1/20金融庁が金融検査マニュアルを改定した。
ポイントは、「中小企業向け融資に関しての運転資金の取り扱いの変化に関して」のくだりだ。
金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」新旧対照表より、事例20として紹介されている。
業況不振により債務超過に転落している企業に対して、従来から運転資金を5億円で支援してきている金融機関。しかしながら前期この企業は、外部環境の変化により、40%減と大幅な売上減となった。(しかし今期は立ち直りを見せている)。
そのため正常運転資金として、前期決算書をベースに判定できる金額が、算式に当てはめると3億円になってしまった。運転資金は原則(売上債権+棚卸資産-買入債務)で計算される。従来は正常運転資金として5億円だったものが、3億円に減るということは、金融機関側から見ると、差額の残り2億円をどう判断するか、という問題が発生する。
今まではこの差額部分について、①正常運転資金以外としてリスク金利を徴求→(利上げで企業の利払い負担が増加)②2億円を条件緩和債権として不良債権認定→(銀行が貸倒引当金を計上→銀行の利益が減少)③2億円を長期借入金に組み換え→(企業の元金支払い負担が増加)などの処理を行い、単純に『今まで通り書き換え継続』とはならなかった。
それが今回のマニュアル改定では、金融機関が融資先企業の「前期実績だけにこだわらず」、「今後の内容を多面的に把握して」、問題ないと『自己判断』すれば、5億円の同額書き換えだけをしても条件緩和債権にならない(つまり不良債権認定しなくてもよい!)と変更になったのだ。これは大きな変化だ。
*自己判断とは、例えば融資先企業の、①業況や実態の的確な判断②それに基づく今後の見通し③足元の企業活動に伴うキャッシュフローの実態確認、などに留意して金融機関なりの見えてを立てること。判断材料としては、直近の試算表や業績予想、今後の資金繰表、注文書や現場の確認などが考えられる。
これにより金融機関は、債務超過先や過去実績で業績不振であるが立ち直りの兆しを見せている先に対して、独自の見解で企業支援に取り組むことができる。結果として、中小企業の資金繰りが改善し、景気が上向いていくという政府の判断だ。
背景には、金融庁の検査マニュアル(正常運転資金の判定)を金融機関間が保守的に運用しているため、中小企業の短期借入金(短期継続融資)が減少し続け、中小企業の資金繰りを圧迫しているのではないか、との批判がある。(この件については「疑似エクイティとしての短期融資はなぜ減少したのか」を参照いただきたい)。
これに先立って、金融庁の昨事務年度の金融モニタリング方針では、大口与信先以外の正常運転資金の判定について、金融機関の自主的な判断にゆだねられることになっている。
昨年の「大口先以外の運転資金の自主判断の拡大」、そして今回の「運転資金融資の取り扱いの変化」。この2つの変更は、運転資金の取り扱いについて、同じメッセージを発している。今後金融機関の自主判断の領域は広くなり、「金融検査マニュアルがあるため、債務超過先には融資できません。」といった説明は難しいものとなるのではないか。長年の慣習を変更することになり、見解について、当初は現場で混乱があるかもしれない。
今後の金融機関の運転資金融資に関する動向を、引き続きウォッチしていきたい。