「減価償却不足累計額は、決算書のどこを見れば分かるのか」
「法人税申告書の別表十六を見ても、会社全体の累計額が見つからない」
このような疑問を持つ中小企業経営者や後継者は少なくありません。
結論から言うと、会社全体の「減価償却不足累計額」は、貸借対照表、損益計算書、法人税申告書のいずれにも、一つの合計額としては表示されていません。
当期の償却不足額を確認できる資料はありますが、累計額は固定資産台帳などを使って再計算する必要があります。
この記事では、減価償却不足累計額がどこにあるのか、別表十六のどこが手掛かりになるのか、固定資産別にどう計算するのかを説明します。記事後半では、自社で集計できるExcel計算シートも紹介します。
情報基準日:2026年8月29日
まず、決算書と税務申告書に何が載っているかを分けて確認します。
| 資料 | 確認できる主な数字 | 累計不足額が分かるか |
|---|---|---|
| 損益計算書 | 当期に費用計上した減価償却費 | 分からない |
| 貸借対照表 | 固定資産の帳簿価額、表示方法によっては減価償却累計額 | 本来の償却額との比較がないため、単独では分からない |
| 固定資産台帳 | 資産別の取得価額、取得日、償却方法、当期償却額、期末帳簿価額 | 再計算の中心資料になる |
| 法人税申告書の別表十六 | 償却限度額、当期償却額、当期の償却不足額など | 当期額の手掛かりにはなるが、会社全体の普通償却不足累計額ではない |
2026年8月時点の国税庁様式では、定額法等に用いる別表十六(一)の「償却不足額」は36欄、定率法等に用いる別表十六(二)では40欄です。
ただし、この欄は当期の償却限度額と当期償却額との差額を示す欄であり、特別償却などが含まれる場合もあります。過去からの普通償却の不足額を会社全体で合計した数字が、そのまま一行で載っているわけではありません。
「別表十六に償却不足額がある」ことと、「減価償却不足累計額が決算書に載っている」ことは別です。
当期額、特別償却不足額、経営・銀行評価で確認したい普通償却の累計不足額を混同しないことが重要です。
減価償却不足の意味、発生理由、銀行評価への影響は、「【償却不足とは】なぜ粉飾になる?発生理由・確認方法と銀行評価(2026年版)」で詳しく解説しています。本記事では、その次の疑問である「累計額をどう求めるか」に絞ります。
最も分かりやすい方法は、期末時点で保有している固定資産ごとに、実際の帳簿価額と、毎期規則的に減価償却した場合の帳簿価額を比較する方法です。
資産別の減価償却不足累計額
= 実際の帳簿価額 − 本来の帳簿価額
※計算結果がマイナスの場合は0
減価償却累計額から計算する場合も、意味は同じです。
減価償却不足累計額
= 本来の減価償却累計額 − 実際の減価償却累計額
会社全体の累計額は、期末時点で保有する各資産の不足額を合計して求めます。すでに売却・除却した資産の不足額を残したままにしないことが重要です。
過年度の推移を把握したい場合は、次のロールフォワードでも概算できます。
期末不足累計額
= 期首不足累計額 + 本来の当期減価償却額
− 実際の当期減価償却額 − 処分等による不足減少額
ただし、定率法、取得・除却の多い会社、特別償却や圧縮記帳がある会社では、単純な年度合計だけでは誤差が生じます。最終確認は固定資産別に行う方が安全です。
取得価額1000万円の機械について、実際の期末帳簿価額が650万円、毎期規則的に償却した場合の本来の帳簿価額が400万円だったとします。
| 確認項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 実際の減価償却累計額 | 1000万円-650万円 | 350万円 |
| 本来の減価償却累計額 | 1000万円-400万円 | 600万円 |
| 減価償却不足累計額 | 600万円-350万円 | 250万円 |
この会社の貸借対照表上の純資産が1200万円なら、単純化した実態純資産は1200万円-250万円=950万円です。
これは考え方を示す簡易例です。実際には、税効果、減損、圧縮記帳、資産の処分などを考慮する場合があり、金融機関によって評価方法も異なります。
1資産だけなら電卓でも計算できます。しかし実務では、取得時期や償却方法が異なる機械、車両、器具備品などを一つずつ確認し、売却・除却した資産を除外したうえで会社全体を合計しなければなりません。資産数が増えるほど、手作業では入力漏れや集計誤りが起きやすくなります。
減価償却費を十分に計上しなければ、その期の利益と固定資産の帳簿価額は大きく見えます。銀行が償却不足を認識した場合、実態把握のために利益、固定資産、純資産を修正して考えることがあります。
したがって、経営者が銀行と対話するには「今年の減価償却費」だけでなく、「不足が累計でいくら残っているか」を把握することが重要です。
今回作成した「減価償却不足累計額 計算シート」は、記事で説明した計算を、自社の固定資産へ置き換えて行うためのExcelです。
このシートの目的は、決算書に載っていない会社全体の減価償却不足累計額を見えるようにすることです。
固定資産ごとの数字を黄色いセルへ入力すると、資産別の不足額、会社全体の不足額、不足を反映した実態純資産が自動計算されます。最大50資産まで入力できます。
このシートが、取得日や耐用年数から税務上の正しい償却額を自動判定するわけではありません。
「本来の帳簿価額」は資産の取得時期、償却方法、特別償却、圧縮記帳などによって変わるため、再計算した数字を入力します。その後の資産別比較、会社合計、実態純資産への反映を自動化するシートです。
Summaryへ会社全体の数字を入力
会社名、決算基準日、貸借対照表の純資産額、固定資産額を入力します。ここが最終結果を確認する画面になります。
Asset_Calcへ固定資産別の数字を入力
期末時点で保有している資産について、資産名、償却方法、取得価額、実際の帳簿価額、本来の帳簿価額を入力します。資産数が多い場合は、取得時期・償却方法・耐用年数が同じ資産グループでまとめることもできます。
Summaryで会社全体の結果を確認
資産別の不足額が自動集計され、「減価償却不足累計額」と「不足反映後の実態純資産」が表示されます。どの資産が不足額を生んでいるかはAsset_Calcで確認できます。
下の画面は、Excelの2枚目「Asset_Calc」へ、記事で使用している機械A・車両B・器具備品Cを入力した状態を再現したものです。ダウンロード前に、入力欄と自動計算欄の構成を確認できます。
▲ 実際のExcel2枚目を再現した入力例です。黄色セルへ自社の数字を入れると、白色・緑色の計算欄が自動更新されます。ダウンロード版は50資産まで入力できます。
資産ごとに入力すると、機械Aの250万円と車両Bの60万円が自動集計されます。器具備品Cは実際と本来の帳簿価額が同じため、不足額は0円です。
Summaryに表示される会社全体の計算結果
この例では、決算書上の純資産1200万円だけを見る場合と、不足累計額310万円を反映した実態純資産890万円を見る場合では、会社の財務状態に対する印象が変わります。
Year_Calc|20期分の推移
期首不足額、本来の償却額、実際の償却額、処分等による減少額を入力し、不足累計額が増えているか、解消へ向かっているかを確認できます。
Checks|入力チェック
帳簿価額が取得価額を超えていないか、負の金額がないか、主要項目の入力漏れがないかを自動確認します。
特に、過去に赤字回避のため減価償却を減らした会社、銀行から償却不足を指摘された会社、決算書上は資産超過でも実態純資産を確認したい会社に役立つシートです。
一から計算式を作る必要はありません。記事の3資産の例と同じ手順で、自社の固定資産を黄色いセルへ入力してご利用ください。
会社名・氏名・メールアドレスを入力して送信してください。
入力いただいたメールアドレスへ、Excel計算シートのダウンロードURLを自動返信します。
※本シートは経営・銀行評価用の簡易推計シートです。税務申告書の作成、会計処理の確定、償却方法や耐用年数の判定を自動で行うものではありません。本来の帳簿価額の再計算や個別処理は、顧問税理士等へご確認ください。
当事務所の「AI経営参謀」も、ぜひ気軽にお試しください。
当事務所の300本以上の専門記事を参照・活用して回答します。計算シートで集計した数字を使い、画面右下の「AI経営参謀に聞く(無料)」から次のように質問できます。
質問例:
当社の貸借対照表上の純資産は○円、減価償却不足累計額は○円、当期の償却不足額は○円です。銀行評価への影響と、償却不足を正常化する際に確認すべき点を整理してください。
減価償却不足累計額は、決算書や法人税申告書に会社全体の合計額として表示されていません。別表十六の当期償却不足額を手掛かりにしながら、固定資産台帳を使って、実際の帳簿価額と本来の帳簿価額との差を資産別に計算します。
経営者が把握すべきなのは、「今期に減価償却費をいくら計上したか」だけではありません。過去からの不足が累計でいくら残り、それを反映すると純資産がいくらになるかです。
【制度上の確認先】
※本記事は一般的な考え方を示したものです。実際の減価償却方法、耐用年数、税務申告、過年度修正、銀行評価は会社ごとに異なります。個別の会計・税務処理は顧問税理士等へご確認ください。
自社の財務基盤を盤石にし、本気の事業成長を目指す方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。