いまさら聞けない「決算書の読み方」。
【基本編】の第3回目。
今回は、「減価償却」の話です。
(前回の「貸借対照表編」はこちら)
「学び直し」にご活用いただければ幸いです。
【目次】
減価償却費とは、一言で言うと、
「設備投資に使ったお金を、複数年に分けて経費にすること」。
通常経費は、その年度のうちに経費にできますよね。
給与とか、役員報酬とか、家賃とか、水道光熱費とか、交通費とか。
そのため、多少のタイムラグがあっても、現金支出と帳簿上の経費計上が年度内でほぼ一致します。
比較して、減価償却費は、税務上年度内に一度に経費計上を出来ません。
そのため、「現金支出時期」と「帳簿上の経費計上時期」がズレ、分かりにくくなります。
例えば、年度末に500万円機械設備を購入しても、翌年から4年間かけて125万円ずつ経費化することになります(本来は定率法により毎年均等償却にはなりませんが、分かりやすくするため簡略化しています)。
以下の図のようなイメージです。
例えば、生産性向上のため、機械設備を500万円で購入したとします。支払いは通常、買ったときつまり、1年目に500万円支払います。お金は500万円減ります。ではお金が500万円減ったわけだから、1年目に減価償却費として500万円落とすか、というとそうでありません。
この機械が4年間使えるとすると、毎年125万円づつを4年間均等に経費として落とします(厳密に言えば、定率法などがあり、必ずしも均等額になりませんが、分かりやすくするため毎年均等額で話します)。これが減価償却です。
なぜ減価償却費は購入年度に一括経費にできないのでしょう?
仮に、4年間使う機械を1年で経費化(減価償却費500万円)すると、2年目からは機械が経費化(減価償却費0)せず、同じ機械を同じように使っているにも関わらず、利益が一定化しません。
同じ機械を使い、同じ売上高でも、1年目は大きな赤字になり、逆に2年目からは黒字になります。
これでは利益の実態がつかめず、経営判断に影響が出ます。
減価償却費を各年度に分けて計上すると、こうした勘違いが起こりません。
さらに詳しく減価償却費のついて知りたい方は、この記事をお読みください☟
【参考記事】減価償却とは~中小企業経営者が知っておくべきポイントを簡単に解説!~
(和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
私は30年間中小企業の社長と接してきました。
その中で、減価償却のことを正しく理解している社長は、少なかったように記憶しています。
私がまだ若い銀行員で、カバンをもって外回りをしていていた時代の話です。
減価償却を強烈に意識していた運輸業の社長がいました。
「あのトラックは、もうすぐ減価償却が終わる」
「減価償却と融資返済を合わせる」
私は社長が何を言っているのか、その時はよく理解できませんでした。
今、思いかえすと、「投資回収」のことを意識していたのですね。
減価償却には、投資回収の側面があります。
設備投資を、減価償却費として投資回収しているのです。
例に挙げた上図の500万円の機械購入の例で言うと、「500万円の設備投資を毎年125万円ずつ4年間で投資回収している」と言えます。
4年間で元金の投資回収が終われば、5年目以降は、全額が利益です。
運輸会社の社長もトラックの購入について、そのことを言っていたのです。
「トラックが6年で減価償却を終えると、7年目以降は儲けだ」
「6年の減価償却期間に、融資の返済年数を合わせて、6年返済の融資を受ける」
「1台減価償却が終わったので、もう1台追加でトラックを購入する」
減価償却を投資回収と見立てて、再投資の判断を行っていました。
今までの当コラムでもお話ししてきたように、銀行融資の返済財源は、基本「利益+減価償却費」です。
(融資の返済財源について、今日は詳しく説明しませんが、こちらの記事に詳しいので参考ください)。
トラックを例に考えてみます(わかりやすく説明するため、均等償却で話します)。
【設備投資】
トラック1台:600万円
耐用年数:6年
毎年の減価償却費:100万円(600万円÷6年)
この設備投資に対して、以下の条件で融資を受けます。
【資金調達】
融資金額:600万円
返済年数:6年
年間返済額:100万円
その結果、年間減価償却費100万円=融資年間返済額100万円 となります。
これが、減価償却と銀行融資の返済期間を合わせるということです。
減価償却費は、現金支出を伴わない経費(ただしリース資産償却以外)です。経費ですから、税金によるキャッシュアウトもありません。
減価償却費全額が融資の返済財源になるのです。
これが銀行が減価償却費を融資の返済財源と考える理由です(リース資産償却だけはリース料として現金支出を伴うので、返済財源になりません、注意して下さい)。
例えばトラックの場合、6年の減価償却期間が終わり、銀行融資の返済が終われば、投資元金は回収できたことになります。
トラックが10年ぐらい乗れるとします。
修繕費用などは新車時より発生額が増えるとしても、ほどんどの儲けは手元に残ります。
手元に残った資金は、次の新車購入など、再投資に回せるのです。
だから、設備投資など経営判断の重要材料として、社長の「減価償却」に対する理解は必要です。
では、減価償却不足とは何を意味するのでしょう?
減価償却不足額とは、税法上の「減価償却費限度額」に足りない金額のことです。
減価償却不足が発生するのは、
✔ 減価償却費の計上は、税法上任意だから
✔ 損益計算書の黒字額を減価償却費の額で調整しているから
✔ 現金が出ていかない減価償却費の仕組みについて、社長が理解していないから
です。
恐ろしいことは、減価償却すると赤字になる、減価償却不足になるということは、投資回収ができていないということなのです。
しかし、税務署からのお咎めはないし、税理士も了承(どころか減価償却しないことを提案することもある)、銀行によっては、あまり強く言わないケースもあるようです。
そうなると、誰のチェックも入りません。
【参考記事】 減価償却不足を銀行はどう見ているか (和田経営相談事務所オフィシャルホームページブログ)
減価償却で赤字になる、減価償却不足が発生する、、、。
損益面で会社に問題が発生しており、返済財源の不足からいずれ銀行融資の返済も難しくなります。
経営を立て直さないといけない状況が発生しています。
対策は、営業強化かもしれませんし、新商品・新サービスの開発かもしれませんし、組織体制の立て直しかもしれませんし、投資判断の精査・ルール化かもしれません。会社によってそれぞれでしょう。
しかしスタートラインは、一つ。
社長が減価償却について理解し、改善へのスタートを切ることだと私は考えます。
財務について勉強し、理解を深め、経営判断などの実践に活かすことは、会社を守ることなのです。
以上、「実践に役立つ減価償却の知識」について、お話しました。
今後の貴社の財務改善にお役立ていただけますと幸いです。
【関連記事】
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