【この記事で分かること】
・ 赤字なのにお金が増えた理由
・ 赤字なのにお金に困らないときの問題点
【この記事のポイント】
✔ 赤字なのにお金が増えたのは、融資や預金取り崩しなどの資金手当てをしたり、資産売却をしたりしたから。
✔ 経費の中には「減価償却」や「固定資産除却損」のように、お金が出ていかない経費があり、それらの金額が大きいので、赤字になっている。
✔ とはいえ、赤字ということは「本業が不振である」ということであり、このままの状態が続けば、時間差でいずれ資金繰りも厳しくなる。
では詳しく見ていきましょう。
会計事務所から決算書が出来上がってきた。
損益計算書、赤字。
あれ?でもお金には困っていないぞ。
預金残高も増えているし。
不思議なこともあるものです。
理由はなんでしょう。少し考えてみます。
【目次】
まず考えられるのは、財務手当てをしたからです。
具体的には、銀行から融資を受けたことです。
銀行から融資を受けても、そのことが原因で赤字にはなりません。
融資元金は、損益計算書で経費計上されないからです(支払利息は経費計上されます)。
赤字なのは、本業が不振だからです。
でも融資を受けたので、お金は増えています。
下の図のように、貸借対照表で借入金勘定が増えて、預金勘定が増えます。
【参考記事】2期連続赤字になると、銀行員にチェックされる決算書3つの項目 ~銀行の視点と会社が取れる対策~
または、社長が会社にお金を貸したから。
役員借入金と言います。
役員借入金には、「直接お金を貸さなくても、役員報酬をもらわず、会社の運転資金に使用するケース」もあります。
役員報酬は、経費で計上され、赤字になります。一方、社長は現金をもらわないので、預金は減少しません。
赤字なのにお金は増える(または減らない)のです。
銀行融資を受けたり、役員が会社にお金を貸したり。
このように会社が財務手当てした場合、赤字なのにお金が増えることになります。
株式や投資信託などを、資産スリム化や資金手当てのために解約します。
その場合、売却損失で特別損失が発生しても、お金自体は増えます。
また、資産計上している保険積立金を解約した場合は、お金は増えますが、資産の移動なので、損益計算書に経費は発生しません。
経費計上して損金処理できるものの中には、お金が出ていかない項目があります。
代表的なものは、「減価償却費」と「特別損失」です。
減価償却費は、経費として計上してもお金は支出されません。
試しに、通帳を眺めてみてください。「減価償却費」という項目で引き落としは無いはずです。
減価償却費が多額になれば、赤字額は膨らみます。一方、預金残高は減りません。
「赤字なのにお金が減らない状況」が生まれます。
減価償却して赤字の状態とは、利益の中で投資回収ができていないということです。
減価償却費については、以下の記事が詳しいので、参考にしてください。
【参考記事】減価償却とは~減価償却と経営。償却不足の理由・見つけ方~(和田経営相談事務所オフィシャルブログ記事)
もう一つは、特別損失です。
店舗を閉鎖したときの固定資産除却損や、車両を売却したときの固定資産売却損などがあります。
赤字ですが、その時点でお金は出ていきません。
車両を売却した場合は、逆にお金が入ってきます。
店舗閉鎖の場合は、原状回復費用がかかるかもしれませんが。
固定資産除却損については、以下記事に詳しいので、参考にしてください。
【参考記事】固定資産除却損とは過去の投資失敗 ~財務への影響を軽視してしまうのはなぜか~
商売の取引条件が改善したときも、赤字に関係なくお金が増えることがあります。
販売先からの入金が、手形から振り込みに変更された場合は、販売代金の回収期間が短くなります。
また、こちらからの支払条件を伸ばした場合にも、手元にお金が残ることになり、短期的にはお金が増えます。
ただ逆に、仕入先からすると、回収条件が長期化することなので、喜ばれないでしょう。
在庫や不動産を売却したときにも、口座にお金が入ってきます。
まず在庫処分について。
赤字覚悟で在庫処分すると、損益計算書では赤字になります。
仕入れた価格より安値で販売するので、当然赤字ですが、その時点でお金の出入りはプラスです。
ただこうしたことが続くと、目の前のお金にはプラスでも、将来的な事業継続にはマイナス要因となります。
次に不動産売却について。
簿価より安値で売却すると、固定資産売却損で赤字です。
一方、銀行融資の不動産担保が設定されていなければ、返済義務が生じないので、預金残高は増えます。
不動産担保がついていれば、売却代金で銀行融資を返済する必要があります。その時はお金は増えません。
業績が悪化し売上が急減したとき、前年に納めた消費税が一部還付されることがあります。
還付金としてお金が口座に入るので、赤字なのにお金が増えるという現象が起こります。
例外的なことです。
以下に上記6つの要因をまとめます。
赤字なのにお金が増えるのは、「損益と現金の出入りが必ずしも連動していないこと」が原因です。
赤字であることは、経営にとって良いことではありません。
しかし、上記6つの要因によりお金に困っていないと、迫りくる危機を見逃すことになります。
迫りくる危機とは、本業が赤字体質になっているため、いずれ資金繰りも厳しくなるということです。
赤字が続くと何が起こるか、以下の記事に詳しく説明していますので、併せてご確認ください。☟
【参考記事】3期連続赤字で会社はどうなる? ~関係者の態度変化とあなたの選択肢~
本業が赤字であれば、今は残っているお金もだんだん減っていきます。
お金が減って苦しくなってから気づいても、本業が赤字のため、資金を用意することが難しくなります。
銀行だって、赤字会社には融資姿勢を厳しくします。
赤字なのにお金が増える、または資金に余裕があるのは、一時的なことです。
社長は、その原因を正しく理解し、経営改善に着手することが大切だと私は思うのです。
【参考記事】赤字を改善するコストカットの具体的手法
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