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① 経営再建計画が必要な状態とは?こちら
② 経営再建計画は「デューデリ」が8割 こちら
③ 事業デューデリ:うち内部環境分析 こちら
私は、経営再建計画を作る際、外部環境分析をあまり重視しません。
かわりに、内部環境分析に9割の労力を使います。
その辺りの事情は、前回この記事で説明しました。
しかし、外部環境分析を全くしないわけにもいかず、重点ポイントを絞り、少しはします。
これだけやっておけば良いと、私が考えるポイントについて、お話します。
外部環境分析とは、事業デューデリで行う現状分析項目の一つです。
※事業デューデリとは:会社の事業を詳細に調査し、理解するプロセス。主要な事業活動、市場競争力、戦略、顧客との関係、将来の成長見通しなど、多岐にわたって分析・調査を行う。
会社を取り巻く経営環境を、会社外部の要因から分析します。
手法としては、PEST分析やSWOT分析などが使われます。
PESTは、Politics(政治)・Economics(経済)・Society(社会)・Technology(技術)の頭文字をとった造語です。
上記4つの切り口から、外部環境を分析します。
例えば、
✔ Politics(政治)・・・国会で新しい法案が審議中で、今後自社の事業にこういう影響が出る、
✔ Society(社会)・・・社会情勢として、残業問題が厳しくなり、時間外労働が増えて人件費負担が増加する、
✔ Technology(技術)・・・生成AIが出てきて、顧客の内製化が可能となり、自社のサービス料金が下がる、
などのように分析していきます。
SWOT分析においては、外部環境分析は機会と脅威の部分が該当します。
※SWOT分析とは、自社の外部環境と内部環境をStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの要素で要因分析することで、既存事業の改善点や伸ばすべきポイント、新規事業の将来的なリスクなどを見つけることができるフレームワーク。
自社にとり、機会はプラス要因(チャンス)、脅威はマイナス要因(ピンチ)となります。
例えば、競合がどんどん廃業すれば自社が生存者利益を得ることができて機会(チャンス)ですし、近隣に大手の競合が進出してくれば脅威(ピンチ)ですよね。
ただ、機会も脅威も外部環境なので、基本的には自社でコントロールすることは難しいです。
また、生成AIができてからは、質問を投げかければ、外部環境分析は数秒で終了します。
質問文:「○○業界を取り巻く現状及び将来予想される外部環境について、プラス面とマイナス面の両方から、それぞれ10個づつ、箇条書きで教えて下さい。」
この質問文をBingChat(マイクロソフト)かGemini(Google)に投げかければ、回答が出てきて終わりです。
だから今後は、PEST分析もSWOT分析も誰でもできるようになり、外部環境分析の品質で差がつくことはありません。
経営再建計画策定の現場で、他者が作成した外部環境分析(事業デューデリの資料)を目にすることがあります。
その中には、政府や調査会社のデータを切り貼りして、何ページにも渡り、長々と説明している事業デューデリがあります。
「だから何がわかるの?」と思います。
ページを稼ぐためだけ、事業デューデリをやってる感を出すだけ、に感じてしまいます。
もし政府データを活用した外部環境分析(市場調査)を事業デューデリにつけるのなら、ポイントを絞って、Excelシート1~2枚で十分です。
上記で①PEST分析、②SWOT分析、③政府データを活用した市場分析、3つの外部環境分析についてお話ししてきました。
私は、事業デューデリにおいて内部環境分析に9割の労力をかけるので、会社によってはあまり意味のないケースもあり、3つの外部環境分析を省くこともあります。
しかし外部環境分析を重視しない私ですが、一つだけ多くのケースで実施する外部環境分析があります。
それは、「業界平均比較分析」です。
業界平均比較分析とは、「会社が属する業界の業界平均財務データ」と「事業デューデリ該当会社の過去3カ年財務データ」を比較する分析手法です。
業界平均データには、日本政策金融公庫の小企業の経営指標調査を使います。
私の経験では、この比較分析をして調査結果を経営者に見せることで、経営者の気づきにつながり行動変容につながったケースが多々ありました。
経営者の行動変容につながってこそ、有益な外部環境分析と言えます。
比較データは、前述したように日本政策金融公庫の小企業の経営指標調査です。
会社の過去3カ年の財務データと比較します。
5~6個程度、指標を選びます。
大切なのは、どの指標項目を選ぶのかということです。
指標項目は何十種類もあります。その中から自社に適したものを選ぶ必要があります。
項目の選定が、業界平均比較分析の品質を左右します。
そこで、詳細に実施した内部環境分析が活きてきます。
会社財務の重点ポイントは、売上増加率なのか、粗利率なのか、原価なのか、在庫の回転率なのか、固定資産の回転率なのか、人件費の負担率なのか、生産性(一人当たり売上、一人当たり付加価値)なのか、有利子負債率なのか、自己資本比率なのか、、、。
会社によって状況は違うので、しっかり内部環境分析を実施して内容を把握していなければ、適切な指標を選ぶことはできません。
以下の様なシートを使い、業界平均比較分析を行います(下記表をクリックすると拡大します)。
【業界平均比較シート】
私の経験では、このようなシートを使い、自社と業界平均比較値を比較している経営者はいませんでした。
興味はあるのですが、日々の業務に追われて、なかなかそこまで手が回りません。
そこで事業デューデリの外部環境分析で、客観的に提示するのです。
数値の根拠があれば、経営者は経営判断の参考になります。
この数値を見て、業界内での自社の状況を確認し、その後の行動変容に進むのです。
外部環境分析には重点を置かない私の事業デューデリですが、「業界平均比較シート」は重要だと感じています。
それは、「業界平均比較シート」が、経営者に客観的数値をもって自社の状況を認識してもらい、改善のための行動変容につながるツールだと感じているからです。
以上、「事業デューデリ:外部環境分析」について、お話しました。
今後の貴社の財務改善にお役立ていただけますと幸いです。
次回は、事業デューデリについてもう少し詳しく、「経営再建計画|事業デューデリ:SWOT分析」について、お話しします。
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