【この記事で分かること】
【目次】
在庫とは、
貸借対照表に存在する「商品」「製品」のことです。
または製造業であれば、「原材料」「仕掛品」、建設業であれば「未成工事支出金」だったりします。
これら併せて、会計用語では「棚卸資産」と言います。
棚卸資産と言われてもピンとこないので、経営実務で使う「在庫」の呼び方で話を進めていきます。
貸借対照表の左側「資産の部」の中の、「流動資産の部」にあります。
流動資産なので、「1年以内に現金化できること」が原則です。
貸借対照表に存在する「在庫」ですが、実は損益計算書の中にも同額記載されていることをご存知ですか?
貸借対照表の「在庫」は、損益計算書の「期末商品棚卸高」と金額が一致します。
下の図で説明します(表のうえでクリックすると拡大します)。
例題企業A社の場合は、仕掛在庫・商品等=期末商品棚卸高=31,000千円となっています。
上の図から、売上総利益の計算式は、
【売上総利益の計算式】
売上高-売上原価=売上総利益
ですね。
また、売上原価の計算式は、
【売上原価の算計算式】
売上原価=期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高(期末在庫は減じることがポイント)
となります。
つまり、仕入額が多くても、期末在庫が増えれば、利益は同じなのです。
図で説明します(表のうえでクリックすると拡大します)。
上の図≪ケース1≫と比較して、下の図≪ケース2≫は、仕入を増やしたパターンです。
需要予測を見誤り、期末在庫が増えてしまいました。不良在庫が存在しています。
しかし、注目ポイントは、売上原価。ケース1、ケース2、どちらも186,000千円となっています。
売上が同額で300,000千円なら、どちらも売上総利益は114,000千円です(300,000-186,000=114,000)。
期間中仕入れた金額は20,000千円違うのに、結果として損益計算書の売上総利益は同じ額です。
もう売れない不良在庫だとしても、期末棚卸高として減価せずに残していると、売上原価を減少させます。
期末在庫として評価額が残っていると、表面上は売上総利益が出ています。
前期と比較して、今期は在庫が増えて利益が減った。
こう感じるのは、単純な理由です。
在庫が増えるということは、予想より仕入れた商品が売れなかったということです。
商品が売れてはじめて、利益は増えます。
在庫として倉庫に残っているということは、本来予想していた利益が得られなかったということです。
そのため、在庫が増えて利益が減ったと感じるのです。
前期と比較して、今期は在庫が減って利益も減った。
これも理由は単純です。
在庫が積み上がったので、在庫セールで通常より安く売ったのです。
在庫セールをすると、手元にお金が入ってきます。
だから利益が出たような気がします。
しかし、通常100円で仕入れて150円で売っていたものを在庫セールで110円で売ると、通常より40円の損失です。
仕入に対して、得られる売上が減るので、利益率が落ちます。
一方で、在庫セールをすると、在庫は減ります。
この流れで、在庫は減って利益も減るのです。
倉庫に在庫が滞留している状態を「在庫として資金が寝ている」と言います。
つまり、損益計算書を見ると、一見利益が出ているが、倉庫に不良在庫としてお金が眠ってることになり、資金繰りが厳しい。
これが社長が決算書を見て、「黒字なのに、なぜお金がないのだろう?」と違和感を感じる理由です。
【参考記事】黒字なのに現金がない3つの原因と解消法 ~資金繰りが赤字状態の具体的改善策~
仕方なく、在庫セールをすると、手元のお金は増えますが、安売りなので利益は減ります。
在庫が増えるとお金が減る。→運転資金が増え、銀行融資が増える。
在庫が減るとお金が増える。→運転資金は減るが、バーゲンセールをするので赤字になり、銀行融資が返済できない。
これが在庫とお金の関係です。
在庫が寝る状態を防ぐためには、どうすれば良いでしょうか?
仕入精度を上げることはもちろん対策ですが、財務面から考えると回転期間を意識すると良いでしょう。
棚卸回転期間=棚卸資産(在庫)÷1日当たり売上原価(売上原価÷365)
※業種によって異なるが、一般的に短いほど在庫効率が良いと言われています。
業種ごとの参考数値は以下です。
日本標準産業分類:大分類 |
棚卸回転期間(日) |
建設業 | 33.98 |
製造業 | 41.04 |
情報通信業 | 13.09 |
運輸業・郵便業 | 3.53 |
卸売業 | 23.87 |
小売業 | 30.24 |
不動産業・物品賃貸業 | 104.25 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 14.99 |
宿泊業・飲食サービス業 | 6.15 |
生活関連サービス業・娯楽業 | 5.67 |
サービス業(他に分類されないもの) | 6.08 |
例えば小売業なら1か月程度で在庫を回転させていき、建設業なら工事規模の大小はあるでしょうが、平均1か月程度で工事を回していくようなイメージになります。
自社の回転期間の目安を知っておけば、在庫保有期間の考え方について、自社の仕入・在庫政策の参考になります。
貸借対照表に不良在庫が増えるのは、在庫評価を正確に行っていないのが、要因の一つです。
在庫評価が正確でないので、仕入精度も低くなります。
大切なのは、棚卸作業です。
毎月月末にできるのがベストですが、日常業務に忙しい中、時間とコストを確保するのが難しいかもしれません。
それでも半年に一度、少なくとも決算期には、正確な棚卸作業が必要です。
その時注意するのは、在庫の評価法。
摩耗したり、流行遅れだったり、市場価値のないものまで、仕入価格のまま在庫として残してしまうと、、、。
これが長年積み重なり、多額の在庫額として、貸借対照表に積み上がっていきます。
繰り返しますが、市場価値のない在庫でも、損益計算書においては期末棚卸高として、売上原価から減算されています。
対策は、在庫評価・保有のルールを決め、売れない在庫は決算期に減損、または処分していくことです。
長年の累積分をまとめてやると、財務へのダメージが大きくなるので、定期的に実施します。
今日の話をまとめます。
✔ 貸借対照表「在庫額」と、損益計算書「期末棚卸高」は同額になる
✔ 在庫が増えると利益が減るのは、予想より仕入れた商品が売れなかったから
✔ 在庫が減ると利益も減るのは、在庫セールで安売りしたから
✔ 売れない在庫が期末在庫で残っていると、表面上は利益が出ているが、「在庫が寝ている」ため、お金は回らない
✔ 自社が属する業種の在庫回転期間を知っておき、自社の状況と比較すると、仕入・在庫政策の参考にできる
✔ 不良在庫が貸借対照表に積み上がらないためには、在庫評価・保有ルールを決め、不良部分は決算期に減損、処分していくこと
在庫戦略について、適正在庫額の把握、最適な仕入政策にマニュアルはなく、置かれた状況により改善策は千差万別でしょう。
実行には労力を要します。
しかしスタートラインは、一つ。
社長が「在庫」について理解し、自社の実態を把握し、改善へのスタートを切ることだと私は考えます。
財務について勉強し、理解を深め、経営判断などの実践に活かすことは、会社を守ることなのです。
以上、「在庫と利益とお金の関係」について、お話しました。
今後の貴社の財務改善にお役立ていただけますと幸いです。
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