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脱・どんぶり勘定!会社の利益を”見える化”する「採算管理」の進め方

「毎日忙しく働いているのに、なぜか手元にお金が残らない…」

「うちの会社の本当の稼ぎ頭は、どの商品なんだろう?」

「赤字事業から撤退したいが、判断基準が分からず決断できない…」

経営者の方々と日々お話ししていると、このような心の声に触れることが少なくありません。営業一筋で走ってこられた社長や、日々の業務に追われて数字と向き合う時間がないという方は、決して珍しくないのです。

業績が右肩上がりの時は、それでも問題は表面化しにくいものです。しかし、市場の変化や予期せぬトラブルで会社の業績が下降局面に入った時、「数字への意識の薄さ」が命取りになることがあります。

なぜ、売上が落ちたのか?どの事業が足を引っ張っているのか?その原因が分からなければ、有効な手を打つことはできません。

この記事では、長年、中小企業の経営支援に携わってきたコンサルタントの視点から、どんぶり勘定を卒業し、**会社の利益を”見える化”する「採算管理」**について、具体的な事例を交えながら徹底的に解説します。

採算管理強化

 

なぜ今、採算管理が重要なのか?見過ごせない3つの理由

「採算管理」と聞くと、面倒で難しいイメージがあるかもしれません。しかし、現代の厳しい経営環境を乗り切るためには、避けては通れない重要な経営手法です。その理由を3つの視点から解説します。

1. 経営判断の精度が飛躍的に向上する

採算管理の最大の目的は、精度の高い経営判断を下すことです。 1感覚や経験だけに頼った経営は、大きな判断ミスを引き起こす可能性があります。

・背景・理由:

市場は常に変化し、顧客のニーズも多様化しています。かつての成功体験が、明日も通用するとは限りません。このような不確実性の高い時代において、客観的な「数字」という羅針盤を持つことは、企業の生存に不可欠です。

・具体的なメリット:

‣ 攻撃の判断: 「どの事業に経営資源を集中投下すべきか」が明確になり、成長のスピードを加速できます。
‣ 防御の判断: 赤字事業や不採算取引からの「撤退タイミング」を逸することなく、損失の拡大を防げます。

・注意点・落とし穴:

数字を把握していても、行動に移さなければ意味がありません。データを見て見ぬふりをしてしまう、過去のしがらみで不採算部門を切れずにいる、といったことが経営を傾かせるケースは多いのです。

2. 金融機関や投資家からの信頼を得られる

会社の数字を正確に把握し、自社の強みや弱みを説明できる経営者は、金融機関から見ても「信頼できるパートナー」です。

・背景・理由:

金融機関が融資判断で重視するのは、「この会社に将来性があるか」「貸したお金をきちんと返してくれるか」という点です。事業計画を説明する際に、具体的な採算データに基づいて「この新規事業はこれだけの利益が見込めるため、投資回収は〇年です」と説明できれば、その説得力は格段に増します。

・具体的な方法:

試算表や決算書だけでなく、事業別採算や取引先別採算のデータをまとめた資料を自主的に提出することで、経営の透明性をアピールできます。

・メリット:

融資審査がスムーズに進むだけでなく、より有利な条件での資金調達につながる可能性もあります。また、事業承継やM&Aを考える際にも、自社の価値を客観的に示すための重要な資料となります。

3. 従業員の意識が変わり、組織が強くなる

採算管理は、経営者だけのものではありません。

・背景・理由:

従業員一人ひとりが「自分の仕事が、会社の利益にどう貢献しているのか」を理解することで、コスト意識や目標達成への意欲が高まります。

・具体的な方法:

例えば、工事別採算を導入している建設会社では、現場監督が予算内で工事を完了させるための工夫を自発的に行うようになります。営業部門で従業員別採算を導入すれば、各営業担当が利益率を意識した価格交渉を行うようになるでしょう。

・メリット・デメリット:

メリットは、会社全体の収益性が向上することです。デメリットとしては、過度な成果主義に陥り、短期的な利益ばかりを追ってしまうリスクが挙げられます。会社としての長期的なビジョンとセットで運用することが重要です。

【あわせて読みたい】

【黒字なのに現金がない!】なぜ?会社のお金が足りない3つの原因と対策(2025年版)

【経営改善計画書】成功の鍵は現状分析!財務・事業デューデリの進め方(2025年版)

 

【コンサル事例】採算管理でV字回復した企業の物語

※注釈:守秘義務の観点から、以下の事例は特定のお客様のものではありません。これまでの多くの支援経験で得た知見を基に、読者の皆様の理解を深めることを目的として再構成した架空の事例です。

理論だけでは、なかなかイメージが湧かないかもしれません。ここで、採算管理の具体的なイメージを掴んでいただくためのモデルケースを2つ、ご紹介します。

成功事例:部品製造業の利益構造を激変させた「製品別・取引先別採算」

ある地方の中小部品製造業A社は、高い技術力を持ち、特に古くからの付き合いがある大手メーカー向けの製品が売上の大半を占めていました。工場は常にフル稼働、従業員も懸命に働いていました。しかし、なぜか会社の資金繰りは一向に楽になりませんでした。

・当時の社長の悩み:

「売上はそこそこあるし、工場も忙しく動いている。なのに、利益がほとんど残らない。長年の取引先からの度重なるコストダウン要求を断ることもできず、このままではジリ貧だ…」と、社長は深刻な表情で語られました。

・私の提案と具体的なアクション:

そこで私が提案したのは、「製品別採算」と「取引先別採算」の徹底的な見える化です。まずは、製品ごとに材料費、機械の稼働時間に伴う電気代や減価償却費、そして加工作業にかかる人件費まで、細かく原価を算出しました。

・明らかになった衝撃の事実:

結果は衝撃的でした。売上の大半を占める大手メーカー向けの主力製品が、実はほとんど利益が出ていない、一部は赤字であることが判明したのです。一方、売上規模は小さいものの、特殊な技術を要するニッチな顧客向けの製品が、非常に高い利益率を叩き出していました。

・V字回復への道:

社長は勇気を出し、客観的な原価データを持って大手メーカーとの価格交渉に臨みました。感情的に「上げてほしい」と訴えるのではなく、「この製品にはこれだけのコストがかかっている」という事実を示したことで、交渉は有利に進み、一部製品の価格改定に成功しました。同時に、不採算製品からは段階的に撤退し、そのリソースを**高利益率製品の受注拡大に振り向けました。**結果、A社は売上高こそ一時的に微減したものの、会社全体の利益率は劇的に改善。安定した経営基盤を築くことに成功したのです。

【参考記事】【2025年版】値上げを成功させる!根拠資料の作成方法と交渉の考え方

 

失敗談から学ぶ:データだけを信じて判断を誤ったB社のケース

一方で、数字に頼りすぎて失敗したケースもあります。Web制作会社B社は、**プロジェクト別採算(工事別採算)**を導入し、利益率の低い小規模なWebサイト改修案件から撤退し、利益率の高い大規模開発案件に注力する決定をしました。

・一見、正しそうな判断:

数字の上では、これは合理的な判断に見えました。しかし、1年後、B社の業績は悪化してしまったのです。
落とし穴:数字に表れない価値の見落とし:
なぜでしょうか。実は、利益率の低かった小規模な改修案件が、将来の大規模案件につながる「種まき」の役割を果たしていたのです。小さな仕事で信頼を得た顧客が、次の大きな開発の際にB社を指名してくれていました。その流れを自ら断ち切ってしまったことで、新規の大規模案件が激減してしまったのです。

・この失敗からの学び:

この事例から学ぶべきは、**「数字は万能ではない」**ということです。採算データは重要な判断材料ですが、顧客との関係性や将来性といった「数字に表れない定性的な価値」も併せて考慮しなければ、経営の舵取りを誤る危険があるのです。

【あわせて読みたい】

銀行融資を成功させる利益管理の秘訣:社長が押さえるべき2つの鉄則と返済余力の高め方

経営再建計画の作り方と流れ:アクションプランと数値計画|経営危機を乗り越える!経営再建計画の作り方|⑧

 

今日から始める!業種別・深掘り採算管理のポイント7選

採算管理は、会社の事業内容によって見るべきポイントが異なります。ここでは、元記事の内容も踏まえつつ、特に重要な7つの切り口を紹介します。自社の状況に合わせて、取り組めそうなものから始めてみてください。

①【全ての基本】その仕事(または商品)は儲かっているか?(商品別採算)

これは採算管理の基本です。製品やサービスごとに、売上、材料費、労務費、外注費などを割り振り、個別の利益率を把握します。これにより、どの商品が「稼ぎ頭」で、どれが「お荷物」なのかが一目瞭然になります。

②【多角化企業向け】その部門は儲かっているか?(事業別採算)

小売部門、卸部門、ネット通販部門など、複数の事業を展開している場合に有効です。 各部門に人件費などの共通経費を適切に配賦し、部門ごとの貢献度を測ります。収益性の高い部門に経営資源を集中させる、といった判断が可能になります。

③【BtoB企業向け】その取引先は儲けさせてくれているか?(取引先別採算)

前述のA社の事例のように、売上ボリュームと利益は必ずしも一致しません。 長年の付き合いがあるから、大手だから、といった理由で聖域化せず、全取引先を客観的な数字で評価することが重要です。赤字取引が見つかれば、値上げ交渉や取引内容の見直しといった対策を検討します。

④【多店舗展開企業向け】その店舗は儲かっているか?(店舗別採算)

小売業や飲食業などで多店舗展開している場合、店舗ごとの採算把握は必須です。 赤字店舗の原因は立地なのか、スタッフなのか、品揃えなのか。黒字店舗との比較分析から、改善策や撤退の判断材料を得ます。

⑤【運送・リース業向け】そのトラック(または機材)は儲かっているか?(車両別採算)

運送業であればトラック1台ごと、建設業であれば重機1台ごとに採算を管理する考え方です。燃料費、修繕費、減価償却費、ドライバーの人件費などを個別に計算し、稼働率と照らし合わせることで、非効率な車両の洗い出しや、適正なリース料金の設定が可能になります。

⑥【建設・IT・コンサル業向け】そのプロジェクトは儲かっているか?(工事別採算)

建設業の工事やIT業界のシステム開発など、プロジェクト単位で仕事が進む業種で極めて重要です。プロジェクトごとの原価管理を徹底することで、不採算案件の発生を未然に防ぎ、次の見積もり精度を高めることができます。

⑦【労働集約型企業向け】その担当者(チーム)は儲けさせているか?(従業員別採算)

コンサルティング会社や人材派遣会社など、人の働きが直接売上に結びつく業種で有効です。従業員やチームごとに売上と原価(給与や経費)を管理することで、適正な人事評価や、生産性の高い従業員のノウハウを共有する仕組みづくりに繋がります。ただし、従業員間の過度な競争を煽らないよう、導入には注意が必要です。

 

採算管理と金融機関との賢い付き合い方

採算管理のデータは、社内での意思決定だけでなく、金融機関との関係を良好に保つための強力な武器になります。

借入は適正か?投資は回収できるか?

自社の規模に対して借入額は適正か、返済能力に問題はないか。  これらを客観的に評価する際にも、採算管理のデータが役立ちます。

例えば、新規の設備投資を検討する際、「金融機関が貸してくれるから」「補助金が出るから」といった安易な理由で飛びつくのは危険です。

その投資によってどれだけ利益が増え、何年で投資額を回収できるのかという「投資回収計画」を、採算データに基づいてシミュレーションすることが不可欠です。 このような具体的な計画があれば、金融機関も安心して融資を検討できます。

2025年現在、多くの中小企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていますが、その投資効果を測定する上でも採算管理の視点は欠かせません。

 

まとめ:完璧を目指さず、まずは第一歩から

ここまで採算管理の重要性や具体的な手法について解説してきましたが、最初から全てを完璧に行う必要はありません。

まずは、自社にとって最も重要だと思われる項目(例えば「商品別採算」や「取引先別採算」など)を一つだけ選んで、試してみることから始めましょう。 手書きやエクセルでも構いません。数字を自分の手で動かしてみることで、これまで見えなかった

会社の意外な事実や、新たなビジネスチャンスがきっと見えてくるはずです。

数字は、経営者を縛るものではなく、未来へ進むための羅針盤です。その羅針盤を手にすることで、自信を持って正しい経営判断を下せるようになります。

もし、自社だけでの取り組みが難しいと感じたり、何から手をつけて良いか分からなかったりする場合には、外部の専門家を頼るのも一つの有効な手段です。

初回相談無料:あなたの会社の「利益の見える化」をお手伝いします

もし、あなたの会社でも「利益構造を明確にしたい」「どんぶり勘定から脱却したい」といったお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。

豊富な支援実績を持つコンサルタントが、あなたの会社の状況に合わせた最適な採算管理の導入と、その後の経営改善までを力強くサポートします。

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