「手元資金に余裕ができたので、長期借入金を繰り上げて途中返済したい」
「返済が進んだ長期借入金を、もう一度借り直す『巻き替え』は得策?」
「銀行融資の途中返済や巻き替え、メリットとデメリットを知りたい」
会社の運転資金や設備投資のために利用する長期借入金。返済期間が数年から十数年と長いため、その間に会社の状況も変化し、「期限前に返済(途中返済)したい」「追加資金が必要なので借りている分を再利用(巻き替え)したい」と考える場面が出てくるかもしれません。
しかし、これらの銀行融資に対するアクションは、一見メリットがあるように見えても、思わぬデメリットや注意点が存在します。また、銀行側の反応も、必ずしも好意的とは限りません。
この記事では、ここ愛媛県をはじめ多くの中小企業をご支援してきたコンサルタントとして、長期借入金の途中返済(「銀行融資 途中返済」)と巻き替え(「銀行融資 巻き替え」「長期借入金 巻き替え」)について、それぞれのメリット・デメリット、銀行の考え方、そして関連する「長期運転資金 メリット デメリット」の視点も含めて、経営者が知っておくべきポイントを解説します。
【目次】
まず、返済期間の途中で残高を一括または一部返済する「途中返済」について見ていきましょう。
途中返済(一括返済)とは?
長期借入金の残高を、当初定められた返済期限よりも前に、まとめて返済することです。
例: 10年返済、当初3,000万円の借入。5年経過し残高1,500万円の時点で、その1,500万円を一括で返済する。
企業側のメリット(金利削減等)
自己資金に余裕があり、途中返済を行う場合、企業には以下のようなメリットがあります。
・将来の支払利息の軽減: 元金を早期に返済することで、その後の利息負担がなくなります。
・月々の資金繰りの改善: 毎月の元本返済がなくなるため、キャッシュフローに余裕が生まれます。
・財務体質の強化: 負債が減少し、自己資本比率などが改善します。
銀行が途中返済を嫌がる理由(再掲)
一方で、銀行は途中返済、特に優良な取引先からの申し出をあまり好みません。その理由は主に以下の2点です。
1. 他行への肩代わり懸念: 「他の銀行から有利な条件で借り換えるために返済するのでは?」と疑います。
2. 収益機会の喪失: 安定した利息収入が見込める優良顧客との取引が早期に終了してしまうことを嫌がります。
[関連記事:なぜ銀行は嫌がる?法人融資の繰り上げ返済-理由と注意点、対処法]
企業側の注意点:安易な返済は資金繰りを悪化させる?【重要】
経営者が途中返済を検討する際に、最も注意すべき点は「本当に返済しても大丈夫か?」という資金繰りへの影響です。
・手元資金の枯渇リスク: 定期預金など、当面使う予定のない資金で返済するならまだしも、日々の運転資金として確保しておくべき普通預金などで安易に途中返済してしまうと、予期せぬ支出や売上減少があった際に、一気に資金ショートを起こすリスクがあります。
・投資回収との整合性: 特に設備投資のために借りた長期借入金の場合、その設備の耐用年数(投資回収期間)を見越して返済期間を設定しているはずです。それを大幅に前倒しで返済するということは、当初の投資回収計画との整合性が取れているか、慎重な判断が必要です。目先の金利削減効果だけでなく、手元流動性(すぐに使える現金・預金)を確保しておくことの重要性も考慮しましょう。
次に、返済が進んだ長期借入金を、再度借り直すような形になる「巻き替え」について見ていきましょう。「銀行融資 巻き替え」「長期借入金 巻き替え」とも呼ばれます。
巻き替えとは?(仕組み解説)
巻き替えとは、一般的に、返済が進んで残高が減ってきた長期借入金を一度完済し、同日付けで、当初の借入額に近い金額(またはそれ以上)で、新たな長期借入金として借り直す手法を指します。
・例: 当初1,000万円を5年返済で借入。3年半が経過し、残高が300万円になった時点で、新たに1,000万円を5年返済で借り、既存の300万円を完済する。
‣ → 結果として、手元には700万円の新たな資金が入り、毎月の返済額は(金利が同じなら)以前とほぼ変わらない。
メリット:返済負担を変えずに資金調達
巻き替えの最大のメリットは、月々の返済額を増やすことなく、まとまった事業資金を調達できる点にあります。「返済が進んだ分だけ、枠が空いた」という感覚で、追加の資金ニーズに対応しやすいため、資金繰りが厳しい時には魅力的に映ります。
デメリット①:返済長期化と利息負担増
巻き替えは、実質的に借金の返済期間を先延ばしにする行為です。上記の例では、本来あと1年半で完済するはずだった借入が、新たに5年間の返済となります。返済期間が延びる分、支払う利息の総額は増加します。
デメリット②:資金使途・投資効果の曖昧化【要注意】
これが経営管理上、最も注意すべきデメリットです。巻き替えを繰り返すと、当初その借入金が何のために使われたのか(資金使途)、そしてその投資がどれだけの効果を上げたのか、という検証が非常に困難になります。
例えば、特定の設備投資のために借りた資金が、運転資金目的の巻き替え融資に吸収されてしまうと、その設備投資が本当に採算に合ったのかどうかの判断が曖昧になります。これは財務規律の緩みに繋がりかねません。
関連:長期運転資金のメリット・デメリット
巻き替えによって調達された資金は、実質的に「長期運転資金」として利用されるケースが多くあります。長期運転資金自体は、恒常的に必要な運転資金を長期で安定的に確保できるメリットがある一方、
・本来短期で回るべき運転資金を長期で借りることによる期間ミスマッチ
・金利負担の増加(短期借入より金利が高い傾向)
・短期借入のような機動性の欠如
といったデメリットも存在します。巻き替えを行う際には、この長期運転資金 メリット デメリットの視点も持つことが重要です。
[関連記事:借入金 長短バランス – なぜ崩れる?資金繰りを楽にする改善策]
途中返済と同様に、巻き替えも、会社が希望すれば銀行が必ず応じてくれるとは限りません。
銀行主導 vs 会社要望
業績が良好で、銀行が「もっと融資したい」と考えている会社に対しては、銀行側から有利な条件での巻き替え提案があるかもしれません。この場合はスムーズに進むことが多いでしょう。
しかし、会社側から「資金繰りが厳しいので巻き替えてほしい」と要望する場合は、銀行は慎重になります。
組み換え・一本化が難しい理由(再掲)
特に、複数の長期借入金をまとめて一本化するような巻き替え(組み換え)は、銀行にとってハードルが高くなります。前述の通り、資金使途や融資種類(プロパー/保証付)、返済期限などが異なるものを混ぜてしまうことへの抵抗感や、実質的な条件緩和と見なされるリスクがあるためです。
[関連記事:融資 一本化 – 銀行が組み換え・巻き直しを嫌がる理由]
途中返済をするにしても、巻き替えを検討するにしても、あるいは銀行に巻き替えを断られるにしても、**最終的に重要となるのは「会社の本来の収益力」**です。
財務改善の土台は利益
長期借入金の返済を楽にする、あるいは巻き替えに頼らずに済むようにするためには、本業でしっかりと利益を出し、キャッシュフローを生み出すことが最も重要です。小手先の財務テクニックだけでは、根本的な解決にはなりません。
計画的な財務戦略を
途中返済や巻き替えは、目先の状況だけで判断するのではなく、会社の将来の資金繰り計画や投資計画に基づき、長期的な視点でそのメリット・デメリットを十分に比較検討した上で、実行すべきか否かを判断する必要があります。
長期借入金の途中返済や巻き替えは、会社の財務戦略において有効な選択肢となり得ますが、それぞれにメリットとデメリット、そして注意点があります。
・銀行融資 途中返済: 金利負担は減るが、手元現金を減らしすぎないよう注意が必要。銀行は基本的に嫌がる。
・銀行融資 巻き替え(長期借入金 巻き替え): 月々の返済負担を変えずに資金調達できるが、返済長期化、利息増、資金使途の曖昧化というデメリットがある。長期運転資金 メリット デメリットも考慮。
・銀行は、会社都合の安易な途中返済や巻き替えには応じない可能性がある。
・全ての基本は、本業の収益力向上と、計画的なキャッシュフロー管理にある。
安易な判断は避け、自社の状況を冷静に分析し、必要であれば専門家にも相談の上、最適な判断を行うようにしてください。
この記事が、貴社の長期借入金に関する意思決定と、健全な財務運営の一助となれば幸いです。
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