銀行融資には、短期融資と長期融資がある。
短期融資は、1年以内に返済する融資。運転資金に使用される。手形貸付、当座貸越などの融資形態がある。
長期融資は、1年以上かけて返済する融資。本来は設備資金に使用されるのが基本だが、運転資金に使用されることも多い。証書貸付の融資形態を取る。
現在は、銀行も事業者も短期融資を好まず、資金需要が発生した場合には、設備・運転の資金使途を問わず、長期融資を選択する傾向にある。
銀行側の事情から説明しよう。
かつて(20年ほど前)は、銀行は短期融資に積極的に取り組んでいた。継続的に行われる短期融資は、自己資本が少ない中小企業にとって、疑似資本として資金繰りの安定化に大いに役立った。
風向きが変ったのが、金融庁の金融検査マニュアルに基づく金融検査が開始されてから。不良債権処理を主眼においた資産査定において、約定返済(毎月一定額を返済していく返済法)のない短期継続融資が問題視され始めた。
2002年の金融検査マニュアル(中小企業融資編)において、「書き換えが継続している手形貸付の一部が、不良債権に認定される」という考え方が示された。
このことで、従来継続的に書き換えしていた手形貸付を、約定返済付の長期融資に切り替えたり、新規の運転資金は長期融資を導入するなどの動きが基本的な対応となった。銀行としても、〈短期融資〉→残高がずっと一定で、返済が目に見えない、〈長期融資〉→毎月一定額の返済が目に見える、という事情で、長期融資を積極推進した。
それから約15年、今に至るわけである。
一方、企業側は、こうした銀行の対応を踏まえて、「長期融資→長い間ゆっくりかけて返すので安心」、「短期融資→銀行から1年以内に返せ、といわれそうで不安」、という心理状態になってしまった。
実際経営者に、短期融資での調達を助言すると、「長期で安心して長く借りたいから」と言う答えが返ってくることが多い。経営者は不安なのだ。
事業は、仕入れ(在庫)や固定費(人件費、経費等)の先行で始まる。支払いと売上回収にはタイムラグがあり、事業継続期間中は、この状態がずっと続くので、このズレを埋めるための資金は、「資本的」(短期継続融資)に投入されている必要がある。
中小企業は、赤字すれすれ、収支トントンであることが多い。であるから、資本的に投入されるべき資金(短期継続融資)を長期資金(約定返済付融資)で調達してしまうと、資金繰りが厳しくなってしまう。返済財源がないのに、約定返済が発生する。その結果が、長期融資の本数増加→資金繰りの繁忙化なのだ。
現在は、銀行、経営者ともに、長期融資に意識を向けすぎた状態であり、これは良い状態とは言えない。
経営者は、このことを理解し、今後融資形態を考えていくべきだ。
《この記事のまとめ》
・銀行融資には、短期融資と長期融資があるが、現在は銀行、企業ともに長期融資を好む傾向にある。
・銀行は金融検査マニュアルを踏まえ、短期融資の対応を減少させた。
・企業経営者は、短期融資を受けることに不安をもっている。
・そもそも運転資金の長期融資調達は、返済財源が乏しい中小企業には向かない。
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