「銀行から、突然『こんな融資はいかがですか?』という融資提案書が届いた」
「特に資金需要はないけれど、銀行からの提案は受けた方がいいのだろうか?」
「融資提案書を受け取ったら、どこを確認すればいい?(融資提案書 確認ポイント)」
「そもそも、なぜ銀行は融資提案書を送ってくるの?(融資提案書 なぜ?)」
取引銀行から、具体的な金額や条件が記載された融資提案書が提示されることがあります。特に資金繰りに困っていないタイミングでの提案に、「なぜ今?」と疑問に思ったり、あるいは「銀行に評価されている証拠だ」と嬉しく感じたりするかもしれません。
しかし、この銀行からの融資提案書、内容をよく確認し、自社の状況と照らし合わせて冷静に判断することが非常に重要です。安易に受け入れてしまうと、将来の経営にマイナスの影響を与える可能性もあります。
この記事では、ここ愛媛県をはじめ多くの中小企業をご支援してきたコンサルタントとして、銀行の融資提案書に記載されている内容の確認ポイント、銀行が提案してくる理由(融資提案書 なぜ?)、提案額の根拠となる考え方、そして経営者がその提案をどう受け止め、判断すべきかについて解説します。
【目次】
まず、銀行の融資提案書には、一般的にどのような内容が記載されているか、その確認ポイントを見ていきましょう。
融資提案書の主な記載項目
① 融資形態: 短期融資(手形貸付、当座貸越など)か、長期融資(証書貸付)か。
② 融資金額: いくらまで借りられる提案か。
③ 返済期間: 借入期間はどのくらいか(長期の場合)。
④ 金利: 適用される利率はいくらか(固定金利か変動金利か)。
⑤ 返済シミュレーション: 上記条件の場合の毎月返済額(元金・利息)の目安。
⑥ 融資実行予定時期: いつ頃までに実行可能かの目安。
⑦ 融資条件: 保証人(誰が必要か)、信用保証協会の利用有無(保証料率)、担保の要否など。
⑧ 提案理由・メリット: (銀行側が考える)融資を受けることの効果や利点など。
注意書き:「審査の結果、ご要望に沿えない場合も…」の意味
多くの場合、融資提案書の最後には、「別途審査があり、必ずしもご希望に沿えるものではありません」といった趣旨の注意書きがあります。「提案してきたのに審査があるの?」と思うかもしれませんが、これは銀行の定型的な手続きです。提案はあくまで「この条件で申し込みがあれば、承認される可能性が高い」という意思表示であり、正式な申込と必要書類の提出、そして最終的な審査・承認プロセスは別途必要となります。
[関連記事:銀行融資審査の仕組みについて – 融資の返事が来ないのはなぜ?]
「肩代わり」提案の場合も
時には、現在他の銀行から借りている銀行融資も含めて、「当行で全ておまとめしませんか?」という、いわゆる「肩代わり」を含む融資提案書が提示されることもあります。
[関連記事:融資 肩代わり – 銀行が嫌がる理由と影響は?]
では、「融資提案書 なぜ?」送られてくるのでしょうか。会社から申し込むのではなく、銀行側から提案してくるのには理由があります。
融資実行の確度が高いと判断しているから【重要】
これが最大の理由です。 会社側から融資の申し込みがある場合、資金繰りが厳しいなど、銀行にとって慎重な審査が必要なケースも少なくありません。一方、銀行から提案があるということは、多くの場合、銀行が既に貴社の最新の決算書などを分析し、「この会社には、この程度の金額までなら返済できる能力(返済財源)がある」と判断していることを意味します。つまり、銀行側から見て**「貸せる相手」であり、「貸したい相手」**だと評価されている可能性が高いのです。そのため、実際に申し込んだ場合、審査がスムーズに進みやすい傾向があります。
融資残高・収益を増やしたい銀行側の意向
もちろん、銀行側の営業戦略という側面もあります。優良な取引先に対して積極的に融資を実行し、融資残高と利息収入を増やしたいという意向の表れでもあります。
銀行は、どのような根拠で融資提案書の金額を決めているのでしょうか? 短期借入金と長期借入金で、その考え方は異なります。
短期借入金の場合:運転資金枠から算出
短期借入金の提案額は、多くの場合、**「必要運転資金」**に基づいて計算されます。
・必要運転資金の計算式(目安): (売掛金 + 受取手形 + 在庫) - (買掛金 + 支払手形)
(※不良債権や不良在庫は除外して計算します)
・銀行の考え方: この計算で算出された金額が、その会社が事業を継続する上で恒常的に必要となる運転資金の目安です。現在の短期借入金残高がこの金額を下回っていれば、その差額分(=空き枠)について融資提案を行う、というロジックです。
・例: 必要運転資金が1,300万円と算出され、現在の短期借入金が500万円であれば、差額の800万円程度の短期借入金(手形貸付や当座貸越枠の設定など)を提案してくる可能性があります。
長期借入金の場合:返済財源(利益+減価償却費)から算出
長期借入金の提案額は、**「年間の返済能力(返済財源)」**に基づいて計算されます。
返済財源の計算式(目安): 税引後利益 + 減価償却費
銀行の考え方: この金額が、会社が1年間に長期借入金の元本返済に充てられるキャッシュフローの上限目安となります。現在の長期借入金の年間返済額を差し引き、まだ返済余力(空き枠)があると判断されれば、その余力に見合った新たな長期借入金(金額と返済期間)を提案します。
例: 年間返済財源が1,500万円、現在の年間返済額が500万円の場合、年間1,000万円の返済余力があると見ます。そこで、「5年返済で5,000万円(年間返済額1,000万円)の長期借入金」といった提案が出てくる可能性があります。
[関連記事:減価償却費 返済財源 なぜ?投資回収と融資返済期間との関係]
「巻き替え」提案の仕組み
返済が進んで残高が減った長期借入金に対して、「もう一度、当初の借入額まで借りませんか?」という巻き替え提案もよくあります。例えば、当初5,000万円の長期借入金が2,500万円まで減った際に、再度5,000万円(返済期間は当初と同じ5年など)の長期借入金を提案するケースです。既存の2,500万円を返済しても手元に2,500万円の資金が残り、月々の返済額は変わらないため、受け入れやすい提案に見えます。
[関連記事:長期借入金 途中返済・巻き替えの注意点 メリット・デメリット]
銀行から融資提案書を受け取ることは、基本的には「銀行から評価されている証」であり喜ばしいことです。しかし、その提案を鵜呑みにするのは危険です。
嬉しい反面、安易な受諾は危険
「銀行が提案してくれるなら安心だ」「付き合いもあるし、借りておくか」と考えてしまいがちですが、本当にその資金が「今」必要なのかを冷静に判断する必要があります。
リスク:不要な借り入れによる経営悪化
必要のない銀行融資を受けることの最大のリスクは、将来の経営を圧迫することです。 手元に予定外の資金が入ると、
・必要性の低い設備投資をしてしまう。
・コスト意識が緩み、無駄な経費を使ってしまう。
・資金がある安心感から、本来行うべき経営改善の努力を怠ってしまう。
といったことが起こりがちです。結果として、増えた借入金の返済負担だけが残り、将来、業績が悪化した際に資金繰りを急速に悪化させる原因となります。
重要な判断基準:自社の計画との整合性【最重要】
銀行融資提案書を受け取った際に、経営者が確認すべき最も重要なポイント(融資提案書 確認ポイント)は、「その提案内容が、自社の事業計画や資金計画と整合性が取れているか?」ということです。
・今、計画している設備投資に必要なのか?
・運転資金として、本当にこのタイミングで、この金額が必要なのか?
・借りた場合、その資金でどれだけの利益を生み出し、返済原資を確保できる見込みがあるのか?
自社としての明確な計画(プラン)を持った上で、銀行からの提案内容を吟味し、必要性・妥当性を判断する必要があります。
不要な場合は丁寧に断る
もし、自社の計画に照らして現時点では不要な銀行融資提案であれば、将来の関係性も考慮しつつ、丁寧に断ることも重要です。「現在の手元資金で十分です」「今後の計画に基づき、必要な際にはこちらからご相談します」といった形で、理由を添えて断れば、銀行も理解してくれるはずです。
[関連記事:銀行からの融資提案の上手な断り方]
銀行からの融資提案書は、多くの場合、銀行が貴社の返済能力を評価した上での前向きなオファーであり、融資承認の確度は比較的高いと言えます。短期借入金は運転資金枠、長期借入金は返済財源(利益+減価償却費)を基に提案額が計算されていることが多いです。
しかし、**「提案されたから借りる」のではなく、「自社の計画にとって本当に必要だから借りる」**という主体的な姿勢が重要です。融資提案書を受け取ったら、記載内容(確認ポイント)をしっかり吟味し、自社の事業計画・資金計画と照らし合わせて、必要性、条件の妥当性、将来の返済計画などを冷静に判断してください。
そして、不要な場合は、銀行との良好な関係を維持しつつも、上手に断るコミュニケーション能力も経営者には求められます。
この記事が、銀行の融資提案書に対する正しい理解と、適切な経営判断の一助となれば幸いです。
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