最近金融機関の職員が、「コンサルティングの現場に同席させてほしい」と、要請してくることが増えました。
なぜなのでしょうか?ヒントは、以下にお話しする事業性評価にありそうです。
地方銀行において、事業性評価融資が本格化してきました。
事業性評価融資とは、事業内容や成長可能性等を適切に評価することにより、過度な担保・保証に依存しない融資のことです。
例えば、愛媛県内の地方銀行では、銀行発行のディスクロージャー誌に、以下の実績が記載されています。
■伊予銀行 2018/3月末 事業性評価融資
↓
融資残高 10,440億円(全融資残高に占める割合 32.9%) 取引先数2,008先(全融資先に占める割合 8.3%)
■愛媛銀行 2018/3月末 事業性評価融資
↓
融資残高 2,698億円(全融資残高に占める割合 24.7%) 取引先数798先(全融資先に占める割合 6.1%)
数値だけ見ると、分母が大きい伊予銀行が若干先行しているように見えますが、両銀行とも融資残高に占める割合から判断して、事業性評価融資の取り組みを推進していることが分かります。
ちなみに、広島銀行と百十四銀行(香川県)の事業性評価融資の取り組み(2018/3期)は、以下の通りです。
■広島銀行 融資残高 16,210億円、 取引先数 7,950先(全融資先に占める割合 22.2%)
■百十四銀行 融資残高 7,969億円、 取引先数 2,349先(全融資先に占める割合 11.7%)
広島銀行は、かなり積極的な印象です。これら近隣県と比較すると、愛媛県は取引先数に対する割合で、出遅れているように見えます。
事業性評価融資の取り組みは、金融庁の指導により、「金融仲介機能のベンチマーク」の1項目として各銀行から、対外発表されるようになり、こうして銀行別の融資姿勢が比較できるようになりました。
ということは、事業性評価融資に対して、銀行間で競争原理が働きますから、今後ますます広がりを見せそうですね。
そもそも事業性評価とは、何なのでしょうか?私なりの見解でお話しします。
私は、中小企業の事業計画書作成をお手伝いしています。
その中には、銀行向けの事業計画書もありますし、補助金やファンドなど資金調達を目的とした事業計画書もあります。
中小企業診断士が、事業計画書を作る時は、もともと事業性評価をしています。
中小企業を取り巻く外部環境と内部環境を、強み、弱み、機会、脅威の4つの視点から分析し、その環境から今後中小企業が進んでいくべき方向性を考えていきます。
また、業務フローを細かく仕訳していく中で、各フローの問題点や課題をあぶりだしたりもします。
その後、分析により抽出された課題や、今後の方向性に対して、具体的にどのような打ち手を実行していくか、経営者と一緒に考えます。
そして、具体策を実施していくことで、数値としてどう反映していくのか、予想数値を策定します。
現状分析から、課題の抽出、方向性の提言から、具体策の立案、結果としての予想数値の策定まで。
この一連の流れを通じて、私は「事業性評価」が深まると考えます。
一気通貫でできることが、診断士の強みであり、他の士業との違いです。
こうして事業計画を経営者と一緒に作っていくと、決算書などの財務諸表以外のことが、色々見えてきます。
例えば、歴史背景からなる組織の特徴とか、培ってきた企業文化とか、商品やサービスが顧客から支持されている理由とか、反対に顧客が離反している理由とか、業務フローの中で他社が模倣できない独特のビジネスモデルとか、、、。こうした項目は、決算書の資産として、数値化されていません。
しかしながら、これらの様々な数値化が難しい項目が企業を形作り、時間を経過したうえで結果として財務数値となっているのです。
銀行は、これまで決算書などの財務数値や、担保、保証に重点をおいた融資体制を採ってきました。
その姿勢が急激に変化するとは思いません。引き続き、実績や決算数値重視は続いていくでしょう。
ただ、新しい流れとして、事業性評価融資の取り組みが出てきていることも事実です。
以上のように、中小企業診断士が、事業計画を作成するうえで、通常業務としていることが、事業性評価です。
事業性評価は、実績より将来に、数値より目に見えない経営資源に、目を向けます。
では、こうした新しい動きに経営者は、どう備えるべきでしょうか?
私は、「経営者自身が自社のことをよく理解し、見える化して、銀行や取引先、自社の社員に説明できるようにしておくこと」が大切だと思います。
自社の他社との比較できる差別化ポイントは何か?解決すべき課題は?その優先順位は?将来を見据えて準備しておくことは?
考えてまとめていくうえで、色々な気付きを得ることができるでしょう。
今は、自社でこうした考えをまとめるための公的機関が発行するシート(「ローカルベンチマークシート」;経済産業省、「知的資産経営報告書」;中小機構等)もあります。客観的な視点を入れたいなら、取引銀行など、外部と連携する方法もあります。
企業経営を見える化したい、、、。その思いを打ち明けたなら、事業性評価融資に力を入れたい銀行との利害が一致し、きっと力になってくれることでしょう。
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