「決算書が出来上がった。売上と利益は確認したけど、他に見るべきポイントは?」
「うちの会社の『現預金』、前期より増えた(減った)けど、これって良いこと?悪いこと?」
「『赤字なのに現金増える』って聞いたけど、どういうこと?」
経営者や経理担当者の皆様、決算書を確認する際、売上高や利益だけでなく、**「現預金(現金及び預金)」**の残高とその増減に注目していますか? 実は、この「現預金」の動きを読み解くことで、損益計算書だけでは見えない会社のリアルな健康状態や、潜在的なリスクが見えてくることがあります。
この記事では、中小企業支援の現場に立つ経営コンサルタントとして、「現預金」が増減する理由(「現預金 増加理由」「現預金 減少理由」)を「良いケース」「悪いケース」に分けて解説し、その分析ポイントや注意点について、分かりやすくお伝えします。
【目次】
分析に入る前に、「現預金」の基本をおさらいしましょう。
貸借対照表上の位置づけと内訳
「現預金」は、貸借対照表(B/S)の左上、「資産の部」の中の「流動資産」に区分される勘定科目です。具体的には、以下の合計額を指します。
・現金: 手元にある現金(いわゆるタンス預金やレジ現金など)
・預金: 金融機関に預けている各種預金
普通預金、当座預金
定期預金、積立預金 など
(※当座預金に当座貸越契約がある場合、残高がマイナスでも「現預金」の合計がマイナス表示されることがあります。)
中小企業における「現預金」の重要性
特に中小企業にとって、「現預金」は会社の生命線とも言えます。日々の支払いや予期せぬ事態に対応するための資金であり、「現預金」残高の多寡は、直接的に企業の支払い能力(資金繰りの安定性)や短期的な安全性を示します。 業績が悪化すると、「現預金」が急速に減少していくケースが多く見られます。
「現預金」の残高そのものも重要ですが、より重要なのはその「増減」と「その理由」を把握することです。
過去推移の確認方法
まず、過去3~5年程度の決算書を用意し、「現預金」の期末残高を時系列で並べてみましょう。 増加傾向か、減少傾向か、横ばいか、大きなトレンドが見えてくるはずです。(この際、特に「現金」勘定の金額が、実際の有高と乖離していないか確認が必要です。もし乖離がある場合は、実態に合わせて分析する必要があります。)
増減と「会社の出来事」を照合する
次に、その増減があった期間に、会社でどのような出来事があったか(売上・利益の変動、大きな投資、借入・返済、不採算部門の整理など)を書き出し、突き合わせてみましょう。 なぜ「現預金」が増えたのか、減ったのか、その背景が見えてきます。
「現預金 減少理由」には、注意すべきケースと、必ずしも悪くないケースがあります。
要注意な減少理由(業績悪化・不良資産)
・本業の赤字: 売上不振やコスト増により、営業活動でキャッシュを生み出せず、手元資金が減っている。**最も警戒すべき「現預金 減少理由」**です。
・売掛金の回収遅延・貸倒れ: 売上は立っているのに、代金回収が進まず現金化されていない。
・不良在庫の増加: 売れない在庫が増え、仕入代金だけが出ていっている。
・使途不明な支出: 経費の無駄遣いや、個人的な流用など。
これらの理由で「現預金」が減少している場合、早急な対策が必要です。
ポジティブな減少理由(成長投資・負債圧縮)
・成長のための設備投資: 将来の収益増を見込んだ設備投資に自己資金を充当した。
・有利子負債の返済: 借入金の返済を積極的に行い、財務の安全性を高めている。
・急成長に伴う運転資金増: 売上が急増し、それに伴い仕入や人件費が増加し、一時的に「現預金」が減少している。(ただし、売掛金回収サイトとのバランスは要確認)
これらの「現預金 減少理由」は、将来の成長や財務改善に繋がるものであれば、必ずしも悪いとは言えません。
利益は出ているのに現預金が減る場合
「損益計算書では黒字なのに、なぜか現預金が減っている」というケースもよくあります。これは主に以下の理由が考えられます。
・借入金の元本返済: 利益額以上に借入金の元本返済額が大きい(特に、利益≒減価償却費+借入金元本返済額 の場合、現預金は増えにくい)。
・設備投資: 利益を上回る規模の設備投資を行った。
・売掛金・在庫の増加: 利益が、現金化されていない売掛金や在庫に形を変えている。
・税金の支払い: 法人税などの納税額が大きい。
[関連記事:キャッシュフロー計算書の見方 – 利益と現金のズレを理解する]
次に、「現預金 増加理由」を見ていきましょう。これも良いケースと注意が必要なケースがあります。
健全な増加理由(本業好調)
・本業での利益獲得: 事業が好調で、生み出した利益が現金として着実に蓄積されている。**最も望ましい「現預金 増加理由」**です。
・売掛金の早期回収、在庫の圧縮: 資金繰り改善努力が実を結び、現金化が進んでいる。
注意が必要な増加理由(外部資金・資産売却)
・金融機関からの借入: 新たな借入により一時的に「現預金」が増加している。
・増資・役員等からの資金投入: 株主や役員からの出資や貸付により増加している。
・資産売却: 本業とは関係ない土地や有価証券などを売却して現金を得ている。
これらの理由による「現預金」増加は、本業の収益力向上によるものではないため、手放しでは喜べません。 特に借入による増加は、将来の返済負担増に繋がります。
「赤字なのに 現金増える」ケースの解説
経営者が特に混乱しやすいのが、「赤字なのに 現金増える」という現象です。これは、一見矛盾しているように見えますが、会計の仕組み上、十分に起こり得ます。主な理由は以下の通りです。
1. 減価償却費の計上: 減価償却費は費用として利益を押し下げますが、実際の現金の支出は伴わないため、赤字額以上に減価償却費が大きければ、現金は増えることがあります。
2. 借入金の増加: 赤字を補填するために、それを上回る金額の融資を受けた場合。
3. 資産の売却: 土地や建物を売却し、大きな現金収入があった場合。
4. 買掛金等の支払猶予・増加: 仕入代金等の支払いを先延ばしにしている場合(一時的な効果)。
5. 増資や役員借入金: 外部から資金を投入した場合。
「赤字なのに 現金増える」状況は、一見安心材料に見えても、その内実(借入依存、資産切り売りなど)をよく確認する必要があります。
[関連記事:赤字なのにお金が増えた?その理由と潜むリスク]
中小企業で時折見られるのが、決算書上の「現金」勘定残高と、実際の手元現金有高が大きく乖離しているケースです。
なぜズレが生じるのか?
これは、過去の赤字や使途不明金などを、適切な会計処理をせず、「現金」勘定で調整(いわば、帳尻合わせ)してきた結果であることが多いです。実態のない現金が計上されている状態は、決算書の信頼性を損ない、金融機関からの評価にも悪影響を与えます。
[関連記事:現預金とは。~決算書にあるのに、手元にお金がないわけ~]
修正方法の例(税理士相談推奨)
このズレを解消する方法はいくつか考えられますが、必ず顧問税理士に相談の上、適切な処理を行ってください。 一例として、役員が会社に貸付金(役員借入金)を持っている場合に、その役員借入金と実態のない現金を相殺する方法などがあります。
(例) 役員借入金との相殺: (借方)役員借入金 XXX円 / (貸方)現金 XXX円
これにより、帳簿上の現金が減り、役員への返済義務も減ります。
※注意:上記はあくまで一例です。安易な処理は税務上の問題を引き起こす可能性もあります。必ず専門家である税理士にご相談ください。
最後に、「現預金」を適切に管理し、健全な財務状態を維持するためのポイントを挙げます。
過度な節税意識のリスク
利益が出ている企業、特に有利子負債が少ない企業が、法人税を抑えるためだけに、決算期末に不要不急な保険加入やリース契約、過剰な設備投資を行うことがあります。目先の節税効果はあっても、結果として貴重な「現預金」を流出させ、将来の資金繰りを圧迫するケースが少なくありません。納税は社会への貢献であり、利益の約7割は会社に残ります。財務の健全性を保ち、必要な時に投資できる体力を維持することも重要です。
借入返済と金利負担の影響
借入金の返済(元本+利息)は、「現預金」の大きな減少要因です。特に、近年の金利上昇局面では注意が必要です。**短期プライムレート(短プラ)やTIBOR(タイボー)**などの基準金利が上昇すると、変動金利で借りている場合は利息負担が増加し、返済による「現預金」の減少ペースが加速します。適切な借入管理と、金利動向への目配りが、キャッシュフローを守る上でますます重要になっています。
[関連記事:【2025年最新】銀行融資の金利上昇にどう備える?]
定期的なチェック習慣の重要性
「現預金」残高とその増減を、最低でも月次で確認する習慣をつけましょう。 なぜ増えたのか、なぜ減ったのか、その理由は健全なものか?を常に自問自答し、理解することが大切です。資金繰り表やキャッシュフロー計算書も併せて活用すると、より深くお金の流れを把握できます。
[関連記事:資金繰り表の作成方法と活用のポイント]
[関連記事:キャッシュフロー経営とは?中小企業が意識すべき理由]
決算書における「現預金」の動きは、単なる残高確認に留まらず、会社の経営実態や将来のリスクを映し出す鏡です。「現預金 増加理由」「現預金 減少理由」には、それぞれ良い意味と悪い意味があります。
・時系列で残高推移を確認し、その背景にある出来事を理解する。
・「赤字なのに 現金増える」などの現象の裏側にある理由を見極める。
・帳簿上の現金と実態のズレは、専門家と相談の上、解消を目指す。
・過度な節税による現金流出や、金利上昇による返済負担増に注意する。
・定期的なチェックと分析を習慣化し、早期に問題の兆候を掴む。
経営者の皆様には、ぜひ「現預金」の動きに注目し、自社の真の健康状態を把握した上で、的確な経営判断を行っていただきたいと思います。
自社の「現預金」の動きについて、より詳しく分析したい、改善点を知りたいといったご要望があれば、お気軽にご相談ください。
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