(令和5年9月5日「人件費支給一覧表」、令和5年2月24日「人件費計算シート」を追加して、内容更新しました)
【この記事で分かること】
・自社の人件費水準を見るときのポイント【計算シート付】
・どうやって同業他社と比較すれば良いか
・人件費水準が高いとき、何が必要か
【この記事のポイント】
✔ 人件費の計算算式は、「人件費=役員報酬+給与+雑給+賞与+法定福利費」である。
✔ 様々な要因で売上が減少しても、人員削減、給与カットなどを実施しない限り、人件費は固定費として同額必要になるため、放置すれば赤字体質になってしまう。
✔ 人件費を判断する場合に大切な指標は、「労働分配率」「従業員一人当たり売上高」「売上高人件費比率」の3つである。
では詳しく見ていきましょう。
対面型の事業など、コロナ前に売上を戻すことが難しい状況が続いています。
売上が戻らなくても固定費として同額必要となるのが人件費。
政府の雇用調整助成金などで何とかしのいできた企業も、影響の長期化により厳しい状況となっています。
そこで今日は、人件費について少し考えてみます。
【目次】
人件費とは。
役員報酬や従業員(正社員およびパート・アルバイト)の給与、賞与などです。
意識から抜けがちなのが、社会保険料の会社負担分。月額給与支給額の約15%程度が会社負担分となります。
決算書には、「法定福利費」として記載されています。
この法定福利費が、役員及び従業員の社会保険料会社負担額です。
役員報酬、従業員給与(アルバイトは雑給)、賞与、法定福利費の合計が、あなたの会社の人件費と言えます。
人件費の計算は以下の算式で行います。
人件費=役員報酬+給与+雑給+賞与+法定福利費
【参考記事】【計算シート付】人件費を判定する3つの指標 ~経営者は何を基準に適正人件費を考えれば良いか~
以下のように、Excelシートを使って人件費支給一覧表を作成し、1年間どの社員にいくら支給したのか、見える化してみるとよいでしょう。金額欄には、給与台帳から「支給総額(社会保険料や各種手当を含む)」を入力すると、会社がいくら社員に支払っているのか明確に分かります。
また部門別に仕分けしてみると、どの部門にどれだけ配分されているのか再確認できます。
(表のうえでクリックすると拡大します。印刷してご使用ください)。
様々な要因で売上が減少しても、人員削減、給与カットなどを実施しない限り、人件費は固定費として同額必要になります。
ですから、業績不振局面において、人件費は赤字転落の要因となります。
経費には、固定費と変動費があります。
固定費とは、売上の増減に関わらず同じようにかかる経費です。
人件費、家賃、リース料などがあります。決算書の「一般費及び販売管理費明細」の多くが固定費です。
一方、変動費とは売上の増減に応じて、増減する経費です。
例えば材料費や現場経費、外注費などです。
仕入額や製造原価報告書の経費の多くが該当します(ただし製造原価の労務費は人件費であり固定費です)。
その名の通り、固定的な経費である固定費を、素早く削減することは、なかなか難しいものです。
経営者のあなたは、自社の人件費が適正か不適正か、関心が高いことでしょう。
以下、人件費が適正かどうか、判定方法を紹介します。
①労働分配率
計算式;
労働分配率(%)=人件費÷限界利益×100
※限界利益=売上高-変動費 (ただしこの記事では、簡便的に売上高-売上原価=粗利を≒限界利益として計算)
労働分配率を見ることで、利益に対して人件費がどれぐらい配分されているかが分かります。
労働分配率が高い会社は、利益に対して人件費過多となっており、対策が必要です。
あなたの会社の労働分配率は何%ですか?(後ほど計算シートがでてきますので、計算してみてください)。
②従業員一人当たり売上高
計算式;
従業員一人当たり売上高(円)=売上高÷従業員人数
※ただし、パート・アルバイトは0.5人として計算
従業員一人当たり売上高を見ることで、人件費と売上高のバランスが分かります。
決算書の売上高を従業員人数で割ればいいので、計算は比較的簡単です。
その時、経営者のあなたを頭数に入れるかどうか、判断が分かれます。
経営に集中していれば入れる必要がありませんが、現場作業に従事していれば、従業員人数に含む必要があります。
あなたの会社の一人当たり売上高はいくらですか?(後ほど計算シートがでてきますので、計算してみてください)。
③売上高人件費比率
計算式;
売上高人件費比率(%)=人件費÷売上高×100
売上高に占める人件費の割合を見ます。
業績不振時には、売上は減少するものの、人件費は固定費(人員削減や給与カットをしない限り)なので、売上高人件費比率が上昇します。そうなると、赤字になる可能性が高くなります。
売上高に占める人件費の割合を随時確認していないと、人件費負担が大きくなってしまいます。
経営判断が遅れ、業績が悪化します。
上記①労働分配率と②従業員一人当たり売上高③売上高人件費比率
出てくれば、何と比較するか。
一つは業界平均値との比較です。
税務ソフト会社であるTKCなどが労働分配率や従業員一人当たり売上高の業界平均値をネットで公開しています。参考でリンク貼ります。
株式会社TKCオフィシャルホームページ → https://www.tkc.jp/tkcnf/bast/sample/
業界平均値と比較して、自社はどうなのか把握してみます。
もうひとつは、過去の自社との比較です。
例えば過去5年の労働分配率、従業員一人当たり売上高、売上高人件費比率の数値を出してみて、時系列で推移を確認します。
人件費計算シート(フォーマット)を添付します。自社の決算書から数値を空欄に転記してみてください(表のうえでクリックすると拡大します。印刷してご使用ください)。
良くなっていますか?悪くなっていますか?
上記により、業界平均値、過去の自社数値と比較し、人件費割合が高ければ、人件費と売上がアンマッチということです。
①人件費を削減する
②一人当たりの人件費を下げる
③取扱高・単価を増やし、全体売り上げを増やす
④案件ごとの利幅を上昇させ、収益力を高める
などを実施し、人件費の割合を適正化します。
逆に、人件費の割合が低ければ、待遇アップや人員採用増加など、将来に向けた人材投資を検討します。
【参考記事】決算書を理解して会社を成長させる【中級編】~⑨中小企業の人件費基準|業界標準との比較~
人件費の割合が高かろうと、低かろうと、いずれにしろ、現状を把握しないと的確な対策は打てません。
自社の人件費の実態を把握することが、対策の第一歩なのです。
最後に、厚生労働省が発表している賃金統計を紹介します。
ここには、業種別に、性別、年齢別、企業規模別などの賃金の平均値が記載されています。
従業員の賃金決定の参考にしてはいかがでしょう?
厚生労働省;賃金構造基本統計調査 → https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450091&tstat=000001011429
この記事の方法で自社の人件費を調べてみたい方は、お手伝いしますので、お気軽に記事の最後の連絡フォームで連絡ください。
コンサル現場において人件費は、経営の根幹に関わるナイーブな問題です。
それぞれの会社で事情や歴史背景があり、数値や指標で片付けられないことも多々あります。
だだそれでも、分析や診断の結果そこが課題であると思えば、タイミングを見て経営者にはお話しします。
説明するときに、今回お話ししたような数字を使い、客観的に説明するようにしています。
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