「うちの会社の人件費、もしかして高すぎるのでは?」
「人件費が経営を圧迫している気がするが、どう分析すればいい?」
「労働分配率や売上高人件費率って、どう見ればいいの?」
会社の経費の中で、多くの場合最も大きな割合を占めるのが「人件費」です。従業員の生活を支え、事業活動の源泉となる重要なコストですが、その水準が会社の収益力に見合っていなければ、経営を圧迫する大きな要因となり得ます。
しかし、損益計算書の「人件費」の合計額をただ眺めているだけでは、その適正さを判断することはできません。
この記事では、ここ愛媛県をはじめ多くの中小企業をご支援してきたコンサルタントとして、会社の人件費を客観的に分析し、その適正水準を判断するための具体的な方法と、**3つの重要な経営指標(労働分配率、従業員一人当たり売上高、売上高人件費比率)**の見方について、事例も交えながら分かりやすく解説します。
【目次】
人件費分析の第一歩は、「何が人件費に含まれるのか」そして「従業員一人あたり、会社は実際にいくら負担しているのか」を正確に把握することです。
人件費に含まれるもの
決算書(損益計算書、販売費及び一般管理費内訳書、製造原価報告書など)を確認し、以下の項目を合計したものが、会社の総人件費となります。
・役員報酬
・給料手当(正社員等)
・雑給(パート・アルバイト等)
・賞与
・退職金(当期費用計上分)
・法定福利費: 健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料などの会社負担分。これが意外と大きい。
・福利厚生費: 社員旅行、懇親会費用、慶弔見舞金など。
従業員一人あたりの「本当のコスト」意識
会社が従業員に給与を支払う際には、給与額面に加えて、社会保険料の会社負担分などが上乗せでかかります。一般的に、給与支給額の約1.15倍~1.3倍程度のコストが発生していると考えられます。(※業種や給与水準により変動します)
例えば、年収400万円の従業員一人にかかる会社の年間コストは、500万円を超える計算になります。この「一人あたりの本当のコスト」を意識することが、後述する生産性分析の基礎となります。
(「人件費支給一覧表」)
(解説:部門別・個人別に年間支給額(給与・賞与・会社負担保険料等)を集計・可視化することの重要性を示す表)
自社の人件費水準が適正かどうかを客観的に判断するために、以下の3つの指標を計算し、同業他社平均や自社の過去推移と比較することが有効です。
指標①:労働分配率 ― 儲けの配分は適正か?
・計算方法: 労働分配率 (%) = 人件費合計 ÷ 売上総利益(粗利) × 100
(※粗利 = 売上高 - 売上原価)
・意味: 会社が生み出した付加価値(粗利)のうち、どれだけの割合を人件費として分配しているかを示します。
・見方:
‣ 高すぎる場合: 儲けの多くを人件費に使いすぎ、会社の利益や投資・内部留保に回る分が少なくなっている可能性があります。
‣ 低すぎる場合: 従業員への還元が不十分である、あるいは他のコストが高い、または非常に高い収益性を達成している可能性があります。
・比較対象: 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」などで、自社の業種・規模に近い企業の労働分配率の平均値と比較します。(黒字企業平均を参考に)
指標②:従業員一人当たり売上高 ― 生産性は十分か?
・計算方法: 従業員一人当たり売上高 = 売上高 ÷ 従業員数
(※従業員数は、役員を除き、パート・アルバイトを一定の換算(例:0.5人)で含めるなど、実態に合わせて計算します。)
・意味: 従業員一人が平均してどれだけの売上を生み出しているかを示し、労働生産性の一つの指標となります。
・見方: 同業他社平均や自社の過去推移と比較し、低い場合は、業務効率、従業員のスキル、商品・サービスの競争力などに課題がある可能性を示唆します。
・比較対象: 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」などで、業種・規模別の従業員一人当たり売上高と比較します。(黒字企業平均を参考に)
指標③:売上高人件費比率 ― 売上規模に見合っているか?
・計算方法: 売上高人件費比率 (%) = 人件費合計 ÷ 売上高 × 100
・意味: 売上高に対して、人件費がどれだけの割合を占めているかを示します。コスト構造における人件費の相対的な重さを測る指標です。
・見方: 同業他社平均と比較して著しく高い場合は、売上規模に対して人件費負担が重く、利益を圧迫している可能性があります。粗利率とのバランスも重要です。
・比較対象: 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」などで、業種・規模別の売上高人件費比率と比較します。(黒字企業平均を参考に)
[参照リンク:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」]
これらの指標を使って、元記事の架空企業A社(飲食料品小売業)の人件費を分析してみましょう。
・A社の分析結果:
‣ ① 労働分配率: 72.8%(同業平均 67.5%) → 高い
‣ ② 従業員一人当たり売上高: 1,765万円(同業平均 2,000万円)→ 低い
‣ ③ 売上高人件費比率: 27.7%(同業平均 20.6%)→ 高い
結論: A社は、従業員一人当たりの売上高(生産性)が低いにも関わらず、生み出した粗利に対する人件費の分配割合(労働分配率)が高く、結果として売上高に占める人件費比率が同業他社よりかなり高くなっていることが分かります。これが営業赤字の大きな要因と考えられます。
対策の方向性: 売上向上(生産性向上)、粗利率改善、人員配置見直し、給与体系見直し、他のコスト削減などが考えられます。
上記の3つの指標は「会社全体」の人件費水準を見ますが、「個々の従業員の給与水準」が業界平均と比べてどうなのか、という視点も重要です。
厚生労働省データで業界平均を確認
厚生労働省が毎年公表している「賃金構造基本統計調査」を利用すると、産業別、企業規模別、年齢階層別、男女別などの**平均的な賃金(月額給与、年間賞与)**を知ることができます。
[参照リンク:政府統計の総合窓口 e-Stat 賃金構造基本統計調査]
「一般労働者」→「産業中分類」を選び、自社の属する業種を選択すると以下のページが出ますので、Excelシートをクリックします。
すると、以下の様なシートができます。☟
飲食料品小売業の例ですが、「きまって支給する現金給与額」と「年間賞与」を足した金額が業界年収の平均値になります。
上記例では、(256.1千円×12か月)+450.0千円=3,523千円が飲食料品小売業全年齢の年収平均値(ただし従業員10人以上規模の会社:その他に100~999人、1,000人以上などの区分があり)になります。
企業規模ごと、年齢層ごと、男女別、平均値も出ていますので、参考にできます。
人件費支給一覧表で集計した自社従業員の年収と、業界平均年収を見比べてみます。
このような方法で、自社従業員の年収が業界でどの程度の水準なのか、知ることができます。
自社データとの比較と活用
自社の「人件費支給一覧表」(前述)とこれらの公的データを比較することで、自社の給与水準が業界内でどのレベルにあるのかを客観的に把握できます。これが高すぎれば負担増の要因、低すぎれば人材確保や定着の課題に繋がる可能性があります。
これまでの内容をまとめると、人件費の分析と見直しは以下の手順で進めるのが効果的です。
1. 現状把握: 決算書等から人件費の総額と内訳を把握する。可能であれば部門別・個人別支給額も集計する。
2. 指標計算: 3つの重要指標(労働分配率、従業員一人当たり売上高、売上高人件費比率)を計算する。
3. 比較分析: 計算した指標を、自社の過去実績や同業他社平均と比較し、課題を特定する。
4. (補足)給与水準比較: 必要に応じて、個別の給与水準を業界平均と比較する。
5. 改善策の立案・実行: 分析結果に基づき、生産性向上、人員配置見直し、給与体系見直し、採用計画など、具体的な改善策を検討し、実行に移す。
人件費は、会社にとって最大のコストの一つであると同時に、将来の成長を生み出す「人財」への投資でもあります。そのバランスを適切に保つためには、総額だけでなく、労働分配率、従業員一人当たり売上高、売上高人件費比率といった指標を用いて、多角的に分析し、客観的な視点で評価していくことが不可欠です。
ぜひ、この記事で紹介した分析方法や指標を参考に、自社の人件費について見つめ直し、より強く、持続可能な会社経営を目指してください。
「自社の人件費が適正か診断してほしい」「分析結果から具体的な改善策を見つけたい」「働きに見合った評価・報酬制度を構築したい」経営者様は、ぜひ当事務所にご相談ください。専門的な視点から分析し、貴社に合った人件費戦略をご提案します。初回無料相談も承っております。
この記事が、貴社の人件費管理と経営改善の一助となれば幸いです。
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