いまさら聞けない「決算書の読み方」。
今回8回目は、【中級編】。
「キャッシュフロー計算書」の話です。
(7回目の「決算書 別表 で見るのは4枚だけ!」【中級編】はこちら
(6回目の「勘定科目内訳明細表」【中級編】はこちら
(5回目の「在庫と利益とお金の関係」【基本編】はこちら)
(4回目の「代表者勘定編」【基本編】はこちら)
(3回目の「減価償却編」【基本編】はこちら)
(2回目の「貸借対照表編」【基本編】はこちら)
(1回目の「損益計算書編」【基本編】はこちら)
「学び直し」にご活用いただければ幸いです。
【目次】
BingChat(ビングチャット:チャットGPTを内蔵している)に聞いてみました。
「(黒字なのにお金がない:類似ワード:利益があるのにお金がない、なども含む)の月間検索ボリュームは?」
結果は1か月で約2,000件。単純に×12すると、年間で24,000件になります。
全国でこれだけの人が、「決算書で黒字なのに、お金が減っていく、なぜ??」状況に戸惑い、Googleを頼ります。
いや、Googleに入力しない人の方が多いかもしれません。それなら悩んでいる人は、かなりの数になります。
なぜこう思うのかというと、損益とキャッシュフローの違いを理解していないからです。
損益とは、損益計算書の黒字赤字のこと。
キャッシュフローとは、お金の出入りのプラスマイナスのこと。
「黒字だから必ずお金も増える」のではありません。
この2つは違うのです。
損益計算書では、お金が入っていない段階でも利益になっています。
逆にお金が減っているのに、経費にならないこともあります。
例を挙げます。
①お金が入っていないのに利益になる
■商品を発送納品し、請求書を発行した。売掛金(売上高)1,000万円発生。原価800万円。
・利益 +200万円(売上高-原価=200万円)
・お金の出入り 0円(お金は2か月後に口座に入金)
②お金が減っているのに経費にならない
■社長が生活費として会社からお金を借りた。役員貸付金300万円。普通預金▲300万円。
・利益 0円
・お金の出入り ▲300万円
③お金が減っているのに経費にならない
■銀行融資の返済元金が毎月100万円、年間で1,200万円ある。
・利益 0円(元金返済は経費になりません!利息は「支払利息割引料」として経費です)。
・お金の出入り ▲1,200万円
【参考記事】銀行借入金返済額は、損益計算書(PL)には記載されない!ではどこを見れば良いか。
「損益」と「お金の出入り」がズレてますよね。このように損益と現金の出入りは違うのです。
上記の様な経理処理が積み重なり、「黒字なのにお金がない!」状態になります。
上記のような認識のズレを解消するために、キャッシュフロー計算書を理解すると良いでしょう。
キャッシュフロー計算書とは、「社長が会社の1年間のお金の出入りを理解するための帳票」です。
TKCの税理士事務所なら、決算書の添付資料として、決算書つづり一式につけていることもあります。
①営業キャッシュフロー(以下営業CF)、②投資キャッシュフロー(以下投資CF)、③財務キャッシュフロー(以下財務CF)の3つで構成されます。
ここではざっくり説明します。もっと詳しく知りたい方はこちらの記事をチェックしてください。
①営業CF
本業活動でのお金の出入り
・税引後利益、減価償却費、売掛債権の増減、在庫の増減、仕入債務の増減、などの項目です。
②投資CF
投資活動でのお金の出入り
・固定資産の増減、役員保険の増減、貸付金の増減などの項目です。
③財務CF
財務活動でのお金の出入り
・金融機関短期借入金増減、金融機関長期借入金増減、役員借入金増減、社債増減、資本金増減などの項目です。
実際のキャッシュフロー計算書フォーマットを載せます。イメージしてください。
営業CFに投資CFを加えたものをフリーキャッシフロー(以下FCF)と言います。
FCFは、銀行融資の返済財源になります。
営業CF+投資CF=FCF FCF→銀行融資の返済財源
ざっくり、営業活動と投資活動で得た資金(FCF)で、銀行融資(財務CF)を返済していくイメージです。
FCFがマイナスの場合、財務CFはプラスにならないと、お金は回らなくなります(ただし預金口座にお金がたくさんあり、取り崩していく場合は除く)。
財務CFがプラスとは、基本的には銀行から追加融資を受けるということです。そのためFCFがマイナスなら、銀行融資残高は増加します。以下の図のイメージです。
FCFに財務CFを加えたものを合計CFと言います。
FCF+財務CF=合計CF
合計CFは、必ず1年間の現預金増減と一致します。
合計CF=現預金増減
以下の図でイメージしてください。
以上の分析から、「黒字なのにお金がない」(現預金が減少する)のは、合計CFがマイナスだからと言えます。
キャッシュフロー計算書を細かく見ていけば分かるのですが、
「損益は黒字なのに合計CFがマイナス(黒字なのにお金がない!)」の多くが、以下の様な理由です。
✔ 売掛債権の回収が長期化している
✔ 在庫が倉庫に眠っている、または回転が悪い(不良在庫、陳腐化在庫、在庫回転率の悪化)
✔ 仕入債務の支払いを短縮した(手形から現金払い、支払いサイトの短期化など)
✔ 事業に関係ないお金が会社から外に出た(貸付金など)
✔ 社長に借りていたお金を会社が返済した 会社→社長へお金の流れ
✔ 設備投資を現金払いした
✔ 銀行融資元金返済の額がFCFより大きい 銀行融資元金返済 > FCF
これらは、全て損益としては見えてきません(損益計算書には出ない)が、キャッシュフローの赤字要因です。
キャッシュフロー計算書には反映されます。
キャッシュフロー計算書は、複数年を見ると、より多くのことが分かります。
おすすめは、5年間合計してみることです。
✔ 5年間本業でどれだけのCFを稼げたか
✔ 5年間どれだけの設備投資をしたのか
✔ 5年間で銀行融資は増えたか、減ったか
✔ その結果、現預金は増えたか、減ったか
✔ 現預金が増えた原因(営業CFか、投資CFか、財務CFか)
✔ 現預金が減った原因(営業CFか、投資CFか、財務CFか)
「黒字なのにお金がない!」状態は、実は「損益も赤字」の場合が多いのです。
5年間合計してキャッシュフローが赤字なら、損益計算書が表面的に黒字のように見えても、実は赤字なのです。
使えない在庫や、回収不能の売掛債権、いつ返済できるか分からない社長名義の貸付金、回収できない知り合いの会社への出資、とん挫したプロジェクトへの研究開発費、、。
赤字が隠れています。
黒字なのにお金がない!これはおかしいのではないか??
おそらくあなたの直感は当たっています。キャッシュフロー計算書を確認すれば原因が分かります。
正確な財務状況を把握するためには、キャッシュフロー計算書の理解が大切なのです。
以上、「キャッシュフロー計算書を見るときのポイント」について、お話しました。
今後の貴社の財務改善にお役立ていただけますと幸いです。
【関連記事】
中小企業に役立つ!キャッシュフロー計算書の作り方、読み解き方