【この記事で分かること】
・資本性劣後ローンの融資条件、対象企業
・資本性劣後ローンのデメリット
・資本性劣後ローンが広まっていくための条件
【はじめに】
新型コロナで消失した売上。一方、人件費や家賃は固定費ですから、売上ゼロでも発生します。仮に1か月の固定費が1,000万円で3か月売上がほぼなければ、3,000万円は赤字ということ。
この赤字資金を通常の融資で調達すれば、毎月の元金返済の存在により、いずれ資金繰りが厳しくなります。そこで今日のお話。資本性劣後ローンの出番です。
金融借入金を資本金のように扱うことで、毎月の元金返済負担を抑え、当面の資金繰りを落ち着かせます。以下の内容を確認し、導入を検討してみてください。
令和2年11月10日 中小企業診断士 和田 健一 プロフィール
(ココから本文です)
【目次】
第一に劣後ローンとは、返済順位が低い債務のことをいいます。
つまり、融資を受けた企業が返済不能になったとき、通常の金融借入金より返済の優先順位が低い融資です。
例えば、ある会社が倒産して他の債務を返済し終わった後、仮にまだ資産が残っていれば、ようやく劣後ローンの返済となります。
資本性劣後ローンとは、資本金的意味合いが強い融資であり、資本性劣後ローンと呼ばれています。
要するに、劣後ローンは必ずしも返済されるわけではないため、債務というよりは株式資本のような印象を持たれることが少なくありません。
前提として劣後ローンは債務であるため、帳簿上は債務として処理されます。
しかし株式のような性質を持っているため金融機関からは自己資本の一部として扱われるのです。
そのため『資本性劣後ローン』と呼ばれることも多くあります。
資本性劣後ローンで融資を受けるメリットは大きく分けると3つあります。
① 期限一括償還であり、長期間元金返済がない(例;日本公庫国民生活事業;返済期日は、5年1か月、7年、10年、15年、20年;貸付限度額は7,200万円)。
② 民間金融機関が、資本性劣後ローンを自己資本とみなす(償還期限5年超の部分)ため、財務評価が高くなる。その結果、民間金融機関から追加支援を受けやすい(※ただし償還期限の5年未満からは1年ごとに20%づつ資本とみなせる額が減少)。
③ 導入に、専門家による事業計画策定がセットになり、融資実行後のモニタリングも定期的に実施されるため、単なる一時的な資金繰り支援にとどまらず、経営再建に向けたスタートが切れる。
というのが利点です。
一方資本性劣後ローンで融資を受けるデメリットも見ておきましょう。
① 金利負担が大きくなる可能性
金利が業績連動タイプであり、借入後、4年目以降黒字が出た場合は、通常融資と比較して金利が高くなる(ただし赤字期間中は0.5%)
(例;令和3年10月現在;日本公庫国民生活事業の場合 当初3年間0.5%、4年目以降黒字の場合、2.6%(5年1か月・7年・10年返済)、2.7%(15年返済)、2.95%(20年返済)金利負担が発生します。現状であれば、新型コロナウィルス感染症特別貸付(日本公庫)を受け、据え置き期間5年を選んだほうが、当面は元金支払いが発生しませんし、金利負担はトータルで少なく済む可能性があります)。
② 返済時に多額の資金
期限一括償還ということは、メリットである反面、返済期日に多くの返済資金を用意する必要がある(※5年を超えれば、手数料ゼロで期限前弁済可能)。
③ 手続きのハードルが高い
申込みに、再建に向けた綿密な経営計画書提出(※国民生活事業の場合は、原則として認定支援機関の経営指導を受けて事業計画を策定した事業者)や、民間金融機関の融資セットを求められ、新型コロナウィルス感染症特別貸付と比較して、手続きのハードルが高い(新型コロナウィルス感染症特別貸付は、申込書類が簡易で、民間融資セットが条件ではない)。
④ 実行後の事務負担
仮に資本性劣後ローンが、実行された場合も、定期的な実績報告や不振が続いた際の計画の修正が求められるなど、通常融資と比較して、会社側の事務負担が大きい。
ということです。
業績が良いときに、金利負担が高くなるのは、通常融資と逆の考え方です。
通常融資の場合は、業績の良い企業が低い金利で融資を受けられますから。
資本性劣後ローンの金利は、株式の配当金の様なイメージ(利益が多く出れば多く配当する)になります。ただしあくまでも支払利息であり、損金処理できることが配当金と違うところです。
赤字だと、金利が低くなります(例;日本公庫国民生活事業 赤字の場合 1.05%)。
日本政策金融公庫や商工中金が、「新型コロナウィルスの影響で資金が不足するスタートアップ企業」や、「一時的に財務が悪化し企業再建に取り組む持続可能な企業」に対して融資を実施します。
通常の融資とは異なる、資本性劣後ローン。
どのような企業が支援を受けることができるのでしょう。
① 雇用や地域経済への影響などが大きい企業や成長が期待できるスタートアップ
② キラリ、事業の強みをもちながら過剰債務で苦しんでいる企業(過剰債務問題を解決すれば立ち直る)
③ 資本性劣後ローンを導入することで、立ち直りが期待される企業
④ 民間金融機関が経営再建を積極的に支援している企業(原則としておおむね1年以内に、民間金融機関から出資または融資による資金調達が見込まれること)
⑤ 経営情報や財務状況に対して、情報開示の姿勢がオープンな企業
⑥ 支援実施後の業績定例報告など、ガバナンス強化に対応できる企業
⑦ 経営者が覚悟を持って経営再建に取り組む意思をもっている企業
でかつ、新型コロナウィルスの影響で一時的に業績が悪化していること、などが要件になると考えます。
いずれにしろ、民間金融機関であるメインバンクの積極的な支援姿勢が求められます。
メインバンクが、「この企業を何とか支援したい」と、強く感じていることがポイントです。
よって、通常融資のように企業側から申請するのではなく、メインバンクからの提案により導入することが多くなるでしょう。メインバンクから日本政策金融公庫や商工中金への取り次ぎが想定されます。
令和2年8月25日付日本経済新聞によると、受付が開始しても、申込が殺到している状態ではないようです。
手続きが煩雑なため通常融資の方が機動的に活用できることと、企業経営者からの認知度が不足していることが原因として考えられます。
政府系金融機関の現場職員からすると、通常融資と比較して、審査や事後管理に手間がかかるため、本音ではあまり取り組みたくない業務である可能性もあります(従前から、資本性ローンという制度は政府系金融機関にありますが、認知度が低く、あまり活用されていません)。
そのため、制度の利用拡大のためには、民間金融機関が融資先に財務改善策として提案していくなど、財務コンサルティングの一環として、主体的に動いていくことが大切です。
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