「最近、銀行の融資審査が以前より厳しくなったように感じる…ウチの会社は大丈夫だろうか?」
「決算書上は黒字なのに、なぜかいつも資金繰りがギリギリだ…何が原因なんだろう?」
「事業拡大のために追加融資を受けたいが、今の利益でしっかり返していけるのか、客観的な判断基準が知りたい。」
中小企業の経営者にとって、事業の成長や安定的な運営に銀行融資は不可欠な選択肢の一つです。しかし、融資を確実に受け、かつ健全な財務状況を維持するためには、「利益」と「融資返済」の関係性を正しく理解し、適切に管理することが極めて重要となります。
本記事では、銀行融資を受ける、あるいは既に受けている経営者、企業の財務・経理担当者、そして金融機関の関係者の皆様に向けて、融資審査のポイントともなる利益管理の核心を、中小企業支援コンサルタントの視点から分かりやすく解説します。特に、返済財源をどう確保し、キャッシュフローを安定させ、返済余力を高めていくかという点に焦点を当てます。
【目次】
銀行が融資審査を行う際、企業の「返済能力」を最も重視します。そして、その返済能力を測る上で不可欠な指標が「利益」です。しかし、単に利益が出ていれば良いというわけではありません。銀行は、利益の種類やその質、そして利益が実際に返済に充当できるキャッシュフローを生み出しているかを多角的に評価します。
本記事を通じて、以下の2つの鉄則を理解し、貴社の財務改善と銀行との良好な関係構築にお役立ていただければ幸いです。
1. 営業利益で支払利息が賄えるか
2. 最終利益で融資返済元金が支払えるか
まず、企業が本業でどれだけ稼ぐ力があるかを示す営業利益と、借入金の支払利息の関係を見ていきましょう。
損益計算書における営業利益の重要性
損益計算書において、営業利益は以下のように計算されます。
・売上高 – 売上原価 = 売上総利益
・売上総利益 – 販売費及び一般管理費 = 営業利益
営業利益は、企業が主たる事業活動から得た利益であり、この数値が安定的にプラスであることが、事業継続性の基本となります。
[図解イメージ:損益計算書の構造]
売上高
– 売上原価
——————–
売上総利益
– 販売費及び一般管理費
——————–
営業利益 ←★本業の儲け
+ 営業外収益
– 営業外費用 (ここに支払利息が含まれる)
——————–
経常利益
+ 特別利益
– 特別損失
——————–
税引前当期純利益
– 法人税等
——————–
当期純利益(最終利益)
支払利息は営業外費用:見落としがちなポイント
重要なのは、銀行融資の支払利息が、営業利益を計算するまでの段階には含まれていないという点です。支払利息は、損益計算書上、営業利益の下に位置する「営業外費用」に計上されます。
ここで、簡単なケーススタディを見てみましょう。
・ケース1:営業利益が黒字(例:1,000万円)
年間支払利息が300万円の場合、営業利益で十分に支払うことができます。
営業利益 1,000万円 > 支払利息 300万円 → 本業の利益で利息が賄える状態(健全)
・ケース2:営業利益が赤字(例:▲500万円)
年間支払利息が300万円の場合、営業利益からは支払うことができません。
営業利益 ▲500万円 < 支払利息 300万円 → 本業の利益で利息が賄えない状態(要注意)
営業利益赤字が意味するもの:利息支払いのための資金繰り
ケース2のように、営業利益が支払利息を下回る、あるいは営業利益自体が赤字の場合、利息を支払うためには別の資金源が必要になります。
・預貯金の取り崩し
・経営者個人の資金からの補填
・新たな追加融資(ただし、利息支払いのための追加融資は銀行も慎重になります)
このような状態が継続すると、いずれ資金繰りが逼迫することは避けられません。支払利息を本業の利益から支払えない状態(特に営業利益が赤字の場合)は、財務上極めて注意が必要な状態であると認識してください。これは、企業のキャッシュフローが悪化している最初のサインとも言えます。
より詳細な情報として、「【営業利益マイナス】は放置厳禁!その理由と具体的な改善策を徹底解説(2025年版)」といった記事もご参照ください。
次に、利息だけでなく、借入金の融資返済元金を何で支払っていくのかを見ていきましょう。ここで重要になるのが最終利益(税引後当期純利益)と、そこから導き出される返済財源、そして企業の返済余力です。
融資返済元金は経費ではない:経営者が陥りやすい誤解
多くの経営者が誤解しやすいポイントとして、**「融資返済元金は経費ではない」**という点が挙げられます。損益計算書で年間の融資返済額を探しても、それは見つかりません。融資を受ける際、口座にお金が入ってもそれは売上(収益)ではないのと同じで、借りたお金を返す行為(元金返済)も費用にはならないのです。
口座から元金が返済されると残高が減るため、経費のように感じてしまうかもしれませんが、会計上の扱いは異なります。
融資返済元金の年間支払額を正確に把握するためには、各金融機関から送られてくる「融資返済予定表(返済計画表)」を確認するのが最も確実です。 この表には、毎月の返済額のうち、元金部分と利息部分が分けて記載されています。全ての長期借入金について、この「元金部分」を12ヶ月分合計したものが、年間の融資返済元金となります。(※当座貸越や手形貸付などの短期借入金は毎月定額返済が発生しないため、別途考慮が必要です。)
[参考記事]【銀行借入金】返済額は損益計算書のどこ?見つけ方と勘定科目の誤解(2025年版)
年間の融資返済元金に対して、企業がどれだけの返済能力を持っているか。これを測る基本となるのが最終利益(税引後当期純利益)です。しかし、最終利益の額がそのまま返済に充てられるキャッシュフローとイコールではありません。より実態に近い返済財源を把握するためには、最終利益にいくつかの調整を加える必要があります。
返済財源を正確に把握するための調整項目(簡便法)
・プラス補正する主な項目:
‣ 減価償却費(※リース資産に係る減価償却費は除く): 減価償却費は会計上の費用ですが、実際には現金の支出を伴わない「ノンキャッシュ費用」です。そのため、利益から差し引かれていますが、手元にはキャッシュが残っていると考え、返済財源に加算します。リース資産の減価償却費を除くのは、リース料として毎月現金支出が発生しているためです。
‣ 固定資産売却損・有価証券売却損など(一時的な損失): これらは経常的ではない一時的な損失であるため、通常の返済能力を測る上では加味して考えます。
・マイナス補正する主な項目:
‣ 固定資産売却益・有価証券売却益など(一時的な利益): 同様に、これらも経常的ではない一時的な利益であるため、除外して考えます。
‣ 法人税等の増加額(過年度分など一時的なもの): 経常的な税負担を超える部分。
‣ その他、実質的なキャッシュアウトを伴わない利益や、実質的なキャッシュアウト費用
これらの調整を行うことで、企業が実質的に年間でどれだけのキャッシュを返済に充てられるか、すなわち返済財源の目安が明らかになります。この返済財源と実際の年間融資返済元金を比較することで、返済余力を評価できます。
自社の返済余力を客観的に把握するために、以下のような「返済能力確認シート」の考え方が役立ちます(パソコンサイトの方はクリックで拡大します)。
例題(架空A社):
上記例題のケースでは、2期間平均の返済能力(上記⑥に相当)が750万円であるのに対し、年間の融資返済元金(上記⑦)が1,920万円となっています。この場合、⑧の返済余力はマイナス1,170万円となり、返済能力が大幅に不足している状態と言えます。
返済能力が不足している場合、その不足分をどこからか補填しなければなりません。
・預貯金の取り崩し
・経営者個人の資金からの補填
・新たな追加融資(返済のための借り換えや条件変更を含む)
このような状況が続けば、企業の資金繰りは急速に悪化し、最悪の場合、経営危機に陥る可能性も否定できません。
・「利益は出ているのに、なぜか銀行融資の残高がなかなか減らない」
・「決算書上は黒字なのに、手元のお金はむしろ減っている気がする」
こうした疑問や不安を感じている経営者の方は少なくありません。その主な原因の一つが、ここまで見てきた**「利益(特に返済財源となるキャッシュフロー)と融資返済元金のバランスの悪さ」、つまり返済余力**の不足にあります。
見かけ上の利益と、実際に返済に充てられるキャッシュフロー(返済財源)との間にはギャップがあることを理解し、そのギャップを埋めるための具体的な対策を講じることが重要です。
では、営業利益で支払利息が賄えなかったり、最終利益(調整後)で融資返済元金が支払えない状態に陥った場合、どのような対策が考えられるでしょうか。
経営者が取るべき3つの基本戦略
企業の置かれた経営環境や財務状況によって具体的な対策は異なりますが、基本となる戦略は以下の3つです。
1. 利益を増やす(返済財源を増やす):
・売上増加策: 新規顧客開拓、既存顧客へのアップセル・クロスセル、新商品・サービス開発
・利益率改善策: 価格戦略の見直し(値上げ交渉)、高利益率商品・サービスへの注力、仕入れコスト・製造コストの削減
・経費削減策: 固定費・変動費の見直し、業務効率化による生産性向上
2. 融資残高を減らす:
・資産売却: 遊休資産や不採算事業の売却による返済資金の捻出
・増資: 新株発行による自己資本の充実と借入金返済
・経営者個人資産からの投入: 緊急避難的な対応として
3. 融資返済元金の負担を軽減する(返済額を減らす):
・リスケジュール(返済条件の変更): 金融機関に相談し、一定期間の元金返済猶予や返済期間の延長を要請する。
・借り換え: より有利な金利や長期の返済期間の融資にまとめることで、月々の返済負担を軽減する。
・短期借入と長期借入のバランス見直し: 運転資金と設備資金の調達方法を最適化する。
[参考記事]【借入金 長短バランス】なぜ崩れる?資金繰りを楽にする改善策とは(2025年版)
近年の金利動向の変動や、依然として先行き不透明な経済状況は、中小企業の資金調達環境にも影響を与えています。金融機関の融資姿勢も、より企業の将来性や返済能力を厳しく審査する傾向が見られる場合があります。
このような環境下では、早期の現状把握と対策着手がこれまで以上に重要です。問題が深刻化する前に、信頼できる専門家(税理士、中小企業診断士、経営コンサルタントなど)に相談し、客観的なアドバイスを得ることも有効な手段の一つです。
何よりもまず、社長自身が自社の現状(特にキャッシュフローと返済余力)を正確に把握することが、全ての財務改善策のスタートラインです。 闇雲な対策は効果が薄いばかりか、状況を悪化させる可能性すらあります。まずは本記事でご紹介した視点から、自社の財務状況を分析してみてください。
「経営改善計画の具体的な策定ステップ」についても、ぜひ参考にしてください。
本記事では、銀行融資と利益管理に関して、経営者が押さえておくべき2つの鉄則、すなわち「①営業利益で支払利息が払えるか」「②最終利益(調整後)で融資返済元金が払えるか」について詳しく解説しました。
これらのポイントを常に意識し、返済財源をしっかりと確保し、返済余力を継続的にモニタリングすることは、安定的な資金繰りを実現し、銀行との良好な信頼関係を築く上で不可欠です。そしてそれは、企業の持続的な成長と発展の礎となるでしょう。
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「自社の返済余力を具体的に知りたい」「利益は出ているはずなのに資金繰りが苦しい原因を特定したい」「銀行との融資交渉を有利に進めたい」など、銀行融資や財務改善に関するお悩みやご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
中小企業支援の専門家として、貴社の状況を丁寧にヒアリングし、現状分析から具体的な改善策のご提案、実行支援まで、親身にサポートさせていただきます。初回のご相談は無料にて承っておりますので、まずは一度、貴社のお話をお聞かせください。
本記事が、今後の貴社の財務戦略の一助となれば幸いです。
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