いまさら聞けない「決算書の読み方」。
【基本編】の第4回目。
今回は、「代表者勘定」の話です。
(前回の「減価償却編」はこちら)
「学び直し」にご活用いただければ幸いです。
【目次】
代表者勘定とは、
貸借対照表に存在する「役員貸付金」「役員借入金」のことです。
2つ併せて、「代表者勘定」と言います。
貸借対照表の左側「資産の部」に役員貸付金。
貸借対照表の右側「負債の部」に役員借入金。
下図のような感じで存在します。
役員貸付金(資産の部)とは、社長が会社から借りているお金のことです。
お金の流れは、会社→社長 です。
役員貸付金という名前以外にも、短期貸付金、長期貸付金、仮払金、未収入金、立替金、前渡金などの勘定科目の中に隠れていることもあります。
それら役員貸付金以外の勘定科目の中に、資金使途が説明できない「社長名義」の金額が入っていると、実質は「役員貸付金」です。税理士事務所の仕訳方法の関係で、そう記されているだけです。
生活費や個人的支出を、社長が会社から拝借した場合に発生します。
でも待てよ。会社からお金を借りた覚えはないぞ??
そこに問題が隠れているのです。
会社から借りた覚えがない社長名義の役員貸付金。
言葉を変えれば、使途不明金。
経費処理できない支出の存在、ずさんな事務処理による経費もれの蓄積、などが原因です。
使途不明金は、その金額が赤字です。
だから役員貸付金が使途不明の場合は、貸借対照表の中に赤字が隠れていると言えます。
2回目の「貸借対照表編」で、貸借対照表は右から左へ読むと言いました。
多くの場合、銀行融資(長期借入金)が役員貸付金に化けていたりします。
回収不能の役員貸付金が資金使途では、銀行融資は返済できなくなります。
役員借入金(負債の部)とは、会社が社長から借りているお金のことです。
お金の流れは、社長→会社 です。
でも待てよ。会社にお金を貸した覚えはないぞ??
その場合は、
✔ 毎月の役員報酬がもらえていないため、結果的に会社にお金を貸したことになっている
✔ 社長個人名義で借りたローン(カードローンや消費者ローン:金利が高い)のお金を、会社の運転資金に投入した
どちらかの場合が多いです。
役員借入金が存在するということは、
✔ 業績不振で資金繰りが回らないため、代表者勘定で調整している
✔ 役員報酬の水準が業績と合致していないため、予定通り支給できない
ということで、好ましいことではありません。
役員借入金の減らし方は、こちらの記事に5つの方法を説明していますので、参考ください。
代表者勘定は、銀行の融資態度にも影響します。
結論から言えば、
役員貸付金(資産の部)→✖
役員借入金(負債の部)→〇 (ただし、原資が個人ローンではない場合が〇、原資が個人ローンの場合は✖)
です。
「役員貸付金」は、厳しい見方をします。
多くの場合が、上記で話ししたように、正体は赤字だからです。
融資資金が「役員貸付金」として社外に出ていくことを、銀行はとても嫌がります。
結果、「役員貸付金」の金額が大きければ、融資姿勢は慎重になります。
一方で「役員借入金」は、好意的にみるケースもあります。
社長が会社に返済を求めないなら、資本(疑似的資本金)として判断することもあります。
(「代表者勘定に対する銀行の考え方」について、今日は詳しく説明しませんが、こちらの記事→【銀行員は、決算書の「代表者勘定」をこう見ている ~役員借入金、役員貸付金 本当の評価~】に詳しいので参考ください)。
また「代表者勘定」は、保証人交渉にもマイナス影響します。
保証人交渉について、詳しくはこちらの記事を参照下さい。
資金繰りへの影響を見てみましょう。
結論から言えば、
役員貸付金(資産の部)→✖
役員借入金(負債の部)→〇
です。
役員貸付金は、会社からお金が出ていきますので、資金繰りは厳しくなります。
役員借入金は、会社へお金が入ってくる(または役員報酬を貰わない)ので、資金繰りにはプラスになります。
役員報酬の決め方、変更方法は、この記事(赤字会社の役員報酬)を参照下さい。
事業承継への影響を見てみましょう。
代表者勘定が残ったまま、事業承継へ発展するケース。
子息への事業承継の際、先代が生存中は問題が表面化しません。
相続が発生したときに、問題になります。
代表者勘定は、相続人の相続財産になります。
役員借入金は、会社にお金を貸しているので「相続資産」になりますし、役員貸付金は、会社からお金を借りているので「相続負債」になります。
相続人間の話し合いにより、「相続資産」「相続負債」を後継者がすべて引き継ぐことになるかもしれません。
「相続負債」である役員貸付金を多額に相続してしまうと、後継者は重荷を背負って経営していくことになります。
対策としては、先代の退職時に「役員退職金を支給して役員貸付金と相殺する」などの方法があります。
詳しくは顧問税理士にご相談ください。
財務改善につながるこういう助言を、こちらから確認しなくとも税理士側から教えてくれるのが、頼りになる税理士だと私は思います。
中小企業の場合、法人と個人が一体的になっていることが多いです。
仕方がない部分もありますが、「代表者勘定」は、無いに越したことはありません。
出来る範囲で少しづつ改善していくほうが良いでしょう。一朝一夕には解決できず、時間がかかります。
しかしスタートラインは、一つ。
社長が「代表者勘定」について理解し、改善へのスタートを切ることだと私は考えます。
財務について勉強し、理解を深め、経営判断などの実践に活かすことは、会社を守ることなのです。
以上、「代表者勘定があると、どうなる?」について、お話しました。
今後の貴社の財務改善にお役立ていただけますと幸いです。
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