【この記事で分かること】
・ 値上げの手順
・ 値上げの根拠計算方法【計算シートサンプル;例題あり】
・ どれぐらいの利益を原価に加えるべきか
・ 値上げ交渉に関する人件費の考え方
【この記事のポイント】
✔ 人件費、水道光熱費、原材料が上昇している昨今、値上げをしないと赤字になるのを分かっていながら、あなたが踏み切れないのは、値上げによる顧客離れを恐れているから。
✔ 怖がって値上げの判断が遅れるのは、自社の原価(現状だと、どれだけ赤字を生むか)という重要項目を把握できていないことが原因である。この記事では例題を使い、実際の値上げ根拠計算方法を説明する。
✔ 必要利益は40%。なぜなら、原価以外に、間接経費を支払う必要があるため。経営者は、この間接経費の考え方を失念することが多い。
✔ 人件費分の値上げ交渉については、公正取引委員会が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を出しており、交渉の参考にすると良い。
✔ 埼玉県が公開している「値上げ交渉支援ツール」を使えば、説得力が高まる。
では、詳しく見ていきましょう。
コンサル現場では、値上げに苦慮する経営者をたくさん見ます。
経営者は、値上げによる顧客離れを心配しています。
私は中小企業は今、値上げを本格的に検討する時期だと感じていますが、経営環境も様々ですから、悩んでしまうことも理解できます。
そこで今日は、「値上げ」について、一緒に考えてみたいと思います。
【目次】
コロナやウクライナは、人手不足、原料不足、物流費上昇を引き起こし、人件費も燃料費も電気代も材料費も運送費も上がっています。
こうしたコスト上昇の中で、販売価格を据え置くと、赤字になります。
赤字なのに事業が続けられているのは、銀行から借入をしているか、政府や行政から給付金がでているからか、以前の蓄えを切り崩しているか、経営者が個人資産を投入しているか、だからです。
でもいつまでも続きません。
どこかのタイミングで、販売価格の改定、「値上げ」をする必要が出てきます。
経営者が値上げを迷うのは、①値上げにより顧客が離れるのを恐れるため②収支などの数字が頭に入っていないため、です。
値上げするとお客さんがもう買ってくれないかも、、、。
漠然とした不安が経営者の行動を遅らせます。
扱っている商品やサービスが日用品など生活必需品でなければ、不安になる気持ちも分かります。
次に、収支を把握していないため、販売価格設定など経営判断が遅れるケース。
「取扱い商品の原価はいくらか」、きちんと把握できていない場合に、発生します。
おそらく儲かっているだろうと、推測で経営しています。
しかし、「原価を拾ってみれば、実は赤字だった」、ということも起こりがちです。
これはまずい状況です。
販売価格に原価が紐づけられないのには、理由があります。
どの原価をどういうルールで紐づけするのか、社内で決めていないからです。
このように、値上げをタイムリーにできないのは、①顧客離れが不安②収支を把握できていないことが原因です。
今回は、値上げ根拠の計算法を重点的に見ていきましょう。
原価(値上げ根拠)を把握する方法を具体的に考えます。
例えば、食料品製造業(販売先は事業会社;BtoB)の場合は、以下の様なシートで原価を計算します。
✔ 抜き出しが必要な原価項目はなにか、
✔ どの単位で把握するのが良いか、(㎏あたりか、ダースあたりか、㍑あたりか、など)
✔ 目標利益率はいくらにするか、
✔ 目標に対して今どれだけ利益が取れているか、
を把握することで、販売先と数値を根拠に値上げ交渉をします。
(値上げ根拠計算シートは、表のうえでクリックすると拡大します。可能なら印刷して会社の状況に合わせて原価項目を増やしたり、減らしたりして、ご活用ください)。
【値上げ根拠計算シート;サンプル】
例えば、単位当たりの材料費が把握できていれば、材料費が上がった分だけ、素早く値上げ交渉ができます。
以下例題として、柑橘ジュースについて値上げ根拠を計算してみます。
例題会社は、柑橘ジュースを1ダースあたり6,000円で卸しています。この価格設定は適正でしょうか?
記事のために作成した架空の数値です。考え方の参考として活用ください。
(値上げ根拠計算シート;例題は、表のうえでクリックすると拡大します。可能なら印刷してご活用ください)。
【値上げ根拠計算シート;例題】
上記の例題会社は、1ダース6,000円で販売先に卸しています。
確かに原価合計5,122円に対して、878円利益が出ていますが、この利益では不十分です。
⑭の通り、利益は40%(3,415円)が理想です。
1ダースあたり、2,537円、率にして42.3%の値上げ交渉が必要なのです。
なぜ利益が40%も必要なのか。
上記計算シートには、直接原価しか含まれていないからです。
あなたの役員報酬、事務所の家賃、運送人件費、事務員の給与、営業車経費、接待交際費、広告宣伝費、通信費、間接部門従業員の社会保険料、銀行の借入金利息、税金、その他もろもろの間接経費は計算シートのなかに含まれていません。
利益40%の中で、これらの間接経費支払をする必要があるのです。
経営者からは、たびたび間接経費の考え方が抜け落ちます。
値上げ根拠計算シートにおいて原価を正しく把握するために、以下の内容を抜き出します。
①工程ごとの労務費
・どの工程にどれだけの労務コストがかかっているか
・工場従業員の社会保険料はいくらか
・自社配送の場合、運送の人件費も追加する
労務費分の値上げ交渉については、公正取引委員会が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を出しています。
原材料価格やエネルギーコストのみならず、賃上げ原資の確保を含めて、適切な価格転嫁による適正な価格設定をサプライチェーン全体で定着させ、物価に負けない賃上げを行うことは、デフレ脱却、経済の好循環の実現のために必要である。その際、労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠である。
令和5年11月29日 内閣官房 公正取引委員会
詳しくは、こちらを参照下さい(公正取引委員会Webサイト)。
☟
②材料費
・材料代は、単位当たり、何にどれだけかかっているか
・包装資材は何にどれだけかかっているか
③原価を構成する項目は何か
・製造のための機械のリース料や減価償却費は年間どれだけかかっているか
・水道光熱費はどれだけかかっているか
④外注費
・外注を活用してる工程はあるか
上記のような項目を抜き出し、値上げ根拠計算シートを正しく作成する必要があります。
中小企業庁が、値上げの手順や必要書類について、詳しく説明している資料を公開しています。リンクを貼っておきますので、参考にしてください。☟
【改訂版】 中小企業・小規模事業者の 価格交渉ハンドブック(令和6年2月)
埼玉県庁が無料で使える値上げ交渉支援ツールを発表しています。
支援ツールを使うと、日銀が公表する807品目の国産品と375品目の輸入品の価格など、計1,420項目の価格やサービス料金を調べられるほか、2020年以降の増減率を簡単にグラフにできます。
こうしたツールを使い、値上げの根拠を販売先に示して、交渉に臨むと説得力がでます。
☟
以上、「値上げにどう取り組むか、計算根拠の考え方」について、お話ししました。参考いただけますと幸いです。
この記事の様なことで悩んでいる経営者のあなた。お問い合わせはこちらから☟