「損益計算書(P/L)、どこをどう見れば経営に役立つの?」
「利益が出ているかだけでなく、もっと深く内容を理解したい」
「損益計算書を読む上での、重要なポイントを知りたい」
会社の経営成績を示す重要な財務諸表である損益計算書。多くの経営者の方が、売上高や最終的な利益(黒字か赤字か)は確認されていることと思います。しかし、ただ数字を眺めているだけでは、経営改善に繋がる本質的な課題を見つけることはできません。
「損益計算書 読み方」には、経営実践に役立てるための重要なポイント(「損益計算書 ポイント」)があります。
この記事では、ここ愛媛県をはじめ多くの中小企業をご支援してきたコンサルタントとして、損益計算書を単なる成績表で終わらせず、経営改善に活かすための具体的な読み方・分析の3つのポイントについて、架空の会社(A社)の例も交えながら解説します。
まず、分析に入る前に損益計算書の基本的な構造と、そこに登場する主要な利益の種類を確認しましょう。
会社の「儲け」の成績表
損益計算書(P/L: Profit and Loss Statement)は、一定期間(通常は1年間)における会社の経営成績、つまり**「どれだけ収益を上げ、どれだけ費用がかかり、結果としてどれだけ利益が出たか(または損失が出たか)」**を示す書類です。
主要な利益とその意味 (損益計算書 利益)
損益計算書では、利益が段階的に計算されます。主な利益とその意味合いは以下の通りです。(例として、架空の食料品小売業A社の損益計算書を見てみましょう。)
(A社の損益計算書サンプル )
(解説:売上高から始まり、売上原価、売上総利益、販売管理費、営業利益、営業外損益、経常利益、特別損益、税引前利益、法人税等、当期純利益と計算される流れを示す)
1. 売上総利益(粗利): 売上高 – 売上原価。商品・サービス自体の基本的な儲けを示します。
2. 営業利益: 売上総利益 – 販売管理費。会社の本業による儲けを示します。これがマイナスだと「営業赤字」です。
3. 経常利益: 営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用。本業の儲けに、受取利息や支払利息などの財務活動等による損益を加味した、会社の経常的な(=通常の)収益力を示します。
4. 税引前当期純利益: 経常利益 + 特別利益 – 特別損失。経常的な利益に、固定資産売却損益などの一時的な要因を加味した利益。
5. 当期純利益: 税引前当期純利益から法人税等を差し引いた、最終的な会社の利益。
ただ損益計算書を眺めるだけでなく、経営改善に繋げるためには、以下の3つのポイント(「損益計算書 ポイント」)に注目して分析することが重要です。これには、電卓などを使ってご自身で簡単な計算(率の計算)を行うことが必要になります。
ポイント①:「粗利率」で収益性の本質を見る
・確認方法: まず「売上総利益(粗利)」の額を確認します。次に、必ず「粗利率」を計算します。
‣ 計算式: 粗利率 (%) = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
‣ A社の例: 114,000千円 ÷ 300,000千円 × 100 = 38.0%
・分析の視点:
‣ 時系列比較: 過去(最低でも前期、できれば3~5年)の自社の粗利率と比較し、**傾向(改善しているか、悪化しているか)**を見ます。
‣ 同業他社比較: 自社の粗利率が、同業他社の平均的な水準と比較してどうかを確認します。(日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」などが参考になります ※「売上高総利益率」の項目)
・なぜ重要か: 粗利率は、商品・サービスの基本的な収益力を示す指標です。ここが低い、あるいは悪化傾向にある場合、値付けの問題、原価の高騰、商品構成の問題など、事業の根幹に関わる課題がある可能性を示唆します。
・A社のケース: 粗利率38.0%は、食料品小売業としては標準的な範囲であり、ここには大きな問題はなさそうです。
ポイント②:「人件費率」でコスト構造の要を掴む
・確認方法: 次に「人件費」の合計額を確認します。人件費には、役員報酬、従業員給与だけでなく、法定福利費(社会保険料の会社負担分など)や福利厚生費も含めて考えることが実態把握の上で重要です。そして、「売上高人件費比率」を計算します。
‣ 計算式: 売上高人件費比率 (%) = 人件費合計 ÷ 売上高 × 100
‣ A社の例: (役員報酬30,000 + 給料手当35,000 + 法定福利費15,000 + 福利厚生費3,000)÷ 300,000 × 100 ≒ 27.7%
・分析の視点:
‣ 時系列比較: 過去の自社の人件費率と比較し、傾向を見ます。
‣ 同業他社比較: 同業他社の平均的な水準(これも日本政策金融公庫のデータ等が参考になります ※「人件費対売上高比率」)と比較します。
‣ 粗利率とのバランス: **「粗利率-売上高人件費比率」が、他の経費(家賃、広告費など)を賄い、さらに営業利益を確保できる水準にあるかを見ます。これは「労働分配率(人件費÷粗利)」**という指標でも確認できます。
・なぜ重要か: 人件費は、多くの中小企業にとって最大のコスト項目の一つです。売上規模や粗利水準に対して人件費負担が重すぎると、利益を圧迫し、営業赤字の要因となります。適正な人員数か、生産性は見合っているか、給与水準は妥当か、といった課題が見えてきます。
・A社のケース: 同業平均(約20.6%)と比較して著しく高い(+7.1%)ことが分かります。これがA社の営業赤字の最大の要因である可能性が高いと推測できます。
[関連記事:人件費の適正額は?計算方法から経営への活かし方まで徹底解説 ]
ポイント③:「販売管理費」の内訳を精査し無駄を発見
・確認方法: 損益計算書(またはその内訳明細書)で、人件費以外の販売管理費(販管費)の各項目(地代家賃、広告宣伝費、旅費交通費、接待交際費、消耗品費、支払手数料、リース料、雑費など)の金額を確認します。
・分析の視点:
‣ 時系列比較: 過去と比較して、不自然に増加している項目はないか?
‣ 内容の精査: 特に**「支払手数料」「雑費」など、内容が不明瞭な科目に多額の費用が計上されていないか? 必要であれば「総勘定元帳」**を取り寄せ、具体的な支出内容を確認します。
‣ 必要性の判断: 各費用項目について、**「本当に必要な経費か?」「費用対効果は見合っているか?」「削減できる余地はないか?」**という視点で、聖域なく見直します。(同業比較データが少ないため、経営者自身の判断が重要になります)
・なぜ重要か: 販売管理費の中には、日々の業務の中で、慣習的に支出しているだけの無駄なコストや、見直すことで削減可能なコストが隠れていることが少なくありません。これらの無駄を一つひとつ潰していくことが、利益改善に繋がります。
・A社のケース: A社の例では販管費の内訳は省略されていますが、実際には人件費以外の項目についても、上記のような視点で精査していく必要があります。
[関連記事:会社のコスト削減 – 営業赤字脱却へ!具体的な方法と手順]
このように、損益計算書をただ眺めるのではなく、3つのポイント(①粗利率、②人件費率、③販管費内訳)に注目して分析することで、自社の経営課題がより明確になります。
例題A社の分析結果と対策の方向性:
・課題: 粗利率は問題ないが、売上規模に対して人件費負担が重すぎ、その結果、本業が赤字(営業赤字)となっている。経常利益は雑収入でカバーできているが、一過性の可能性が高く、本質的な解決にはなっていない。
・対策の方向性:
‣ 生産性の向上: 従業員一人当たりの売上高・粗利額を高める施策。(業務効率化、多能工化など)
‣ 粗利率の更なる改善: 付加価値の高い商品・サービスの開発・投入、価格戦略の見直し(値上げ交渉)。
[関連記事:【2025年版】値上げを成功させる!根拠資料の作成方法と交渉の考え方]
‣ 人件費の見直し: 適正人員への見直し、働きに見合った評価・報酬制度への変更。(慎重な検討が必要)
‣ 販管費の徹底的な削減: 人件費以外のコストについても、聖域なく見直し、削減努力を行う。
重要なのは、分析で見えてきた課題に対して、具体的な改善アクションプランを立て、実行に移すことです。
損益計算書の正しい読み方をマスターすることは、会社の健康状態を正確に把握し、的確な経営判断を下すための第一歩です。
・損益計算書 ポイントは、単に最終利益を見るだけでなく、①粗利率、②人件費率、③販売管理費の内訳を分析すること。
・「率」で比較(時系列、同業他社)することで、自社の立ち位置や課題が明確になる。
・分析結果を基に、具体的な改善アクションに繋げていくことが重要。
ぜひ、お手元の損益計算書を使って、今回ご紹介した3つのポイントで自社の状況を確認してみてください。きっと、経営改善のための貴重なヒントが見つかるはずです。
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この記事が、貴社の損益計算書の理解と利益改善の一助となれば幸いです。
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