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AI時代のサイバー攻撃から会社を守る――中小企業経営者が今すぐ始める「サイバーリスクBCP」

ウェブサイト、顧客管理、在庫、物流、受発注、決済が止まったとき、あなたの会社は事業を続けられますか。

「当社のような小さな会社まで、わざわざ攻撃されることはない」

そう考えている中小企業経営者は、まだ少なくありません。

しかし、現在のサイバー攻撃は、攻撃者が一社ずつ企業を選び、時間をかけて調査するものだけではありません。自動化されたツールやAIを使い、インターネット上に公開された企業のシステムを広く探し、古い機器、更新されていないソフトウェア、弱いパスワード、設定ミスなどを機械的に見つけます。

会社の規模や知名度よりも、次の条件に当てはまる会社が狙われます。

  • ▶ 侵入しやすい会社
    古い機器やソフトウェア、弱いパスワード、設定ミスが残っている。
  • ▶ 金銭を払わせやすい会社
    システムが停止すると事業を続けられず、早期復旧を迫られる。
  • ▶ 取引先への足掛かりになる会社
    自社のメールや接続環境を利用して、主要取引先へ侵入できる。

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向け脅威の1位にランサム攻撃、2位にサプライチェーンや委託先を狙った攻撃、3位にAIの利用をめぐるサイバーリスクが挙げられました。

AIによる攻撃の容易化や巧妙化だけでなく、企業側のAI利用による情報漏えいも、重要なリスクとして認識され始めています。

⚠ サイバー攻撃は、単なるパソコンやITの問題ではありません。売上、顧客対応、在庫、出荷、受発注、入金を止める、事業継続上の重大な経営リスクです。

【目次】

AIによって変わったのは、攻撃の「量・速さ・精度」

AIは、企業の業務を効率化する一方で、攻撃者にとっても便利な道具になっています。

  • ◆ 自然な日本語のフィッシングメール
    以前のような不自然な文章や目立つ誤字が減り、見破りにくくなっています。
  • ◆ 企業や役職に合わせた偽の連絡
    社名、担当者名、業種、取引内容を盛り込んだメールを大量に作成できます。
  • ◆ 経営者や取引先担当者へのなりすまし
    過去のメールの文体や、公開されている音声・映像を模倣することも可能です。
  • ◆ 脆弱な機器やシステムの探索
    インターネット上に公開された管理画面や古い機器を自動的に探します。
  • ◆ 攻撃プログラムの作成・修正
    高度な専門知識が十分でない攻撃者でも、攻撃を実行しやすくなっています。

つまり、「日本語がおかしいから偽物」「誤字があるから怪しい」といった従来の見分け方だけでは、十分に対応できません。

一方で、従業員が顧客情報、契約書、設計図、見積書、売上データ、プログラムなどを、会社が許可していない生成AIへ入力するリスクもあります。

● AI時代のサイバーリスクは、外部からの攻撃と、社内での不適切なAI利用の二方向から発生します。

増加・深刻化している主なサイバー攻撃

1.ランサムウェア

ランサムウェアは、社内のファイルやシステムを暗号化し、復旧と引き換えに金銭を要求する攻撃です。

最近では、暗号化の前に顧客情報や機密情報を盗み、「支払わなければ公開する」と脅す二重恐喝も行われています。

被害は、要求された身代金だけではありません。

  • ✖ 売上の減少 ― 営業、受注、出荷が停止する。
  • ✖ 調査・復旧費用 ― 専門会社による調査や再構築が必要になる。
  • ✖ 顧客対応費用 ― 説明、謝罪、問い合わせ、補償が発生する。
  • ✖ 納期遅延 ― 違約金や取引停止につながる可能性がある。
  • ✖ 信用の低下 ― 顧客や取引先から管理体制を疑われる。
  • ✖ 社内負担の増大 ― 経営者や従業員が長期間、事故対応に追われる。

2.フィッシングとビジネスメール詐欺

メール、SMS、チャット、QRコードなどを使い、偽のログイン画面へ誘導して、IDやパスワードを盗む攻撃です。

メールアカウントを乗っ取られると、攻撃者は過去の取引内容や請求時期を確認し、実際の取引に割り込むことができます。

▶ 「振込先が変更になりました」

▶ 「今日中に送金してください」

▶ 「この件は、まだ他の社員には話さないでください」

振込先の変更や高額な送金指示を、メールやチャットだけで処理する会社は、特に注意が必要です。

3.盗まれた認証情報による不正ログイン

複数のサービスで同じパスワードを使っていると、一つのサービスから漏れたパスワードを使い、別のシステムへ次々と侵入される可能性があります。

  • → メール
  • → クラウドストレージ
  • → VPN
  • → 顧客管理システム
  • → 決済管理画面

メールは単なる連絡手段ではなく、多くのクラウドサービスへつながる「共通の鍵」です。

4.VPNや古い機器の脆弱性を突く攻撃

VPN、ルーター、リモートデスクトップ、サーバー、ウェブサイトの管理システムなどは、社外から社内へ入る入口になります。

社員が怪しいメールを開かなくても、古い機器や更新されていないソフトウェアから侵入されることがあります。

⚠ 社員教育だけでは不十分です。機器やソフトウェアの更新、管理画面の保護、アクセス権の見直しも欠かせません。

5.委託先や取引先を経由する攻撃

自社が直接攻撃されなくても、関係会社のアカウントや接続環境を経由して被害を受けることがあります。

  • ◆ ウェブ制作会社 ― 管理アカウントを経由してサイトを改ざんされる。
  • ◆ システム保守会社 ― 遠隔保守用の接続から社内へ侵入される。
  • ◆ 物流・倉庫会社 ― 出荷情報や配送先情報が利用できなくなる。
  • ◆ 会計事務所 ― 財務情報やメールを経由して被害が広がる。
  • ◆ クラウド事業者 ― サービス停止やアカウント侵害の影響を受ける。

反対に、自社が侵害され、大手取引先への攻撃の踏み台にされる可能性もあります。

セキュリティ対策の不足は、情報漏えいだけでなく、受注機会の喪失や取引継続への影響にもつながります。

6.DDoS攻撃

DDoS攻撃は、大量の通信を送りつけ、ウェブサイトやオンラインサービスを利用できなくする攻撃です。

通販 / 予約 / 問い合わせ / 受注 / 会員サービス / 決済

これらの業務をオンラインで行っている会社では、サイト停止が売上停止に直結します。

7.生成AIの業務利用による情報漏えい

攻撃者だけでなく、社内でのAI利用にも注意が必要です。

特に入力を禁止すべき情報の例

  • ✖ 顧客名簿や個人情報
  • ✖ 契約書や秘密保持情報
  • ✖ 図面、設計情報、製造条件
  • ✖ 未公表の売上・利益・資金繰り情報
  • ✖ ID、パスワード、APIキー
  • ✖ 自社または顧客のプログラム

AIを全面的に禁止するだけでは、従業員が隠れて利用する「シャドーAI」を招く可能性があります。

  • ✓ 利用可能なサービス ― 会社が認めたAIサービスを指定する。
  • ✓ 入力可能な情報 ― 公開情報や匿名化した情報など、利用範囲を決める。
  • ✓ 入力禁止情報 ― 顧客情報や営業秘密を明示する。
  • ✓ 出力内容の確認 ― AIの回答をそのまま利用しない。
  • ✓ 最終責任の所在 ― 利用者または承認者を明確にする。

「侵入を防ぐ」だけでは会社を守れない

サイバー攻撃を防ぐ対策は必要です。しかし、どれだけ対策を行っても、侵入やシステム停止の可能性を完全にゼロにすることはできません。

  • ① 侵入されにくくする
    多要素認証、更新、アクセス制限、監視などを行う。
  • ② 侵入されても事業を続ける
    重要業務の優先順位、代替運用、復旧手順を決める。

システムが停止した場合に、次の事項をあらかじめ決めておくことが、サイバーリスクBCPです。

  • ▶ 優先順位 ― どの業務を最優先で再開するか。
  • ▶ 許容停止時間 ― 何時間まで停止を許容できるか。
  • ▶ 代替運用 ― システムを使わずに業務を続けられるか。
  • ▶ 判断権限 ― 誰が業務停止や復旧を判断するか。
  • ▶ 顧客対応 ― 誰が、何を、どの時点で説明するか。
  • ▶ 資金繰り ― 復旧までの支払いや入金をどう維持するか。

サイバーリスクBCPとは何か

BCPとは、災害や事故などの緊急事態が発生したとき、重要な事業を継続し、停止した場合も早期に復旧するための計画です。

サイバーリスクBCPでは、これをサイバー攻撃や重大なシステム障害に当てはめます。

  • ① 予防 ― 多要素認証、更新、アクセス権管理などで侵入の可能性を下げる。
  • ② 検知 ― 不審なログイン、データの大量出力、システム異常を早期に発見する。
  • ③ 封じ込め ― 感染端末や侵害されたアカウントを切り離す。
  • ④ 事業継続 ― 電話、紙、表計算、代替システムで重要業務を続ける。
  • ⑤ 安全な復旧 ― 攻撃原因を除去し、安全性を確認して業務を戻す。

サイバーリスクBCPの目的は、パソコンを元に戻すことではありません。受注、供給、出荷、請求、入金など、会社の重要業務を継続または早期再開することです。

一般的な災害BCPとの違い

地震や水害では、建物、設備、電気、交通、従業員などが利用できなくなることを想定します。

サイバー攻撃では、建物も従業員も無事であるにもかかわらず、データやシステムを信用できない状態になります。

  • ? 顧客データ ― 正しい内容なのか、改ざんされたのか分からない。
  • ? 注文情報 ― 数量、価格、納期、送付先が正しいか分からない。
  • ? 在庫情報 ― システム上の数字と現物が一致しているか分からない。
  • ? 社内メール ― 攻撃者に読まれている可能性がある。
  • ? バックアップ ― 不正プログラムや侵害された設定が含まれている可能性がある。
  • ? 復旧済みシステム ― 攻撃者が再侵入する入口が残っている可能性がある。

そのため、単に電源を入れ直したり、バックアップを戻したりすれば終わりではありません。

一つの侵入から全業務が止まる

現在の業務システムは、それぞれが独立しているわけではありません。

ウェブサイト

↓ 注文データ

受発注管理

↓ 在庫引当・出荷指示

在庫管理・物流管理

↓ 決済・購入履歴

決済システム・顧客管理

一つのアカウント、一つのAPI、一台の管理用パソコンが侵害されるだけで、複数の業務へ被害が連鎖する可能性があります。

  1. ウェブ管理会社のアカウントが乗っ取られる。
  2. ウェブサイトに不正プログラムが埋め込まれる。
  3. 管理担当者のパソコンから認証情報が盗まれる。
  4. 顧客管理と受発注管理へ侵入される。
  5. 顧客情報が盗まれ、在庫や注文データが暗号化される。
  6. 出荷できず、請求も入金確認もできなくなる。

⚠ これは単なるIT障害ではありません。会社の営業機能そのものが止まる、事業継続上の事故です。

六つの重要システム別・サイバーリスクBCP

① ウェブサイト

⚠ 想定される被害

改ざん / 詐欺サイトへの誘導 / 問い合わせ情報の漏えい / 通販・予約機能の停止 / 検索エンジンからの警告表示

■ BCPで決めること

  • ▶ サイトを停止する判断基準
  • ▶ 緊急告知を掲載する代替ページ
  • ▶ SNS、電話、メールによる顧客案内
  • ▶ 通販・予約停止時の代替受付方法
  • ▶ 制作会社やサーバー会社への緊急連絡方法
  • ▶ 安全性を確認して再公開する手順

■ 確認チェック

  • □ CMSやプラグインを定期的に更新している
  • □ 管理画面に多要素認証を設定している
  • □ ウェブサイトとデータベースのバックアップがある
  • □ 改ざんを検知する仕組みがある
  • □ 旧制作会社や退職者のアカウントを削除している
  • □ サイト停止時の代替告知手段がある
  • □ 緊急連絡先を紙や別媒体でも保管している
  • □ 再公開を判断する責任者が決まっている

② 顧客管理システム

⚠ 想定される被害

顧客情報の漏えい / データの暗号化・削除 / なりすまし / 営業履歴の消失 / 顧客への連絡不能

■ BCPで決めること

  • ▶ 優先して連絡すべき顧客
  • ▶ 最低限必要な顧客情報
  • ▶ オフラインで保管する緊急連絡先
  • ▶ 情報漏えいの可能性を判断する責任者
  • ▶ 顧客への説明文と問い合わせ窓口
  • ▶ 顧客管理を一時的に代替する方法

■ 確認チェック

  • □ 全利用者に個別アカウントを発行している
  • □ 多要素認証を設定している
  • □ 一括出力権限を必要な担当者に限定している
  • □ ログイン、出力、削除などの操作ログを保存している
  • □ 退職・異動時に権限を速やかに変更している
  • □ 外部アプリやAPIとの連携を把握している
  • □ 顧客情報のバックアップを復元できる
  • □ システム停止時に使う最低限の顧客一覧がある

③ 在庫管理システム

⚠ 想定される被害

在庫数の不明 / 欠品・過剰受注 / 原材料不足 / 生産停止 / 棚卸し・原価計算への影響

■ BCPで決めること

  • ▶ 優先商品の在庫確認方法
  • ▶ 手作業による入出庫記録
  • ▶ システム復旧後の在庫照合
  • ▶ 倉庫・工場との連絡方法
  • ▶ 出荷を止める判断基準
  • ▶ 在庫データの基準時点

■ 確認チェック

  • □ 在庫修正の履歴を記録している
  • □ 大量変更や異常操作を検知できる
  • □ 倉庫端末を適切に更新している
  • □ 事務系と倉庫・製造系ネットワークを分けている
  • □ データとシステム設定をバックアップしている
  • □ バックアップの復元テストを実施している
  • □ 紙や表計算による臨時の入出庫記録がある
  • □ 復旧後に現物在庫と照合する手順がある

④ 物流システム

⚠ 想定される被害

送り状発行不能 / 配送先不明 / 誤配送 / 配送状況の確認不能 / 委託倉庫との連携停止

■ BCPで決めること

  • ▶ 優先して出荷する商品や顧客
  • ▶ 手書き送り状や代替配送手段
  • ▶ 運送会社への緊急連絡方法
  • ▶ 直近の出荷予定の保管方法
  • ▶ 誤配送を防ぐダブルチェック
  • ▶ 復旧後の出荷漏れ・二重出荷確認

■ 確認チェック

  • □ 運送会社との接続方法を把握している
  • □ APIキーや連携アカウントを管理している
  • □ 出荷先変更に承認手続がある
  • □ 直近の出荷予定を別の方法でも確認できる
  • □ 手作業による出荷手順がある
  • □ 委託倉庫の緊急連絡先を把握している
  • □ 代替運送会社を検討している
  • □ 物流委託先を含めた訓練を実施している

⑤ 受発注管理システム

⚠ 想定される被害

未処理注文の不明 / 数量・価格・納期の改ざん / 誤納品 / 架空発注 / 請求漏れ / 振込先の不正変更

■ BCPで決めること

  • ▶ 電話、FAX、メールによる代替受注
  • ▶ 高額注文の確認方法
  • ▶ 取引先への受付方法の案内
  • ▶ 受注残のオフライン保管
  • ▶ 復旧後の二重登録防止
  • ▶ 振込先変更時の本人確認

■ 確認チェック

  • □ 注文、価格、取引条件の変更履歴を記録している
  • □ 高額注文に承認手続がある
  • □ 振込先変更を電話など別の経路で確認している
  • □ 受発注アカウントに多要素認証を設定している
  • □ 連携用アカウントの権限を限定している
  • □ 直近の受注残を別に保管している
  • □ システム停止時の受付様式を用意している
  • □ 復旧後の処理漏れや重複を確認する手順がある

⑥ 決済システム

⚠ 想定される被害

不正送金 / 架空返金 / 振込先変更 / カード情報漏えい / 決済停止 / 入金確認不能

■ BCPで決めること

  • ▶ 決済を緊急停止する権限
  • ▶ 決済事業者への連絡方法
  • ▶ 銀行振込や請求書払いなどの代替手段
  • ▶ 返金や口座変更の承認手続
  • ▶ 不正取引の調査方法
  • ▶ 売上・入金データの照合方法

■ 確認チェック

  • □ 管理画面に多要素認証を設定している
  • □ 一つのアカウントを複数人で共用していない
  • □ 返金や口座変更に複数人の承認が必要である
  • □ カード情報を不要に自社保存していない
  • □ 不審な決済や大量返金の通知を設定している
  • □ APIキーや秘密鍵を適切に保管している
  • □ 決済事業者の緊急連絡先を把握している
  • □ 決済停止時の代替支払方法を準備している

復旧の優先順位は「システム」ではなく「業務」から決める

サイバーリスクBCPを作るとき、システムの一覧だけを見て復旧順位を決めるのは適切ではありません。

経営者と各部門で、次の問いを検討します。

  • ① 1時間停止したら ― どの顧客や現場に影響するか。
  • ② 1日停止したら ― 売上、納期、問い合わせにどの程度影響するか。
  • ③ 3日停止したら ― 主要取引や資金繰りが危うくならないか。
  • ④ 法令・契約面 ― 報告義務、納期、品質、安全面の問題はないか。
  • ⑤ 取引先への波及 ― どの委託先や顧客に影響が及ぶか。
  • ⑥ 代替可能性 ― システムなしで何%まで業務を続けられるか。

このように、業務が停止した場合の影響を分析することを、業務影響度分析、BIAと呼びます。

決めておきたい三つの目標

  • ① 最大許容停止時間
    これ以上停止すると、事業、主要顧客、資金繰り、法令順守などに重大な影響が出る時間です。
  • ② 目標復旧時間・RTO
    システムや業務を、いつまでに一定水準へ戻すかという目標です。
  • ③ 目標復旧時点・RPO
    どの時点までのデータを復元できなければならないかという目標です。

例えば、受発注システムのRTOを8時間、RPOを1時間とするなら、8時間以内の業務再開と、直近1時間分までのデータ損失に抑える仕組みが必要です。

⚠ バックアップが1日1回しかない会社が、RPOを1時間に設定しても実現できません。目標と実際の対策を一致させる必要があります。

サイバーリスクBCP管理項目の例

  • ■ 重要業務 ― 注文受付、出荷、入金処理、顧客連絡など。
  • ■ 使用システム ― 受発注、在庫、物流、決済、顧客管理など。
  • ■ 最大許容停止時間 ― 事業上、耐えられる限界時間。
  • ■ RTO ― 業務を再開する目標時間。
  • ■ RPO ― 復元するデータの目標時点。
  • ■ 代替運用 ― 電話、紙、表計算、臨時フォームなど。
  • ■ 責任者 ― 営業、物流、経理、広報などの担当責任者。

数値は他社の例をそのままコピーするのではなく、売上、顧客、契約、業務量、従業員数を踏まえて自社で決める必要があります。

全社共通・サイバーリスクBCPチェックリスト

経営と体制

  • □ 経営者がサイバーリスクを事業継続上のリスクと認識している
  • □ サイバーインシデントの責任者を任命している
  • □ 緊急対策本部を設置する基準がある
  • □ 現場、経営者、IT業者の役割を決めている
  • □ 経営者不在時の代理判断者を決めている
  • □ 事業停止や復旧に関する判断権限を決めている

重要業務とシステム

  • □ 重要業務を特定している
  • □ 業務とシステムの依存関係を整理している
  • □ 最大許容停止時間を定めている
  • □ RTOとRPOを定めている
  • □ 復旧の優先順位を決めている
  • □ クラウド、API、委託先への依存を把握している

予防と検知

  • □ メール、VPN、クラウド、管理画面に多要素認証を設定している
  • □ OS、ソフトウェア、ネットワーク機器を更新している
  • □ 不要なアカウントを削除している
  • □ 管理者権限を必要な担当者に限定している
  • □ 不審なログインや大量操作を検知できる
  • □ 調査に必要なログを保存している
  • □ AIへ入力してよい情報と禁止情報を定めている

バックアップと復旧

  • □ 重要データをバックアップしている
  • □ バックアップの一部をネットワークから隔離している
  • □ バックアップも多要素認証などで保護している
  • □ バックアップから実際に復元したことがある
  • □ システム設定や構成情報も保管している
  • □ 復旧に必要な認証情報を安全に保管している
  • □ 復旧後の安全確認手順がある

代替運用

  • □ 紙、電話、表計算による代替手順がある
  • □ 緊急時に必要な帳票を別媒体でも保管している
  • □ 優先顧客、受注残、出荷予定を別の方法でも確認できる
  • □ 代替運用時の承認ルールがある
  • □ 二重処理や処理漏れを防ぐ手順がある
  • □ 代替運用を何日間続けられるか確認している

外部連携と広報

  • □ IT保守会社の緊急連絡先を把握している
  • □ セキュリティ専門会社への相談方法を把握している
  • □ 警察や公的相談窓口への連絡方法を把握している
  • □ 顧客・取引先への連絡責任者を決めている
  • □ ウェブサイトが使えない場合の情報発信手段がある
  • □ 委託先との役割分担を契約で確認している
  • □ サイバー保険の対象範囲と連絡条件を確認している

訓練と改善

  • □ 年1回以上、サイバー攻撃を想定した訓練を行っている
  • □ 経営者が訓練へ参加している
  • □ IT業者や重要委託先も訓練へ参加している
  • □ 訓練後に課題と改善責任者を決めている
  • □ 組織やシステムの変更時にBCPを更新している
  • □ 紙の緊急連絡網を定期的に更新している

攻撃発生から事業再開までの対応

発見直後

  • ① 切り離す ― 感染が疑われる端末をLANやWi-Fiから切り離す。
  • ② 記録する ― 画面、発見時刻、発生した現象を記録する。
  • ③ 報告する ― 社内責任者と経営者へ報告する。
  • ④ 相談する ― 保守会社やセキュリティ専門家へ連絡する。
  • ⑤ 保存する ― ログやファイルを安易に削除しない。

⚠ 感染端末の電源をすぐに切ると、調査に必要な情報が失われる場合があります。対応方法は、保守会社や専門家の指示を受けて判断します。

数時間以内

  • ▶ 被害範囲 ― どの端末、アカウント、業務が影響を受けているか確認する。
  • ▶ 対応体制 ― 緊急対策本部を設置するか判断する。
  • ▶ 代替運用 ― 重要業務を紙、電話、表計算などへ切り替える。
  • ▶ 外部連絡 ― 顧客、取引先、警察、保険会社への連絡を検討する。
  • ▶ 情報発信 ― 社内外への説明を一元化する。

確認できていること / 現在確認中のこと / 次回の情報更新時刻

説明する際は、この三つを分けて伝えます。

復旧判断

  • □ 攻撃の侵入経路は分かったか
  • □ 不正アカウントは削除したか
  • □ 認証情報を安全に変更したか
  • □ マルウェアやバックドアは残っていないか
  • □ バックアップは安全か
  • □ 復旧後の監視体制はあるか

事業再開後

  • ✓ データ反映 ― 手作業で処理した注文をシステムへ登録する。
  • ✓ 重複確認 ― 処理漏れや二重処理がないか確認する。
  • ✓ 数値照合 ― 在庫、出荷、請求、入金を突き合わせる。
  • ✓ 外部説明 ― 顧客や取引先へ状況と対応を説明する。
  • ✓ 再発防止 ― 原因を記録し、BCPとセキュリティ対策を改訂する。

システムが動き始めた時点が、対応の終了ではありません。

経営者が今日から始める行動

今日中に行うこと

  • ① 責任者を決める
    誰が状況を確認し、誰がIT業者へ指示し、誰が経営者へ報告するのかを決めます。
  • ② 重要システムを一覧化する
    システム名、責任者、保守会社、重要データ、停止時の影響、緊急連絡先を整理します。
  • ③ 多要素認証を有効にする
    メール、VPN、クラウド、ウェブ管理、顧客管理、決済管理画面から優先して設定します。

1週間以内に行うこと

  • ✓ 退職者や不要なアカウントを削除する
  • ✓ VPN、ルーター、サーバー、CMSを更新する
  • ✓ バックアップの保管場所を確認する
  • ✓ バックアップから試験的に復元する
  • ✓ 取引先口座変更時の確認ルールを決める
  • ✓ 生成AIの業務利用ルールを作る
  • ✓ 攻撃発生時の連絡網を作る

30日以内に行うこと

  • ✓ 外部から見えるサーバーや機器を確認する
  • ✓ 必要に応じて脆弱性診断を受ける
  • ✓ ログの保存と監視を始める
  • ✓ 委託先との契約内容を確認する
  • ✓ 初動対応手順を文書化する
  • ✓ 従業員向けの短時間研修を行う
  • ✓ サイバー保険や外部支援サービスを検討する

90日でつくる中小企業のサイバーリスクBCP

最初の30日|現状を把握する

  • ▶ 責任者を任命する
  • ▶ 重要業務とシステムを一覧化する
  • ▶ 委託先と緊急連絡先を整理する
  • ▶ 多要素認証と更新状況を確認する
  • ▶ バックアップの有無と保存方法を確認する
  • ▶ 現在の代替運用方法を把握する

31日目から60日目|計画を作る

  • ▶ 業務影響度分析を行う
  • ▶ 最大許容停止時間を決める
  • ▶ RTOとRPOを設定する
  • ▶ 復旧優先順位を決める
  • ▶ 初動対応フローを作る
  • ▶ 顧客・取引先への連絡文案を作る
  • ▶ 紙の緊急連絡網を作る

61日目から90日目|試して改善する

  • ▶ バックアップの復元テストを行う
  • ▶ 紙や表計算による代替運用を試す
  • ▶ 経営者参加の机上訓練を行う
  • ▶ IT業者との役割分担を確認する
  • ▶ 訓練で見つかった課題を修正する
  • ▶ 次回の訓練日と見直し日を決める

「計画書を作った」で終わらせない

サイバーリスクBCPは、立派な冊子を作ることが目的ではありません。実際に攻撃を受けたとき、経営者と担当者が迷わず動けるかどうかが重要です。

机上訓練の想定例

月曜日の午前8時、従業員が出社すると、受発注、顧客管理、在庫管理の各システムが利用できなくなっていました。

サーバーには、身代金を要求するメッセージが表示されています。

午前中に出荷しなければならない注文が80件あり、主要取引先から納期確認の電話が入っています。

IT保守会社からは、「復旧時期はまだ分からない」と言われました。

このとき、次の問いに答えられるでしょうか。

  • ? 誰が全体を指揮するのか
  • ? 出荷を続けるのか、止めるのか
  • ? 顧客へ何と説明するのか
  • ? どの業務から代替運用を始めるのか
  • ? どのシステムを最優先で復旧するのか
  • ? 個人情報漏えいの可能性を誰が判断するのか
  • ? 何時間後に次の経営判断を行うのか
  • ? 資金繰りへの影響を誰が確認するのか

答えられない項目があるなら、その会社には、実際に使えるサイバーリスクBCPがまだ整っていません。

サイバー対策は「守る経営」から「止めない経営」へ

サイバー攻撃を完全に防ぐことはできません。

  • ✓ 準備している会社
    異常を早く発見し、影響を限定し、重要業務を代替手段で続け、安全性を確認して復旧できます。
  • ✖ 準備していない会社
    何が起きたか分からず、誰が判断するかも決まらないまま、顧客対応、受注、出荷、請求、入金が止まります。

サイバーセキュリティは、情報システム担当者だけに任せる問題ではありません。

  • ■ 何を最優先で守るのか
  • ■ 何時間まで停止を許容するのか
  • ■ 代替運用でどこまで事業を続けるのか
  • ■ 復旧へどの程度の経営資源を投入するのか

これを決めるのは経営者です。

明日の朝、このシステムが使えなくなったら、会社は何時間、事業を続けられるでしょうか。

答えが分からないのであれば、今こそサイバーリスクBCPに着手すべき時です。

攻撃を受けないことだけを願う経営から、攻撃を受けても会社を止めない経営へ。

その転換が、AI時代の中小企業に求められています。


参考情報

自社の財務基盤を盤石にし、本気の事業成長を目指す方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。

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