今回は、「事業デューデリ:うち内部環境分析」について考えます。
【目次】
事業デューデリとは、事業面での現状分析です。経営再建計画策定支援のプロジェクトの中で、最も重要な作業になります。
※事業デューデリとは:会社の事業を詳細に調査し、理解するプロセス。主要な事業活動、市場競争力、戦略、顧客との関係、将来の成長見通しなど、多岐にわたって分析・調査を行う。
私が行う事業デューデリは、4部構成です。
✔ 内部環境分析
✔ 外部環境分析
✔ SWOT分析
✔ 結論
今日はそのうち最初のステップ「内部環境分析」ついて、お話しします。
私は10年以上、経営再建計画策定支援を本業としてやっています。
事業デューデリで大切なのは、外部環境分析ではなく、内部環境分析です。
※内部環境分析とは、会社の内部について詳細に分析すること。外部環境分析とは、属する業界の市場動向について分析すること。
かける力量は、2つを比較すると、内部環境分析9割、外部環境分析1割です。
この業界でやっていると、他者が作成した事業デューデリに接することがあります。
その中で、インターネットから引っ張ってきたような外部環境分析のレポートを見ることがありますが、枚数だけ多くて中身はスカスカです。
業界の過去動向がどうとか、全国的な市場規模がどうとか、何ページにもわたり説明していますが、会社や融資先金融機関が知りたいのは、そんなことではありません。
外部環境分析は、Excelシート1~2枚で十分です。
多くの労力は、内部環境分析に振り向けます。
内部環境分析の構成は、会社の状況により臨機応変に変えていくのですが、基本的には以下です。
【事業デューデリ:内部環境分析の調査項目】
①会社の経歴
②組織図
③ビジネスモデル俯瞰図
④関係者相関図(グループ会社・役員⇔会社との関係を図示)
⑤損益計算書分析(過去5~10年):分析年数は会社の規模や状況による
【参考記事】決算書を理解して会社を成長させる【基本編】~①損益計算書の読み方3つのポイント~
⑥貸借対照表分析(過去5~10年)
【参考記事】決算書を理解して会社を成長させる【基本編】~②貸借対照表の読み方3つのポイント~
⑦キャッシュフロー計算書分析(過去5年程度)
【参考記事】中小企業に役立つ!キャッシュフロー計算書の作り方、読み解き方
⑧製造・工事・運送原価分析(過去5~10年):製造業、建設業、運送業の場合
⑨一般費および販売管理費分析(過去5~10年)
⑩販売先一覧と販売先ごとの売上高の推移(過去3年)
⑪仕入先一覧と仕入先ごとの仕入額の推移(過去3年)
⑫事業部門別収支分析(過去3年)
⑬店舗別収支分析(過去3年)
⑭商品別収支分析(過去3年)
⑮取引先別収支分析(過去3年)
⑯金融機関別借入金の状況(金融機関名、残高、金利、返済額、融資実行日、最終期日、融資制度名、信用保証の有無)
⑰リースの状況(リース会社、リース物件、投資額、支払額、最終期日)
⑱人件費の状況(部署ごとに人件費の支出状況を確認:過去3年間)
⑲担保物件の状況(不動産担保、信用保証の状況を金融機関ごとに集計)
【参考記事】銀行融資と担保の確認フォーマット
⑳在庫の状況(不良在庫の確認)
㉑固定資産(設備)の状況
㉒工場や店舗の状況
㉓物流フローの確認
㉔実態バランスシート
※実態バランスシートについてはこちらの記事が詳しい
【参考記事】実態バランスシートの作り方【前編】~資産の部の補正方法と不良資産の見分け方~
【参考記事】実態バランスシートの作り方【後編】~負債の部、純資産の部はこう作る~
㉕今期の業績推移と見通し
上記が基本ラインで、状況に応じて項目を追加していきます。
事業デューデリには、事業の流れを分析したり、SWOT分析をしたり、が中心で、財務デューデリと比較して数字との関りが薄いイメージがあるかもしれません。
しかし、それは間違いです。
財務デューデリはどちらかというと、粉飾決算がないか、正しく決算書が作成されているかなど、決算書の正当性を分析することが主体となります。
一方で事業デューデリは、より深く事業内容を数字で捉えていくアプローチが重要です。
数値根拠を示しながら、経営課題や改善方向性、窮境原因、窮境原因除去可能性を説明していきます。
例えば、
✔ 粗利が低下傾向ですけど、売上シェアが〇%のA商品の商品の粗利が3年間で〇%下落しているからです。
✔ 売上高人件費の比率が上がっていますね。店舗別にみると、この店舗が売上高に占める人件費が〇%上昇しています。売り上げに占める人員が過剰になっています。
✔ 売上シェア〇%を占めるB社ですが、取引先別収支を確認すると、粗利は低いですね。必要な粗利を得るためには、B社と〇%の値上げ交渉が必要です。
✔ 事業部門別にみると、C部門が黒字幅を〇%伸ばしている反面、D部門は赤字になっていますね。赤字幅も増えています。D部門は、撤退縮小、人員配分、価格見直し、などの対策が必要です。C部門にはもう少し予算を配分して、伸ばしていくと良いでしょう。
✔ E部門は、過去3年の間に〇%退職率があがっています。E部門の中で何か問題が発生している可能性があります。E部門の社員と意思疎通を密にしたほうが良いのではないですか。
このように、数値を根拠にした現状分析と今後の対策を明確化します。
数値根拠がなく、抽象的な内容で事業デューデリを作成してしまうと、会社からも金融機関からも評価は得られません。
数値根拠のしっかりした事業デューデリを完成させるためには、「内部環境分析」のステップが大切なのです。
あなたが作る経営再建計画が、金融機関に通用しないとしたら、それは前回お話しした通り、事業デューデリができていないからです。
事業デューデリができないのは、数値計画やアクションプランに注意が向いて、事業デューデリの重要性を理解していないからです。
事業デューデリに意識が向けば、時間はかかりますが、高品質の事業デューデリを作れるようになります。
私は1社あたり事業デューデリに3~4か月を費やします。それぐらいの時間と手間と熱意が必要です。
税理士や公認会計士は、本業である記帳、税務、監査業務の忙しい合間を縫って、経営再建計画策定に取り組んでいます。経営再建計画策定に集中することは難しいかもしれません。そのため、事業デューデリまで手が回らないことが多いようです。
もしあなたが経営再建計画策定を本業にするのなら、税理士や会計士とは投入する時間が違うため、成果物(事業デューデリ、経営再建計画)の品質で勝負しなければなりません。
繰り返しますが、高品質の事業デューデリを作るためには、内部環境分析が重要です。
的確な内部環境分析を行うためには、会社の協力が必要です。
資料の提出や事業内容の聞き取りなど、本業で忙しい中、会社側には手間がかかります。
口に出さなくても、「めんどくさいな」「そんなものまで必要なの?」と感じているかもしれません。
そこで、早い段階で、会社側と信頼関係を築くよう努力します。
提出を受けた資料を基に、会社に役立つ分析や社長が気付いていない視点を用意して、次回面談に臨みます。
また社長以外に、会社の業務に詳しいキーパーソンが存在すれば、協力をお願いします。
キーパーソンは、自分が会社を良くする腹案を持っていても、なかなか面と向かって社長には言いづらいものです。
第三者の専門家を仲介役にして、自身の改善策やアイデアを提供できることに、意義を見出してもらいます。
社長やキーパーソンを味方につけることが、的確な内部環境分析を進めるポイントとなります。
以上、「事業デューデリ:内部環境分析」について、お話しました。
今後の貴社の財務改善にお役立ていただけますと幸いです。
次回は、事業デューデリについてもう少し詳しく、「経営再建計画|事業デューデリ:外部環境分析」について、お話しします。
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