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「経営者保証」はどう変わるか? ~中小向け融資 金融機関に説明義務~

いままで銀行や信用金庫など金融機関から融資を受けるとき、社長が保証人になること、いわゆる「経営者保証」は、当然のことでした。

後継者に代替わりしても、先代は引き続き保証人のまま。

いつまでたっても、引退した気分にならず、気が休まりません。

本当は、銀行員や信金職員が新規融資の際、経営者保証ガイドラインに基づき、保証を必要としないケースや保証解除の基準を説明しないといけないのですが、長年の慣例でおざなりになっています。十分説明しないことも多いようです。

ただ、最近「経営者保証」に関して、金融機関の方針も変わってきたようです。

社長自身も経営者保証について理解しておく必要があります。

変わってきた「経営者保証」。

今後の動向や注意のポイントについて、話してみたいと思います。

 

経営者保証

 

経営者保証制限の方向

金融機関を指導監督する官庁、金融庁。

監督指針改正案で、中小企業向け融資の「経営者保証」の慣例を見直します。

経営者個人に信用保証を負ってもらう場合は、金融機関が会社に対して「具体的な理由」を説明するよう義務付けする内容で、事実上制限を加える規制となります。

金融機関は理由を説明したことを記録したうえで、①金融庁に報告すること、②ディスクロージャー誌などで取り組み方針を公表すること、を要請します。

2023年4月から開始されます。

金融庁は過去にも、2011年に「第三者保証人」の原則禁止の要請を金融機関に出しました。制度改定から10年が経過し、今では第三者保証を求められることはほとんどないと思います。

 

説明義務の「具体的内容」とは

金融庁が金融機関に説明を求める「具体的な内容」とは、どのようなことでしょうか。説明します。

【経営者保証を外す要件】

①「法人・個人の区分・分離」

②「財務基盤の強化」

③「適時適切な情報開示」

の観点で、

「どの部分が十分でないために、保証契約が必要になるのか」

「どのような改善を図れば、保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」

について、具体的な説明が融資先に必要となり、説明したことを記録し金融庁に報告・対外的に公表する必要が出てくるのです。

そのため、あなたの会社が上記①、②、③を満たしていれば、経営者保証(社長の保証参加)を求められることがなくなります。

 

経営者保証で問題となるポイント

経営者保証を求められるポイントが明確になったことで、あなたが注意しないといけない、改善ポイントもはっきりしました。①から順に説明します。

①「法人・個人の区分・分離」

役員貸付金(会社から社長がお金を借りていること)、役員借入金(社長が会社にお金を貸していること)が社会通念上の基準と比較して多額になれば、法人・個人が分離していないとみなされます。特に役員貸付金は、厳しい評価の材料となるため、減らしていく必要があるでしょう。

【関連記事】銀行員は、決算書の「代表者勘定」をこう見ている ~役員借入金、役員貸付金 本当の評価~

 

・法人で使用している不動産(土地や工場など)が社長名義となっており、法人と個人で家賃のやり取りがあると、一体とみなされます。可能なら権利関係を整理することも視野に入れる必要があります。

※ただし、上記に該当する場合でも経営者保証免除の可能性はあり、会社の財務内容や返済状況などを加味して金融機関の対応はケースバイケースだと想定されます。

②「財務基盤の強化」

・法人のみの収益力や資産で、金融機関借入金の返済が可能かどうか判定されます。そのため、返済財源となるキャッシュフロー(利益+減価償却費)で金融機関借入金の毎月返済金が補える財務運営に努める必要があります。

【参考記事】自社の決算書から、長期借入金の返済能力を判断する簡易な方法

 

③「適時適切な情報開示」

・粉飾のない正確な決算書の提出はもちろん、最新の試算表の迅速な提出など、財務体制の透明化が求められます。特に試算表がなかなか出来上がらない場合(月末1か月以内)は、事務体制に改善の余地があるため、事務経理体制を整備する必要があります。

【参考記事】銀行が試算表提出を求めてきた~試算表で何をチェックしているのか~

 

経営者保証を求めない融資の具体的基準

加えて中小企業庁は、経営者保証を求めない融資の具体的基準を公表しました。

先ほどお話しした②「財務基盤の強化」の場合は、

❶ EBITDA(イービットディーエー)有利子負債倍率が15倍以内

※EBITDA有利子負債倍率=(借入金+社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)

 

❷ 減価償却前の経常損益が2期連続赤字ではない

※減価償却前経常損益=経常損益+減価償却費

 

❸ 純資産額は直近が債務超過でない

※純資産額とは、貸借対照表右下の「純資産の部の合計額」。債務超過とは「純資産の部の合計額がマイナスであること」

の3点が目安になります。

 

先ほどお話しした③「経営の透明性の確保-適時適切な情報開示」の場合なら、

❶ 経営者は日々、現預金の出入りを管理する。終業時に金庫やレジの現金と記帳残高を一致させるなど、収支を確認する

などが具体的行動例となります。

 

新たなルールは強制ではなく、金融機関が使うかどうかは任意となります。

しかし、具体例が出てきたことで、経営者は「どのような点をどれぐらい改善すれば経営者保証が不要となるのか」、イメージしやすくなりました。

経営者保証が不要な融資を受けられるよう財務を改善していくことはすなわち、会社の財務力向上を通じて経営が安定することを意味します。

 

事業承継時の経営者保証

会社を後継者にバトンタッチした場合の「経営者保証」はどうなるのでしょう?

従来は、後継者(新経営者)が保証参加することに加え、旧経営者は引き続き保証人となる、「二重保証人」の場合がありました。

しかし、後継者に問答無用で保証参加を求める金融機関の慣例が、保証参加を嫌がる後継者の困惑を生み、その結果事業承継を難しくする事例が増えてきました。

そのため、現在金融機関は、政府主導で2014年5月に策定された「経営者保証ガイドライン」に基づき、「経営者保証に依存しない融資」を促進しています。

事業承継時の旧経営者、後継者(新経営者)に対しての対応は、以下の通りに変わってきています。

【旧経営者に対して保証を解除するケース】

✔実質的に経営から退く

✔会社から借りているお金(役員貸付金)がある場合、全額返済する

✔旧経営者が提供していた担保見合いのものを後継者が新たに提供する(会社財務が悪く返済能力が乏しい場合)

【後継者の保証を求めないケース】

✔旧経営者の保証契約の解除につき、旧経営者の実質的な経営権の有無、債権の保全状況、会社の資産・収益力による借入返済能力を勘案して、経営者保証の必要性を適切に判断

保証の必要なしと判断すれば、後継者の保証を求めない

上記に加え、原則として旧経営者・後継者の双方から経営者保証の二重徴求を行わない、としています(事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則)。

 

廃業時の経営者保証

今まで、会社が厳しい状態の中で廃業する場合、保証参加している社長も破産宣告することが多くありました。

この点も、経営者保証ガイドラインの枠組みの中で、変わってきています。

現在は、会社が廃業しても、保証人は個人破産を回避できることがあります。

これは、全国銀行協会がホームページの「経営者保証ガイドライン」の項目で公表していることです。

社長にはあまり知られていません。

 

銀行協会発表の内容に基づき説明します。

以下の様なとき、「経営者保証ガイドラインに基づく保証債務整理の対象」となりえます。

【保証債務整理の対象となるケース】

✔法人の法的整理手続きまたは、※準則型私的債務整理手続き※の申し立てを同時に行うか、係属中若しくは集結している
※中小企業活性化協議会による再生支援スキーム、事業再生ADRなど

✔金融機関において、法人の債務整理及び保証債務の破産手続きによる配当よりも多くの回収を得られるなど、経済合理性が期待できること

✔経営者に破産法に定める免責不許可事由が生じていないこと

このようなとき、弁護士等の専門家の弁済計画を受けて、金融機関は以下の対応を検討します。

【金融機関が検討する措置】

① 経営者の手元に残す資産の範囲の検討
・破産手続きにおける自由財産に加えて、一定期間の生計費や華美でない住宅等を手元に残すことの検討

② 弁済計画における分割返済
・残存資産以外の保有資産を処分・換価して、自宅には住み続けられるようにするなど、資産を処分しないことを検討

③ 保証債務の免除
・経営者が誠実に資力を開示する場合には、残存する保証債務の免除要請について誠実に検討

④ 信用情報機関への登録
・経営者保証ガイドラインにより保証債務の整理を行った場合、信用情報機関への登録は行われない(ブラックリストに乗らない)

つまり、弁済計画が認められ、「経営者保証ガイドラインに基づく保証債務整理の対象」となれば、業績不振で会社が廃業しても、社長に再チャレンジや(華美でない)生活維持のチャンスが残るということです。

ポイントは、

資産の劣化ができるだけ少ない時点で、早めに金融機関や支援機関に相談すること、

あらかじめ資産を隠したり逃がしたりなど、誠実性を欠いた行動を取らないこと(これをすると金融機関からの信用を大きく失う)、

です。

 

経営者保証の相談窓口

お話ししてきた経営者保証の相談窓口は、取引金融機関となっています。

ただ、判断が難しいケースで中立性や客観性を求めたいなら、公的機関に相談することをお勧めします。

各地区の中小企業基盤整備機構、または中小企業活性化協議会が良いでしょう。

いずれも公的機関で経営者保証に関する専門の窓口を設けており、第三者的な立ち位置で、相談に乗ってくれると思います。

以上、経営者保証の今について、お話ししてきました。

 

基本的には、事業承継の問題から、経営者保証はできるだけ取らない方向に向かっています。

また少しづつですが、廃業後の再チャレンジを支援する機運も高まっています。

この記事が、経営者保証について考える機会になれば幸いです。

 

あとがき

銀行員時代は、融資担当としてあたりまえのように「経営者保証」をお願いしてきました。

その当時の銀行員の保証人に対する考え方は、「経営者保証を嫌がる経営者には、怖くてお金が貸せない」でした。

しかし、2014年に策定された「経営者保証ガイドライン」の策定により、銀行員の経営者保証に関する考え方も変化しました。

更に2023年からは、お話ししたように更に踏み込んで経営者保証制度が変わります。

一方、会社側も良い融資取引条件を得るため、会社財務を磨き上げていくなど、自助努力が必要となります。

引き続き、経営者保証制度の行方を注視していきたいと思います。

 

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