お問合せ

内部環境分析のポイント:事業デューデリ|経営危機を乗り越える!経営再建計画の作り方|③

今回は、「事業デューデリ:うち内部環境分析」について考えます。

内部環境分析

 

はじめに:経営再建計画書の精度を高める内部環境分析

前回の記事では、経営再建計画書(経営改善計画)を作成する上で、その土台となる「デューデリジェンス(DD)」、すなわち徹底的な現状分析がいかに重要であるかを解説しました。DDの中でも、特に事業活動そのものを深く掘り下げる「事業デューデリジェンス(事業DD)」は、計画全体の方向性を決定づける重要なプロセスです。

この記事では、事業DDの中核とも言える**「内部環境分析」に焦点を当て、その重要性、具体的な進め方、そして分析のポイントについて詳しく解説します。経営再建計画書の書き方を学び、中小企業の再建スキーム**を検討されている経営者、従業員、金融関係者の皆様にとって、自社の現状を客観的に把握するための具体的なヒントを提供できれば幸いです。

 

事業デューデリジェンス(事業DD)の全体像(再掲・補足)

まず、事業DD全体の流れをおさらいしましょう。事業DDは、事業面における現状分析であり、経営再建計画策定プロジェクトにおいて最も重要な作業の一つと位置づけられます。一般的に、以下の4つのステップで構成されます。

事業DDの4つのステップ

1. 内部環境分析: 自社の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)、組織体制、ビジネスモデル、財務状況などを詳細に分析し、強みと弱みを把握する。(← 今回のテーマ)
2. 外部環境分析: 自社が属する市場の動向、競合の状況、顧客ニーズの変化、法規制など、自社を取り巻く外部要因を分析し、機会と脅威を把握する。
3. SWOT分析: 内部環境分析(強み・弱み)と外部環境分析(機会・脅威)の結果を統合し、戦略立案の基礎となる情報を整理する。
4. 結論: 分析結果を総括し、経営上の本質的な課題、窮境(経営難)に至った原因、そしてその原因を除去できる可能性について明確化する。

なぜ「内部環境分析」が最重要なのか?

事業DDの4ステップの中でも、特に多くの時間と労力を割くべきなのが**「内部環境分析」**である、と多くの専門家は指摘します。

外部環境より自社内部に目を向けるべき理由

経営が悪化する根本的な原因は、外部環境の変化に対応できなかった、あるいはそもそも自社の内部に構造的な問題を抱えていた、というケースが大半です。そのため、経営再建の第一歩は、まず自社の足元を徹底的に見つめ直し、課題を正確に特定することにあります。

経験上、事業DDにかける労力配分は、内部環境分析が大部分を占め、外部環境分析は補完的な位置づけとされることが多いようです。

表面的な外部環境レポートの罠

インターネットで収集した情報や一般的な業界レポートを並べただけの外部環境分析は、ページ数が多くても中身が薄くなりがちです。業界全体の動向やマクロな市場規模も参考にはなりますが、それだけでは「自社が具体的にどうすべきか」という問いには答えられません。

金融機関や経営者が本当に知りたいのは、「自社特有の課題は何か」「改善の突破口はどこにあるのか」といった、より具体的で実践的な情報です。そのため、外部環境分析は要点(自社に直接影響する機会や脅威)に絞り込み、多くのリソースを内部環境分析に集中させることが、質の高い事業DDにつながります。

 

内部環境分析の具体的な進め方と調査項目

では、具体的に内部環境分析では何を調査・分析するのでしょうか。分析項目は会社の状況に応じて調整が必要ですが、基本的な調査項目リストを以下に示します。

基本的な調査項目リスト(例)

【会社概要・組織】

・会社の沿革・経歴
・組織図(指揮命令系統の明確化)
・ビジネスモデル俯瞰図(事業の流れを図示)
・関係者相関図(グループ会社、役員と会社間の関係など)

【財務分析(過去推移)】

・損益計算書分析(5~10年分程度):売上、利益、販管費等の推移と傾向把握 (参考:決算書を理解して会社を成長させる【基本編】~①損益計算書の読み方3つのポイント~
・貸借対照表分析(5~10年分程度):資産、負債、純資産の構成と変化 (参考:決算書を理解して会社を成長させる【基本編】~②貸借対照表の読み方3つのポイント~
・キャッシュフロー計算書分析(5年分程度):資金の流れの実態把握 (参考:中小企業に役立つ!キャッシュフロー計算書の作り方、読み解き方
・実態バランスシート:資産・負債の実態評価(※極めて重要) (参考:実態バランスシートの作り方【前編】 / 実態バランスシートの作り方【後編】

【事業別・部門別分析】

・製造・工事・運送原価分析(該当業種の場合)
・一般費および販売管理費分析(費目別、増減要因)
・販売先別分析(売上高推移、依存度、収益性)
・仕入先別分析(仕入額推移、依存度、価格変動)
・事業部門別収支分析
・店舗別・商品別・取引先別収支分析(多角化している場合など)

【経営資源分析】

・金融機関別借入状況(条件、担保、保証等) (参考:銀行融資と担保の確認フォーマット
・リース契約の状況
・人件費の状況(部署別、推移)
・在庫の状況(滞留期間、不良在庫の有無)
・固定資産(設備)の状況(稼働率、老朽化度)
・工場・店舗の状況(立地、設備、レイアウト)
・物流フローの状況

【その他】

・担保物件の詳細(不動産担保、信用保証など)
・今期の業績推移と着地見込み

会社の状況に応じた項目の追加

上記はあくまで基本的な項目です。会社の業種、規模、抱える課題の特性に応じて、さらに深掘りすべき項目を追加していきます。例えば、特定の技術力、ブランドイメージ、顧客満足度、従業員のスキルレベルなども重要な分析対象となり得ます。

 

数値に基づいた客観的な分析を徹底する

事業DD、特に内部環境分析を進める上で最も重要なのは、**「数値に基づいて客観的に分析すること」**です。

事業DD=数値分析である理由

事業DDは、SWOT分析など定性的な分析も含まれますが、その根底には必ず数値的な裏付けが必要です。感覚や思い込み、あるいは抽象的な表現だけでは、現状を正確に捉えることはできません。財務DDが決算書の正確性検証に重きを置くのに対し、事業DDは**「事業活動の実態を数値で深く理解する」**アプローチが求められます。

具体例:数値から読み解く経営課題

例えば、以下のように数値を根拠に示すことで、課題や改善の方向性が明確になります。

・「全体の粗利率が低下傾向にあるのは、売上シェア〇%を占めるA商品の粗利率が過去3年で〇%低下していることが主因です。」

・「売上高人件費率が上昇していますが、店舗別に見ると、X店の同率が〇%上昇しており、売上規模に対して人員が過剰になっている可能性があります。」

・「売上シェア〇%のB社ですが、取引先別収支は粗利〇%と低水準です。適正な利益確保のためには、〇%程度の値上げ交渉が必要と考えられます。」

・「事業部門別では、C部門が黒字を拡大している一方、D部門は赤字が拡大しています。D部門については、撤退・縮小、人員再配置、価格戦略の見直しなどの抜本的な対策が必要です。」

・「E部門の過去3年間の退職率が〇%上昇しています。部門内で何らかの問題が発生している可能性があり、従業員とのコミュニケーション強化が急務です。」

 

根拠なき分析は評価されない

このように、具体的な数値に基づいて現状を分析し、課題を特定し、改善の方向性を示すことが重要です。数値的根拠のない、抽象的な分析や精神論だけでは、経営者自身も納得感が得られませんし、金融機関からの評価も得られません。しっかりとした数値分析に基づいた事業DDこそが、信頼される経営再建計画書の基礎となります。

 

質の高い内部環境分析を実現するポイント

質の高い内部環境分析を行うためには、専門家のスキルだけでなく、会社側の協力体制や信頼関係が不可欠です。

専門家と会社側の信頼関係構築

内部環境分析では、詳細な資料の提出やヒアリングなど、会社側にも多くの時間と手間をお願いすることになります。「なぜこんな資料まで必要なのか」と疑問に思われることもあるでしょう。

そのため、経営再建を支援する専門家は、分析の目的や必要性を丁寧に説明し、早期に経営者との信頼関係を築く努力が求められます。提出された資料に基づき、経営者が気付いていない視点や役立つ分析結果をフィードバックすることも、信頼関係の構築につながります。

社長の「右腕」(キーパーソン)を巻き込む

社長だけでなく、会社の事業に精通している役員や従業員(キーパーソン)の協力も重要です。彼らは、現場レベルでの課題や改善のアイデアを持っていることが多いですが、立場上、社長に直接進言しにくいケースもあります。

専門家が仲介役となり、彼らの意見やアイデアを引き出し、分析に活かすことで、より実態に即した、解像度の高い内部環境分析が可能になります。社長やキーパーソンを「味方」につけることが、分析をスムーズに進める上での大きなポイントです。

 

まとめ:自社の徹底理解から始める経営再建

今回は、経営再建計画書作成の根幹となる事業デューデリジェンス、その中でも特に重要な「内部環境分析」について解説しました。

外部の市場環境も重要ですが、経営再建の成否を分けるのは、自社の強み・弱み、そして内在する課題をいかに正確に、客観的に把握できるかにかかっています。そして、その分析は必ず具体的な数値に基づいて行われるべきです。

時間と労力はかかりますが、この内部環境分析を徹底的に行うことこそが、実現可能で説得力のある経営再建計画書を作成するための第一歩であり、ひいては経営再建そのものを成功に導く鍵となるのです。

 

経営再建計画書作成の参考情報

計画書のサンプル・テンプレートについて

経営再建計画書の具体的な書き方やフォーマットの参考として、中小企業庁や中小企業活性化協議会、認定経営革新等支援機関などのウェブサイトで、サンプルやテンプレート、手引きなどが公開されている場合があります。これらは計画書の全体像や盛り込むべき項目を理解する上で役立ちます。

ただし、これらはあくまで一般的な参考資料です。最も重要なのは、自社の内部環境分析の結果を踏まえ、自社独自の状況に合わせたオーダーメイドの計画書を作成することです。テンプレートを参考にしつつも、専門家と十分に議論しながら内容を具体化していくことを強く推奨します。

(補足)公的支援制度や専門家について

経営再建計画の策定にあたっては、国や自治体が提供する様々な支援制度(例:中小企業活性化協議会の支援、経営改善計画策定支援事業(405事業)など)を活用できる場合があります。また、弁護士、税理士、中小企業診断士、事業再生コンサルタントといった専門家のサポートを得ることも有効です。

(関連情報)
次回は、事業デューデリジェンスの次のステップである「外部環境分析」や「SWOT分析」について解説する予定です。また、「具体的なアクションプランの策定方法」や「数値計画の立て方」についても、今後の記事で触れていきます。

【関連記事】

再生支援の総合的対策発表。企業再生現場でこれから始まること

銀行融資の審査基準を知る~救われる会社と見捨てられる会社の違い~

405事業で赤字経営を立て直す!注意点とチェックリスト

 

コメントはこちらから☟

「内部環境分析のポイント:事業デューデリ|経営危機を乗り越える!経営再建計画の作り方|③ 」
ご覧いただきありがとうございました。

「経営者の方へ」 関連の記事一覧

お問合せ
セミナーの依頼
 
注目の記事カテゴリ

経営者の方へ

銀行員の方へ

中小企業診断士の方へ

ページトップ