【目次】
銀行の融資額を1999年度と2013年度で比較した場合、短期融資と長期融資のシェアの割合が、以下の通り、大きく変化しているという。
短期融資額 都銀55%減、地銀47%減、第2地銀51%減
長期融資額 都銀28%増、地銀72%増、第2地銀31%増
いずれの業態でも、短期融資が減り(しかも大幅に)、長期融資が増えていることが分かる。つまり、「銀行は短期融資よりも長期融資で融資先を支援することが増えている」ということである。
長期融資が増えたことで、返済期間が長くなり、それはいいことではないか。と思うかもしれない。
しかし以前銀行は、短期融資を積極的に行うことで、企業の資金繰りを支えてきたという歴史がある。銀行の短期融資が、疑似エクイティ(資本金)と言われてきた所以だ。1年期限などの短期融資を行い、期日に書き換えを恒例としていた(いわゆるコロガシ手貸)。その結果、借入金が、「資本市場から資金調達できない中小企業」の資本金的な役割を果たしてきた。
かつて、短期融資を積極的に行い、かつ期日に書き換えに応じていたのは、「事業を営むのには、一定の運転資金が必要でしょう。その運転資金を銀行が短期融資で支援しますよ。」というメッセージだった。
潮目が変わったのは、2002年に「金融検査マニュアル(中小企業融資編)」が発表されてからだ。書き換えが継続している手形貸付のうち、『正常な運転資金』を超える部分で分割返済が困難なために継続融資になっており、借手企業を支援する目的で貸出金利を設定している場合には、当該貸出は、条件緩和債権になるとの判断を明確化した。
*正常な運転資金とは貸借対照表より以下の算式で求める→ 売掛債権(売掛金、受取手形)+棚卸資産(在庫、仕掛品など)-買入債務(買掛金、支払手形)【ただしいずれも不良部分は控除して計算】
つまり、正常運転資金以外で、リスク金利が取れていない貸出は、分類債権として、銀行が貸倒引当金処理をする必要がでてきたのだ。貸倒引当金を積むということは、銀行の利益が減少することにつながる。
そこで銀行が取った手段は、短期融資で正常運転資金を超える部分は、①リスク金利を取ること(利上げ)②長期借入金に切り替えること。
結果として短期融資が減少し、長期融資が増加したという訳だ。
長期融資が増加するということは、企業側からすれば毎月の約定返済元金が増えることになる。そして、資金繰りに窮した企業は、新規投資を抑える(新規設備投資を長期融資調達で行うと月々の返済金が増えるため)、設備投資が増えない。
この状態は、設備投資を推奨している政府からすれば望ましいものではない。金融庁は、今年11月の金融庁幹部と銀行幹部との意見交換会で言及した。
「金融検査マニュアルの趣旨を保守的に解釈した結果、かつては一般的であった短期継続融資を、長期の約弁付き融資に切り替える動きが、行き過ぎていないか。その影響として、金融機関の目利き力の低下などに繋がっていないか。」
金融庁の今事務年度の金融モニタリング方針では、大口与信先以外の正常運転資金の判定について、金融機関の自主的な判断にゆだねられることになった。
融資形態の潮目が変わるかもしれない。
(この記事は、2014.12.15金融財政事情を参考に作成しました)。
《この記事のまとめ》
・かつて銀行の短期融資は、疑似資本として企業の資金繰りを支えた
・金融検査マニュアルに対する銀行の理解は、短期融資を減少させ、長期融資に切り替える動きを加速させた
・金融庁は、企業の設備投資の低迷の一因を、短期融資の減少とみている。この見解は、銀行の融資姿勢を変化させるかもしれない
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