以下のようなデメリットやリスクも存在します。
長年の取引履歴・信頼関係の喪失
最大のデメリットは、旧メインバンクとの間で長年培ってきた取引の歴史と、それに基づく信頼関係が失われることです。会社の業績が良いときは問題なくても、経営が苦しくなった時に、新しいメインバンクが旧メインバンクと同じように親身になって支えてくれる保証はありません。取引期間の浅さは、いざという時の支援姿勢に影響する可能性があります。
肩代わりによる旧メインバンクとの関係悪化
融資肩代わりは、された側の銀行や担当者にとっては非常に厳しい結果であり、大きなダメージとなります。感情的なしこりが残り、将来的に関係が修復することは難しいと考えた方が良いでしょう。
[関連記事:融資肩代わり – なぜ銀行は嫌がるのか?]
[関連記事:メインバンク変更のデメリットとリスク – 失われるものとは?]
「義理堅く、長年メインバンク1行とだけ取引している」という「法人」も少なくありません。しかし、この「1行取引」には、以下のようなデメリットも潜んでいます。
1行取引のリスク:銀行の油断と選択肢の欠如
・銀行側の「油断」: 他行と比較されることがないため、必ずしも最善の条件やサービスが提供されない可能性があります。
・提案力の低下: 競争がないため、銀行側から積極的な改善提案などが出てきにくい場合があります。
・リスク分散の欠如: 万が一、そのメインバンクの経営が悪化したり、方針が変わったりした場合、資金調達手段が一気に狭まります。
・情報の偏り: 他の金融機関からの多角的な情報を得られません。
適切な取引銀行数の目安
企業の規模にもよりますが、複数の銀行と取引を持つことで、競争原理を働かせ、より良い条件を引き出し、リスクを分散することが望ましいと言えます。目安として、民間金融機関(メガバンク、地銀、信金・信組など)で2~3行、それに加えて政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工中金)で1行、合計3~5行程度と取引があれば、比較検討やリスク分散の観点からバランスが良いと考えられます。
「メインバンク変更」が無事完了したら、速やかに取引先(仕入先、販売先など)へ通知する必要があります。情報漏洩を防ぐため、変更手続きがすべて完了した後に行うのが原則です。
通知のタイミングと準備
タイミング: 変更手続き完了後、速やかに。
準備:
‣ 通知文書の作成(変更理由、変更日、新銀行情報などを記載)
‣ 取引先の連絡先リストの整備
通知内容と伝え方のポイント
・正式な書面(郵送またはPDF等)で通知する。
・変更理由を簡潔に説明する。(例:「経営効率化のため」「今後の事業展開を見据え」など)
・新しい銀行名、支店名、口座種別、口座番号を正確に記載する。
・変更後の振込先口座情報を明確に伝える。
・取引条件(支払条件など)に変更がないことを伝える。
・不明点があれば問い合わせてもらえるよう連絡先を明記する。
・主要な取引先へは、書面送付後に電話等でフォローアップするとより丁寧です。
通知状フォーマット(サンプル)
以下のような形式が一般的です。自社の状況に合わせて調整してください。
件名:メインバンク変更のお知らせ
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、この度 弊社では、経営合理化の一環といたしまして、下記の通りメインバンクを変更させていただくことになりました。
つきましては、誠に恐縮ではございますが、今後のお振込につきましては下記の新口座へお振込みいただきますようお願い申し上げます。
お手数をおかけいたしますが、何卒ご理解ご協力賜りますようお願い申し上げます。 敬具
記
1. 変更日: 令和〇年〇月〇日
2. 新メインバンク: 〇〇銀行 〇〇支店
3. 新振込口座: 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
口座名義: カ)〇〇〇〇
以上
[自社名、住所、電話番号、担当者名]
「メインバンク変更」は、「法人」にとって大きな経営判断です。実行する際には、明確な「理由」に基づき、その「やり方」に伴うメリット・デメリット、リスクを十分に比較検討する必要があります。
・一括変更(融資肩代わり)は、引受銀行の確約と既存契約の確認が最重要。
・段階的な移行は、リスクを抑えやすい。
・長年の取引関係という「目に見えない価値」も考慮に入れる。
・1行取引に固執せず、適切な数の銀行と付き合うことでリスク分散と好条件獲得を目指す。
・変更後の取引先への通知は、迅速かつ丁寧に行う。
安易な判断は避け、長期的な視点で自社にとって最善の選択をすることが肝要です。
この記事が、貴社の「メインバンク変更」に関する意思決定の一助となれば幸いです。具体的な検討や手続きについて、専門家への相談が必要な場合は、お気軽にお声がけください。
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