「銀行から、減価償却費も借入金の返済財源になると言われたが、なぜなのか」
「設備資金の借入期間は、法定耐用年数と同じにすればよいのか」
こうした疑問を持つ中小企業経営者は少なくありません。減価償却費は損益計算書上の費用ですが、計上する時点では通常、同額の現金支出が発生しません。そのため、銀行が返済能力を確認するときは、税引後利益に減価償却費を足し戻した金額を、簡易的な返済財源の目安として利用します。
減価償却費は、それ自体が現金を生むのではありません。設備が売上と利益を生み、その中から投資資金を回収していく過程を、会計上の数字で把握するための重要な手掛かりです。
この記事では、減価償却費が返済財源として考慮される理由、簡易的な計算方法、投資回収と融資返済期間の関係、設備投資前に確認すべきポイントを、元銀行員の実務目線で解説します。
情報基準日:2026年8月29日
借入金の元金返済は、損益計算書上の費用にはなりません。会社は、事業活動によって手元に残した現金から元金を返済します。
一方、減価償却費は利益計算では費用として差し引かれていますが、当期の減価償却費を計上する時点で、同額の現金が出ていくわけではありません。設備購入時の支出を、使用期間に分けて費用化しているからです。
簡易的な年間返済財源
= 税引後当期純利益 + 減価償却費
税引後当期純利益には支払利息がすでに費用として反映されています。そのうえで減価償却費を足し戻し、借入元金の返済へ回せる資金の目安を確認する考え方です。
減価償却の基本や、損益計算書・貸借対照表での確認方法は、「【減価償却とは】中小企業経営者が知るべき仕組み・決算書の見方と設備投資への活用(2026年版)」で解説しています。
500万円の機械を4年間使用し、毎年同額を償却する単純な例で考えます。
設備取得価額:500万円
償却期間:4年間
年間減価償却費:125万円
年間の税引後当期純利益:80万円
この場合の簡易的な年間返済財源は、80万円+125万円=205万円です。仮に500万円を4年間の元金均等で返済するなら、年間元金返済額は125万円となり、単純計算では80万円の余裕があります。
簡易返済余力
= 返済財源205万円 − 年間元金返済額125万円
= 80万円
ただし、この80万円がそのまま自由に使える現金として残るとは限りません。売掛金や在庫の増加、税金の支払時期、追加設備投資、リース料などによって、実際の資金繰りは変わります。
設備資金を借りるときは、設備が利益と現金を生み出す期間に合わせて、無理のない返済期間を設定することが基本です。
500万円を2年間で元金均等返済すると、年間元金返済額は250万円です。年間減価償却費125万円だけでは足りず、利益や既存事業の資金から残りを補う必要があります。設備が十分な利益を生む前から返済負担が先行すると、黒字でも資金繰りが苦しくなる場合があります。
返済期間を長くすれば年間返済額は小さくなりますが、設備の更新時期を迎えても旧設備の借入が残る可能性があります。次の設備投資と返済が重なれば、借入金が積み上がります。
法定耐用年数と融資返済期間は、必ず一致させればよいというものではありません。
設備の実際の使用期間、利益を生み出す期間、更新予定、年間返済能力を一緒に確認して決めます。
「税引後利益+減価償却費」は便利な指標ですが、厳密なフリーキャッシュフローではありません。次の資金負担を別に確認する必要があります。
ファイナンス・リースなどは、会計処理によって減価償却費が計上される一方、リース料やリース債務の支払いも発生します。減価償却費を返済財源へ足し戻しながら、リースの元本相当額を返済負担に含めなければ、返済余力を大きく見積もることになります。
契約内容や適用する会計基準によって処理は異なるため、リース契約書、支払予定表、決算書上のリース資産・リース債務を照合してください。
赤字を避ける目的などで減価償却費を少なく計上すると、利益は実態より大きくなり、減価償却費は小さくなります。その結果、決算書から会社の本当の収益力と返済能力を読み取りにくくなります。
銀行は、法人税申告書の別表十六や固定資産明細などを確認し、償却不足を考慮して利益や純資産を見直す場合があります。
償却不足の発生理由、確認方法、銀行評価については、「【償却不足とは】なぜ粉飾になる?発生理由・確認方法と銀行評価(2026年版)」で詳しく解説しています。
設備投資の採算は、減価償却費と年間返済額だけでは判断できません。設備導入によって増える利益と現金を見積もり、売上が計画未達となった場合も返済できるか確認します。
将来の設備投資額と減価償却費を数値計画へ反映する方法は、「減価償却と設備投資計画の作り方:アクションプランと数値計画|経営危機を乗り越える!経営再建計画の作り方|⑨」も参考にしてください。
銀行が確認したいのは、設備の価格や担保価値だけではありません。「その設備がどのように売上と利益を生み、どの資金から返済するのか」という一連の流れです。
当事務所の「AI経営参謀」も、ぜひ気軽にお試しください。
当事務所の300本以上の専門記事を参照・活用して回答します。税引後当期純利益、減価償却費、年間元金返済額、リース支払額などを入力すると、簡易返済財源と返済負担を整理できます。画面右下の「AI経営参謀に聞く(無料)」からご利用ください。
減価償却費は、利益計算では費用ですが、計上時に同額の現金支出を伴わないため、税引後利益に足し戻して簡易的な返済財源を確認します。
設備投資の安全性は、「税引後利益+減価償却費」だけでは判断できません。年間元金返済額、運転資金、リース支払い、更新投資まで含め、投資回収と現金の流れを確認することが重要です。
【制度上の確認先】
※この記事の計算式は、返済能力を確認するための簡易的な考え方です。実際の返済余力は、会社の資金繰り、借入条件、税負担、設備内容などによって異なります。個別の会計・税務処理は顧問税理士等へご確認ください。
自社の財務基盤を盤石にし、本気の事業成長を目指す方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。