令和6年3月8日に、経済産業省、金融庁、財務省、連名で「再生支援の総合的対策」が発表されました。
コロナ禍での当面の資金繰りを中心とした「緊急支援」から、ポストコロナ時代の中小企業の将来を見据えた「再生支援」に舵を切ったことが分かる対策メニューとなっています。
大きな政策変更と言えそうです。
行政の政策変更を受け、今後金融機関の融資先への対応も変わってくることが予想されます。
どのように変わるのでしょう?経営者はどう準備すればいいのでしょう?
【目次】
「再生支援の総合的対策」には複数の項目があるのですが、私が注目したのは、4.「民間金融機関による支援の強化」のところです。以下発表資料から抜粋します。
4.「民間金融機関による支援の強化」
1. 一歩先を見据えた経営改善・再生支援の強化
① 監督指針の改正を行い、事業者の現状のみならず状況の変化の兆候を把握し、一歩先を見据えた対応を求 める。【24年4月適用開始】
➢ 日常的・継続的な関係強化を通じた事業者の予兆管理と認識共有(プッシュ型での情報提供)
➢ メイン・非メインに関わらず金融機関自身の経営資源の状況を踏まえた対応促進② 事業者の経営改善や事業再生を先送りしないため、「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」等の策定を 促進。【24年度~】
③ 昨年実施した重点的なヒアリングの結果を踏まえ、各地域における事業者支援態勢の構築・発展に向けた取 組みを一層促進。【24年度~】
(ここまで抜粋部分)
特に②先送りをしないための「実現性の高い抜本的な経営再建計画」の策定促進に注目しています。
金融庁のホームページには、「実現性の高い」定義として以下の説明があります。
(1)「一 計画の実現に必要な関係者との同意が得られていること。」
経営再建計画には、メイン行、非メイン行を含め多数の関係者が関与しており、これら関係者の同意が得られていることを確実にチェックする必要がある。
具体的には、「計画の実現に必要な関係者との同意」とは、経営再建計画の計画に沿った実行が妨げられないよう、予め契約等により計画に協力する(又は反対をしない)旨の意思を確認しておく必要があるすべての関係者の計画に協力する意思を指す。また、こうした「同意」の性格上、当該意思表示は、書面等によって明確に確認できることが必要である。
(2)「二 計画における債権放棄などの支援の額が確定しており、当該計画を超える追加的支援が必要と見込まれる状況でないこと。」
規模の大きな企業の再生については、資産売却等のリストラが逐次実施され、それに応じて債権放棄等の金融支援が行われる内容の計画となることもあるが、そうしたすべての金融支援が計画策定時に織り込まれている必要がある。
(3)「三 計画における売上高、費用及び利益の予測等の想定が十分に厳しいものとなっていること。」
計画における売上高等の想定は、当然のことながら、当該企業の事業価値や事業環境に照らして十分現実的なものである必要がある。
(注) 「三」においては、再建計画の実現性の検証に当たって、「売上(高)」=「事業の継続性と収益性の見通し」と「利益」=「キャッシュフローによる債務償還能力」を重要視しており、主な検証ポイントとして例示している。
(ここまで金融庁ホームページより抜粋)
また、「抜本的な」定義として以下の説明があります。
「抜本的な」の要件である、
(1)「概ね3年(債務者企業の規模又は事業の特質を考慮した合理的な期間の延長を排除しない。)後の当該債務者の債務者区分が正常先となることをいう」
(2)「なお、債務者が中小企業である場合の取扱いは、金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」を参照のこと」
(ここまで金融庁ホームページより抜粋)
つまり「実現性の高い抜本的な経営再建計画」とは簡単に言うと、金融機関が合意できる数値根拠の記載された再建計画のことです。
上記の再建計画、どういう流れで作るのでしょうか?
私は、中小企業活性化協議会(旧:中小企業再生支援協議会)や信用保証協会の登録専門家として、開業後10年以上、再建計画や経営改善計画の策定支援を主な生業としてやってきました。10年間で、30社以上の計画策定支援をしてきました。
その経験から、再建計画は、メイン金融機関が主導して進めていくものがほとんどだと、認識しています。
残念ながら、会社側が再建計画に取り組みたくても、金融機関が乗り気でなければ、話が進みません。
メイン金融機関が、選定した再生案件を中小企業活性化協議会や信用保証協会に持ち込み、再建計画策定のプロジェクトが動き始めます。
だから再建計画策定に進むためには、金融機関から再建可能な企業であると認められる必要がありました。
コロナ禍において、金融機関はゼロゼロ融資など当面の資金繰り支援に注力してきました。再建計画の選定より、資金繰り支援に意識を向けてきたのです。
ただ、今回「再生支援の総合的対策」が策定されたことで、流れが変わり、今後再建計画策定の取組みは、増えていくでしょう。
今までは、コロナ禍で緊急避難的な意味合いから、再建計画がなくともリスケジュール(融資元金返済猶予:以下「リスケ」と略す)を受けられてきました。
しかし今後は、リスケ延長を申込むと、金融機関から「社長、再建計画を提出してください」と要請されるケースが全国的に増えてきます。
経済正常化に向かう中、金融機関は「再建計画のないリスケ融資債権」を、不良債権認定する必要がでてくるからです。
コロナ禍の特殊環境のため、再建計画がないリスケ債権でも、今までは、不良債権認定を免れてきました。
融資債権を不良債権認定すると、金融機関は貸倒引当金を積み増します。金融機関の利益が減るのです。
これは金融機関にとって、とても困ることなのです。
しかし、「実現性の高い抜本的な経営再建計画」を作ることは、ハードルが高い中小企業も多いでしょう。
その時は、金融機関から「405事業」や「ポスコロ事業」の活用提案があるかもしれません。
405事業とは、国が認める中小企業の支援専門家である「経営革新等支援機関」が再建計画(経営改善計画)の策定を支援する事業です。事業費の2/3が国から補助されます。
ポスコロ事業は、405事業のライト版です。損益計画を中心に将来3年程度の数値計画を作ります。事業費は405事業の1/10規模で、取り組みのハードルは低くなります。
この記事に「405事業とポスコロ事業の違い」について、詳しく説明しています。
【参考記事】405事業とポスコロ事業の違い
ポスコロ事業は、今まで融資とセットになっていませんでした。
そのため、ポスコロ事業を使うメリットが、いまいち見えづらかったのです。
しかし、今回の再生支援の総合的対策では、ポスコロ事業の数値計画を日本政策金融公庫の「資本性劣後ローン」の事業計画として活用できるようになりました。
資本性劣後ローンとは、融資でありながら資本的な意味合いをもつため、金融機関が資本として判定する融資のことです。
資本性劣後ローンを受けても、金融機関の融資審査で融資だと判断されないため、追加融資枠が確保できるメリットがあります。
(以下「再生支援の総合的対策」抜粋)
5. 政府系金融機関による支援の強化
1. 日本政策金融公庫等の「コロナ資本性劣後ローン(限度額15億円)」を本年6月末まで延長【再掲】
2. 日本政策金融公庫等による経営改善支援
⚫ コロナ特別貸付の返済時に経営が悪化している事業者に対しては、関係機関と連携して早期の経営改善支 援を行う。3. 「早期経営改善計画策定支援」を活用した日本政策金融公庫等のコロナ資本性劣後ローンの活用促進 【24 年3月】
⚫ 早期経営改善計画策定支援を通じて策定した事業計画を、コロナ資本性劣後ローンの申込時に必要な事業 計画(民間金融機関による協調支援なしの場合)として活用できるようにすることで、小規模事業者の資本 性劣後ローンの活用を促進する。
(ここまで「再生支援の総合的対策」抜粋)
資本性劣後ローンのメリット、デメリットについては、以下の記事に詳しいので、参考にしてください。
【参考記事】 資本性劣後ローンメリット、デメリット
以上お話ししてきたように、今後金融機関が再建計画策定の要請を強めてくることが想定されます。
しかしながら一方では、再建計画策定にあたって、中小企業は基本待ちの姿勢となります。
金融機関から再建可能企業として選定されなければ、話が進まないからです。
選定されやすい企業は、
✔ 自社で今出来る経営努力をしている
✔ 顧客に商品やサービスが支持されている
✔ 経営者や社員に経営再建意欲がある
✔ 経営再建の状況を金融機関に丁寧に継続的に説明している
✔ 決算書に悪質な粉飾がないなど、情報公開がオープンである
✔ 税金や社会保険料の滞納がない
このような条件が整っていれば、今は業績が厳しくとも、金融機関から再建計画策定の要請が出てきます。
金融機関から要請があれば、経営再建のチャンスと捉え、再建計画策定に取組むと良いと思います。
そのために経営者は、日頃から準備をしておきたいものです。
以上、「再生支援の総合的対策発表の影響」について、お話しました。
今後の貴社の財務改善にお役立ていただけますと幸いです。
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