前回は、銀行が中小企業の貸借対照表のどこに注目するかを詳しく解説しました。今回は、決算書の中でもう一つ重要な書類である損益計算書に焦点を当て、銀行員が企業の収益性や将来性をどのように評価しているのかを、中小企業支援を行う経営コンサルタントの視点から解説します。銀行が決算書のどこを見るのかを理解することは、円滑な融資交渉を進める上で不可欠です。
【目次】
損益計算書は、企業の一年間の経営成績を示すもので、売上高から始まり、各種費用を差し引いて最終的な利益(当期純利益)を算出するものです。銀行員は、この損益計算書を通じて、企業の収益性、収益構造、そして将来的な返済能力を評価します。
銀行員は、損益計算書の各項目を詳細に分析し、企業の経営状況を把握しようとします。ここでは、特に重要な5つのチェックポイントについて解説します。
1. 売上の推移:成長性と安定性を評価(銀行 決算書 見方)
銀行員は、まず売上高の推移を過去数年間(通常は3期間程度)にわたって確認します。売上高の増減傾向を見ることで、企業の成長性や市場における競争力を判断します。単に売上が増加しているだけでなく、その要因(新規顧客の獲得、既存顧客の取引拡大、新製品の投入など)も分析します。
売上が安定的に推移しているかどうかも重要なポイントです。景気変動や市場の変化に左右されにくい、安定した収益基盤を持つ企業は、銀行からの評価が高くなります。
2. 利益の推移:返済能力の根幹(銀行 損益計算書 チェックポイント)
損益計算書には、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益といった複数の利益が表示されますが、銀行員が特に重視するのは、経常利益です。経常利益は、本業の利益である営業利益に、受取利息や支払利息などの営業外収益・費用を加えたもので、企業の継続的な収益力を示す重要な指標となります。なぜなら、経常利益は、利息支払後の借入金元金の返済財源となるからです。
銀行員は、これらの各利益の過去3年間の推移を確認し、その金額とともに売上高に対する利益の比率(利益率)を分析します。利益額だけでなく、利益率の変動も重要な情報であり、大きな増減があった場合には、その要因を詳しく確認します。
3. 営業利益による支払利息のカバー能力(インタレスト・カバレッジ・レシオ)
銀行員は、企業の支払利息を本業の利益でどれだけカバーできるかを示す指標であるインタレスト・カバレッジ・レシオを重視します。
インタレスト・カバレッジ・レシオの計算式は以下の通りです。
インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息・配当金)/(支払利息+割引料)×100(%)
一般的に、このレシオが100%を下回る場合は、本業の収益で利息を支払うことができない状態と判断され、銀行からの評価は厳しくなります。高いインタレスト・カバレッジ・レシオは、企業の安定した収益性と返済能力を示すものとして、融資審査において有利に働きます。
4. 特別損益の内容:一過性の要因を見抜く
当期純利益が黒字であっても、その内容を精査することが重要です。例えば、経常利益が赤字であるにもかかわらず、不動産売却益などの特別利益によって最終的に黒字を計上した場合、銀行員はこれを一過性の利益と見なします。継続的な収益力とは異なるため、過度な評価はしません。
逆に、当期純利益が赤字であっても、固定資産の除却損などの特別損失が計上されている場合は、それが一過性の損失であり、キャッシュの流出を伴わないため、過度にマイナス視しないことがあります。
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5. 法人税の支払い状況:社会貢献度と利益計上の裏付け
銀行員は、法人税がきちんと支払われているかどうかも確認します。法人税の支払いは、企業が適正に利益を計上し、地域社会に貢献している証と見なされます。
銀行が損益計算書で最も重視することの一つに、利益(減価償却費を含む)で借入金の元金を返済できるかという点があります。これは、「税引後利益 + 減価償却費 = 借入金返済財源」という考え方で示されます。
【関連記事】【減価償却費 返済財源 なぜ?】投資回収と融資返済期間との関係を解説(2025年版)
減価償却費は、会計上の費用であり、実際の現金の支出を伴わないため、利益に加算することで、企業が自由に使えるキャッシュフロー(返済の原資)をより正確に把握することができます。銀行員は、この返済財源が借入金の返済額を十分にカバーできるかどうかを慎重に評価します。
決算書のコピーを渡した際、内容を丁寧に確認し、一言でもコメントをする銀行員は、企業の経営状況に関心を持っていると言えるでしょう。一方で、中身をほとんど見ずにカバンにしまうような銀行員もいます。経営者としては、自社の決算書がどのように扱われているかを観察することで、その銀行の企業に対する姿勢や融資に対する考え方の一端が見えてくるかもしれません。
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今回は、銀行が中小企業の損益計算書を見る際の重要なポイントについて解説しました。売上の推移、各種利益の状況、インタレスト・カバレッジ・レシオ、特別損益の内容、そして法人税の支払い状況は、銀行が企業の収益力と返済能力を評価する上で重要な要素となります。
次回は、決算書のもう一つの重要な要素である販売管理費について、銀行がどのような点に着目しているのかを解説します。
【経営者必見】銀行は販売管理費のどこを見る?決算書から読み解く経営の健全性:次に読むべき記事としてご提案します。
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