「損益計算書では黒字なのに、通帳に現金が残らない」
「借入金は毎月きちんと返しているのに、月末になると資金が足りなくなる」
こうした状態が続くと、売上不足や経費の使いすぎを疑いがちです。しかし、利益が出ている会社でも、借入金の期間設定が事業の実態と合っていなければ、資金繰りは慢性的に苦しくなります。
和田経営相談事務所が支援現場で見てきた範囲では、黒字でも資金繰りに苦しむ企業の9割は、長期借入金と短期借入金の「長短バランス」が崩れ、本来は継続して必要な運転資金まで長期借入金で調達しています。
その結果、商売を続ける限り回収しきれない資金に対しても毎月元本を返し、手元資金が減ると再び長期借入金を借りる「折り返し融資」を繰り返します。本記事では、このような長期借入金が過大で、元本返済が資金繰りを圧迫している状態を、便宜上「オーバーローン」と表現します。
なお、「9割」は公的統計ではなく、当事務所の実務経験に基づく見解です。すべての会社に共通する固定的な比率があるわけでもありません。重要なのは、借入期間を資金使途と回収期間に合わせることです。
長短バランスの「黄金比」と聞くと、短期4割・長期6割などの固定比率を想像するかもしれません。しかし、売掛金の回収条件、在庫の量、設備投資の内容は会社ごとに違います。そのため、全社共通の正解はありません。
長短バランスの基本は、正常運転資金には短期借入金、設備投資には長期借入金を対応させることです。金額の比率ではなく、資金の性格と借入期間が一致しているかを見ます。
短期借入金が少ない会社が健全とは限りません。正常運転資金まで長期で借り、毎月元本を返しているなら、むしろ資金繰りの構造に問題がある可能性があります。
正常運転資金に対応する手形貸付は、期日に業況や資金使途を確認したうえで書き換える「短期継続融資」として扱われることがあります。更新中は通常、毎月の元本分割返済がないため、資金繰りへの負担を抑えられます。
ただし、更新は自動でも永久保証でもありません。業績悪化、資金使途の変化、売掛金や在庫の劣化などがあれば、金融機関が更新条件を見直す可能性があります。
設備から得られる利益や減価償却による資金を返済原資とし、耐用年数や投資回収期間を踏まえて分割返済するのが基本です。長期だから悪いのではなく、継続して必要な運転資金に毎月返済を付けてしまうことが問題なのです。
掛け取引や在庫を伴う会社では、仕入代金を支払ってから売上代金を回収するまでの時間差が生じます。その間、会社が立て替える資金が正常運転資金です。
正常運転資金の基本式
=(売掛金 + 受取手形)+ 棚卸資産
-(買掛金 + 支払手形)
掲載している図表では、売掛金500万円、受取手形500万円、棚卸資産1,000万円に対し、買掛金500万円、支払手形500万円がある会社を例にしています。この場合、正常運転資金は1,000万円です。
① 売掛金500万円、受取手形500万円、棚卸資産1,000万円を合計する
② 買掛金500万円と支払手形500万円の合計を差し引く
③ 2,000万円 - 1,000万円 = 正常運転資金1,000万円
売上規模や取引条件が変わらない限り、この1,000万円は商売の循環の中に滞留し続けます。個々の売掛金や受取手形を回収しても、次の売掛金や在庫が発生するため、会社を継続する限り全額を自由な現金へ戻しにくいのです。
正常運転資金を短期借入金で調達する考え方
計算式だけで融資額は決まりません。
不良債権や不良在庫を除き、月次残高、季節変動、回収・支払条件、業種特性を確認する必要があります。決算日一日の残高だけで判断しないことが重要です。
先ほどの正常運転資金1,000万円を、5年返済の長期借入金で調達したとします。元金均等返済と単純化すれば、毎月の元本返済は約16.7万円です。
しかし、売上債権と在庫に滞留する1,000万円は、事業を続ける限り簡単には回収できません。手元へ戻りにくい資金に対して毎月約16.7万円を返すため、利益が出ていても現預金は減っていきます。
返済後に資金が不足すると、再び長期運転資金を借りることになります。借入実行直後は通帳残高が増えても、その後はまた返済が進み、数年後に借り直す。この折り返し融資が続くと、借入本数が増え、どの資金を何のために借りたのかも分かりにくくなります。
正常運転資金を長期借入金で調達した場合の資金流出
2026年6月、日本銀行は政策金利の目安となる無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.0%程度へ引き上げました。借入金利の上昇は無視できませんが、「変動金利が怖いから、すべて固定金利の長期借入金にする」と単純に決めるのも危険です。
経営者が比較すべきなのは金利だけではありません。年間支払利息に加え、年間元本返済額、営業キャッシュフロー、借換え時の審査リスクまで並べて判断してください。
参考:日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年6月16日)
「銀行が自社の資金繰りを考えてくれるはず」と、提案された期間をそのまま受け入れる経営者は少なくありません。しかし、銀行と会社では、融資期間を考える際の優先順位が異なります。
金融庁は2015年、正常運転資金に対して短期継続融資で対応することは問題なく、妥当な融資形態の一つになり得ると明確にしました。その背景には、正常運転資金であっても短期継続融資を避け、長期融資で対応する金融機関が一部に見られたことがあります。
一方で、短期継続融資の可否は、会社の業況や資金の実態を確認したうえで金融機関が判断します。「運転資金だから必ず短期で借りられる」とは限りません。
関連記事:銀行が融資を組み替えてくれない理由
借入金の構成を見直す前に、現状を数字で把握します。直近2~3期の決算書だけでなく、月次試算表、借入金一覧、返済予定表、資金繰り表を並べて確認してください。
当事務所の「AI経営参謀」も、ぜひ気軽にお試しください。
財務、資金繰り、銀行融資、経営改善などの疑問を、画面右下の「AI経営参謀に聞く(無料)」から質問できます。必要に応じて直近2期分の決算書、借入金明細、返済予定表などを確認し、次のように質問してください。
質問プロンプト例
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長短バランスが崩れていると分かったら、いきなり「長期借入金を短期へ変えてほしい」と要求するのではなく、資金の実態と改善効果を資料で説明します。
① 正常運転資金の根拠を示す
売上債権、棚卸資産、仕入債務の月次推移を示し、恒常的に必要な金額を説明します。
② 現在の借入金との不一致を示す
長期借入金のうち正常運転資金に対応する部分と、年間元本返済額を整理します。
③ 見直し後の資金繰りを示す
短期継続融資へ切り替えた場合に、年間の元本返済額と手元資金がどう変わるかを試算します。
④ 返済の裏付けを説明する
売掛先の信用力、回収実績、在庫の換金性、月次業績などを示し、資金使途が正常運転資金であることを説明します。
交渉先はメインバンクが基本ですが、取引金融機関ごとの融資方針や既存借入の条件により結論は変わります。長期借入金を一度返済して短期で借り直す場合には、審査、手数料、保証条件、担保、金利、更新リスクも確認が必要です。
短期継続融資は「返済逃れ」の手段ではありません。
赤字補填や設備資金を短期借入金へ付け替えても、資金繰りの問題は解決しません。黒字、資産内容、返済状況、月次管理などを整え、正常運転資金の実態を説明できることが前提です。
黒字なのに現金が残らない場合、利益だけでなく、借入金の長短バランスを確認してください。正常運転資金まで長期借入金で調達していると、商売の中に資金が滞留したまま、毎月の元本返済だけが続きます。
まずは借入金一覧へ「資金使途」「残高」「年間元本返済額」「最終返済日」を書き加え、正常運転資金に対応する長期借入金がいくらあるかを確認しましょう。銀行の提案を受け身で選ぶのではなく、自社のキャッシュフローを守る借入設計を経営者自身が考えることが、資金繰り改善の出発点です。
自社の財務基盤を盤石にし、本気の事業成長を目指す方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。