「決算書を見たら、営業利益がマイナスになっていた…」
「営業利益マイナスって、どれくらい『やばい』状況なのだろうか?」
「赤字から抜け出すには、どうすればいいんだろう…」
損益計算書(P/L)に記載される「営業利益マイナス」。これは、企業の経営者や従業員にとって、看過できない重要なサインです。なぜなら、営業利益は**「本業で稼ぐ力」**を直接示す指標だからです。
この記事では、中小企業支援の現場に立つ経営コンサルタントとして、「営業利益マイナス」がなぜ「やばい」のか、その主な「理由」、そして赤字状態から脱却するための具体的な改善ステップについて、分かりやすく解説します。
【目次】
まず、「営業利益マイナス」(営業赤字)が具体的にどのような状態を指し、なぜ重要視されるのかを確認しましょう。
営業利益の定義:本業の「稼ぐ力」を示す指標
営業利益は、以下の計算式で算出されます。
営業利益 = 売上高 - 売上原価 - 販売費及び一般管理費(販管費)
・売上高: 商品・サービス販売による収入
・売上原価: 売れた商品・サービスの仕入や製造にかかった直接的な費用
・販管費: 従業員の給与、事務所家賃、広告宣伝費、水道光熱費など、販売活動や会社全体の管理に必要な費用
つまり、営業利益は**「会社が本業の事業活動を通じて、どれだけ利益を生み出せているか」**を示す、非常に重要な利益指標なのです。
(図表:損益計算書の簡易構造図)
売上高
– 売上原価
——————
売上総利益 (粗利)
– 販売費及び一般管理費 (販管費)
——————
営業利益 ← ★本業の儲け
+ 営業外収益
– 営業外費用 (支払利息など)
——————
経常利益
+ 特別利益
– 特別損失
——————
税引前当期純利益
– 法人税等
——————
当期純利益
なぜ「営業利益マイナス」は「やばい」のか?
では、なぜ「営業利益マイナス」は「やばい」と言われるのでしょうか? それは、以下の深刻な状況を示しているからです。
1. 本業がコストを賄えていない: 商品・サービスを売るための活動(仕入・製造・販売・管理)にかかった費用を、売上(から原価を引いた粗利)でカバーできていない状態です。
2. 事業継続の危機: 本業で利益を出せない状態が続けば、当然ながら事業を継続していくための資金を生み出せません。この状態の放置は、将来的な資金ショート、最悪の場合、倒産に繋がるリスクをはらんでいます。
3. 金融機関からの評価悪化: 銀行などの金融機関は、融資審査において営業利益を最重要視します。「営業利益マイナス」は、返済能力がないと見なされ、新規融資が困難になったり、既存融資の条件が悪化したりする大きな要因となります。
「たかが赤字」と軽視せず、営業利益マイナスは事業存続に関わる重大な警告サインだと認識する必要があります。
マイナスでも事業が続くカラクリと限界
「営業利益がマイナスなのに、なぜ会社は潰れないの?」と思われるかもしれません。それは、以下のような方法で一時的に資金を補填しているためです。
・過去に蓄積した内部留保(現金預金)の取り崩し
・役員や株主、親族などからの個人的な資金投入(役員借入金など)
・金融機関からの借入(運転資金、赤字補填資金など)
しかし、これらはあくまで一時しのぎに過ぎません。内部留保はやがて尽き、個人資産にも限界があり、赤字が続けば金融機関からの追加融資も受けられなくなります。根本的な「営業利益マイナス」体質を改善しない限り、いずれ行き詰まることは明白です。
「営業利益マイナス」に陥る「理由」は様々ですが、主に以下の要因が挙げられます。
・売上高の不振:
‣ 顧客離れ、主要取引先の喪失
‣ 市場環境の変化、需要の低迷
‣ 競合の激化、価格競争
‣ 主力商品・サービスの陳腐化
・売上原価の上昇:
‣ 原材料費、仕入価格の高騰
‣ 製造効率の低下、歩留まりの悪化
・販売管理費の増加:
‣ 人件費(給与、社会保険料など)の増加
‣ 過大な地代家賃、水道光熱費
‣ 効果の薄い広告宣伝費、過剰な接待交際費
‣ 管理部門の肥大化、非効率な業務プロセス
・不採算事業・商品の存在: 特定の事業部門や商品が赤字を生み出し、全体の利益を押し下げている。
これらの要因が単独、または複合的に作用することで、「営業利益マイナス」という結果に繋がります。自社がどの「理由」に当てはまるのかを正確に見極めることが、改善の第一歩です。
「営業利益マイナス」から抜け出すためには、場当たり的な対応ではなく、段階を踏んだ戦略的なアプローチが必要です。
STEP 1: 現状把握と原因特定が最優先
焦って対策に飛びつく前に、まずは「なぜ営業利益がマイナスなのか?」を徹底的に分析することが最も重要です。 ポイントを外した改善策は、時間と労力の無駄になるばかりか、状況を悪化させることさえあります。
・財務データの分析: 過去数年分の損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書を分析し、どの項目が悪化しているかを確認する。
・部門別・商品別・顧客別分析: どの部門、どの商品、どの顧客が利益に貢献し、どれが足を引っ張っているのかを特定する。
・現場ヒアリング: 営業、製造、管理など、各部門の担当者から実情を聞き、数値データだけでは見えない問題点を探る。
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STEP 2: 売上向上策の検討
原因分析に基づき、売上を向上させるための施策を検討・実行します。
・新商品・新サービスの開発、既存商品の改良
・新規市場の開拓、新たな顧客層へのアプローチ
・販売チャネルの見直し、オンライン販売の強化
・価格戦略の見直し(単なる値下げではなく、付加価値に見合った価格設定)
・営業力・マーケティング力の強化
STEP 3: コスト削減策の実行(注意点あり)
売上向上と並行して、コスト削減にも取り組みます。ただし、やみくもなコストカットは危険です。
・優先順位: まずは効果の薄い広告宣伝費、不要な交際費、消耗品費など、事業の根幹に関わらない経費から見直す。
・聖域なき見直し: 固定費(家賃、リース料など)についても、契約内容の見直しや移転などを検討する。
・注意点: 会社の強み(技術力、品質、顧客サービスなど)を支える費用や、将来への投資(研究開発費、人材育成費など)まで削ってしまうと、競争力を失い、かえって状況を悪化させます。 どのコストを、どの程度削減するかは慎重な判断が必要です。
・役員報酬削減の罠: 経営者が身を切る姿勢は重要ですが、役員報酬削減だけで乗り切ろうとするのは根本解決になりません。事業そのものの収益性改善が必要です。
[関連記事:銀行が嫌う決算書?赤字なのに役員報酬・交際費が多額]
STEP 4: 事業ポートフォリオの見直し
分析の結果、特定の事業や商品が恒常的に赤字を生み出している場合は、撤退や縮小も重要な選択肢となります。経営資源を成長分野や黒字部門に集中させることが、会社全体の収益性改善に繋がります。
「営業利益マイナス」の改善に取り組む上で、特に意識すべき点があります。
「1期目の赤字」が行動開始のサイン
改善に着手するタイミングは、早ければ早いほど良い。 「営業利益マイナス」が最初に確認された(または、その兆候が見られた)時点で、すぐに行動を開始すべきです。「来期は景気が回復するだろう」「そのうちなんとかなる」といった外部環境頼みや先送りは、赤字体質を恒常化させ、手遅れになるリスクを高めます。
外部環境頼みは危険:主体的な行動を
景気や市場環境はもちろん影響しますが、それを理由に対策を怠るのは経営者の責任放棄です。外部環境の変化に対応し、自社の力で利益を出せる体制を構築する努力が不可欠です。
借入依存の危険性:金利上昇も考慮
前述の通り、「営業利益マイナス」を借入で補填するのは一時しのぎです。特に、昨今の金利上昇局面においては、注意が必要です。日銀の政策変更に伴い、**短期プライムレート(短プラ)やTIBOR(タイボー)**といった基準金利が上昇しており、借入の利息負担は以前よりも重くなっています。 赤字補填のための借入は、将来の財務をさらに圧迫するリスクがあることを認識し、一日も早く本業の収益力(営業利益)を回復させることに全力を注ぐべきです。
[関連記事:【2025年最新】銀行融資の金利上昇にどう備える?]
専門家の活用と公的支援
自社だけでの原因分析や改善策の立案・実行が難しい場合は、迷わず外部の専門家(税理士、中小企業診断士、経営コンサルタント、認定支援機関など)の力を借りましょう。 客観的な視点や専門知識は、的確な改善策の発見と実行に大いに役立ちます。
また、国も**「経営改善計画策定支援事業(通称:405事業)」**など、専門家活用を支援する制度を用意しています。こうした公的支援を積極的に活用することも検討しましょう。
[参考リンク:中小企業庁 経営改善計画策定支援事業(405事業)]
[関連記事:405事業(経営改善計画策定支援事業)を使って赤字経営を立て直す!]
「営業利益マイナス」は、文字通り企業の「やばい」状況を示す警告灯です。しかし、その「理由」を正確に突き止め、適切な対策を迅速に講じれば、必ず改善の道は開けます。
・「営業利益マイナス」の深刻さを正しく認識する。
・原因を徹底的に分析し、的を射た改善策を立案する。
・コスト削減は慎重に、売上向上策と両輪で進める。
・行動は「1期目の赤字」が出た時点ですぐに開始する。
・借入依存に陥らず、本業の収益力回復に集中する。
・必要であれば、専門家や公的支援をためらわずに活用する。
この記事が、「営業利益マイナス」に直面し、苦慮されている経営者・従業員の皆様にとって、再生への一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
具体的な改善策の検討や計画策定について、専門家への相談をご希望の場合は、お気軽にご連絡ください。
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