~リーマンショックを支えた政府系金融機関~
リーマンショック以降、中小企業の資金繰りを助けてきたのは、間違いなく日本政策金融公庫など、政府系金融機関と、各都道府県の信用保証協会だろう。民間銀行がリスク管理を強化する中、積極的に融資を行ってきた。(信用保証協会は、保証業務であり融資機能をもたないが、信用補完という面で大きな役割を果たしてきた)。
その中でも、今日は政府系金融機関についてお話していきたいと思う。皆さんのイメージでは、政府系金融機関というと、小規模企業向け融資の国民金融公庫(通称こっきん)、もう少し規模の大きい中堅・中小企業向け融資の中小企業金融公庫(通称ちゅうしょうこうこ)、農林水産業者向け融資の農林水産公庫(通称のうりんこうこ)があるかもしれない。しかし、この3行は合併して、日本政策金融公庫(以下日本公庫)として、一つの会社になっている。それぞれ、国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業という、事業部制のような形を採っている。
~代表的な政府系金融機関 日本政策金融公庫の役割~
その他にも政府系金融と呼ばれるものには、商工組合中央金庫や日本政策投資銀行などがあるが、日本公庫が一番身近な存在であり、今日は日本公庫のことを中心にお話したい。
政府系金融機関(今回は日本公庫のこと)には、都市銀行、地方銀行、信用金庫、など民間金融機関と違った特徴がある。
まず業務であるが、民間銀行のように預金業務、為替(送金)業務などはなく、融資業務のみを行っている。立場は、あくまでも民間銀行の『補完的役割の銀行』という位置づけである。民業圧迫と言われることをもっとも警戒し、そのため、例え借換えにより企業側に金利メリットが発生するとしても、決して民間銀行の肩代わり資金は融資しない。(預金業務をもたない政府系金融機関は、返済金引き落とし口座も、民間銀行の口座を使用する。)
一方、民間銀行があまりやりたがらない(もしくはリスクが高くてやれない)部分は積極的に行う。起業融資や、長期固定金利の制度融資、長期期日一括返済の「資本性ローン」などだ。正確な数字は分からないが、起業融資のほぼ7割~8割が、日本公庫(国民生活事業)と言われている。
~窓口への飛び込み相談歓迎!~
また、申込みは窓口での受付「どんとこい。」である。以前にも「銀行と新規取引を開始するには」 でお話したが、民間銀行に対しては、窓口融資申込みは「ご法度」であるが、政府系金融の場合は、窓口来店融資申込み大歓迎である。
~補完金融機関であり、他の取引は勧められない~
そして、政府系金融機関では、業務が融資だけに限られているため、預金など複合取引を推進してこない。これもとても良い。民間銀行であれば、融資を受けていれば、預金や投資信託や従業員取引など、『付き合い取引』が、ある程度必要である。総合的な取引振りで、取引条件も変わってくるからだ。
政府系金融機関は、そうした複合取引は求めてこない。その点は、とても気楽だ。(ちなみに以前、このこと(複合取引を推進しないため、気楽に融資を受けられること)をアピールするパンフレットを、政府系金融機関の職員が中小企業に配付し、民業圧迫だと民間銀行から大批判されたことがある)。
~政府系金融活用は、民間メインバンクにとって脅威ではない~
最後に、「政府系金融機関から融資を受けても、メインバンクから警戒されない」というのも、隠れたメリットだろう。ライバル銀行から借入をしようものなら、目くじらを立てるメインバンクも、政府系金融機関からの借入には案外寛大だ。(ただし、例外もあるので、注意は払いたい)。政府系金融機関をライバルとみなしていないのだ。
このように政府系金融機関との融資取引については、民間銀行とは違った色々な特徴がある。理解したうえで上手に活用したいものだ。
《記事のまとめ》
・リーマンショック後の中小企業の資金繰りのピンチを救ったのは、日本公庫や信用保証協会などの政府系金融機関である
・民間金融機関の補完的役割という位置づけから、民間金融があまりやらない分野の支援を行っている
・付帯取引を提案されたり、依頼されたりしないので、気楽な面もある
・政府系金融の活用は、メインバンクから理解を得られやすい