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決算書を理解して会社を成長させる【中級編】~⑨中小企業の人件費基準|業界標準との比較~

いまさら聞けない「決算書の読み方」。

今回9回目は、【中級編】。

「人件費」の話です。

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「学び直し」にご活用いただければ幸いです。

 

春闘関連の賃上げ話が、連日報道されています。

この春、中小企業の8割以上が賃上げを検討しているとのデータも出ていました。

中小企業経営者にとり、「人件費をどうするか」は、頭を悩ますテーマだと思います。

そこで今日は、人件費基準の考え方について、お話しします。

 

自社の人件費の評価

(1)現在の人件費の内訳と分析

今後人件費をどうするのか、自社の人件費基準は適正なのかどうなのか、誰にどう配分すれば良いのか、、、。

経営判断をするためには、まずは自社の人件費を理解する必要があります。

人件費は以下の算式で計算できます。

決算書の「販売費及び一般管理費」に数値が記載されています(ただし製造業、運送業、建設業は、製造・運送・工事原価報告書の数値も合算する)。

人件費=役員報酬+給与+雑給(パート代)+法定福利費(社会保険料の会社負担)+福利厚生費

(2)1年間の個別支給額を確認する

次に1年間の個別支給額を確認します。以下の様な一覧表を作成すると良いでしょう。

1年間で誰にどれだけ支給したか、一目で分かります(表のうえでクリックすると拡大します)。

人件費支給一覧表

このときポイントは、部門ごとに人件費を集計してみることです。

(3)給与支給額の1.3倍コストがかかっている

社会保険料会社負担金はざっくり、給与支給額の約15%です。

その他教育訓練費など含めると、1人当たり年間給与支給額の1.3倍程度のコストがかかっています。

例えば、年間400万円の支給なら、一人当たり人件費コストは520万円です。

直接部門の営業や製造は、事務部門など間接部門をカバーするために、一人当たり1,000万円以上の粗利(売上ではなく粗利!)を稼いでくる必要があるのかもしれません。

 

人件費基準の確認

(1)業界標準の確認方法

人件費経営判断のためには、業界標準の確認が必要です。

もっとも簡単なのは、日本製策金融公庫のWebサイトを見ることです。以下リンク貼っておきます。

小企業の経営指標調査

各業界の業種別、従業員規模別で記載があります。

平均値の中でも「黒字かつ自己資本プラス」の部門を参考にすること。赤字企業を含んだ平均値を目標にしても向上は期待できません。

(2)確認項目は3つ

人件費に関して、日本製策金融公庫の「小企業の経営指標調査」で平均値を確認する項目は、3つです。

①労働分配率

②1人当たり売上高

③売上高人件費比率

 

それぞれの算式は以下です。

①労働分配率(簡易版)=人件費÷粗利(粗利=売上高-売上原価)×100

②1人当たり売上高=売上高÷従業員数(パートは0.5人で計算)

③売上高人件費比率=人件費÷売上高×100

※人件費=役員報酬+給与+雑給(パート代)+法定福利費(社会保険料の会社負担)+福利厚生費

(3)それぞれの指標が意味すること

①労働分配率:粗利に対しての人件費配分は適正か
→高ければ儲けを人件費に配分しすぎ、低ければ儲けを人件費に配分できていない

②従業員一人当たり売上高:従業員一人当たりの売上は適正か
→高いほど一人当たり売上貢献度が高い

③売上高人件費比率:売上に占める人件費の割合は適正か
→高ければ売上に占める人件費負担が大きい、低ければ小さい

 

事例研究

以下に当事務所が作成した架空企業(飲食料品小売業)を参考に人件費の評価をします(表のうえでクリックすると拡大します)。

【A社の場合】

①労働分配率が同業比高く、また近年低上昇傾向にある。

②一人当たり売上高同業比少なく、また近年減少傾向にある。

③売上高人件費比率同業比高く、また近年上昇傾向にある。

結論:売上に対して人件費を配分しすぎている。

対策:売上を増やす、粗利を増やす、人員配置を見直す、人件費を下げる、などの改善策が必要。

 

年収の妥当性を判断する指標

会社が支払っている給与が業界平均でどうなのか?

気になるところだと思います。

厚生労働省が出している給与データが参考になります。リンクを貼ります。

厚生労働省;賃金構造基本統計調査  → https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450091&tstat=000001011429

「一般労働者」→「産業中分類」を選び、自社の属する業種を選択すると以下のページが出ますので、Excelシートをクリックします(表のうえでクリックすると拡大します)。

すると、以下の様なシートができます(表のうえでクリックすると拡大します)。

飲食料品小売業の例ですが、「きまって支給する現金給与額」と「年間賞与」を足した金額が業界年収の平均値になります。

上記例では、(256.1千円×12か月)+450.0千円=3,523千円が飲食料品小売業全年齢の年収平均値(ただし従業員10人以上規模の会社:その他に100~999人、1,000人以上などの区分があり)になります。

企業規模ごと、年齢層ごと、男女別、平均値も出ていますので、参考にできます。

人件費支給一覧表で集計した自社従業員の年収と、業界平均年収を見比べてみます。

このような方法で、自社従業員の年収が業界でどの程度の水準なのか、知ることができます。

 

人件費見直しの手順

✔ 人件費は、決算書のどこに記載があるかを知り、☟

✔ 給与台帳から転記した「給与支給一覧表」により個人別、部門別の給与支給額を確認し、☟

✔ 自社の3つの指標「労働分配率」「従業員一人当たり売上高」「売上高人件費比率」を日本政策金融公庫の同業者平均値と比較し、☟

✔ 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」データで業種別年収の適正基準を把握して自社との比較材料にする

以上の流れで自社の現状を把握し、どの部署に、誰に、どれぐらい人件費を配分していけば良いか、経営判断につなげていきます。

以上、「中小企業の人件費基準」について、お話しました。

今後の貴社の財務改善にお役立ていただけますと幸いです。

 

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