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経営課題抽出は再建を左右する:事業デューデリ|経営危機を乗り越える!経営再建計画の作り方|⑥

今日は、「経営課題抽出と課題解決の方向性」の話をします。

事業デューデリにおいて、このパートが最も大切な部分と言っても過言ではありません。

経営課題抽出

経営再建を目指す上で、「経営再建計画書」の作成は避けて通れません。その中でも、自社の経営課題を正確に抽出し、解決の方向性を定めるプロセスは、計画全体の成否を左右する最も重要な部分と言っても過言ではありません。

本記事では、効果的な経営再建計画書の土台となる「経営課題の抽出」に焦点を当て、その具体的な方法とポイントを網羅的に解説します。経営者、従業員、金融機関関係者など、経営再建に関わるすべての方にとって、信頼性の高い情報を提供することを目指します。

なぜ経営課題の正確な把握が経営再建計画書で最重要なのか?

これまで実施してきた**事業デューデリジェンス(事業DD)における内部環境分析や外部環境分析、SWOT分析などは、すべて「経営課題を正確に把握するため」**の準備段階です。

もし経営課題の特定が曖昧であったり、的外れであったりすると、その後の再建計画(具体的なアクションプランや数値計画)もピントのズレたものになってしまいます。これは、経営者や従業員にとっては実行性の低い計画となり、金融機関などの債権者にとっては説得力のない計画書と判断されかねません。正確な現状認識に基づいた課題抽出こそが、関係者全員が納得し、実行可能な経営再建計画書を作成するための第一歩なのです。

 

経営課題抽出のステップ:認識されている課題と潜在的な課題

経営課題には、**「会社(経営者)がすでに認識しているもの」と「まだ認識されていない潜在的なもの」**の2種類が存在します。

会社が認識している経営課題の明確化

経営者が日々の業務の中で感じている問題意識は、多くの場合、的を射ています。しかし、それが「なんとなく儲かっていない」「人が足りない気がする」といった漠然とした感覚であるケースも少なくありません。

支援者や計画作成担当者は、ヒアリングを重ね、具体的な問いかけを行うことで、経営者が感じているモヤモヤとした課題を言語化・文書化し、明確にする手助けをします。これが、認識されている課題への最初のアプローチです。

潜在的な経営課題を発見する方法:事業デューデリの活用

一方で、会社自身がまだ気づいていない、あるいは見て見ぬふりをしている重要な経営課題をいかに発見するかが、専門家や担当者の腕の見せ所です。ここで活きてくるのが、事業デューデリのプロセスで実施した客観的な分析です。

 

事業デューデリによる経営課題の発見:数値に基づくアプローチ

感覚や経験だけに頼らず、客観的な数値データに基づいて経営課題を特定することが極めて重要です。事業デューデリにおける内部環境分析と外部環境分析がその根拠となります。

内部環境分析:収支分析で見える実態

多くの中小企業では、商品別や顧客別の「売上」は把握していても、「原価」や「経費」まで紐づけて**「個別の収支(利益)」**を正確に把握できているケースは稀です。内部環境分析では、徹底的に収支を分析することがポイントです。

・商品別収支分析: どの商品が本当に利益を生み、どの商品が利益を圧迫しているのか?

・顧客別収支分析: 売上上位の顧客が、実は赤字取引になっていないか?利益率の高い優良顧客はどこか?

・事業別・店舗別収支分析: 不採算事業や店舗はないか?好調な部門との差は何が原因か?

・その他(工事別・車両別など): 業態に応じて、収支を把握すべき単位で分析します。

これらの分析により、「売上は大きいが赤字のA社取引」「利益率が低下傾向にあるC商品」「赤字が続くG事業」といった、**数値で裏付けられた具体的な改善ポイント(=経営課題)**が明らかになります。

外部環境分析:同業他社比較で見える課題

自社の状況を客観的に評価するためには、外部の物差し(=同業他社平均など)と比較することが不可欠です。外部環境分析では、業界標準や競合と比較して自社の立ち位置を確認します。

・粗利率の比較: 同業平均より低い場合、商品力、価格設定、ターゲット、販売方法などに課題はないか?

・売上高人件費率の比較: 同業平均より高い場合、生産性、人員配置、人件費水準、不採算部門への人員偏在などに課題はないか?

・その他重要指標の比較: 借入金依存度、自己資本比率など、財務指標も比較対象となります。

自社の重要指標が業界平均と比べて劣っている場合、そのギャップが経営課題を示唆しています。なぜその差が生まれているのかを深掘りすることで、具体的な問題点が見えてきます。

SWOT分析の位置づけと限界

SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)は、自社の状況を整理する上で有効なフレームワークですが、それ単体で具体的な再建戦略を導き出すのは困難です。なぜなら、SWOT分析には数値的な裏付けが不足していることが多いからです。詳細な内部環境分析(収支分析)と外部環境分析(業界比較)を行った上でSWOT分析を実施することで、初めてその分析が深みを持ち、有効な示唆を得られるようになります。

実態バランスシートの重要性

事業デューデリを進める上で、**「実態バランスシート(実態BS)」**の作成も重要です。これは、決算書上の貸借対照表(BS)に、含み損益や回収不能債権、簿外債務などを反映させ、会社の真の財産状態(純資産)を評価するものです。実態BSを作成することで、正確な財政状態を把握でき、それが金融機関との交渉や再建計画の策定において不可欠な基礎情報となります。特に金融機関は、この実態純資産を重視します。

[関連情報:実態バランスシートとは?作成目的と評価方法]

 

経営課題の整理と優先順位付け:改善の方向性を示す

内部環境分析と外部環境分析から数値に基づいて抽出された経営課題は、次に分かりやすく整理し、優先順位をつける必要があります。

「経営課題と改善の方向性シート」の活用

課題を整理する際には、以下のような項目でシートや表にまとめることが有効です。これにより、関係者間での情報共有と認識合わせがスムーズに進みます。

① 部門/領域: (例:営業、製造、財務、人事など)

② 課題項目: (例:収益性、生産性、資金繰り、組織体制など)

③ 経営課題: (例:主力商品Aの利益率低下、営業部門の生産性低迷、過剰な借入金)

④ 原因: (例:原材料費高騰分の価格転嫁不足、非効率な営業プロセス、過去の設備投資負担)

⑤ 改善の方向性: (例:価格改定の実施、営業支援ツール導入検討、遊休資産売却による借入金返済)

(図解のテキスト表現例)

部門/領域 課題項目 経営課題 原因 改善の方向性
営業 収益性 主力顧客A社への販売が赤字 長年の慣習による値引き、コスト意識欠如 取引条件の見直し、価格交渉
営業 生産性 新規顧客開拓が進まない 既存顧客対応に忙殺、営業手法の陳腐化 営業プロセスの見直し、CRM導入検討
製造 生産性 Bラインの稼働率低迷 特定の熟練工への依存、多品種少量生産 生産計画の最適化、多能工化の推進
財務 資金繰り 借入金返済負担が大きい 過大な設備投資、収益力の低下 遊休資産売却、金融機関への条件変更交渉
全社 組織体制 部門間の連携不足 縦割り意識、情報共有の仕組み不在 定期的な部門横断会議の設置

(上記はあくまでサンプルです)

経営課題抽出・整理のポイント

経営課題を効果的に抽出し、整理するためには、以下の点が重要です。

・デューデリの分析結果(数値)を根拠とする
・経営者と十分に議論し、認識を共有する(一方的な押し付けにしない)
・緊急度と重要度から優先順位をつける
・課題の根本的な原因を深掘りする
・現時点での具体的な解決策ではなく、「改善の方向性」を示す

経営再建計画書と金融機関:信頼を得るためのポイント

作成された経営再建計画書は、多くの場合、金融機関へ提出し、支援(リスケジュールや新規融資など)を要請するために用いられます。金融機関が計画書を評価する上で最も重視する点の一つが、**「窮境原因と経営課題が正確に特定され、その分析に客観的な根拠があるか」**どうかです。

事業デューデリに基づき、数値で裏付けられた経営課題が示されていれば、金融機関は「この会社は自社の問題を正しく理解している」と判断しやすくなります。逆に、課題の特定が曖昧で根拠が示されていなければ、計画全体の信頼性が揺らぎ、支援を得ることは難しくなるでしょう。実態バランスシートに基づいた財務状況の開示も、透明性を示す上で重要です。

 

中小企業の経営再建支援:中小企業活性化協議会と405事業

自力での再建が困難な中小企業に対しては、公的な支援制度も用意されています。代表的なものが**「中小企業活性化協議会」(旧:中小企業再生支援協議会)です。協議会では、専門家(公認会計士、税理士、中小企業診断士など)が事業デューデリの実施支援や経営再建計画書**の策定支援、金融機関との調整などを行ってくれます。

また、経営改善計画の策定等にかかる専門家費用の一部を補助する**「経営改善計画策定支援事業(通称:405事業)」のような制度もあります。これらの支援制度を活用する際にも、本記事で解説したような客観的なデータに基づく経営課題の抽出**プロセスが求められます。

[関連情報:中小企業活性化協議会とは?]
[関連情報:経営改善計画策定支援事業(405事業)について]

 

経営再建計画書の書き方とテンプレート

経営再建計画書の書き方に絶対的な正解はありませんが、一般的に、①現状分析(事業デューデリの結果、経営課題)、②窮境原因、③再建方針、④具体的なアクションプラン、⑤数値計画(損益計画、資金繰り計画など)といった要素で構成されます。

インターネット上では、「経営再建計画書 サンプル」や「経営改善計画書 テンプレート」などで検索すると、参考となる雛形が見つかることもあります。ただし、テンプレートはあくまで形式であり、最も重要なのは、自社の状況に合わせて、事業デューデリに基づいた分析結果と具体的な課題、そして実現可能な解決策を盛り込むことです。

[関連情報:経営再建計画書のサンプル・テンプレート]

 

まとめ:正確な課題抽出が経営再建の成否を分ける

経営再建計画書の作成において、事業デューデリに基づく正確な経営課題の抽出は、計画全体の質と実行可能性を決定づける極めて重要なステップです。

・内部環境分析(収支分析)と外部環境分析(同業比較)から、数値を根拠に課題を導き出すこと。

・経営者との対話を通じて、認識されている課題と潜在的な課題の両方を洗い出すこと。

・課題を整理し、優先順位をつけ、原因を深掘りし、改善の方向性を示すこと。

これらのプロセスを丁寧に行うことで、経営者、従業員、そして金融機関など、すべてのステークホルダーにとって説得力のある経営再建計画書を作成することが可能になります。逆に、このステップを疎かにすると、実効性のない計画となり、経営再建は頓挫しかねません。

本記事が、貴社の経営再建に向けた取り組みの一助となれば幸いです。

 

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